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Channel: AN現代針灸治療
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質問紙を使った耳鳴分析と鍼灸の奏功例 ver.1.1

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耳鳴の鍼灸治療については、20年近く前までは勉強したが、一通り調べると、それ以上新発見の鍼灸治療が発見できなくなった。しかし耳鳴りの治療自体に新しい内容はなくとも、鍼灸で効きそうか否かを事前に推測できれば、患者・施術とも無駄な努力をしないですむ。鍼灸有効率もあがるというものである。耳鳴り治療の有効性を推測するため、すでに10年以上「耳鳴り質問紙」を使っている。本質問紙は診療前に患者に記入してもらう。患者は5分間ほどで書き終えることができる。


1.鍼灸で効きそうな耳鳴りを抽出する質問紙(「新・耳鳴の鍼灸治療 質問紙と解釈」 2003.7.14.当ブログで発表済だが当ブログに移動)

1)医師の診察を受けましたか。( はい いいえ )
解釈:耳鼻科的なきちんとした病名がついておらず、かつ無難聴性耳鳴であれば効果ある。診断名の定まらない耳鳴は、針灸で打つ手がありそうだ。鍼灸奏功するタイプとは、頸や顎の関節症に由来するものが多いだろう。すなわち針灸が有効となる耳鳴は、首の動きや顎関節の動き(口の開閉など)により、耳鳴の音調が変化するタイプ。

2)医師の診断名は何ですか。
(突発性難聴 メニエール病 良性発作性めまい 音響外傷  慢性中耳炎 頸椎症 高血圧症 自律神経失調症 更年期障害 聴神経腫瘍 その他)
解釈:耳鼻科医の診断で、中耳炎後遺症や突発性難聴後遺症、音響外傷による耳鳴など、耳鳴を生じる診断名であるならば、針灸治療が無効となるケースが多い。発病後1ヶ月を経た音響外傷性の難聴・耳鳴も有効な治療法に乏しい。

3)耳鳴りについて、これまでどのような治療を受けましたか。
(内服薬 高圧酸素療法 通気 療法 星状神経ブロック その他)
 解釈:一般的に現代医学で耳鳴りに効果のある治療法はない。

4)耳鳴りに気づいたのはいつですか。(  年  月  日、  約   年前 )
解釈:当然ながら早期に治療開始した方が治りがよい(自然治癒であることも含む)。一つの目安は、半年以内かどうかである。

5)耳鳴りのきっかけになったものはありますか。(病気 大きい音 難聴 めまい 自然に 突然に)
解釈:
①.大きい音を契機に発症→騒音性難聴(=音響外傷)
②.突然に→突発性難聴
③首や顎の運動により生じた耳鳴というのは、自分の意識としては少ない(自分では気  づいていない)。

6)耳鳴りは、どこからしますか。( 右耳  左耳  両耳  頭の中)
解釈:
①体性耳鳴(首や顎の運動時)の場合、片側性になる。両側に同じ大きさの耳鳴を生ずると、頭の中が鳴っているような感じになる。
②片側性では患側上の側臥位にて施術し、両側性では仰臥位で施術する(30~40分 間置針するので、伏臥位だと苦しく感じる者がいる)

7)どんな音の耳鳴りがしますか。(ブーン  ゴー  カチカチ  ポー  シュー キーン ドキドキ  ヒュー  ピー  ジー  その他)
解釈:耳鳴の音調は、教科書的には高音性が感音性難聴・耳鳴でキーンといった電子音。低音性は伝音性難聴・耳鳴でジーといった蝉の鳴き声の音に分類されている。しかし実際はさまざまで、音調から診断名を推定することは困難だが一応の目安としては次のことがいえる。   
①ゴーという低音:外耳や中耳など、伝音性の耳鳴。比較的治りやすい。耳管狭窄症など。
②ジージーという蝉の鳴き声音。低音性感音性耳鳴。メニエール、耳管狭窄症。
③キーンという高いの金属音・電子音:感音性の耳鳴。内耳性の耳鳴で、耳鳴全体の9割を占める。 加齢とともに耳の機能が衰えると聞こえやすい。難聴やめまいを伴うことも少なくない。突発性難聴、騒音性難聴、老人性難聴。
④「ザーザー」という雨降りのような拍動性の音→ 自分自身の頭頸部の脈拍音を聞いている。拍動性耳鳴の主な原因は、耳の病気、神経や脳疾患、血圧の常、ストレス過多など。頸部のコリを緩める治療を行うと改善するともいう。ただし拍動性の耳鳴は少ない。
⑤ゴー、ポーといった母音が「o」で終わるもの、キー、ピー、シーといった「母音+i」で終わり、かつ濁音が含まれない音は治療効果が高い。
   (清田隆二ほか:耳鳴に対するミオナールの臨床効果 耳展32:護6:473~479,1989)

8)耳鳴りの音の大きさはどの程度ですか。(非常に大きい  気になる程度  わずか  なし)

9)耳鳴りが生活の妨げになっていますか。
(何もできないくらいひどい 少し妨げになる 生活の妨げにはなるが必要なことはできる  生活の妨げになるほどではない)

