序
筆者は当ブログに<慢性の下痢・便秘の針灸治療>を2006.4.5.発表したが、内容に不満があり、2014.1.9に<弛緩性便秘と直腸性便秘に対する針灸治療 Ver.1.2>として書き直した。しかしそれでも不満があったので、今回再整理を試みることにした。
1.内臓刺針について郡山七二氏は、胸腹部から内臓に到達する深刺する方法を考案し、これを内臓刺と名づけた。今日では内臓刺は医療過誤を生ずる恐れがあるので、禁忌となっているのは当然である。
ただし大腸の脊髄断区を刺激しての内臓体壁反射(交感神経反射)を利用したり、仙部副交感神経を利用するため八髎穴を刺激したり、陰部神経刺激の鍼をしてみても、治療効果に確実性があまりないことを考え併せると、とくにS状結腸以下(副交感神経優位)の大腸に対する内臓刺は成書に多数載っていおり、許容されているかのようである。
2.左府舎刺(森秀太郎「はり入門』医道の日本社)
便秘症の人の腹部を按圧すると、左腸骨窩部に糞塊を触知する。その塊(府舎穴になる。府舎穴の位置は鼠径溝の中央から、一横指上方に位置する)を目標に、寸6の6番の針で、やや内方に向けて10~30㎜ほど刺入すると、下腹部から肛門に響きを得る。
私の意見: 左府舎からの直刺は下行結腸またはその外方にある腸骨筋に入る。腸骨筋が股関節に癒着して鼠径部痛を起こす。鼠径部外端から内方1/3の部から刺針することは、この部に糞塊を触知できる弛緩性便秘の治療に使えると主張する者がいる。
上図は虫垂炎時、盲腸と虫垂が腸骨筋に癒着している様子を示している。この病態は無論右側のみであるが、左側のS状結腸と腸骨筋は接触して存在しているので、互いに影響を受け合うことは予想できる。
3.内閉鎖筋刺
骨盤の閉鎖孔を内側から塞いでいるのが内閉鎖筋である。内閉鎖筋が緊張すれば、陰部神経や 陰部動脈を圧迫して泌尿器科症状を生ずることがある。また左内閉鎖筋緊張すれば、S状結腸を 圧迫することで便秘になることも指摘されている。 左内閉鎖筋への刺針とは、左の陰部神経刺針に他ならない。 陰部神経刺針は、陰部神経への刺激かつ内閉鎖筋への刺激になる。
上図は虫垂炎時、盲腸と虫垂が内閉鎖筋に癒着している様子を示している。この病態は無論右側のみであるが、左側のS状結腸と内閉鎖筋は接触して存在しているので、互いに影響を受け合うことは予想できる。
4.四満移動穴(柳谷素霊「秘法一本鍼伝書」医道の日本社)
臍下2寸に石門をとり、その左外方1寸の部に四満穴をとる(標準の四満穴は石門の外方5分)。
1)実証者の便秘
2~3寸#3で直刺、2寸以上刺入して、上下に針を動かす。この時、患者の拳を握らせ、両足に力を入れしめ、息を吸って止め、下腹に力を入れさせる。肛門に響けば直ちに息を吐かせ、抜針する。
2)虚証者の便秘
寸6、#2で直刺深刺。針を弾振させて、肛門に響かせる。
この時患者は口を開かせ、両手を開き、全身の力を抜き、平静ならしめる。いずれも肛門に響かないと効果もないと考えてよい。
私の見解:
左天枢や左四満移動穴からの深刺は、小腸内臓刺になる。
柳谷氏は四満刺針で肛門に響かせるというが、実際に深刺すると深部にひきつれ様の響きを感じることが多い。何とかして肛門に響かせようと深刺すると陰部神経を刺激できる。陰部神経はS2~S4から出る体性神経で肛門や陰茎部の運動・知覚を支配するが、腹部からみて陰茎は肛門の手前にあるせいか、陰茎に響くことが多く、肛門に響かせることは難しい。