1.咽喉異常感症の特徴的症状
咽喉異物感では、まず咽喉神経症(ヒステリー球、梅核気)を思い浮かべるが、以下の疾患を除外する。
R/O 食道癌:「食べた物が下に入っていかない」と訴える。
R/O 喉頭癌:嗄声が初期症状。進行すると呼吸困難出現。
器質的な異常がみつからない場合、器官神経症(心臓神経症、血管運動神経症、胃腸神経症などと同類)と断定されてしまうので、患者は苦悩する。咽頭神経症は、かつてはヒステリーの重要症状とされていたが現在は否定されている。咽喉異常感症の特徴は次のようである。
・食事摂取時には問題ない。
・唾を飲み込む時は気になる。
・痛みではなく、何かが使えている感じ(患者自身、癌を心配している)
・数ヶ月~数年の期間で症状の悪化はない。(症状の悪化があれば他の疾患を考える)
2.咽喉異常感と嚥下運動の関係
耳鼻科での検査で異常がみつからない咽喉狭窄感といのは、前頸部の筋緊張がもたらした結果だとする見解がある。
ノドのつまり感は、嚥下の際に強く自覚する。嚥下運動は、咽頭にある食塊を喉頭に入れることなく食道に入れる動作で、この食塊の進入方向を決定するのが喉頭蓋が下に落ちる動きである。この喉頭蓋の動きは喉頭蓋が能動的に動くのではなく、嚥下の際の甲状軟骨と舌骨が上方に一瞬持ち上がる動きに依存している。嚥下の際のゴックンという動作とともに甲状軟骨が一瞬上に持ち上がり、喉頭蓋が下に落ちる動きと連動している。
甲状軟骨の動きは、甲状舌骨筋でつながる舌骨の動きによるもので、舌骨の動きは舌骨上筋群が収縮した結果である。すなわち舌骨上筋群緊張→舌骨挙上→喉頭蓋下降という運動連鎖になる。 なお開口状態では舌骨上筋が弛緩するので、嚥下しづらくなる。なお舌骨上筋には、顎二腹筋・顎舌骨筋・茎突舌骨筋オトガイ舌骨筋がある。
座位で頭を背屈して舌骨上筋を伸張した状態で、それぞれの筋走行部を押圧し、圧痛点を発見して押圧・刺 針。頭部の前後屈運動を10回程度実施させる。
3.舌根(=上廉泉)刺針>
舌根刺針は舌骨上筋刺激になる。舌骨上筋緊張すると舌骨が挙上する。なお舌の根元は、咽喉奥にあるのではなく、下顎骨の後縁にある。
①舌根刺針は、舌扁桃刺激にもなり、舌下腺刺激にもなる。舌扁桃痛軽減や唾液分泌を促進させる意味もある。
②この部は舌咽神経支配が知覚支配しており、刺針すると舌根や咽喉に針響を与える。
4.舌骨下筋の過緊張
嚥下時に舌骨が挙上しづらいのは、舌骨下筋の過緊張による可能性もある。本法は、Ⅰb抑制を使った筋緊張緩和手技に相当する。
座位で前頸部気管の両側筋の硬結に刺針し、上を向かせて舌骨下筋を伸張させて刺針。
5.胸鎖乳突筋と広頸筋
ヒトは上を向くと呼吸しやすくなる。(ゆえにラジオ体操で深呼吸の際、上を向かせる)
ストレスなどで前頸部筋緊張すると下を向き気味になるので、胸鎖乳突筋や広頸筋を伸張させることはストレッチ手技尾として意味がある。
1)胸鎖乳突筋ストレッチ
①椅坐位で、頸の過伸展位置をとらせ胸鎖乳突筋を伸張させる。
②その姿勢のまま患者自身(または術者)の両手をザビエルの肖像画のように胸元で交叉させ、左右母指で胸鎖乳突筋起始部である鎖骨と胸骨部を順に軽く押圧し続る。
③過伸展位にした頸を左右に回旋することで、さらに胸鎖乳突筋を伸展させる。
④次第に胸鎖乳突筋の緊張が緩んでくるにつれ、咽の狭窄感も軽減する。
2)広頸筋ストレッチ手技
下顎骨の下縁から、上胸部にわたる頚部の広い範囲の皮筋。首の表面に皺を関連する筋膜を緊張させ、口角を下方に引く働きを持つ筋である。
坐位で、口角を横に広げつつ下方に引き、前頸部に縦シワをつくるようにする。この動作を何回か繰り返すと視認できる。
5.咽頭異常感が改善した症例(30才男性、会社員)
患者の母が少々自慢げに言うちころによれば「会社では、同期トップの成績だった」が、心身ともに疲労して休職している。
全身疲労と咽の詰まり感が主訴。詰まる感じは右前頸部にあるとのこと。坐位で両側胸鎖乳突筋停止部を押圧するもあまり圧痛なく、胸鎖乳突筋筋腹をつまんでみたがあまり痛むことはなかった。下顎窩を押圧すると筋硬結を触知したので、上記の舌骨上筋部のストレッチ手技を行い、また坐位で頸を背屈させて右広頸部筋を触診すると、つっぱり感じがあったので、前頸部~前胸部あたりに広範囲に単刺した。
治療終了すると、患者はアレッという声を発したが、その時は聞き流した。
翌日、患者の妹が治療を受けに来院した。昨日のお兄上の具合をきいてみると、球が下に落ちたと語ったとのこと。