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喉頭症状の現代鍼灸

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1.喉頭の構造と機能
  
喉頭とは咽頭と気管間にあり、喉頭蓋基部~輪状軟骨の範囲をいう。喉頭は、ほぼ下咽頭前方にある。喉頭は気道の一部であり、同時に発声器官でもある。喉頭症状とは咳と嗄声であり痛むことはない(咽痛はあっても。喉痛はない)。咳が出る代表疾患は喉頭炎、嗄声をずる代表疾患は反回神経麻痺である。
 

1)発声時の甲状軟骨の動き

輪状軟骨は甲状軟骨と関節をつくる。これを支点に甲状軟骨が上下に可動する。
輪状甲状筋は輪状軟骨と甲状軟骨を結筋で、この筋が収縮すると声帯ヒダが引き伸ばされて高い声がでる。輪状甲状筋は上喉頭神経外枝(迷走神経の分枝)の支配を受ける。
披裂軟骨の回転は披裂筋の収縮によ結果で、披裂筋は反回神経(迷走神経の分枝)の支を受ける。

2)声帯ヒダの構造
   
喉頭腔の側壁には前後に走る上下2対のヒダがあり、上ヒダを室ヒダ(前庭ヒダ)、下ヒを声帯ヒダとよぶ。1対の声帯ヒダの間の間隙を声門裂とよぶ。呼吸時には声門裂は完全にいている。発声時には声門は閉じ、吐気流が声門振動させる。
一般に成人男性は女性に比べて、低い声になるのは、声帯ヒダが長いため。     
息が閉じた状態にある声帯の間を通過すると声帯が震え、声になる。声帯が閉じられていない場合には息漏れした声(=ささやき声)になる。

 

2.喉頭の神経支配
     
喉頭の神経支配は迷走神経で、上喉頭神経と下喉頭神経(=反回神経)に分岐する。喉頭粘膜知覚は、声門より上が上喉頭神経内枝で、下が下喉頭神経が支配する。この中で、鍼で直接刺激可能なのは上喉頭神経内枝(咳)と、上喉頭神経外枝(嗄声)である。

 

 

3.急性喉頭炎
 
1)病態生理

喉頭炎時の咳は、ノドからこみ上げるような咳が特徴。本来咳嗽は、喉頭粘膜が異物や分泌物になどにより刺激されると、上喉頭神経内枝を介して咳嗽反射が起こり、異物を気管内に入るのを防ぐ役割がある。
 
2)原因

感染性:感冒の部分症状として出現。鼻炎、咽頭炎を伴うことが多い。
物理・化学的刺激:音声酷使、喫煙、ガス、塵埃の吸入
 
3)症状:嗄声、咳、咽頭異物感・軽度の発熱
 
4)治療:声帯の安静を保つため、なるべく発声しないこと。吸入療法。
R/O 喉頭癌:
声門癌が最も多く、ついで声門上癌、声門下癌の順。声門癌は高齢者で男性に多い。多くは扁平上皮癌である。
症状:声門癌では早期から嗄声を生じ、進行すれば咳嗽出現。進行すると失声、末期には声門狭小となり呼吸困難。
5年生存率90%(声門癌)。

4.慢性喉頭炎
 
1)原因:急性喉頭炎の反復、音声酷使、声帯ポリープ
2)症状:嗄声、咳、喉頭不快感

3)治療:急性喉頭炎に準ずる。ポリープであれば切除する。
最近アメリカの研究で、ハチミツが小児用のシロップ状の咳止めと同等かそれ以上の効があると明らかになった。ハチミツの中に存在する酵素グルコースオキシダーゼが、過酸水素をつくるが、これが強力な殺菌作用を持っている。またハチミツは、荒れた粘膜を保作用もある。直接ハチミツをスプーン1~2杯食べるか、お湯でハチミツを溶かして飲む。

5.咳嗽の鑑別診断

1)鑑別診断
   
① 急性の咳・痰の場合、咳や痰の症状が強く高熱であれば肺炎やインフルエンザを疑う。  
②咳は喉から出るのか、胸から出るのか問診する。
胸から咳が出る場合、医療受診させる。喉から咳が出る場合、普通感冒や急性喉頭炎が考えられるので針灸適応である。
③慢性の乾燥咳で、次第に増悪傾向にあれば初期の肺結核や肺癌(医療受診)を疑う、
④慢性の乾燥咳で、かつノドから出る咳では慢性喉頭炎を考え、鍼灸治療可。
⑤痰を伴う咳(湿性咳)で胸から出る咳であれば肺炎などの感染症を考える。
⑥慢性疾患で乾性咳、湿性咳の出る呼吸器疾患は非常に多く、針灸師が予想診断をすること難しい。
医療機関受診後の治療が前提になる。平熱で慢性咳嗽で来院するのは次のものがある。
上気道疾患:慢性扁桃炎、慢性咽頭炎
下気道疾患:COPD(慢性閉塞性肺疾患)すなわち肺気腫・慢性気管支炎・気管支喘息6.咳嗽の針灸治療
  
