代田文誌が行って有名になった方法に、胃痙攣や胆石症による強い腹痛に対して、胃倉に刺針するというものがある(胃痙攣、現代では急性胆石痛の痛みだと考えられている)。
ではなぜ胃倉に限定するのだろうか。近隣にある他の穴では効果ないのだろうか。筆者は、胃倉部に相当する下後鋸筋に注目してみた。
1.胃倉の位置と基本的刺針
胃倉位置:Th12棘突起下外方3寸で、腰方形筋が第12浮肋骨に付着している部。
胃倉刺針:側臥位で脊髄方向に深刺し、起立筋の浅層で広背筋の深層にある下後鋸筋に刺入し、雀啄する。
2.胃倉刺針が胆石症に効果がある理由
痛みが強い場合や、起立筋の緊張が非常に強い場合、伏臥位にて背部2行線上(棘突起間の外方1.5寸)から刺針施灸しても、治療効果が乏しい場合がある。このような場合、側臥位にて 胃倉から深刺すると胃を中心とした内臓に響きが伝わる感じが得られることが多い。
すなわち通常治療では肋間神経や胸神経後枝が深層から浅層に出てくる部を治療点とするので あるが、胃倉は下後鋸筋を刺激している。脊柱起立筋が脊髄神経後枝支配なのに対し、下後鋸筋は肋間神経支配である。
T7~T12肋間神経は、横隔膜外縁部を知覚している。
内臓病変→横隔膜外縁部刺激→T7~T12肋間神経興奮→下後鋸筋緊張という病的機序がある。胃倉刺針は、その逆方向に作用するのであろう。