膝関節痛で最も多い症状は膝痛であるが、膝痛と同時に「膝に水が溜まっている」「膝が腫れるている」といった訴えも少なくない。それらの対処法について整理する。
1.関節の熱感・腫脹
1)病理
関節の軟骨が摩耗し、軟骨の破片が関節液中を浮遊。それが関節滑膜を刺激して関節内に炎症を起こして熱感・腫脹を起こす。この反応で知覚神経を刺激すれば膝関節痛も起こる。
2)針灸の是非と方法
熱感が強い時、針灸を行うと炎症が悪化しやすい。今から1~2週間後に熱感が落ち着いた後に治療する旨を患者に伝達。 治療にはチクッとした灸熱が適するのであって、熱量を多量に与えるせんねん灸は不適。糸状灸~ゴマ大灸を腫脹しいるエリアに広範囲に5~6点施灸する。 自宅施灸するのがよいが、近年自宅施灸不可とする患者が多くなってしまった。
2.関節水腫
1)病理
関節液(=関節滑液)は関節滑膜が血液を材料として製造し、関節の栄養と潤滑油として機能し関節滑膜から吸収され常に一定量を保持している。 しかし関節軟骨の摩耗スピードが速いと関節軟骨の辷りが悪くなり、その代償的に滑液分泌量がふやして滑りを維持しようとする。関節軟骨片も関節液中に浮遊し、これが関節包を刺激する。
2)関節水腫の理学検査
①膝蓋跳動作テスト
水腫があれば膝蓋骨は大腿骨から浮いている。膝蓋骨を叩くと、大腿骨にぶつかるので、コツコツと音がするものを(+)とする。本テスト(-)では水腫ではなく、関節包の肥厚を示唆する。膝関節に加わる刺激が強いので、それに対処するた関節包も厚くなり、膝関節を守ろうとしている。
関節に水がたまると関節液の粘性が少なくなり、潤滑油としての性能が低下するので、炎症が増大しやすい。
昔は変形性膝関節症で膝が大きく腫れている者が針灸に多数来院していたのだが、最近では膝痛は以前ほど来院せず、とりわけ膝水腫の来院は少なくなったことを感ずる。これは整形外科で行ったヒアルロン酸注射の効果といわざるを得ない。
②膝蓋骨圧迫テスト
膝蓋骨を圧迫しながら、上下左右に動かした際、正常であればスムーズに動くのだが、関節面が変形してるいると膝蓋骨底の捻髪感(ザラツキ感)を感じる。これをもって大腿-膝蓋関節の変形(または膝蓋骨軟骨化症)を考える。
一部の成書には、「膝蓋骨圧迫テストでは痛みが出現する」と書かれている。実際にも本テストでは被験者は痛みを感じることも多い。ただし膝蓋-大腿関節には関節包がないので、痛みを発生する要因がない。この痛みの正体は大腿四頭筋の筋腱付着部症と考えられているので、鶴頂など膝蓋骨の大腿四頭筋停止部に刺針して有効である。
3)関節水腫の治療
基本的にまずは安静・固定・圧迫・冷却・挙上、膝圧迫包帯(または膝圧迫サポーター)。整形で関節から関節液を抜いてもらうと、治療直後は良好だが、数日後には関節水腫状態に戻ってしまうことが多い。 結局炎症があるから、水が溜まるのであって、炎症を鎮めないことには水腫は治らない。軽度の関節水腫は針灸治療の対象となり、とくに水腫部を中心に直接灸することで次第に水は消退していくが、それには長期間かかる。
代田文彦は、水腫には灸が有効なのだが長期間かかるので、まず整形で水を抜いてもらい、その直後から灸をすると、水が溜まりにくくなり、その方が直りが早いと語った。灸治療により水腫の再発を防ぐ。