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痔疾の針灸治療 ver.3.0

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本内容は、令和5年10月15日奮起の会「下部消化器症状」で使用する現代針灸実技テキストからの抜粋になります。

1.痔疾の基礎的原因

肛門部における炎症を起こす攻撃因子が、肛門周囲の免疫力を上回った場合に痔となる。攻撃因子としては排便異常とくに便秘があり、免疫力低下因子としては疲労・ストレス・冷え・飲酒などがある。痔核・痔瘻・裂肛が、痔の三大疾患になる。

基本的訴え:内痔核→出血、外痔核→排便時痛、裂肛→排便時痛、痔瘻→痒み
※痔を「ぢ」と書くのは誤りで、正しくは「じ」である。「痔」は肛門静脈腫瘤ことで、それ自体は健常者にもあって疾患を意味しない。


2.痔核(いぼ痔)

1)病態生理(肛門上皮滑脱説)

痔核とは、血管が拡張・蛇行した静脈瘤様病変で、大便の摩擦により静脈瘤の支持組織が滑脱した結果が内痔核だとする。現在主流の学説である。

※旧説:血管起源説

人間は直立するので、静脈環流は四足動物より悪くなる。とくに直腸~肛門管の静脈(上・中・下直腸静脈)には静脈弁がないため、粘膜下の内痔静脈叢が鬱血し、静脈瘤を形成しやすい。排便痔の肛門周囲の静脈叢伸縮→静脈血管の弾性消失→静脈鬱血(血栓)という機序。排便時のイキミにより、直腸下部と肛門にある静脈血流が一時的に止まり、これが静脈瘤ができる原因となるという説。しかし今日では、肛門部の静脈瘤は誰にでもあり、それは便のストッパーとしての役割を果たしていることが明らかとなった。


2)分類と症状

痔核は歯状線を境として外痔核(少数)と内痔核(大部分)に大別され内痔核の方が圧倒的に多い。歯状線から内側は腸粘膜なので知覚はない。ゆえに内痔核は痛むことはないが、圧迫されにくい部なので出血は止まりにくい。内痔核は1度(軽度)~4度(重度)に細分化される。歯状線から外側は陰部神経の知覚支配なので、外痔核は痛むが、圧迫される部位なので出血は止まりやすい。 

※脱肛とは直腸や肛門の一部が肛門外に脱出することで、内痔核が進行して、それを覆っている粘膜ごと肛門外に脱出した状態である。
※アルコールを飲むと痔が悪化するというのは、静脈腫の血流が良くなり、腫瘤が拡大するため。かつて上直腸動脈から肝臓に行く静脈血液量が問題視されたが現在は否定されている。

3)現代医学的治療



①内痔核

1度:温罨法や鎮痛座薬治療

2度:内痔核硬化療法。注射薬であるALTA(商品名:ジオン注)を内痔核に注射して、核内に流れ込む血液量を減らして痔を硬くし、直腸粘膜に癒着固定させる。注射は内痔核(知覚がない)部    に行うので、痛むことはない。2~3日の入院が必要。

3度以上:結紮切除術。腰椎麻酔下で、内痔核に注入動脈を根元の部分でしばり、痔核を放射状に部分的に切除。1〜2週間程度入院が必要。
※昔の内痔核の手術は、ホワイトヘッド手術といい、痔核だけでなく、周囲の肛門上皮も全てリング状に取り除いてしまうものだった。この手術は非常に痛いため、患者に怖れられていた。  後遺症として腸の粘膜が、かなり手前まで下がってくる脱肛状態となり後遺症も問題だった。
 

②外痔核:硬化療法が使えないので、局所麻酔して痔を切開摘出。 


2.痔瘻

1)病態生理

肛門小窩(歯状線の凹んだ部分)に糞便が付着
→炎症を生じて肛門周囲に膿が溜まり非常な痛みと発熱(=「肛門周囲膿瘍」状態)
→膿疱が破れて後、管状の空洞(瘻管)ができる
→この瘻管から細菌侵入し炎症を惹起する。

2)症状:肛門掻痒感、下着が汚れる
3)現代医学治療:管の入口と瘻管を結紮する手術以外にない。針灸不適応。


3.裂肛(切れ痔)

