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勃起障害(ED)の針灸治療 ver.1.1

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1.勃起の機序と勃起が萎える機序
 
1)勃起の起こる機序
大脳皮質の性的興奮→  (副交感神経)→陰経海綿体の細胞から一酸化窒素(NO)を血中に放出
→NOが陰茎中の血管拡張物質cGMP(環状グアノシン-リン酸)を増加
→陰茎の動脈の平滑筋を弛緩させ、血管を拡張 → 陰茎海綿体に血液が充満
   
勃起の機序は複雑だが、重要ポイントとなるのがNOが体内で生成され、これにより血管拡張効果が生ずることにある。
 

2)勃起が萎える機序
性的興奮が収まるとPDE5(ホスホジエステラーゼ5)という血管拡張物質cGMPを壊す酵素が放出。これにより起状態消失する。バイアグラはPDE5の作用をブロックする働きがある。

要するに「cGMP」で勃起が起き、「PDE5」で勃起が萎える。この一連の反応を引き起こすのは性的興奮によるNO産生が引き金になっている。

 

2.EDに関係する筋

EDに関係する筋としてPC筋とBC筋が注目を集め、これらの筋の筋トレが行われている。PC筋とBC筋などの骨盤底部の筋群を総称して骨盤底筋とよぶ。骨盤底筋は排泄(尿や精液)をコントロールする役割がある。排尿を止める時や肛門を締める時にペニスが動くのも骨盤底筋の働きによる。
 
1)PC筋
Pubococcygeus Muscle の略で恥骨尾骨筋のこと。睾丸の後から肛門をはさんで伸びて仙骨をつなぐ深層筋。肛門挙筋を構成する筋の代表。恥骨尾骨筋は排尿の流れを制御し、尿キレも関係する。オルガスム中に収縮する。肛門挙筋を意識的に緊張させることもできる。代表的な局所治療点は会陰穴になる。

 

2)BC筋

 Bulbocavernosus  Muscle の略で球海綿体筋のこと。ペニスが外に出ているのは全体の3/4で、根元1/4は、骨盤底筋群の隙間に埋まっている。この根元がペニス全体を下支えしている。球海綿体筋が強いとペニスの根元もしっかりして上向きのペニスとなり、簡単には「中折れ」を起こさない。 尿道から尿や精液を押しだすのも球海綿体筋の役目もある。

球海綿体筋が鍛えられることで射精の勢いが強まり、射精時の快感が増すとされている。射精のタイミングもある程度コントロールできるので、本筋を鍛えることは、早漏治療にも適している。局所治療点は、奇穴の囊底穴(ペニスの基部で陰嚢の外縁)

 


3.EDの現代医療

1)テストステロンの投与
男性ホルモンのテストステロン分泌は20才頃が最大で、それ以降はゆっくりと下がる。中年になると性欲も体力も低下するのは自然なことである。それにも増して性交回数が多かったり、仕事がきつかったりすると、余計に性欲も低下する。
なおテストステロン分泌が不足してる者に対し、テストステロンを投与しても、勃起とは直接関係が薄く、性欲がゆっくりと増す(短期間の投与では効果ない)。
    
※誰の意見なのか、年令別の適正性交回数として、9の法則というのがあり、一応の目安となっていった。 
20才:20×9=18(10日に8回) 
30才:30×9=27(20日に7回)
40才:40×9=36(30日に6回) 
50才:50×9=45(40日に5回)
 

2)PC筋とBC筋の筋力訓練
骨盤底筋体性神経で、勃起時のペニスを下から支える機能があるので、骨盤底筋の筋トレは行う価値がある。
  
①PC筋・BC筋のトレーニングとして肛門を締める運動を行う。肛門を締め5秒間、緩めるを5秒間と10回1セットで毎日5セットを目安に続ける。
②椅座位で、上体を前傾斜すると骨盤底筋が座面に当たる。この辺りにテニスボールなどを当て前屈すると指圧効果が得られる。

