1.瘭疽(ひょうそ)とは
手足の爪周囲におこる急性の細菌性爪囲炎(bacterial paronychia)。爪傍と指腹が発赤腫脹し、激痛を起こす。
指腹部の脂肪組織は、物をつまむときの安定性を高めるために線維性の隔壁で仕切られており、そこに感染が起きると内圧の上昇によって、端知覚神経が圧迫され痛みを発する。とくに化膿するとより内圧の上昇が起こるので痛みは非常に強くなる。
治療は通常は抗生物質内服だが、重症の場合には爪切開で排膿させることになりかねず、それを思うと患者は恐怖だろう。
2.瘭疽の自験例(67歳、男)
4~5日前から左母指の爪甲根部内側にさかむけができ、指先でさかむけを剥こうとしたが痛くて中止した。昨日夕刻からさかむけ部分と、その付近の爪元に持続性の痛みを感じ、
母指腹を押圧しても痛みを感じる状態。昨夜は痛くて十分眠れなかった。瘭疽(ひょうそ)である。
翌朝、痛む部分には腫脹・発赤があった。ボールペンの先で圧痛点を探してみると下の写真3カ所に強い圧痛を発見した。ここに小灸をすえようと思った。
もう30年以上前のことになるが、足母趾爪と指腹奥全体が痛んだ瘭疽ができ、数日間痛み続け歩行も難儀になったことがあり、入江靖著「灸治療夜話」にあった瘭疽の深谷灸法をしたことがあった。するとその直後から痛み半減し、数日で治癒した経験があった。ひょうその灸の効果に驚いたものだった。
爪部分の灸点に、ゴマ灸をてみると、1壮目から熱さを心地よい感じ、2壮目からはさらに熱く感じ、3壮を終えると我慢できぬ熱さに。結局計3壮実施。
また爪甲根部右の少商穴あたりの圧痛点と母指腹橈側圧痛点に、ゴマ大灸をしてみると1壮目から我慢できないほどの熱さになったので各々1壮とした。行い、治療直後、持続性の痛み半減し、局所押圧時の圧痛は2~3割減となった。半日経た現在、自発痛ほぼ消失し、局所押圧時の圧痛も5割以下となった。翌日の夜には、自発痛と圧痛ともに消失した。結局、灸したのは一回だけ。
灸の適応症は数ある中でも、本疾患に対しては確実に大きな効果をもたらすことが多い。医者が知ったら、さぞ驚くことだろう。
3.瘭疽の深谷灸法
患部の指爪を横に3等分し、上 1/3の処にできる線の中央に施灸。半米粒大の灸を多壮する。悪ければ熱さを感じない。熱さを感じるまで施灸。1日2回朝夕施灸、1壮目で熱く感じるまで継続する。なおこの治療法は、爪水虫にも効果があるという。