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常習性便秘の鍼灸治療の考察

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1.睡眠時の大蠕動とおなら

(NHK「ためしてガッテン」<出た!「便秘」新対策で劇的改善SP 2016.9.14より) 睡眠中は副交感神経優位になっているので、通常の蠕動運動は活発になる。大腸の大蠕動は睡眠中だけに起こる。大蠕動により腸管のガス(食べ物を分解する時に出るメタンガスや水素ガス)はおならとして体外に出される。腸管ガスが多い状態では、と蠕動運動を妨げ、大腸内の糞塊は下行移動しづらり、便秘しやすい。 すなわち一般的に日中よりも夜間就寝中の方がおならの回数は多くなることが生理的である。

1)蠕動が起こらない原因
①熟睡できていないので、副交感神経優位になっていない。夜中にすぐに目覚めるなどと訴える。
②腸内ガスが多量にあって、大蠕動を邪魔している。

2)対策法<うつぶせゴロゴロポーズ> 以下の方法で、常習性便秘ものの8割に効果があった。
① 座布団やクッションをお腹(おへそ周辺を目安)に当てて伏臥位になって10分間寝る。就寝前に行うのがよい。大腸のガスは空気よりも軽いので、出口である直腸の方に向かいやすい。うつ 伏せで寝転がるということは大腸部分よりも肛門のほうが位置が上になる。
②10分経ったら、体を左右に転がすように傾ける動きをゆっくりと5往復行う。 

 

2.排便反射の消失と常習性便秘  

蠕動を活発にするには、胃結腸反射を使用することなので、朝食をとることが推奨できる。すなわち胃に食べ物が入って蠕動運動が起こると。同時に結腸も蠕動運動が起こることを利用する。 健常者では、S状結腸内の糞便が直腸に移行し、糞便が直腸壁を伸展すると、その刺激が骨盤神経の知覚線維を求心路として仙髄の中枢へ伝達され、さらに上位の中枢(延髄)へ刺激が到達して便意を意識する。

しかし状況が困難で排便を我慢をすると、排便抑制の刺激が骨盤神経、陰部神経に伝わり、内肛門括約筋、外肛門括約筋を緊張させ便意は消失する。

 

3.緒家の大腸と内臓刺   

大腸は上行結腸~下行結腸までは交感神経が主導権を握り、その反応は背部に現れるというのが内臓体壁反射の理論であり、腎兪・志室・大腸兪・腰宜(ようぎ=別称、便通穴)などを刺激するのが定石になる。一方、S状結腸~直腸は副交感神経である骨盤神経に主導権があるので、理論的には八髎穴刺 激を行うことになるが、実際にはさほど効果がない。もともと大腸のS状結腸以下は内臓 体壁反射が乏しい部分である。そこで郡山七二は内臓直刺を考案した。 予期せぬ事故を防ぐため、内臓刺は行うべきではないが、現代の鍼灸成書を調べる限り、大腸刺激は許容されているようである。


4.腹部からの内臓刺

1)秘結穴(左腹結移動穴)(木下晴都『最新針灸治療学』医道の日本社)     

一般的な左腹結部位(臍の外方3.5寸に大横をとり、その下方1.3寸)では効果が期待されない。仰臥位、左上前腸骨棘の前内縁中央から右方へ3㎝で脾経上を取穴する。3~4㎝速刺速抜する。この刺針は、鍼先が腹膜に触れるため、約2㎝は静かに入れて、その後は急速に刺入し、目的の深さに達した途端に抜き取る。


2)左府舎(森秀太郎『はり入門』医道の日本社)        

教科書的な府舎の位置は、恥骨上縁から上1寸の前正中線上に中極をとり、その外方4寸で、鼠径溝の中央から一寸上を取穴する。便秘症の人の腹部を按圧すると、左腸骨窩部   に糞塊を触知する。その塊が府舎穴の位置になる。寸6の6番の針で、やや内方に向けて10~30㎜ほど刺入すると、下腹部から肛門に響きを得る(S状結腸刺針)


3)天枢深刺(森秀太郎「はり入門」医道の日本社)   

森秀太郎が最も重視しているのが天枢への雀啄針であった。森氏の天枢刺針は、臍の外方1.5寸にとっている(教科書的には臍の外方2寸)。15~30㎜直刺し、腹腔内に針先を入れ、腹腔内刺入を目標としている。 中国の文献では、天枢から深刺し、下腹から下肢へ引きつれるような針響を得て、初めて効果が出ると説明しているものもある。


4)四満移動穴(柳谷素霊「秘法一本鍼伝書」医道の日本社)      