10)耳鳴り以外の症状はありますか。
(難聴 めまい 不眠 頭痛 首肩のコリや痛み 顎関節症  歯科(虫歯 歯の矯正) 腰背痛  不眠 高血圧症 神経症 自律神経失調症 その他)           
解釈:耳鳴単独よりも耳鳴+難聴の方が治療は難しい。針灸が奏功しやすいのは、体性神経性耳鳴なので、顎関節症や頸椎症があると、この治療が耳鳴治療の糸口になる。めまいは不定愁訴症候群の一症状として出現しやすいが、不定愁訴一つとして難聴・耳鳴があることは少ない。


6.耳鳴症例(69歳、女性)

<質問紙回答>
1)医師の診察を受けましたか。(はい)
2)医師の診断名は何ですか。(診断がつかなかった。年だからしょうがないといわれた)
3)耳鳴りについて、これまでどのような治療を受けましたか。(治療は受けなかった。薬も出なかった。)
4)耳鳴りに気づいたのはいつですか。(1年半くらい前) 
5)耳鳴りのきっかけになったものはありますか。(自然に)
6)耳鳴りは、どこからしますか。( 両耳とくに左耳)
7)どんな音の耳鳴りがしますか。(キーン)
8)耳鳴りの音の大きさはどの程度ですか。(気になる程度)
9)耳鳴りが生活の妨げになっていますか。(生活の妨げにはなるが必要なことはできる)
10)耳鳴り以外の症状はありますか。(難聴、首肩のコリや痛み、膝痛)

<診察所見>
1)頸部:側頸部中央で胸鎖乳突筋後方の斜角筋の押圧で驚くほどの圧痛あり。 後頭部や後頸部に圧痛硬結なし。
2)顎関節:異常なし(開口制限、下顎左右ずらし・下顎引きつけ・下顎出しすべて正常、頬車、下関の圧痛なし)
※顎関節症と耳鳴が関係するらしいことは知られているが、その機序は不明。ただし三叉神経第3枝の分枝である耳介側頭神経が、鼓膜知覚・外耳道知覚・顎関節知覚に関与していることが関係しているかもしれない。トリガーポイントで有名なトラベルは、咬筋と外側翼突筋が耳鳴と関係することを指摘している。


7.考察と治療内容
本症例は原因不明の耳鳴だが、耳鳴の程度は軽い。耳鼻科で診察済でもあり、特別な耳疾患は考えにくく、強いていえば首コリからくる耳鳴りと推定。

1)仰臥位、2寸#5にて下耳痕穴から1~2㎝直刺。耳奥に響きを与える。30分置鍼。10分毎に手技をして響かせる。
解説:私の耳鳴の鍼灸治療は、仰臥位で下耳痕(=難聴穴)から2㎝直刺で耳奥に鍼響を与え、30~40分置鍼することを共通治療としている。耳奥(鼓膜~中耳)に響かせるのは本穴からの刺針しかないため。鼓室神経(舌咽神経分枝)刺激となる。筋を完全にゆるめるには、30分以上の置鍼が必要。なお鼓室神経は中耳と鼓膜を知覚支配している。内耳を知覚支配する神経はないので鍼で直接響かせることはできない。
なお「下耳痕」は私が命名した。深谷伊三郎が「難聴穴」と命名したのはこの下耳痕に一致しているが、深谷は灸で治療していて、耳奥に響かせるのは困難だろう。


2)座位または仰臥位で側頸部後斜角筋あたりの緊張部に運動鍼。
コリを緩めるには仰臥位で健側に顔を向かせる。耳の下に位置する側頸筋(≒後斜角筋)のコリに対して手技鍼。この治療は座位で行う方が効果的だが、強刺激になりがち(脳貧血に注意)。

※なお項部のコリのばあい、項部刺針をする。これには座位で、下を向かせて顎を引いた姿勢で、天柱、風池などに刺針

 


3)「鳴天鼓」の指導

古典的内気功の「八段錦」の一方法で鳴天鼓(めいてんこ)とよばれているものがある。

①両肘を左右に張り出し、手掌中央で耳穴をぐっと押さえて外耳道を密閉させる。
②そのまま頭の後ろに指を添えて、中指はお互いの方向を指す。
③中指の上に人差し指を乗せ、そこからはじくように人差し指を落として頭を叩く。その衝撃波が耳孔の空気を伝わり鼓膜を震わせるようにする。あるいは弾いた示指が、後頭部を叩く衝撃が骨伝導として耳奥に刺激を与えるのか。
④1日2回、1回につき20~40回これを繰り返す。

 効果には個人差がある。効く者は手を離すと耳鳴りが治まっていることに気づく。耳鳴が停止している時間は2~3分間だが、長く繰り返すほど止まっている時間が長くなる者もいる。

本患者に自宅で鳴天鼓を1回2~3分、1日3~4回実施するように指導した。1回2~3分は長くて手が疲れるという感想を漏らしたが、鳴天鼓をすると、数分間耳鳴りが楽になるということだった。

本患者は、初回治療で治療効果を実感できず、治療2回目で治療効果を得た。2回目治療は、座位で側頸筋ストレッチして後斜角筋圧痛点に手技鍼をしたこと。(1回目はストレッチ肢位をとらなかった)および鳴天鼓を追加したことである。


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