筆者は2015年12月17日に「足のツレの治療 Ver.2.1」を報告したが、読み直してみると、反省点が多くでてきた。その記事を削除するとともに、同様のテーマで新たに書き起こすことにした。
1.こむら返りの病態生理
「こむら(=腓)返り」とはふくらはぎが、つ(=攣)ること。腓腹筋の有痛性痙攣である。筋肉内に分布する運動神経終末部の自発性興奮に始まる。筋線維の一部が強く収縮すると、収 縮した筋線維と収縮しない筋線維の間にずれの力が働き、筋肉の痛覚線維を刺激して、痙攣と痛みが生じる。
2.こむら返りの原因
1)脱水時
夏の暑い時期、激しい筋肉労働で大量の汗をかいたとき。水分やミネラル分(CaやMg)不足になると、腱紡錘中のセンサーがうまく働かなくなり、筋をゆるめる機序が作用しない。
2)睡眠中
日中に比べて夜間は気温が低くなる。ヒトは就寝中は、熱エネルギー産生力を低下させ、体温も午前3時から5時頃が最も低くなる。こうした時であっても体幹深部の内臓温は一定に保つので、結果として手足末梢温は低下せざるを得ない。
その結果、夜中から明け方にかけて、筋の血流が悪くなり、新鮮な酸素、栄養素の供給や老廃物の排除がうまく行われなくなり、こむら返りが起こりやすくなる。
下肢静脈瘤の原因である下肢の静脈逆流防止弁の不全では、血液が逆流して余計な水分が血管から滲出し、周囲の細胞の新陳代謝を悪くして、足の疲れ、だるさ、むくみとともに、 夜中のこむら返りなどの原因になもなる。
3.こむらがえりの治療
1)手足、とくに足の保温につとめる。具体的には腓腹筋部に保温のためのサポーターを施す。
2)高山瑩・伊藤博志は、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局麻注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少すると発表した。一度行えば数カ月間、効果が持続する。なお中封からの深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝ブロックよりも効果は劣ったという。 (「腰痛などを伴っているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1): 126--130.2002)
これをどう理解すべきだろうか。太衝の皮膚は特異的に深腓骨神経支配になっている。こむら返りに、太衝穴へのソマセプト(皮膚刺激)貼って効いたという報告もある。深腓骨神経ブロック自体が、坐骨神経痛に対する治療のような効果をもたらし、下腿筋群の筋弛緩に関与したということだろうか。
3)PNF手技
①コントラクトリラックス Contract Relax
コントラクト(収縮)とは短縮性収縮のことである。静止維持(10秒間)→抵抗伸展→静止維持(30秒間)を繰り返す。抵抗伸展は、患者の抵抗がある中、可動域いっぱいの運動動作をさせる。 前項のの太衝刺激の代用となるのは下腿胃経上のツボになるのだろうか。下腿三頭筋の過収縮を改善するには、その拮抗筋に相当する前脛骨筋(=深腓骨神経)を刺激すると効果あるという者もいる。これは「Ⅰa 抑制」の機序が働く。
拮抗筋を使った下腿三頭筋のコントラクトリラックスの方法(下写真)は、下腿三頭筋の拮抗筋を収縮(足関節を背屈)させるが、この時術者は足を反らさないよう抵抗を加える。これにより下腿三頭筋の緊張を緩めていく。このメリットは痛い筋肉を縮めさせずに症状の緩和がはかれることになる。
②ホールドリラックス Hold Relax
等尺性収縮をホールド(保持)と言う。静止維持(10秒間)→抵抗維持(6秒間)→静止維持(30秒間)を繰り返す。患者自身の自動運動なし。いわゆる通常のストレッチ運動。
③自分で行う応急処置としてホールドリラックス
腓腹筋痙攣発作時には、経験的に発作が治まるまで母趾を強く背屈させて腓腹筋ストレッチをすることが有効である。しかし夜間の発作の最中、この動作をするのは、いちいち起き上がらねばならいので煩わしい。そこで患側の足母指のMP関節を強く背屈させて、腓腹筋のストレッチをすれば仰臥位のままできるので手軽にできる。
4)芍薬甘草湯
速効性があり、効果発現まで平均6分といわれている。効果持続時間は4~6時間あるので、夜間に足がつれるケースでは、眠前に服用すればよい。朝方につった時に屯服でも効果 を発揮する。勺薬も甘草も筋緊張を緩める作用。芍薬甘草湯で効かない場合、カルニチン不足か、Ca不足の可能性が考えられる。抗てんかん薬のバルプロ酸などを服用中の方は、低カルニチン血症に陥っている可能性もある。
※最近、薬局の窓に<足のツル方へ>という張紙を見かけるようになった。この時販売するのが勺薬甘草湯。勺薬甘草湯は、横紋筋(骨格筋)に限らず、平滑筋(内臓運動)にも有効。すなわち、生理痛や尿管結石、時にしゃっくりなどにも効果を発揮するという。