2022.10.4発表ブログ
最近、肛門奥の痛みを訴える患者(51才、男)に対し、治療1回目から大幅に鎮痛できた経験をした。本患者は、10年来、肛門奥の鈍痛でとくに小便時に肛門の違和感を感じる。右8左2の割合で痛むとのこと。これまで色々な医療施設を受診したが、症状の改善はなかった。その中で最も効果あった治療は、直腸へ局麻注射で数字間の鎮痛を得た。私のブログを見て自ら内閉鎖筋刺針を希望してきた。そこで内閉鎖筋刺針を行い、症状軽減した。ただし詳しく問診すると、肛門奥の痛みは鎮痛できたが、肛門表面の痛みは改善していないとのことだった。肛門奥の痛みは肛門挙筋の筋緊張によるもので,肛門挙筋刺針で改善したが、肛門表面の痛みはまた別の種類(外肛門括約筋もしくは陰部神経の痛み)ということだろうか。(内肛門括約筋は体性神経支配ではないので痛みを感じない)
これまで肛門奥の痛みは何例も治療にあたってきたが、効果が出せず色々な方法を試していたが、やっと結果が出た。そこでこれまでも書いてきたことではあるが、肛門奥の痛みについて整理してみたい。
1.肛門奥の痛みについて
これまで肛門奥の痛みを、慢性前立腺炎だろうと判断し、それには陰部神経刺針という方式で行ってきた。しかし慢性前立腺炎だという診断は不確かなものである。病態はあまり解明されておらず、非細菌性で、 <前立腺に由来すると考えられる頻尿、排尿痛、排尿時不快感、残尿感、下腹部~会陰部~鼡径部の不快感など多彩な訴え>といった訴えを慢性前立腺炎の類だろうとしているらしい。
一方、特発性肛門痛といった病名のあることも知った。それは「排便とは無関係に突然肛門が痛くなる。長く座っていると肛門が痛くなる」といった訴えがあるも、肛門診察では明確な所見は認めないというもので、治療に決め手を欠くという。本症の原因として、肛門挙筋の筋肉の痙攣が考えられているという。これをとくに肛門挙筋症候群というらしい。なお肛門挙筋は体性神経である陰部神経支配。
2.陰部神経刺針は仙棘靭帯を目標にしているのか
陰部神経刺針として陰部神経刺針点から深刺して針先を陰部神経に命中させ、肛門、肛門奥、性器などに響かせる方法が代表である。(陰部神経刺針の方法について本ブログに紹介済)。この方法が効果あるのは、梨状筋症候群のトリガー活性で坐骨神経痛様症状を生ずるのと同じように、陰部神経が縦走する仙棘靭帯を目標に刺針しているのではないかと考えるに至った。実技的にも陰部神経刺針と仙棘靭帯刺針の技法はほぼ同一になる。
3.陰部神経に影響を与える筋・靭帯には、前術の仙棘靭帯以外に、仙結節靭帯・内閉鎖筋・肛門挙筋がある。
1)仙結節靭帯と内閉鎖筋
骨盤下方の陰部神経は、内閉鎖筋と仙結節靭帯にサンドイッチされて走行している。
仙結節靭帯に緊張があれば、坐骨結節の内上方5㎝あたりに圧痛が出現するので、これが治療点となる。
内閉鎖筋は深いので殿部からは触知できない。①仰臥位で膝を立てさせる、②術者は坐骨結節を確認し、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結の触知に努める。触知できれは、硬結目指して3寸8番針で5㎝ほど刺入する。
これで触知できない場合、患側大腿を高く挙上させ載石位をとらせ、同時に膝裏に術者の肘を入れて股関節屈曲姿勢を保持。パンツを下の方にずらすが、誤解を避ける意味で、肛門や性器を露出させないこと。トランクス型のパンツではパンツを下ろさず、裾のから指を潜らせ、坐骨結節の内縁を深々と押圧して圧痛硬結を触知する。触知できれは、3寸8番針で5㎝ほど刺入する。アルコック管・内閉鎖筋方向に水平刺する。誤って直刺すると坐骨神経に影響を与え下肢に響きを与えてしまう。
上述の砕石位にさせて内閉鎖筋刺針を行うことは、患者の下肢の体重を術者の肘で押しつけている訳で、術者側の力を結構必要とする。力を入れた状態で内閉鎖筋の圧痛硬結を探り、刺針することは大変体力を使う。そこで私は、以下の肢位をすることを思いついた。以来、ずいぶんやりやすくなった。
なお刺針方向は仙骨に沿うように斜刺する。直刺した場合、大腿後側に響くが後大腿皮神経を刺激した結果で、大腿後側痛に適応がある。
患者にとって最も羞恥心が少なくて済むのは、ジャックナイフ位だろう。
2)肛門挙筋症候群
特発性肛門痛では、肛門挙筋の痙攣による痛みが関係しているという見解がある。肛門挙筋は陰部神経(体性神経)支配となる。
肛門挙筋を刺激する目的で、私は尾骨外端の外方3㎝あたりから5~7㎝直刺深刺している。この刺針の体位も、砕石位のような体位で行うので、結果的には先に記した内閉鎖筋刺針とよく似た方法になる。両者は結局同じこをとをしているのかもしれない。