1.背部一行刺針の限界
2016年6月1日に<胸椎椎間関節症には針が一番>と題したブログを発表した。
側腹位で胸椎椎間関節症に対して、胸椎の一行線に刺針すると一般的によい効果があげられることが多い。しかしながら直後効果は良くても数日経つと元にもどるケースがあったり、治療数回目まで順調に改善していても、それ以上治療回数を重ねても治療効果が頭打ちになるケースがあったりした。これが針灸の限界なのかとも思ったが、あれから一年半が経ち、背部一行刺針に運動針を併用することが打開策になるらしいことが判明したので報告する。
2.短背筋群の構造と性質
短背筋には多裂筋、長短の回旋筋、頭頸胸の半棘筋がある。その位置と機能は次のようになる。なお浅部筋である背部の起立筋は背腰部運動の主動作源であるのに対し、短背筋はそこまでの力はなく、動作時の脊柱のアラインメントを調和させる役割がある。起立筋は長いので予期しない外力が働いても力を上手に逃がしやすいのに対し、短背筋は起始停止間が短いので、まともに力を受け止めることになる。
1)多裂筋
腰椎・仙椎の高さで発達している。腰椎は椎間関節刻面の形状から、左右回旋の可動性に乏しく、前後屈の可動性がある。つまりは前後屈の動作で生ずる腰背痛は多裂筋に原因があるだろう。仙椎は癒合して一つになっているので、仙椎の椎間関節症はあり得ず、仙椎部の痛みは多裂筋性の痛みであるといえる。
2)胸椎部の短背筋は、長・短の回旋筋が発達している。胸椎は左右回旋方向の可動性に富み、前後屈の可動性に乏しい。左右回旋のための筋力は、この長・短回旋筋によるものだろう。
3)半棘筋の「半」とは脊柱上半分(Th10)以上にあるという意味であり、頭・頸・胸部で発達している。腰部には存在しない。半棘筋は上図をみると胸半棘筋は胸椎部にも発達している回旋よりも前屈背屈に関係している。半棘筋の役割は重い頭を動かすためのものだろうと考えた。寝違え時には後頭部や後頸部を治療するだけでなく、上背部一行が効果あるのはこのためだろう。その反面、胸半棘筋は背腰痛には関わりが少ないのではないだろうか。
3.背部一行刺針に運動針法を加える
胸椎部症状に対しては、立位で背部一行刺針しままま左右に上体をひねるよう指示すると治療効果が高くなる。またL5腰椎~仙椎症状には、立位で背部一行に刺針したままおじぎをするよう指示すると、治療効果が増す。キャスター付きの椅子に座らせて、上体を左右に回旋するよう指示すると、椅子が回ってしまうのでうまくいかないので注意。