教科書の四満は、臍下2寸に石門をとり、その外方5分である。柳谷素霊の四満は、臍下2寸に石門をとり、その左外方1寸の部をとる。実証者の便秘には、2~3寸#3で直刺、2寸以上刺入して、上下に針を動かす。この時、患者の拳を握らせ、両足に力を入れしめ、息を吸って止め、下腹に力を入れさせる。肛門に響けば直ちに息を吐かせ、抜針する。 虚証者の便秘には、寸6、#2で直刺深刺。針を弾振させて、肛門に響かせる。この時患者は口を開かせ、両手を開き、全身の力を抜き、平静ならしめる。いずれも肛門に響かないと効果もないと考えてよい。


5.腰部からの内臓刺

1)左肓門外方(郡山七二『鍼灸臨床治法録』)    

志室の上1.5寸。L1棘突起下外側8㎝の部。下行結腸刺激。脊柱の方に向けて圧すると広背筋、外腹斜筋を触知できる。その筋群を直刺する方向と角度で4㎝刺入し、強刺激する。「これだけで必ずといってよいほど通じがある」と記している。  
※横行結腸は腹直筋の直下で比較的浅層に位置しているのに対し、下降結腸は左下腹部の小腸の奥にある。 下行結腸に刺入しようとすれば、郡山七二のように、横腹から刺入する方がよい。 

2)便通穴(=腰宜(ようぎ))    

便通穴とは木下晴都が命名、腰宜穴に相当する。L4棘突起下外方3寸。腰方形筋の外で、腸骨稜縁の直上を取穴。やや内下方に向けて3㎝刺入。森秀太郎著「はり入門」では、「深さ50㎜で下腹部に響きを得る」とある。

 

 


6.大・小腸内臓刺の私の意見

天枢から深刺すれば、針は腹直筋→腹膜→小腸と入っていく。 天枢や四満の直下には、小腸があると考えるのが普通だが、S状結腸かもしれない。というのは上行結腸や下行結腸が後腹膜で固定されているのに対し、横行結腸とS状結腸は、ある程度可動性がある。下行結腸の長さが20㎝なのに対し、S状結腸は30㎝ほどなので、我々が見なれている解剖図の印象とは異なり、実際にS状結腸の位置や蛇行状況はは人によって異なる。    

天枢や四満移動穴からの深刺で、なぜ針響が下腹部に送ることができるのかは不明だが、肛門に響かせることが効果を生む秘訣らしい。とはいっても肛門に響かせるといえば陰部神経刺針を思いつくが、私の経験では腹部からの刺針では肛門に響く以前に生殖器に響くのが普通である。腰部からの刺針でも意図的に肛門に響かせることは可能なのか、よくわからない。


7.便秘に対する筋筋膜刺

腸周囲の筋々膜緊張あるいは癒着が腸管の通過障害を起こしているとの考え方があり、腸骨筋や内閉鎖筋の緊張が問題視され始めた。

1)腸骨筋刺針としての左府舎刺針

    

左府舎からの直刺は下行結腸またはその外方にある腸骨筋に入る。腸骨筋は大腰筋の影にかくれて一見目立たない筋だが、骨盤内で広い体積を占めている。
腸骨筋が股関節に癒着して鼠径部痛を起こすことが知られている。鼠径部外端から内方1/3の部から刺針することは、この部に糞塊を触知できる弛緩性便秘の治療に使えると主張する者がいる。   

   

上図は右下腹部で盲腸が腸骨筋と癒着していることを占めすが、本図から左腸骨筋緊張や癒着がS状結腸の通過障害をもたらすことがあると予想した。

 

2)内閉鎖筋刺針としての陰部神経刺針   

骨盤の閉鎖孔を内側から塞いでいるのが内閉鎖筋である。内閉鎖筋が緊張すれば、陰部神経や陰部動脈を圧迫して泌尿器科症状を生ずることがある。また左内閉鎖筋緊張すれば、S状結腸を圧迫することで便秘になることも指摘されている。左内閉鎖筋への刺針とは、左陰部神経刺針に他ならない。 陰部神経刺針は、陰部神経への刺激かつ内閉鎖筋への刺激になる。       

側腹位。3寸鍼を使用。上後腸骨棘と座骨結節を結んだ中点から、一横指下方を刺入点と定め、閉鎖孔(上写真の緑部分)に向けて深刺することが内閉鎖筋刺針になる。

 

上図は右下腹部で盲腸が内閉鎖筋と癒着していることを占めすが、本図から左内閉鎖筋緊張や癒着がS状結腸の通過障害をもたらすことがあると予想した。

 

 

  

 

 

 

 

     

 

 

 


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