1.はじめに
以前私は、「 眼窩内刺針が刺激対象とするもの Ver.2.12015-08-19 」と題したブログを発表した。
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e15b8546ecd13a7f5c065a1709f3472c
この記事を読んだとして、眼精疲労を主訴とする患者が来院した。眼精疲労の来院患者は少なくないが、その多くは頸コリや肩コリも同時に訴えていたり、精神的ストレスがあったりしている。主訴が眼精疲労のみを訴える患者は珍しいことであった。
2.眼精疲労症例(21才♂、学生)
数年前から目が疲れる、とくに左右に眼球を動かすと目頭が疲れるとのこと。近くの針灸院に行って眼窩内刺針をやってほしいと頼んだが断られ、私のブログを見て当院来院した。眼窩内刺針を希望していた。眼瞼に内出血する可能性があることを理解してもらった後、眼窩内刺針その他を行ったところ、患者は、これまでにない効果があったと述べた。
実際の治療点は眼窩内刺針の他に頭維刺針、上天柱刺針を行ったが、ここでは眼窩内刺針の技法について記してみたい。
3.眼窩内刺針の技法
1)眼窩内刺針とは
眼窩内刺針には上眼窩内刺針と下眼窩内刺針があり、上眼窩内刺針の方が上眼窩と眼球の間が広いので比較的刺針しやすい。眼瞼の内出血を防ぐためと、眼球に過多な刺激を与えぬ用心のため、寸6#1などの細い針を使うことが多い。
細い針を使うこともあって、上眼窩内刺針と下眼窩内刺針とも響きはないのが普通である。眼瞼の内出血を避けるために雀啄などの手技針はせず、単刺や置針をする。
2)上睛明深刺
疲れ目に際しては、母指と示指で両方の目頭のやや上方をつまむように押圧する動作を自然に行いがちである。その部位こそが眼精疲労の刺針点として相応しいだろうと考えてみた。患者を仰臥位にさせ、寸6#2にて内眼角部(睛明穴)の5ミリ上方(これを上睛明と命名)からを刺針点とし、ゆっくり直刺すると2㎝ほど刺入すると硬いものに命中すると同時に眼に響きを得ることができた。(別の眼精疲労患者対して上睛明刺針を行てみても、やはり2㎝刺入で硬いものあたると同時に眼球に響きを得ることができた。結構、再現性がある。
3)内直筋に対する運動針法
硬いものというのは解剖学的見地から、内直筋だと判断した。左右の内直筋が緊張すると両瞳孔が内側に移動し、寄り目のような状態になる。動物の眼は本来遠方を見るのに適しているとされるが、現代人は手元の書類やディスプレー画面を見ることが非常に多くなり、寄り目の状況が多くなったのだろう。
内直筋に対する運動針は、次にやや開眼状態にして、患者の両目中央から50㎝ほどの処に術者の片手の示指を立て、指先を目で見つめるよう指示、輻輳動作(示指を徐々に患者に近づけたり、遠ざけたり。すなわち寄り目動作)を数回、運動針をさせて抜針。
4)眼窩上神経刺針
三叉神経第一枝(眼神経)は、上眼窩裂孔を通り、眼球と眼窩の上空間を通過し、前頭神経と名称を変える。前頭神経は、滑車上神経と眼窩上神経に分かれ、額を上行して同部の知覚を支配している。とくに眼窩上神経は、顔面表情筋により絞扼されて眼窩上神経痛を起こすことが知られている。前頭部の皮神経痛を生ずる代表は眼窩上神経だとされる。(なお大後頭神経痛は、後頭部の頭半棘筋の絞扼が原因とされる)
(参考文献:清水暁:頭蓋表層の解剖学的要因による頭皮神経痛と頭痛-眼窩上神経痛・後頭神経痛・開頭術後頭痛-、臨床神経学、54巻4号(2014.5)
眼窩上神経痛の場合、眼窩内病変や帯状疱疹などの二次性原因の他に、やはり特発性があり、特発性の場合、額から眉への水平刺が有効になることが多いが、このような施術の一貫として、魚腰穴あたりからの上眼窩刺針を行う方法がある。もっとも、魚腰からの刺針は眼窩上神経に響くことはあっても、上睛明刺針の眼の奥にズンといった針響とは異なって、表面的な響きになるので、心地よさは生じにくいだろう。
4.余談:瞳孔に対するせんねん球
昔ある学会に出席した折、展示ブースの一画でツボ灸(温熱灸の一種)の実演をやっていた。販売員の説明を聞き、「試してみましょう」とのことで、立位でいる私の両目を閉じさせ、上瞼の上からツボ灸をされた。こんなところにも灸するのかと少々驚いたのだが、徐々に温熱が加わり心地よい感じが得られた。要するに疲れ眼に際して、眼に蒸しタオルをあてることと同じような効果だろう。
これを手持ちの道具で実践することを考えた。仰臥位で閉眼させ、上眼瞼に紙絆創膏を貼る。その上からセンネン灸(息吹、金色ラベル)を燃焼させるというものである。紙絆創膏の上からセンネン灸をするのは、温熱過多になるのを防ぐこと、モグサのヤニが皮膚につかぬようにするという2つの意味がある。