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古代九鍼の知識

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これまで古代九鍼についてはあまり興味がなかったが、調べてみると鑱鍼や員利鍼は古代から近代へと針の形や使用法が変化しているものがったり、員鍼のことを誤って員利鍼と称して販売している現状がある。要するにかなり混乱した状態になっていた。古代九鍼については現代では忘れかけた内容で、多くの鍼灸師は毫鍼以外にあまり使わない。というよりそれ以外の方法を知る者がほとんといなくなったということであろう。


現在、古代九鍼について知ろうと思ったら、柳谷素霊著「図説鍼灸実技」があり、最近では石原克己氏代表の「東京九鍼研究会」の活動があるが、それ以外にほとんど知識は得られない。東京九鍼会については以下に詳しい。石原克己「毫鍼・灸方の可能性と限界を整理したとき灸鍼の必要性を感じた!」あはきワールド 2007年4月25日・5月2日合併号 No.33)。本稿では主に「図説鍼灸実技」の内容を読み解き、理解を助けるため、石原克己氏の九鍼写真を使わせていたくことにした。

 

1.古代九鍼の形状と用途

1)鑱鍼(ザンシン)


①形状
「類経図翼」に示されている形と、「古今医統」の形は異なっている。図翼の方は、洋裁に用いる筋立てヘラのような平らな金属片で鋭利な尖端部分を皮膚に押しつけて切開する。医統は、長さ1.6寸で矢じりのような形をしている。「鑱」とは先が細く尖っているさま。のみ。

 
②用途
もともとは、外科的用法で、打ち傷での内出血を出す際に用いられた。現代小児鍼の原型で現在では補法として皮膚を摩擦したり、瀉法として鋭利な尖端部分を軽く迅速に連続的に皮膚に押しつけたり血絡上に打ち付けたりして皮膚を切開する鍼としても使われた。皮膚病や浮腫状態の治療に用いる。
補法:虚弱体質、小児消化不良。小児神経衰弱、異 嗜症、青便、遺尿症、発育不良、不眠等。
瀉法:夜泣き、夜驚症、神経異常興奮、赤眼、上衝、頭痛、歯痛、肩癖、炎症、鬱血、充血、神経痛等

 

2)員鍼(円鍼)

①形状
「円」はもとは「圓」と書いた。圓は丸い形の入物の意味で員と変化した。丸いものの意味である。円の対義語は「方」で四角いものをいう。長さ1.6寸。尖端は卵型。員鍼(上写真)のことを間違って員利針と称して販売する業者がいるので混乱を生じている。   

②用途 
分肉を按ずる、擦る。現代のマッサージとしての用途。現在あまり用いられないが、經絡治療家は使う。補的に使うには、鍼体や鍼柄頭を使う。
瀉的には擬宝珠(「ぎぼし」手すりや欄干部につけたネギの花の形をした装飾)の尖端でこすりったり触れたりして刺激を与える。

 

3)鍉鍼



①形状
長さ3.5寸。尖端は直径1.5㎜の球形。分肉を按ずる。

②用途
今日の銀粒のような使い方をする。經絡治療家の中には、經絡を鍉鍼で押さえて補瀉手技を行う者がいる。

 

 4)鋒鍼(三稜鍼)

①形状
「鋒」とは、矛(ほこ)のことで、△に尖った刃の尖端のこと。三角形の切断面をもつ刺絡鍼。矛は刺すと斬るの両法を目的とした武器で今日では「矛盾」という熟語が有名。矛がやがて槍(やり)や長刀(なぎなた)に分化した。槍はは矛に比べより先細りで刺突力に優れている。長刀は払って斬る用途。長さ1.6寸。

②用途
古くは、熱を瀉し、血を出し、癰(「よう」はれもの)熱を主どり經絡痼(「こ」長病や持病)痺を治するに用いた。現代では一般医家においても瀉血鍼として使われ、鍼家も瀉すに用いる。
中国や朝鮮では、熱症ことに小児の原因不明な熱症に対して爪端穴および十井穴に取穴して、邪気発散泄瀉を目標に刺して著効することがしばしばある。
瀉法をするには經絡の迎隨を考え迎にして鋒鍼の身体を刺手につまみ迎源跳鍼する。
乳幼児の瘀血を刺絡するのに用いた鋒鍼が起源だと考えられている。

