病院鍼灸限定の話になるが、尿路結石の疝痛に対する鍼灸は非常に効果がある。そのことについて説明する。
1.尿路結石の概要
尿路とは腎杯、腎盂、尿管、膀胱、尿道に至るまでをさす。尿路結石は腎臓の腎盂で尿の成分の一部が結石を作り、尿路の中に存在している状態で 尿管などにつまると激しい痛みなどをおこす。95%は上部尿路結石(腎杯~尿管)である。尿路結石の成分は、リン酸、炭酸、シュウ酸などがカルシウムなどと固まってできた物質。生活習慣病に合併しやすい。
2.結石疝痛
三主徴は、突然の激痛・血尿・結石排出。なお、ぎっくり腰は運動時痛であるが、尿路結石は安静時でも強く痛む。
①腎盂内圧の上昇および尿管壁の急激な伸展刺激のため、突然に排尿困難+腰痛が出現。Th11~L2デルマトーム領域で、片側の腎臓~側腹~下腹部~睾丸あたりの疝痛。
②腰神経叢興奮による大腿内側にも放散痛。
3.現代西洋医学的治療
①尿路結石の保存療法の目的は、結石の自然排出の促進と鎮痛である。直径4ミリ以下の小さな結石であれば、鎮痛剤を使用して尿路の鎮痛・鎮痙されることで、小便とともに自然排石する(60%)
②尿路結石疝痛の薬物療法は、一般的な腹痛止めであるブスコパン(抗コリン剤で、鎮痙作用、消化管運動抑制作用)などの鎮痙剤はあまり効果なく、鎮痛剤(しかも強力な)を使うということである。このことは交感神経よりも体性神経性の痛みが中心であることが理解できる。
③それ以上の大きな結石では、超音波衝撃波による結石粉砕や、内視鏡手術により結石を摘出する。
④8~9割再発するので、再発予防の生活習慣(毎日2ℓの水を飲む)が重要。それでも6割の者が再発してしまう。
4.尿路結石の針灸
内科的疾患に対する鍼灸の適応は少ないが、中空器官の痙攣による痛みに針灸は速効する。具体的には尿路結石・胆石痛、痙攣性便秘などである。
尿管の痙攣による激しい痛みは交感神経線維が興奮→交通枝を経由して脊髄経興奮→体壁のTh12~L2デルマトーム領域の関連痛による。体性神経の痛みが激しい場合、L1~L3からなる腰神経叢もつられて興奮してくることがあるのだろう。
体性神経性の痛みに鍼灸は効果を発揮する。筆者は側臥位で志室外方に生じた最大押圧部位に深刺して強刺激を与え、体性神経性の痛み(筋々筋膜痛)を緩和させるようにしている。筆者は過去3例に行い、すべて鎮痛できた治験がある。なお外志室への刺針や持続強圧指圧によっても速効する。なお腰部圧痛点に対する皮内針でも効果あると記されている文献もある。
代田文彦医師は、「鎮痛させることが結石排石につながるかどうかは、確認する方法がないので不明だが、感触としては排泄につながるのはないか」と語っている。患者が尿路結石疝痛鎮痛後に、小便をした際、たまに小さな結石が出たのを視認するケースがあり、このような申告を聴けば即、退院となる。
余談:医師になって間もない頃の代田文彦先生が病院当直をしていた夜、尿路結石の患者が運び込まれた。その時、先生はまだこの疾患の薬物治療に不慣れだったので、外志室を強圧して止痛した経験があるという。
5.文献
①90%は上部尿路系結石であり、仙痛は結石の部位に関係なく、第3腰椎横突起の高さで 大腰筋外側線近傍に圧痛が出現し、この押圧により速効する。鎮痙・鎮痛剤が無効だった者でも速効 し(有効率100%)、再発率も少ない 疼痛部位も志室外方の側腹部であることが多い。
田中亮「東洋医学の泌尿器.科的疾患の応用」(日本医事新報、昭54.6.23)
②針を受けた腎疝痛の患者群は、より速やかに鎮痛効果が始まり、副作用もなく、標準的な鎮痛処置を受けた患者群と同様の疼痛緩和が得られた(Lee 1992) (Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「鍼による科学的根拠」医道の日本社 2001.6)