咳嗽は自律神経症状なので、咽痛のように興奮している知覚神経の鎮静という治療方針は成立しない。咳嗽により身体は副交感神経優位になっているので、鍼灸により交感神経優位に誘すること、または迷走神経刺激という見方が必要になる。
 
6.咳嗽の鍼灸治療

咳嗽とは咳+痰の症状をいう。痰がある場合、痰を排出する目的で咳が出ていることもあるので、咳を止めることだけを重視してはならない。現代医学の場合には鎮咳よりも痰のキレをよくする気管からの水分分布を活発化させるような薬や喀痰の容積を大きくして粘性を下げる薬を投与する。

1)治喘
  
①意義:頭蓋骨部器官全般の交感神経は、交感神経の上頚神経節から出発する。この上頚神経節と結ばれる体性神経はTh1脊髄神経なので、大椎付近の刺激は、頚部交感神経節刺激としての意義をもつ。
  
②取穴:座位。大椎(C7Th1棘突起間)の外側5分。

③刺針:3~5番針を6分~1寸刺入する。すると咽頭の方に響くことが多い。
※中国では脊柱に沿って斜め下方に4~5㎝刺入している(「快速刺針療法」)。
 

2)上喉頭神経内枝刺
  
①意義

上喉頭神経痛(声帯の痛み)への対処。上喉頭神経痛との診断は非常にマレで、咳・あくび・しゃっくり等で発される。ただし扁桃炎時の咽痛は、上喉頭神経内枝の興奮ないし舌咽神経痛の混合性だとされる。
    
※ポッテンジャーによれば、上喉頭神経が興奮すれば喉頭異物感が出現するという。この見解からすれば、梅核気には上喉頭神経内枝刺の適応があるのかもしれない。  

②術式

a.甲状軟骨と舌骨の間隙の外方で、舌骨の大角の直下を刺入点とする。
舌骨の大角の直下には甲状舌骨膜に孔が開いており、上喉頭動脈と上喉頭神経内枝が貫通している。
   
b.ここより内方やや前方に刺入し、耳や喉頭の声帯付近に放散痛が得られる部を探って2㎝刺針する。

③針響と適応
喉の声帯あたりに響くがその奥にある咽頭には響かない。嚥下痛など扁桃炎の咽痛には応しない。


 

3)気管軟骨刺
   
①適応
上位気管に起因する咳嗽、嗄声。気管支や肺の病変による咳嗽には効果不確実。
  
②位置・刺針
下喉頭神経を刺激するには、喉頭~気管軟骨の範囲に刺針する。深さは5~7㎜。気管、喉頭ともに、前面と側面から4~5本づつ、1~2㎝間隔で刺入。
  
③効果
急性症では2~3回の治療でよいが、慢性では長期治療が必要。自宅では前頸部に知熱灸を実施。(郡山七二「針灸臨床法治録」)
※天突から気管に向けて直刺あるいは胸骨下に水平に入れる旧来からの方法は、気管に分布る迷走神経を刺激しているという意味で、気管軟骨刺のバリエーションといえる。

 

 

7.反回神経麻痺(=声帯麻痺)
 
1)反回神経の走行

反回神経は迷走神経から分岐して喉頭内に侵入する。この経路で、左反回神経は大動脈弓を迂回して上行し、右反回神経は鎖骨下動脈を迂回して上行するので、途中で圧迫を受けやすい。反回神経麻痺は、左側が右側より圧倒的に多く、3:1の比率である。1割ほどが両側性の反回神経麻痺になる。

2)原因 

喉頭周辺の腫瘍(食道癌や喉頭癌、甲状腺手術)や胸部大動脈瘤により、反回神経を圧迫。全身麻酔による長時間喉頭圧迫。ただし特発性(=原因不明)であることが最も多い。
 
3)症状
   
臨床上、声帯は一側の副正中位をとることが最も多いが、中間位や正中位である場合もある。  
①一側性麻痺の場合、副正中位ならば嗄声をきたす。
②両側麻痺では、声帯が開いていると嗄声がおこる。会話する場合は、何回も息継ぎをしなら、しかも枯れた声になので、聞く方はなかなか理解しにくくなる。
③両側性麻痺で、両側声帯が正中位で固定していれば、呼吸困難が起こる。
    
反回神経麻痺では、声が出にくくなるのは、左右の声帯が開いているため、呼気による声帯ヒダの振動がおこりにくい。そのため患者は呼気量を増やして声を出そうとするので、発声持続時間が短くなる。30秒以上が正常だが、ひどい場合は3秒以下になる。手術の適応とる目安は、10秒以下である。



