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痛風発作に灸治療が速効した例としなかった例 ver.1.2

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筆者は、2016年11月22日に「急性膝関節痛が痛風由来だった症例」を報告したが、この症例では膝痛が痛風からきていると推測できず、また鍼灸治療も効果なかった。しかし2018年3月28日に左肘の痛風発作が灸治療で即時に鎮痛できた症例を経験したので、この事例を追加して報告する。

1.痛風の概念
   
痛風の語源は、<風が吹いても痛い>からではなく、風邪の性状すなわち<風のように急に起こり、急に去る>ことに由来している。

1)高尿酸血症 

尿酸はプリン体の最終分解物である。プリン体は肉類に多く含まれるが、プリン体自体は殆ど利用されることなく尿酸となる。プリン体を排泄するには尿酸として排泄するしかないが、尿細管で90%は再吸収される。ゆえに血中に蓄積されやすい。(一方、プリン体の摂取は食物を原料する以外にも、体内でアミノ酸から合成される。こちらからの比率の方が高いので、メタボリック症候群は痛風の下地をつくる)
尿酸値は、7.0mg/dLを越えると高尿酸血症とよばれる。

2)痛風の病態生理

高尿酸状態が長期間続くと、血液に溶けきれない尿酸濃度(7.0mg/L)が尿酸塩となり次第に関節内、皮下、腎臓に沈着蓄積していく。

①ある時、衝撃を受けたり急に尿酸値が下がったりして尿酸塩の結晶が剥がれ落ちると、白血球はこれを異物と認識して貪食。この時炎症物質を大量に放出して、突然関節部の激痛を生ずる。これが痛風発作である。40~50才男性に多い。痛風発作の部位は、第1中足指節関節が全体の7割を占める。典型パターンは、ある日突然、足母趾MP関節が赤く腫れて激烈な痛みが生ずる。ほかに距腿・膝・アキレス腱などの下半身に発症するものが9割。半身の方が体温が低いことや、血流が滞る傾向が下半身に多いことによる。痛風の痛みは1週間から10日後に次第に自然軽快するが、無処置の場合1年以内にまた同様の発作がおこることが多い。一度発作を起こした者では、尿酸値を6.0mg/dL)以下にコントロールすべき。

②尿酸が皮下に沈着すると、耳介・足趾・肘・手指などに痛風結節を生じる。痛風結節そのものに痛みはない。結節の中身は尿酸結晶で、チョークの粉状。痛風結節そのものは治療対象とならないが診断の手助けとなる。
      
③結晶化した尿酸が腎臓の組織にも沈着する。無症状で長期間進行するが、やがて腎不全(血液から老廃物をろ過する能力が低下)により小便が出にくくなり、最終的には尿毒症になる。
     




3.痛風の現代薬物療法

1)救急処置
痛風治療の特効薬としてコルヒチンが知られている。発作が出そうな時には「コルヒチン」を服用する。コルヒチンには好中球が関節内に集まるのを抑える作用ある。関節痛を感じ始めたとき(好中球が関節に集まる前)に飲めば、激痛を未然に防げる。激痛になってからでは効かない。
    

2)血中尿酸値のコントロール
本質的な治療としては尿酸値を下げることになる。尿酸降下薬には、尿酸排泄剤と尿酸生成抑制剤とがある。尿酸の排泄が少ない人は尿酸排泄促進剤(ユリノームなど)を使って尿酸の排泄量を増やす。尿酸を作りやすい人は尿酸合成阻害薬(ザイロリックなど)を投与する。尿酸生成制薬は肝臓で働き、プリン体が尿酸になるのを抑制する働きがある。いずれも長期服用が必要。尿酸濃度(6.0mg/リットル)程度にコントロールする。


4.鍼灸治療 

局所が熱をもって痛む場合、局所から刺絡。足母趾MP関節内側痛の場合、局所である大敦施灸というのが定石。やむを得ないことだが、鍼灸古典では、疼痛の真因が高尿酸血症によるとは思いもよらないことだった。

1)右膝痛が痛風由来だった症例(52才男性)植木職

3日前から急に、右膝を90度以上の屈曲ができなくなった。思い当たる原因はない。 膝関節のロッキングがあるので半月板損傷を疑ったが、受傷動機がはっきりしないので本診断には確信がなかった。膝周囲に目立った圧痛点もなかったが、軽く刺針して治療を終えた。治療直後効果はなかった。
  本患者は当院で治療成功しなかったので、翌日整形受診して「痛風」との診断をうけ、薬物療法を開始した。7日後当院再診。内服治療開始して数日~1週間で、ほぼ痛み消失したという。本例の膝痛が痛風だったとは驚いた。なお症例は、薬物で痛みを止めたのではなく自然緩解だったかもしれない。
 
痛風というと足母趾MP関節の赤く腫れ上がった激痛というイメージが強かったが、本例は可動域制限強いが熱感・腫脹とも見いだせなかった。こんな例もあるのかと驚いた。


2)左肘痛風発作に灸治療が速効した症例(39才男性)会社員

以前から検診で血中尿酸値の高値を指摘されていた。8日前から突然、左肘関節部が発赤・熱感・腫脹あり痛みのために膝の屈伸が十分にできなくなった。医師の投薬治療を8日間続けているが、症状に変化なくとてもつらいという。触診すると膝頭の直上1㎝ほどの上腕三頭筋腱部に限局的に強い圧痛が2カ所みつかったので、この2カ所に糸状灸を5壮実施。施術直後に痛みは減り、肘が伸びるようになったとのことだった。自宅でせんねん灸(強力温灸)を行うよう指示して治療終了した。
 

5.余談:ヘルマン・ブショフが中世ヨーロッパで紹介した痛風の灸

ヨーロッパに灸治療が最初に紹介されたのが、痛風の灸治だった。中世のヨーロッパ貴族に痛風が多かったのは、美食過多に要因があったらしい。利尿作用のある緑茶を多量に摂取して大量に排尿することが痛風予防になることが知られていた。小便が多量に出れば、大量の尿酸が体に排泄さる事にもつながるからだろう。
   
バタヴィア(インドネシアの首都ジャカルタのオランダ植民地時代の名称)在住のオランダ人牧師、ヘルマン・ブショフ Herman Busschof は長い間、足部の痛風に苦しんでいた。現地のヨーロッパ人医師が頼りにならなかったので東南アジア出身の女医の灸治療を受けてみた。女医は彼の脚と膝に半時間の間にもぐさの小塊を約20個置いた。効果は彼の期待をはるかに上回った。治療の最中から、それまでは一晩も休めなかったブショフが気持ちよく眠り込んでしまい、24時間後に目覚めたとき、膝と脚はまだ腫れていたが発作は治まり、何日もしないうちに仕事に戻ることができたという。
このヘルマン・ブジョフの灸に関する1675年の報告が、灸に関するヨーロッパ初の出版であった。

当時、アジアには「痛風」という概念はなかったので、女医は脚気と診断して施灸治療を行ったとする見解がある。一方、「脚気」はヨーロッパにない疾患だった。

わが国では 心不全で下肢がむくみ、末梢神経障害で足がしびれることから「脚気」と呼ばれた。( 心臓機能の低下・不全を併発したときは「脚気衝心」と呼ばれる重症だった)。
   

脚気の鍼灸治療

  http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=78051ede4bbb1c7646621d2cd19f771e&p=1&sort=0&disp=50&order=0&ymd=0&cid=dccbeb7efad376c56996341b4cbda8b4  


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