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慢性副鼻腔炎の針灸治療 Ver.1.1

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  当院にたまに来院していた女性患者は、近くの整形外科の理学療法室で無資格ながらアルバイトをしていた。その人が私に慢性副鼻腔炎に鍼灸は効くか、と質問したのできちんと自宅施灸すれば効果があると返答した。しばらくして理学療法室の同僚の若い男性を副鼻腔炎を治してくれといって連れてきた。私は上星に直接灸3壮を行い、挟鼻穴(下記参照)に単刺して治療を終えた。そして上星には毎日自宅施灸するように指示した。この男性は毎日、自分で鏡をみながら上星の灸を続けたところ、数週間後にはついに鼻汁が止まった。それを見ていた女性患者はよほど驚いたらしく、鍼灸学校に入学したのだった。


1.副鼻腔とは

1)前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞の4種ある。うち上顎洞が最大。

2)副鼻腔の構造と特徴

鼻腔に接する頭蓋内の空洞で、開口部が鼻腔とつながる。
上鼻道の開口:篩骨洞(後部) 
中鼻道に開口:上顎洞、前頭洞、篩骨洞(前部、中部)
下鼻道に開口:鼻・涙管 
蝶形骨前洞窟に開口:蝶篩陥凹
  
大部分の副鼻腔の開口部は洞の下方にあるので、分泌物も溜まりにくい。しかし上顎洞は上方に開口部があり、分泌物や膿が貯留しやすい。 

 


 

2.副鼻腔炎の)病態生理
  
慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚
    ↓   
副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し、充血する。
    ↓
副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、
貯留物が排泄できない。
(本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、生理的に外に排出される)  
    ↓
感染が起きる。
 

3.副鼻腔炎の症状
   
慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似るが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。ときに鼻茸を合併。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹附近は、前顎洞の副鼻腔炎では四白附近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔内圧上昇するとされ、鈍痛増悪する。

R/O 上顎癌:
50才以上で鼻の癌では上顎癌が最も多い。
その7~8割は慢性副鼻腔炎をもっている。血性鼻汁となる。


 

4.現代医療

抗生物質、上顎洞洗浄、ネブライザー。しかし根本的治療法に乏しい。


5.針灸治療
  
慢性鼻炎があれば慢性副鼻腔炎も存在している。両者の共通症状は、鼻汁(粘性~黄色粘性) と鼻閉。慢性副鼻腔炎では前頭部鈍痛や頬部鈍痛を訴えるのに対し、慢性鼻炎では、これらの訴えに乏しい。  
  
鼻炎と副鼻腔炎の治療は、針灸では治療は同様にう行ってよい。鼻炎と副鼻腔炎とは、鼻粘膜に連続性があり、神経支配も同一であることによる。

1)鼻周囲の三叉神経第1枝刺激 
  
鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝が支配している。この神経を刺激すれば、鼻交感神経を緊張させ、血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。

上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経を介して頭重が起こるとされる。慢性鼻炎や慢性  副鼻腔炎の者は、前頭部の前頭髪際付近に圧痛がみられることが多く、圧痛があればこの圧痛点である顖会(前髪際を入ること2寸)や上星(前髪際を入ること1寸)に長期的に透熱灸をすることが多い。
  
これは三叉神経を刺激することで、鼻腔や副鼻腔に持続反復刺激を与えている。頭髪中に施灸するので、灸痕が目立たず長期施灸を可能としている。施灸により、長期間良好な状態を保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、症状は消失状態を保つことができる。
     
①攅竹から睛明方向への水平刺
   前頭神経→鼻毛様体神経

②挟鼻(鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央)直刺。
鼻毛様体神経刺激。本神経は、知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。
揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻毛様体神経刺激による。
 

 

2)大後頭-三叉神経症候群として後頭神経刺激
   
三叉神経線維は三叉神経脊髄路というルートを持っている。外部から入力された感覚は、三叉神経節を経た後、三叉神経脊髄路を経由して、すなわち一度、第2頸髄の高さまで一度下行してから、再び上行して脳に行く。下行時には大後頭神経と連絡しているので、大後頭神経と三叉神経の間に、密接な関係を生ずる。眼精疲労時には後頭部痛も生じやすいのもこの理由による。天柱に刺針すると、三叉神  経刺激症状(特に第1枝の眼神経)に影響を与える。大後頭神経が興奮して三叉神経症状を生  じたものを、大後頭神経-三叉神経症候群とよび、ペインクリニックでの通称も天柱症候群とよばれる。針灸臨床では、眼精疲労、鼻閉に天柱刺針を用いることが多い。


3)顔面関連痛をもたらす筋刺激(山田智子先生の発表による)

①急性副鼻腔炎患者で座位で頸部前屈すると顔面痛増悪する例があった者に、伏臥位で頸部前屈されても顔面痛増悪がなかったこと。②頬骨筋を収縮させた状態(イーッと歯を見せる)では、顔面部圧痛増悪したこと、③項部と上顔面部に針灸治療を行って、副鼻腔炎治療に効果をあげていること、などから顔面症状は、後頸部筋(後頭下筋、頭半棘筋、頸半棘筋、頭板状筋、頬骨筋、咬筋など)のトリガー活性の結果かもしれない。後頸部や顔面部の筋刺激の有効性が示唆される。<山田智子(六ヶ所村尾鮫診療所):第3回プライマリ・ケア学会>

6.その後の見解の変化
上記文章を発表した3年半後のこと。奮起の会鍼灸実技学習会後の懇親会で、参加者の先生方の話をお伺いできた。

1)A先生の話
鼻漏である自分に対し、上記図を参考にして左右の挟鼻穴から円皮針(パイオネックス)を入れると、即座に鼻汁が止まることを確認し、以降は患者にも使っているとのこと。その際、ただしく取穴は挟鼻穴にきちんと入れないと効かないこと。1回の円皮針を入れておく期間は、鼻部の皮脂の出方によっても異なり、1日持たない者から1週間程度もつ者まで様々なこと。左右挟鼻に円皮針を入れておくことは、とくに外出時に格好悪いが、マスクをすれば隠れるといったことを話していただいた。

2)B先生の話
鼻漏に対しては、鼻稜外側にある上唇鼻翼挙筋を指頭でこすると、プチプチとした手応えが得られるので、何回か縦方向にこすると、そのプチプチした感触がなくなると同時に症状もとれるとのこと。

 


 


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