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こむら返りの病態生理と対応

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1.こむらがえりとは

「こむら(=腓)返り」とはふくらはぎが、つ(=攣)ること。腓腹筋痙攣 cramp in the calf で、これは有痛性筋痙攣の一種。腓腹筋に起こることが多いが、大腿、前脛骨筋、足指、足裏にも起こる。
 

2.病態生理

近年の研究では、“こむら返り”は、筋肉そのものではなく筋紡錘や腱紡錘(ゴルジ腱器官)がトラブルを起こした結果、発症するものと考えられるようになった。
  
1)運動時に起こるこむら返り
    
筋が伸びるとその中にある筋紡錘も伸びる。すると「筋が引っぱられた」との信号を中枢に送る。すると脳は「これ以上伸びると危険なので縮め」との指令を出し、運動ニューロンを介して筋が縮む。運動をしている最中や運動の直後に、こうした状態になりやすい。筋紡錘の機能が過剰亢進すると筋肉が収縮し続けるので、こむら返りをきたす。
 
事例:かつて95才男性が当院に来院していた。ゴルフマニアで冬でも週1~2回はコースを回るのを生き甲斐としている。しかし最近はプレイ途中でふくらはぎが痙攣し、どうしても途中棄権してしまうと訴えた。私はとりあえず痙攣しそうな処に、痙攣する前に円皮針を貼るよう指導した。すると次回来院時に言うには、以降ふくらはぎの痙攣はなくなり最後までコースを回れたと非常に感謝された。本患者は円皮針を外すことなく、次々に追加して貼ったので、ついに片側の下肢だかで数十個貼っている状態となった。風呂に入るのなで自然にとれるまで貼っておくと話していた(風呂で足裏に針が刺さるというので家族には不評だった)。
 

2)睡眠時に生ずるこむら返り
    
腱紡錘は、主に筋の縮みを感知するセンサー。筋が縮むと、腱紡錘はその縮みを感知。それを中枢に伝達。脳は「腱に負担がかかり過ぎになりそうになると、筋肉や腱を守るために、「これ以上縮むな」との指令を出す。ところで、<こむら返りとは骨格筋が強烈に縮む>ことである。脳は「これ以上縮むな」という命令を出しているのだが、腱紡錘の機能低下により、筋紡錘は勿論、腱紡錘も緩む方向に誘導できず、筋収縮を止められない。この結果としてこむら返りが生ずる。

 

図1:一つの筋中に筋線維は多数あり、筋紡錘もこれに並列に並んでいる。筋紡錘自体は、筋収縮する機能はなく、筋の伸張程度をモニターしている。筋線維が伸長すると「引っぱられた」との情報を得る。
図2:腱紡錘は筋腱移行部に直列で存在する。筋線維が収縮すると、腱紡錘は「引っぱられた」との情報を得る。この時、筋紡錘は無反応。

 

3.腱紡錘の働きが鈍る原因

こむら返りは、激しい運動中でも起こるが、安静にしていて起こる方が多い。とくに睡眠中にこむら返りが起こると、痛くて目が覚めるほどになる。安静時にこむら返りが起こるのは、腱紡錘の働きが鈍るのが原因である。ではなぜ働きが鈍化するのだろうか。
  
1)睡眠中
睡眠中は、筋肉の弛緩が長時間続く。これは腱紡錘への刺激がない状態が長時間続くということでもある。すると腱紡錘が休眠してしまい、腱が引っ張られたことを感知できなくなる。その結果、筋肉の収縮を抑制せずに、筋肉が収縮したままの状態になる。

2)電解質の異常
筋肉の収縮の調節にかかわるのがMgとCa。不足すると神経伝達に支障が生じ、腱紡錘の働きも鈍くなり足がつる。これはスポーツ中に脚がつるなどの場合の原因になるが、加齢や疲労、脱水、冷えなどによってもミネラルバランスはくずれ、同様の機序で足がつる。高齢者では咽の渇きを感じにくいので脱水に注意する。
  
3)冷え
布団から足が出ていたりして足が冷えると、血流が滞るので、これも足がつる原因になる。
   
4)器質的疾患
脊髄疾患:脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア
代謝疾患:糖尿病、腎臓病、肝臓病     ←入院で輸液が必要になる程度の電解質異常がある場合
血管疾患:閉塞性動脈硬化症、下肢静脈瘤
 

4.つった時の対処法
  
1)筋収縮が生じた筋肉を他動的に伸ばすことで、ゴルジ腱器官を刺激。腓腹筋痙攣発作時には、経験的に発作が治まるまで母趾を強く背屈させて腓腹筋ストレッチをすることが有効である。夜間の発作の最中この動作をするのは、起き上がらねばならないので面倒である。しかし患側の足母指のMP関節を強く背屈させて、腓腹筋のストレッチをするよ   うにすれば仰臥位のままできる。



2)手足、とくに足の保温につとめる。具体的には腓腹筋部に保温のためのサポーターを施す。

3)芍薬甘草湯:つったときに頓服的に服用する。ただし事前に服用しても効果あり。 効果発現まで平均6分。効果持続時間は4~6時間。内臓平滑筋痙攣も適応になる。
 

5.深腓骨神経ブロック(局麻注射)
   
高山瑩・伊藤博志は、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局麻注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少すると発表した。一度行えば数カ月間、効果が持続する。なお中封からの深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝ブロックよりも効果は劣った。   (「腰痛などを伴っているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1):126--130.2002)

※この神経ブロックは、原理的に足母指を強力に背屈させるのと同じだが、持続作用があるらしい。太衝に円皮針を置いても効果あるだろうか?

6.腱紡錘の反応性鈍化が原因だとすれば、腓腹筋がアキレス腱に移行する部である承山・承筋への刺激が有効となるかもしれない。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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