1.概念
背腰部の過伸展や捻転→筋々膜のトリガー活性化→脊髄神経後枝が筋膜を貫く部位で刺激されて枝興奮。なお腰背筋の代表といえるのは脊柱起立筋だが、この筋は脊柱を支え、固定するための能が中心で、寝ている時以外は常に緊張状態にあることが知られるようになった。筋筋膜性腰痛の関係は密接でない。
不正動作ににより突発的に生ずる痛みは、大腰筋・腰方形筋・短背筋群の問題らしい。これら筋群は、腰椎に直接付着しているという共通性がある。
2.短背筋の筋々膜性痛
1)短背筋の構造
棘突起外方5分で背腰部督脈に伴走するラインを背部一行線(または夾脊)とよぶ。この部には半棘筋・多裂筋・長回旋筋・短回旋筋があり、基本的に骨盤もしくは腰椎横突起を起始とし、それより上部の腰椎棘突起を結んだ筋。靴ヒモ様の構造になっている。すべて脊髄神経後枝支配。
2)短背筋の脆弱性
胸椎の椎間関刻面の構造上、左右回旋ができるが、前後屈はできないという特徴がある。なお胸を左右に回旋させる作用がある短背筋群は、半棘筋・長・短回旋筋である。
上体を左右に回旋する時、上下に隣接する胸椎は、半棘筋・長・短回旋筋の作用で少しずつ回旋るが、腰椎以下はし、左右回旋運動できないが、前後屈はできるという特徴があるので、回旋運はTh12-L1間でスムーズに流れず、強い力学的ストレスが椎間関節に加わることになる。結果椎間関節症を起こしやすい。またこの椎体間の不正な動きは、半棘筋・長・短回旋筋を無理に伸張させる動きとなるので、同筋群の筋々膜性腰痛も引き起こしやすい。
※短背筋は短い、すなわち起始と停止の距離が短いので、椎体間の不正な動きの衝撃を受け流すことが難しく、筋ダメージを受けやすい。
棘筋は脊柱起立筋に所属する。
3)短背筋性筋々膜性腰痛の所見と針灸治療
胸椎部一行線上の短背筋群に圧痛出現する。この圧痛点下にある障害筋中2~3㎝刺入。置針5~10分。なおTh12-L1間の椎間関節性腰痛は高頻度に起こり、これをメイン症候群とよぶ。
3.とくに多裂筋性腰痛について
1)多裂筋の脆弱性
胸椎範囲の短背筋群の障害筋は、半棘筋・長・短回旋筋が代表的なのに対し、腰椎範囲の短背の障害筋は多裂筋が代表である。多裂筋は腰椎の前後屈運動を行う機能があるので、腰仙部で発している。多裂筋性腰痛は、上体の回旋動作で発症するのではなく、上体の前屈や再伸展動作で症しやすい。
寝ている時は何でもないのに、寝床から上半身を起こす動作で、急に腰痛を自覚する場合がある重症では継続して痛むが、軽症の場合では昼頃になると自然と腰痛消失し、翌朝は同じような腰が再び出現する。これは不良な就寝姿勢とくに軟らかすぎるマットにより殿が深く沈むことで腰前彎の増強→多裂筋緊張増強となっている状態である。
この状態は、仰臥位で腰部に手を差し入れるようにすると腰が浮き上がっていることで確認できる仰臥位で、両手で膝を抱えるようにして、背中を丸めるような姿勢をすると多裂筋伸張体操とな(=ウィリアム体操)。
2)カリエの「腰痛三角」刺針
脊柱起立筋は、腰部を過ぎて仙骨まで走行しているが、仙骨部は腱構造となって先細りしている起立筋の筋収縮は、この先細り部に加わる力が非常に大きいので、筋筋膜性の障害が起きやすい。第5腰椎棘突起、第1仙椎棘突起、上後腸骨棘の3点を結んだ領域に腰痛が起こりやすいことら、カリエはこの部を「腰痛三角」とよんだ。これも多裂筋緊張を診ていると考える。
伏臥位にて、腰痛三角部中央部から直刺して、針先を多裂筋中に入れる。そして両脚の膝関節を0回程度、交互に屈曲(足をバタバタさせる)させると、多裂筋に対する運動針になる。
3)小腸兪と関元兪について
代田文誌著「鍼灸治療基礎学」では、小腸兪をL5棘突起外方1.5寸を取穴しているので、カリエの腰痛三角中央は、小腸兪一行に相当している。しかし今日の標準的な小腸兪位置は、S1仙骨の外方1.5寸になってしまった。一方、関元兪はL5棘突起下外方1.5寸に取ることに決まったので腰痛三角の中心は関元兪一行といえる。ただし沢田健は、L5棘突起外方1.5寸の部の小腸兪をリウマチの熱をとるツボと考えていた。その意味するところを代田文彦先生に質問したが、全身的症状に対しては、いちいち疼痛部に針灸すると大変なので、痛みの中心路である脊髄、その中で上肢に関係深い頸膨大部として大椎穴を、下肢に関係深い腰膨大部として小腸兪に施術するとい考え方があるのを教えていただいた。