私の背腰殿痛に対する治療は、背腰殿部の反応を診るため側腹位にして、背部一行線や背部三行腺の反応点を探して刺針することを先行させる。その後、ベッド傍に立たせ、痛む動作をさせる。多くは上体を前屈・回旋させて痛みの程度を自己チェックさせる。これで症状が消失したら好都合なのだが、実際には症状半減する程度のことが多い。追加で治療を続けることになるが、”二の矢”としての治療は立位で行う。
一般的に腰痛は立位で感ずるものである。痛む姿勢にして、痛む処に治療点を求めるのが治療の原則だからである。
1.立位前屈時の痛み
1)最大前屈姿勢にての圧痛点施術
立位でできるたけ深く前屈させることで、背腰筋を伸張すなわち浅層ファッシアを伸張させる。この時、椅子やベッドなどに手を添えて上体を支えないようにする。添 え手を置くと、背腰筋への伸張負担が減るので正確な圧痛点を調べることができなくなる。
手は下肢に添えるようにする。そして術者は患者に、「もっと深く腰を曲げて...」と促し、「どこが痛いのかを指さして...」と誘導する。指で示した部に刺針して軽く手技針をする。さらに「今はどこが痛みますか。指で示して下さい」と質問する。すると先ほどの痛む部位とは別部位を示すので、そこにも刺針して軽く手技を行う。3~5回、このような応答を繰り返すうちに、患者は痛む場所を示せなくなる。これで治療終了である。
2)腸骨陵での腰方形筋付着部症
腸骨陵で、腰方形筋が起始している部が、筋付着部症となっている場合がある。この病態は、立位前屈位で、腸骨陵上縁の圧痛点を調べることで判定する。代表的な圧痛点には、腰宜(ようぎ)や力針(りきしん)がある。立位前屈位で、圧痛点に刺針、雀啄する。ここは筋が強靱なので、寸6#2のような細い針よりも、寸6#4以上の太い針を使うのが適している。腰神経叢や胸腰筋膜を狙っている訳ではないので、深刺する必要はない。
筋付着部を刺激することで、1b抑制は働き、腰方形筋の筋緊張が緩む。
①腰宜: 立位で上体を強く前屈し、腰方形筋伸張肢位。L4棘突起下の外方3寸。即ち大腸兪の外方1.5寸。
腰宜穴から直刺すると下行結腸を刺激できる。木下晴都は、左腰宣を便通穴とよび、習慣性便秘の治療穴としていた。
②力針:立位で上体を強く前屈。L4棘突起下の外方4寸。2寸#4腸骨稜上縁から刺針。
2.立位伸展時痛の治療
腰痛患者の中には、中腰になって治療室に入ってくる者もいる。背中を反らすと痛むという。要するに立位背屈時痛である。このような場合、足指と壁の距離が10㎝程度離して壁に向かって立たせる。顔はどちらか一方を向かせ、胸と頬を壁に密着させるようにする。術者は背腰の起立筋を押圧し、何カ所か圧痛を探す。そして圧痛点に刺針する。その状態で、壁から離れて、上体の屈伸動作を行わせ、治療効果を確認する。効果不足なら、再び壁に向かって立たせ、再度圧痛点と探して刺針する。
3.浅層ファッシアの病理
筋の伸張時痛はファッシアが癒着して伸張時に滑走性の悪いことが筋膜症の原因とさ れている。一方、上体を反らす際の痛みの理由はこれまでうまく説明できなかったが、運動と医学の出版社編「筋膜はなぜ痛い?皮膚のシワ、突っ張りのメカニズム」YouTube動画 をみると、興味深い内容が示されていた。下写真のように分厚い本を縮めるような運動の際、ファッシアを引っ張り上げて剥がされる時のような機序で痛むのではなかとの見方である。
背中を屈曲する時の痛みは、癒着している浅層ファッシアが伸張する際の痛みであり。背中を伸展する時の痛みは、浅層ファッシアが剥がれる際の痛みという見解である。
どちらにしても、深層より浅層のファッシアの方が力学的ストレスが大きいので、深刺する必要はないだろう。