 

5)鈹鍼

①形状
長さ2.5寸。刀型の刺絡鍼ないしやり型の鍼。

②用途
膿を出す用途。ねぶとや膿瘍の切開に用いる。今日の外科刀に相当。

 

 

6)員利鍼(円利鍼)

 



①形状
1.6寸長。鋭くて丸い鍼、尖端の直径がやや厚くなっている。「員」の意味は上記の員鍼の項目を参照。「利」は「禾」+「刀」の合成したもので、稲束を鋭い刀でサッと切る意味がある。即ち「利」とは、すらりと刃が通って鋭いさまのこと。時代とともに員利鍼の形状に二説あるといえる。徳川時代以降では、構造は鍼柄のごとき珠であって鍼体の中身部がやや太めになり、鍼尖が鋭利に磨かれている。毫鍼と比べ、鍼柄と鍼体が太い。 

②用途
昔は暴気に対して用いられるといい、別の文献では癰痺に対して用いられるという。痛みが激しいときにリウマチ様症状に用いる。

 

7)毫鍼:毛のように細い鍼。現在の鍼治療で普通に用いられている鍼。詳細省略。


8)長鍼



①形状
「とじ針」のように長い鍼。とじ針とは、編み物用の先の丸い針のこと。縫い始めや縫い終わりの際、毛糸を布片の中にしまい込む目的。普通は長さ2寸~3寸くらいの鍼を使うことが多いが、時には5寸7寸9寸あるいは1尺の鍼を刺すこともある。一般に4寸位から長鍼とみて差し支えない。

 ②用途
筋肉や間質組織に深く刺す、あるいは結合組中を水平に刺す。 坂井梅軒(=豊作)の横刺で刺す時は、押手の母指示指で皮下組織をつまみ、その持ち上がった中を鍼が進む。

肩井部の僧帽筋をつまんで背面から前面へと透刺する。五十肩時、肩髃から刺入して肩峰下をくぐらせる。上腕外側痛時は肩髃から曲池方向に刺入、大腿外側痛時は、風市から陽陵泉方向に水平刺し、下腿外側痛時は陽陵泉から懸鐘方向に水平刺する。


9)大鍼

①形状
太鍼ともいう。長さ4寸、太さは20~100番と太いのが特徴。多くは銀製。日本では鉄鍼が多い。

②用途
母指や示指の爪でグッと押さえ爪の晋第により鍼が盛り上がるように刺入する。夢分流打鍼法のように、小槌で叩打して切皮する方法もある。数呼吸後に抜針。関節に近い浮腫組織に用いる。

火鍼としての使用:馬啣鉄(馬の口にくわえさせて手綱をつける金具。耐熱性がある)を使って製造したものを使う。不導体で鍼柄を包み、真紅になるほどゴマ灯油の中で焼く。その直後に一気に刺入する。熱いので押手は使えない。わが国においてはもっぱら腫瘍潰瘍に用いる。排膿目的。灸頭鍼も火鍼に類する。現在の#30程度のステンレス製中国鍼を火鍼用として使ってみると、1~2回の使用で脆く使えなくなってしまう。火鍼にはタングステン・マンガンの合金の鍼が適しているといことである。タングステンは電球の赤く発熱部分に使われていることもあり耐熱性がある。


2.当時の九鍼使用時の医療感染問題

 
現代ではほぼ毫鍼、長鍼、大鍼3種の形式の鍼だけが残り、今日まで使われている。他の鍼は、やや洗練さた形とはいえない。
鋒鍼・鈹鍼・鑱鍼は今日の皮下注射程度ないしそれよりも太い。この鍼の太さにも関係するが、鍼治療の初期の時代、医療感染の問題に言及されねばならない。感染症が起きたことを疑わせる状況であっても、当時は間違った鍼を刺したとか、正しくない場所に刺したとか、間違った診察の結果にそうなったとかのせいにされている。(ニーダム著「中国のランセット」)

 


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