1.眼精疲労の鑑別
最もみられる眼科的訴えは眼精疲労であろう。本当に眼精疲労であるなら、眼を休めれば回復するが、休養しても治らない場合、器質的疾患を疑う。
本当に単なる眼精疲労か?
①眼痛(+)→緑内障
②見えづらい:眼がかすむ
白内障(糖尿病性白内障の可能性)
ぶどう膜炎(サルコイドーシスの可能性)
眼底出血(糖尿病性網膜症、高血圧症の可能性)
像が歪む、像の一部欠損→中心性網膜炎、網膜剥離
チラつく→生理的飛蚊症(網膜剥離、ぶどう膜炎の可能性)
③目の乾燥感→ドライアイ(シェーングレン症候群の可能性)
上記を否定できれば、機能性眼精疲労、仮性近視、心身症を疑う。
※全身疾患の部分症状として眼症状を訴える疾患はつぎの通り。
ベーチェット病、サルコイドーシス、シェーングレン症候群
2.眼精疲労に対する鍼灸治療の考え方
1)後頭下筋のコリの治療→上天柱
後頭下筋は、頭蓋骨のブレがあっても視点のブレがないようにする役割がある。現在のデジタルビデオカメラには手ぶれ防止装置がついているのが普通になった。これにより、歩きながらで、あまりブレのないムービーをとるのができるようになったわけである。これと同じ意味の機構が後頭下筋になる。
平成31年2月13日放映NHKテレビ放送「ためしてガッテン!」では頚のコリと後頭下筋の関連について放送していた。横から卓球のラリーを見る観客は、玉を追うために眼球が左右に動くことになる。その際、無意識に顔面も左右に小さく動いていることが観察された。この顔の動きは後頭下筋の緊張によるものだそうである。
後頭下筋疲労の改善には、上天柱から深刺し、鍼先を後頭下筋まで入れて置針する。
2)大後頭三叉神経症候群としての治療→天柱、頭皮上圧痛点刺針
大後頭神経の興奮は三叉神経をも興奮する。眼の知覚は三叉神経第1枝であり、大後頭神経の鎮静目的に、天柱深刺置針を行う。
百会の手前2/3の頭皮知覚は主に三叉神経第1枝支配、百会の後方1/3の頭皮知覚は主に大後頭神経支配である。頭皮上の圧痛点に斜刺し、10分間程度の置針をする方法も広く行われている。
※三叉神経第1枝は知覚性で、上眼窩裂から眼窩内に入り、鼻腔・角膜・結膜・ 毛様体・虹彩の知覚をつかさどった後、前頭神経として額~頭頂部皮膚知覚をつかさどる。なお私は、眼精疲労の原因をズバリ一言でいうなら、三叉神経第 1枝神経痛のバリエーションだと考えている。
3) 天柱刺針は交感神経を緊張させ眼精疲労を改善させているのか?
本来、人間は近くを見ているとき、意外にもリラックス状態にある。というのは、原始時代、人間は仕事として獲物を狩り、そして狩ってきた食料を住居で食べて生活するという形をとってきた。そのため遠くにいる獲物を探したり、狩るときは交感神経が優位になり、家の中で家族と食事をしている時は副交感神経が優位になることが正常な自律神経サイクルだったのだろう。
ところで眼精疲労患者に対して、伏臥位や座位で天柱手技針をすると、「施後に頭や首がすっきりし、眼の疲れがとれ、外界が明るく見える」といった反応が得られることが多い。天柱深刺は比較的強刺激になっていると思うのだが、このような刺激で眼精疲労が改善するというのであれば、交感神経緊張→網様体筋弛緩という機序が働いたのかもしれない。日本人は、真剣に物事に取り組もうとする時、ハチマキ巻く習慣があり、これも緊張度を高める一つの方法として認知されている。すなわち、眼精疲労改善は、頭~項頸部を交感神経緊張状態に誘導することで改善できるのではないか?
4)側頭筋刺激→頭維から客主人に向けて水平刺
中世の医学では、血液のよどみが病気の原因であると考えられたため、血管を切開した。頭痛ではコメカミの血管から血を出し、頭痛の軽減を図ろうする方向へ発展した。コメカミから血を出す方法は、小刀や矢先を用いた。
顔面で顔面表情筋は顔面神経支配だが、咀嚼筋は三叉神経(第3枝)支配である。咀嚼筋というのはストレス筋の一つであり、側頭筋は最大の咀嚼筋であるから、ストレス状態で緊張を生ずる。側頭筋部は、三叉神経節興奮時に反応が現れると思われ、側頭筋のコリを緩めることがストレス改善、そして眼精疲労の改善に役立つと予想する。
ストレス筋というのは、ストレス状態にある時、働く筋をいう。たとえば動物が敵と遭遇した場合、戦うか逃げるかしなければならい。噛みつき攻撃は動物にあっては戦う手段として当たり前のことであり、側頭筋の緊張が関係することが知れる。
5)リラクセーションを目的とした治療
眼精疲労が眼周囲の筋の疲労の結果起こるという見解は、疑問視されている。たとえば眼瞼痙攣の者は必ずしも眼精疲労を訴えない。心身症者の眼精疲労は、眼に問題があるのではなく、大脳の情報処理能力の疲労だとする意見がある。要するに脳の疲労であるから、リラクセーション目的の施術が有効になる。