1)病態生理

排便の際の肛門部外傷。とくに硬い便をいきんで排泄する際に生じやすい。破れるのは歯状線と肛門縁間にある1.5㎝くらいの部位。
 排便時刺激による会陰神経の興奮
 →内括約筋の痙攣
 →これがトリガーとなりさらに陰部神経興奮し続ける。

2)症状と現代医学的治療

排便時の激痛と出血。排便後もしばらく続く痛み
外傷程度が軽い場合は便を軟らかくしておけば自然治癒する。
しかし硬い便を繰り返し出すと同じ部位が何回も切れ、肛門潰瘍となり肛門が狭くなり、このためさらに切れやすくなるという悪循環が生じる。この場合には潰瘍部分の切除が必要。


4.痔核の針灸治療
痔疾で針灸が有効なのは、痔核と軽度の裂肛のみだだろう。そして軽度の裂肛であれば針灸に来院しなくても何とかなるから、実際には痔核治療のみであろう。痔瘻は針灸は効果ない。

1)肛門周囲圧痛点からの刺激 (国分壮・橋本敬三共著「鍼灸による速効療法」医歯薬1965年4月)
 痔核は肛門周囲に分布する静脈鬱血を改善させ、併せて肛門挙筋(陰部神経運動支配)の過緊張を緩め、肛門付近の皮膚を知覚支配している陰部神経興奮を緩和する方針で行う。
 
①鬱血した痔静脈に対する直接刺激
仰臥位でズボンとパンツを膝あたりまで下ろすよう指示。患者は大腿を持ち上げ、術者は肘で患者の下腿後側を押さえてこの体勢を保持。術者はゴム手袋を装着して、患者の肛門周囲を押圧し、硬結圧痛(=静脈腫瘤のあるところ)を発見。このシコリめがけて太く長い針で刺入する。するとズキッと響くが、抜針後の痛みは大幅に軽減する。要するに痔静脈の鬱血が改善される。
灸治療では、有痕灸は使わない。太い線香や蚊取り線香、たばこ灸などで肛門周囲のしこり部を加熱する。ある程度火を近づけると、ポカポカして気持ち良く感ずるが、さらに火を肛門に近づけるとアチッといって驚くので火を遠ざける。これを5~6回繰り返す。 
   
②患者心理的に肛門周囲の痔核を触診することがしづらい場合、仙骨骨外端に長強穴をとり、そこから外方3㎝。直刺で2寸ほど深刺する。肛門挙筋中に入る。この刺針は肛門静脈叢にも影響を与え、静脈鬱血を改善さえる作用もある。普通は10分間程度置針する。
 

2)孔最の灸

①澤田流孔最の取穴 
前腕長を1.25寸と定めた時、尺沢の下3寸。標準孔最の2.5寸上方。孔最のツボ反応は痔核の位置によって上下に移動する。指先の按圧感によって、その最高過敏点の硬結を取穴する(代田文誌)。

②適応
痔痛・痔核・痔出血・痔瘻・裂肛。脱肛には効かないこともある。灸治が適する(代田文誌「鍼灸治療基礎学」より)。

③孔最刺激の肢位(三島康之「今日から使える身近な疾患35の治療法」より)
痛みを我慢する姿勢は、歯を食いしばり、上下肢を含め全身に力を入れた状態になる。昔の排便スタイルはでは、膝を相当窮屈にまげた姿勢で、手は自然と結ばれ、前腕は屈筋に力が入った姿勢で、前腕屈筋群では、孔最穴あたりから手首に向かって一番力が入った状態になる。この体位で孔最を刺激するとよい。

④左右の沢田流孔最の移動反応(小島福松:痔疾、現代日本の鍼灸 医道の日本300回記念)
左右孔最の調べて、圧痛や硬結の多い方が患部である。まず硬結を目標に5~7壮施灸する。そしてその灸痕は、翌日になれば必ず移動している。毎日移動している硬結を求めて、その中心に施灸する。そのうち硬結の移動が止まる。この時が治癒の近づいた時である。痔痛が除かれても孔最の穴の移動している間は血齲したとはいえない。だいたい2~5週間くらいを要する。3ヶ月要した例もある。

 

 


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