筆者の小学5年での反回神経麻痺のエピソード

小四の夏休みで、楽しみにしていた学校主催の林間学校に出発するという前夜のことだった。興奮してなかなか寝付けなかったが、いつの間に眠ってしまった。ふと夜中に目覚めると、呼吸しづらいことに気づいた。息を吸うにも息を吐くにも、努力してやっと何とかできる状態。親を起こし「息がしづらい」と伝えると、「とにかく学校に電話して林間学校参加を中止するか」というが、何しろ明日は林間学校なので、「少し様子をみる」ということにした。そのまま再び寝床につき、再び目覚めたのが翌朝だった。その時は呼吸しづらさは皆無となり、何事もなかったかのように林間学校に出発できた。今になって、思うとあれは確かに反回神経麻痺だった。急に改善したのも運が良かっただけだった。もっと重ければ呼吸困難で死んでいたかもしれない。
 

4)現代医学での治療
   
軽度の反回神経麻痺であれば、声を出すことがリハビリになる。6ヶ月の保存療法で麻痺が軽減せず大小作用も起こらない場合、手術を検討する。手術内容だが、閉鎖しない声門を元狭くしておくことで発声時に閉鎖しやすくする。つまり麻痺した声帯を内側に寄せる手術になる。声帯内BIOPEX注入術は一側性声帯麻痺に対し、声帯外側にリン酸カルシウム骨ペーストを注入して声門裂の間隙を人工的に狭くする方法。
 
5)嗄声の針灸治療
   
嗄声には声帯そのものの異常が原因である場合と、反回神経麻痺が原因である場合の2類がある。最も頻度は多いのは、感冒や大声の出し過ぎによる一過性の声帯の炎症である。安静にしていれば自然回復する嗄声に対し、鍼灸はその治癒を促進させる効果があると考えらている。基本的に、喉頭周囲筋のコリを緩め、血流増加することを治療目標とする。
 
①輪状甲状筋刺
  
a.意義
   
輪状甲状筋は甲状軟骨下端と輪状軟骨を結ぶ、上喉頭神経外枝(運動線維)支配の筋で、発声時の音の高さを調整する作用がある。

嗄声の手技療法として、甲状軟骨と輪状軟骨の間を母指と示指でつまみ、大きく左右揺り動かす方法を行っている治療家がいる。 声の高低がコントロールしづらい場合、輪状甲状筋刺針が効 果的となるか否かは不明。
  
b.刺針
    
本筋に刺針するには、甲状軟骨と輪状軟骨の前正中の間隙を触知し、これを基準点とし左右に1㎝ほど移動した2点を刺針点とする。1㎝ほど刺入した状態で発声させると運動効果が得られる。
 
6)反回神経麻痺に対する針灸治療の試行錯誤
  
筆者は非器質性の急性反回神経麻痺による嗄声に対する針灸治療を何例か試みている。現代学でも、発症後6ヶ月は自然治癒することもあるので保存療法で経過観察する。その後に手術るか否かを判断するのが普通なので。
  
治療前と治療後の持続発声秒数を比較して、治療効果を判定する。健常者では、持続発声時30秒以上になるが、反回神経麻痺の者は、数秒~十数秒しか声は続かない。持続発声秒数がいほど重症すなわち左右声帯膜が開いた状態で固定された状態になっている。以下に私が最近取り扱った3症例のメモを記す。論旨が伝わればいいかと思っている。①②③の各症例は時系列であり、③が比較的経験を積んだ時点での治療である。

症例①
治療前持続発声時間12秒。当初は2寸4番程度の針を用い、健側前頸部の気管軟骨壁へ本刺入、30分ほど1ヘルツのパルス通電を行うという方法をとった。施術直後18秒に改した。3日後に調べると施術前は12秒で治療後は18秒。すなわち治療直後効果のみの効で、その後数回治療を重ねるも、それ以上持続発声時間が延長することはなかった。なお患治療は無効だった。
 
症例②
治療前に持続発声時間が2~3秒。声門裂の間隙が広い状態で固定されてしまったらしい上記患者と同様の治療を1回行うも、まったく持続発声時間が延長しないので、次回治療すことなく治療中止とした。
 
症例③
前持続 健側前頸部の気管軟骨壁へ数本刺入、30分ほど1ヘルツ通電し無効だった患者に対し、仰臥位にて甲状軟骨を苦しくならない程度に強圧しつつ発声させると、10秒→18秒と非常に良好な効果が得られた例がある。この効果は再現性があったので、自分で甲状軟骨押圧しつつの発 声訓練を行わせることにした。この患者は座位で左右の治喘から中国針で刺し、喉に響かせるようにすると、それだけでも10秒→15秒と発声秒数の延長ができた。

 


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