1.尋常性疣贅(いぼ)
1)イボの概要
手指や足底にできる。円形~楕円形で皮膚から小さく隆起。小さく硬い良性腫瘍。痒みや痛みはない。ヒト乳頭腫ウィルス(ヒトパピローマウイルス HPV)が皮膚の傷口から侵入し、表皮の最深部にある基底細胞に感染し増殖したもの。接触感染だが感染力は弱い。
2)イボへの焼灼灸
いぼの頂点に施灸するが、基底層に灸熱が到達しやすくするため、なるべく角質層 を削っておく下準備を行う。半米粒大にして壮数を増やすような焦灼灸を行う。連日おこなった方がよいが、2回目以降の治療では、痂皮をカットしてから施灸するとよい。(参考:岡田明三「皮膚疾患の灸療法いぼ・魚の目・たこについて」医道の日本、平成16年11月号)
イボに対する焦灼灸の治療的意義は、灸熱刺激で、患部の温度を90℃くらいに高め、急速にタンパク変性を起こさせ、組織を炭化させることにある。炭化とは、タンパク質の最終加熱状態で、熱傷による痂皮(=かさぶた。死滅組織が組織から剥がれかかっている状態)のことだと説明される。
イボ、水イボ、ウオノメには古来から焦灼灸が使われてきたということだが、この具体的な意義は、基底層にまで高い温度の灸熱を加えて組織を炭化させることにあるようだ。イボと水イボはウィルス感染症で、魚の目は機械的刺激によるものだが、治療法そのものは同じようになる。というのは、ウィルスの構成物質も一種のタンパク質であるためで、焦灼灸の適応となるからである。もっとも焼灼灸で治療するには、手間がかかるので皮膚科に任せる方がよいだろう。
2.伝染性軟属腫(水いぼ)
1)水イボの概要
まだ免疫力不足状態の4~7才の子供に多くみられ、他の部位に次々にできる。伝染性軟属腫ウィルスが皮膚に付着、ウィルスは真皮にまで潜りこむ。感染した真皮の細胞は風船のように膨らみ、さらに細胞分裂を繰り返して増殖していく。風船のような細胞が集まることで、その部分がプックリと膨らみ、中に水が入っているかのような外見になる。真珠のような白からピンク色の湿疹。
実際に入っているのは、液体ではなく白い乳液状のもので、この中に伝染性軟属腫ウィルスがある。引っ掻いたりつぶしたりすると、このウィルスが外に飛び出し、他部位に接触することで感染が拡大する。感染力は弱いが、尋常性疣贅よりは強い。数個~十数個できるのが普通。他者との接触や、タオルや衣類を介しての接触感染もある。痒みや痛みはない。数ヶ月~半年で自然治癒。
2)水イボへのせんねん灸治療
水イボの頂点に施灸するが、角質層が厚くなっておらず、また患者が小児に多いこともあって、通常の透熱灸は実施しがたい。せんねん灸などのを行っても効果がある。隔日施灸4~5回で自然落屑する。
ヨクイニン(ハトムギの殻をとった漢方薬)を服用させるのも有効なことが確認されているが速効はしない。皮膚科でピンセットでつぶす手もあるが非常に痛い。
3.鶏眼 corn(通称、ウオノメ)
1)ウオノメの概要
特定の部位に圧迫や摩擦が繰り返し起こることで生じる。皮膚の防衛反応による角質の肥厚。中央部は芯のようにクサビ型に真皮内にくい込んでいるので、押圧など真皮にある知覚神経の刺激を受けると痛む。
2)ウオノメの治療
皮膚科の治療では、皮膚表面から表皮を削り、表皮の最下層である基底層までカミソリなどで角質を削り取る。ここには知覚神経がないのでカミソリを使っても痛まないが、すぐ下には真皮があって知覚神経があるので、ここには触れないようにすることが重要。
皮膚の厚さは、0.6mm~3mmと異なっていて均一ではなが、平均すると1.5mm程度。 その中で表皮は、わずかに0.2mm程しかない。その表皮も4層に分かれ、最表層の角質層はラップ一枚程度の厚さである。
※ 皮内針は、真皮内にまで水平刺し、皮下には至らない。ちなみに表皮・真皮を合わせて厚さが約1.5~4.0mmであるといわれている。セイリン円皮針の長さは最長でも1.5㎜なので、やはり皮下組織までは入らない。ゆえに体動しても置き針がチクチク痛むことはない。マイナーな存在だが皮下組織まで刺入するための針もあり、これを皮下針とよぶ。
皮下組織の深部には深筋膜と筋層があり、針はこの層まで刺入すると響きを与えることができる。運動針刺激は、深筋膜刺激を目的としている。
尿素軟膏療法といって、尿素希釈駅を塗布するのは、カンナのようにゆっくりと角質を削り取る方法である。スピール膏やイボコロリのようにサリチル酸溶液を塗布するのも、角質を軟化腐食させる方法である。ただしこういう治療方法も手段に過ぎず、重要なことは基底層のウオノメの白色の芯を除去することである。患者に余計な痛みを与えず、効率よく基底層のウオノメの芯をとるには、歯科で使うような電動ドリルが必要となるだろう。
針灸院では、表面の角質層をなるべく薄くナイフ等で削き落とした後に施灸する。角質化した部分(半透明にみえる部)から艾炷がはみ出さない大きさの艾炷で、焦灼灸を行う。焦灼灸を繰り返すうちに、施灸面は縮んで硬化し、またヤニが付着してベタベタしてくる。角質化している部分は焦げて黒く炭化していく。毎回の施灸は、しっかりと炭化させるまで行う。ただし一度に取ろうとして過剰に行うと、周辺の火傷が発生してしまう。大きさにもよるが、1~2週間のうちにとれると思う。取れた後は、クレーターのような穴が空くが、次第に肉が盛り上がって埋まっていく。(増田真彦:いぼ・魚の目・たこの鍼灸施術、出典は同上)
4.腁胝(べんち 通称タコ)
1)タコの概要
特定の部位に圧迫や摩擦が繰り返し起こることで生じる皮膚の防衛反応による角質の肥厚。表面が固くなるだけなので押圧痛(-)。感覚が鈍くなっていることの方が多い。足の裏など体重がかかりやすい部にできるが、広い面に対する圧迫ではタコとなり、ポイント的に強く圧迫を受ける場合には、ウオノメとなる。タコが悪化してウオノメとなることもある。
タコの治療は、角質層をナイフなどで削り、その上で尿素配合クリームを塗布することになるだろう。
2)タコの棒灸+焦灼灸治療
まず棒灸などを使い、腁胝表面を広範囲に加熱し、軟化させる(熱を加えることで、皮膚表面のタンパク質が変性して柔らかくなる)。つぎにタコの部分を削ったのち、米粒大の2倍の大きさの艾炷を、腁胝部にまんべんなく、皮膚表面が褐色に変化するまで施灸する。3日ほどで痂皮ができる。1週毎に黒くなった痂皮をカットして、同様の方法で施灸する。 (岡田明三:皮膚科疾患の灸療法-いぼ・魚の目・たこ-について、医道の日本、H16.11)