4.EDの針灸治療

針灸刺激も、EDに直接的効果を与えるものではないが、体調を整える一環の結果として、EDに効果ある可能性はあるかもしれない。
 
1)針灸とバイアグラの効果の比較研究 
辻本孝司は、次のような調査を行い、針灸とバイアグラの効果を比較し、「EDに対する中髎刺針は有効だが、その効果はバイアグラに及ばない」との結論した。
ED患者26名に対し、2寸#8の針を中髎に5㎝刺入し、回旋刺激を10分間施行。治療は週に1回で平均11回施術した。著効と有効を合わせると有効率は62%だった。有効例は、心因性(著効33%)よりも、内分泌性(著効88%)や静脈性(60%)の方が高かった。しかしバイアグラの有効性は50mgで70~80%で、重篤な副作用もみられないことから、針治療よりもバイアグラ内服の方が効果的である。バイアグラが効果なかったという者の大半は、内服方法に誤解があるからで、服薬指導と数回の針灸治療で改善させる。(辻本孝司:EDの治療-バイアグラと針に求められるものは,針灸OSAKA.vol.19 No.1.2003.Spr)
 
2)陰部神経刺
亀頭など性器の触覚を支配しているのは陰部神経なので、以前から陰部神経知覚枝を刺激することがEDの改善になることが期待され、陰部神経刺針が用いられてきた。
骨盤底筋を鍛える目的で、大腿内転筋トレーニングの一環として陰包や足五里を刺激することも行われているが、これが効果的だとする印象はあまりない。
   
①曲骨から下方にむけて深刺
陰部神経の終枝である陰茎背神経は、陰茎から亀頭に達するので、針響も陰茎先端 まで得られやすい。陰茎にまで響かせる方法は、ゆっくり斜刺して硬い処(=筋膜)まで針先をもっていく → 針尖を筋内に入れたら雀啄をする → 雀啄しつつ針全体の動きとして深度を深くする、といった手技を行う。
  
②曲骨の針響と治療効果(日野勝俊:「はりきゅう」治療でしぜんな妊娠あんしん出産、2006年11月)
日野勝俊は「正常男性に曲骨から刺針をすると、ペニスの先まで針響を感じるが、重症のEDでは刺針した部位のみの刺激感のみになる。しかし繰り返しの治療で、ペニス先端部近くまで針響が届くようになる」記している。一般的なEDの場合には症状に応じて、週に1~2回程度の治療を4ヵ月間続けて経過をみる。効果がすぐに現れるケースでは、初回の治療直後から、遅い時でも2ヵ月ぐらいで症状の改善が認められるとのこと。
※筆者はこの方法を10例以上追試してみた。曲骨刺針でペニスに響かせることは容易だが、そのことがED治療に効果あることの印象は得られなかった。
  
③正座位にて、関元、中極、腎兪、裏合谷の多壮灸(陽不起の標治灸 柳谷素霊選集下より)
 裏合谷とは、「掌中、母指球の尺側、合谷穴と相対するところ、之を按ずれば極めて痛み透るところ」とする。 正座させ、関元・中極・腎兪には最初小灸にして漸次灸壮を増やし、腰腹部春陽の如くポカポカと温暖となるまで施灸する。温暖にならざれば効果が薄い。裏合谷には灸7壮。


3)PC筋・BC筋に対する刺激

PC筋に対する局所刺激点は会陰穴であり、BC筋は会陰穴のやや前方で陰嚢との境界部になる。椅座位でこのあたりにテニスボールをあてがい、上体を前傾させると、PC筋・BC筋の押圧刺激になる。リズミカルに数分間、前傾したり元の姿勢に戻したりの運動を行うことででPC筋・BC筋を鍛えることができる。ボールの大きさは直径4㎝程度が適切で、本当はテニスボールでは大き過ぎる。ピンポンボールが丁度よい大きさなのだが圧をかけると潰れそうだ。おもちゃのスーパーボール(よく弾むゴム製のボール)
には色々サイズがあるので探してみるのもよいだろう。

 

 

 


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