筆者は、2011年3月28日に「梨状筋症候群の針灸治療」とするブログを発表したが、内容的に古くなったので、「殿部深部筋のMPSと坐骨神経痛」とのタイトルに変更して内容を刷新することにした。ブログ「梨状筋症候群の針灸治療」は削除した。
1.殿部深部筋筋膜症と坐骨神経痛
これまで緊張した梨状筋が、坐骨神経を圧迫刺激し、坐骨神経痛を現す病態を梨状筋症候群 とよばれてきた。しかし臀部で坐骨神経を圧迫しても坐骨神経の知覚成分は上行性なので下肢痛 をもたらさない。ゆえに梨状筋下あたりの坐骨神経周囲の筋膜(fascisa)の緊張が、下肢への放 散痛をもたらしたと考える方が、実際的である。
2.梨状筋症候群
1)骨盤外旋筋と梨状筋症候群
骨盤深層には梨状筋・内閉鎖筋・上双子筋・下双子筋・大腿方形筋・外閉鎖筋という6個の 股関節外旋筋がある。これらは股関節骨頭を安定させる働きがある。
これらの筋膜症により坐骨神経の下肢症状をもたらすものは、梨状筋が有名である。これは梨状筋筋膜症による症状である。
※梨状筋:骨盤部深部筋の一つ。第1~第4仙骨孔を起始とし大転子に停止。仙骨神経叢支配。股関節外旋作用。
2)梨状筋症候群の診断
本診断をつけるには、神経根症状がないこと、腰痛がなく臀下肢症状のみのこと、Kボンネットテスト陽性などの観点から本診断名をつける。
※K.ボンネットテスト Katayama's Bonnet test
方法:患側の股関節と膝関節を屈曲させ、つぎに患側の足関節を健側下肢の外側に移動させ、さらに膝関節部を押さえて健側方向に圧迫(内転)させる。このとき坐骨神経に沿った疼痛の誘発が認められるものを陽性とする。
意義:坐骨神経痛でも、根症状がない場合、本テスト陽性であれば梨状筋症候群を疑う。
注意:K.ボンネットは梨状筋症候群のテストだが、ボンネットテストは腰部神経根テスト。
3)坐骨神経ブロック点刺針(梨状筋刺激を介して)
針治療では、3寸針をつかって梨状筋中に直刺置針(5~10分間)を行い、筋膜症の過敏性を緩和せしめるようにする。非常に効果的な方法である。梨状筋に刺針すると電撃様針響が下肢に得られることがあるが、これが梨状筋中に針が入っていることの指標になるが、こうした針響が得られなくても、治療効果は大差ないという。
位置:側腹位にて、上後腸骨棘と大転子を結んだ中点から3㎝下した点を取穴。
刺針:2.5寸#5~7針を用いて直刺2寸前後。針は、大殿筋→梨状筋と刺入。
3.内閉鎖筋の坐骨神経と陰部神経刺激
1)内閉鎖筋の解剖学的特性
梨状筋緊張はその深部を縦走する坐骨神経を刺激するが、内閉鎖筋緊張は、坐骨神経を下から押し上げるストレスを生ずる。内閉鎖筋は、閉鎖孔を起始として大腿骨頭の内側を停止とするが、その走行は坐骨結節を越える部分で大きく折れ曲がっていて立ち座りの際に力学的ストレスを受けやすい。
2)内閉鎖筋緊張の診断
内閉鎖筋の緊張の有無を調べるには、被験者を側腹位にさせ、坐骨結節の裏側を強く触診するようにする。非根性坐骨神経痛や泌尿器症状があれば本筋過緊張を一応疑ってみる。
3)陰部神経刺針(内閉鎖筋刺針)
陰部神経刺針を行うと、当然ながら陰部に針響を与える場合が多いが、この刺針では小坐骨孔を通過する辺りで、内閉鎖筋を同時に刺激していることになる。内閉鎖筋の緊張は、骨盤内臓症状(仙骨部痛、尾骨痛、直腸肛門痛、括約筋不全、排便障害、下腹部症状泌尿器症状)をもたら可能性があるとされている。
これに該当すると思われる患者愁訴の一例を、ネットで発見したので以下に引用する。
40歳代の主婦。右の外陰部から肛門の辺りにビリビリとした痛みがあるのと椅子に座ると右の坐骨がジーンと痛くなり太ももの裏側にも痛みがあるので整形外科を受診。骨盤と背骨のレントゲンを撮り、骨には異常が無く梨状筋症候群だろうと診断された。殿部で神経が枝分かれしいるので陰部の方にも症状が出ているとの事。外陰部の痛みということもあり、婦人科も受診。視診でも異常がな無く子宮や卵巣も正常である事から陰部神経痛だと診断。現在整形外科でもらった鎮痛剤と筋肉を柔らかくする薬を服用するも、痛みが取れない。