1.五十肩に対する条口から承山への透刺の方法
この刺針法は中国の清代以降に発見されたらしいが、わが国では1970年以降に、中国からの情報として知られるようになった。五十肩に対して健側の条口から承山に透刺(2穴を貫く)する方法で、条山穴と略称される。実際に2穴を貫くには5~6寸もの長針が必要である。
肩関節痛患者に対し、仰臥位または椅座位にさせて、4~10番相当の針を用い、健側の条口(足三里から下5寸、前脛骨筋中)から深刺する。そして針を上下に動かしながら、肩関節部の自動外転運動を行わせると、肩関節周囲への施術だけでは改善できなかった肩可動域制限も、半数程度の患者では可動域増大すことを経験する。なお元々は健側刺激となっているが、患側治療でも大差ない効果となる。しかし持続効果は短いのが欠点である。健側の下肢を刺激することが原法であるが、試しに患側を刺激してみたこともあったが、治療効果に大差なかった。
2.奏功要因
なぜ条山穴は、肩関節痛に効果があるかに解答することは困難だが、どういうタイプの肩痛に適応となるかを、台湾の中医師である陳潮宗氏は次のように報告した。
陳医師は、発症後1ヶ月以上を経過した者で、外転角100°未満、外旋45°未満、内旋45°未満であった14例の五十肩患者に条口-承山透刺を行った。その結果、肩甲上腕関節の外転可動域は、ほとんど改善しない(平均1.7°)が、肩甲胸郭関節の上方回旋可動域が改善(平均6.7°)したと発表した。(條口透承山穴治療五十肩、中国中医臨床医学雑誌 1993.12)
陳医師の治療成績が、あまり芳しくないのは、凍結肩状態にある患者を選んだためだろうが、結果的にこの結果が本研究の信憑性を増している。結局、条山穴透刺は、肩甲上腕関節の動きではなく、肩甲胸郭関節の動きに効果がるようた。
五十肩で上腕が十分には外転できないのは、肩関節包の癒着の問題を別にすれば、筋緊張が強すぎて短縮状態にある筋を、無理して伸張させようとした状態である。それは肩甲上腕関節の主要外転筋である棘上筋と三角筋中部線維と、肩甲骨上方回旋の主動作筋である肩甲下筋と大円筋である。このたび条山穴刺針が肩甲骨の可動性を改善した結果、肩の外転可動性が増すことが判明したので。条山穴刺針は肩甲下筋刺針や大円筋刺針と同じような作用をすると思われた。
3.条山穴刺針の治効理由
条山穴を透刺するには6寸針もの長針が必要である。これは長すぎるので、筆者は条口から1寸、承山から1寸刺入を続けて刺入することにしたが、塗料効果はそれなりにあるようだった。さらに省略する者もいて、条口一穴から2寸ほど刺入しても、一定の効果は得られるようだ。条口から浅刺直刺して、
下腿三頭筋を刺激するのではなく、その深部にある後脛骨筋への刺針が必要な気がする。きちんと断言するためには、症例を多数こなして感触をつかむほかない。
陳潮宗氏の研究結果のように、条山穴刺針がもし肩甲胸郭関節の可動域を増すことが目的ならば、肩関節に関係する經絡走行という観点では、条口よりも承山刺激の方が重要となるだろう。承山と肩関節は、陽蹻脈で連絡しており、アナトミートレインでの浅層バックラインでも連絡している。
朝目覚めて、思わず背伸びする時、体幹から下肢は弓成りに反らし、両腕はバンザイするよう挙上させる体位となるが、このような原始的姿勢反射も、上腕挙上と下腿筋の収縮が関係していることが推察できるからである。
4.症例:凍結肩患者に対する承山運動針の効果
現在通院中の右凍結肩患者(55際、女性)に対し、椅坐位で患側の承山に2寸#4で2㎝刺入し、肩関節外転運動を実施すると70°→75°となった。抜針せずに条口から2寸#4で2㎝刺入すると、外転運動を実施すると75°→80°程度となった。承山穴刺針と条口穴刺針の凍結肩に対する優劣は不明であるが、ともに同程度の効果をみた。その後、患側上にした側臥位で承山と条口個々に刺針してみたが、体位が悪いのか、すでに坐位で一度肩関節周囲がゆるんだ直後だったのか、ともにそれ以上に改善効果は得られなかった。条口→承山への透刺を行うことは実際的な治療として無理な話だろう。