75才男性
主訴:右前腕橈側部の運動時痛
現病歴と考察
会社停年後、トレーニングによる体づくりに努力を続けている。最近、右上腕橈側部が痛むとのことで来院した。上腕橈側部痛で最も多くみるのはバックハンドテニス肘だろうと考え、右手三里のわずかに尺側の短橈側手根伸筋を押圧して圧痛もあったので、テニス肘だと判断。この圧痛点に刺針し、手関節背屈動作5回、さらに針を刺した状態のまま回外動作5回を行わせ抜針して初回治療を終了した。ちなみにテニス肘では手関節背屈痛と回外動作痛がともに出現しやすいが、偶然にも手三里の深層として回外筋があるので、手三里の針だけで、両方の運動針が可能になる。
経過
1週間後に来院、右上腕橈側部の痛みはやはり痛むとのこと。前回の治療は自信をもって行っていたので意外に思って、右上腕橈側の圧痛点をもう一度調べ直してみると、短橈骨手根屈筋上ではなく、腕橈骨筋上に圧痛硬結を発見した。この症状は、腕橈骨筋の運動時痛だと判断して、腕橈骨筋の運動針を行なった。すると圧痛点が移動して今度は、腕橈骨筋の起始部(肘髎穴のやや上方)あたりが痛むというので同様に運動針を行った。腕橈骨筋の運動針は、肘関節屈伸(術者は軽い抵抗を加えて)を5回行い、治療を終了した。後日さらに来院した際に、右腕の調子を問いただすと、あれ以来痛むことはなく、トレーニングを継続できているとのことだった。
考察
腕橈骨筋はその筋長の大部分は前腕部に位置するのだが、分類的には上腕屈筋に属する。従って腕橈骨筋の機能は、肘関節屈曲である。一方、腕橈骨筋に隣接する長・短橈骨手根伸筋は前腕伸筋に分類され、その機能が手関節背屈なので、運動針の方法がまったく異なってくる。本患者のトレーニングの一つとしてテーブルに肘をつき、鉄アレイを握って肘の屈伸運動するのをルーチンとしているという。この運動過剰により腕橈骨筋の筋膜癒着を起こしたのではないかと思えた。