1.病態
1)手指のDIP関節にみる変形性関節症。DIP関節基底部背側中央の伸筋腱付着部を挟んで、2つのコブ(結節性隆起)があるように見える。これは関節の炎症により関節包がゆるみ、摩耗した骨が周囲に骨棘を増生させて骨性の膨隆が生じる結果である。屈曲方向に曲がりはじめる。
2)ヘバーデン結節の症状は主に運動時痛だが、初期にはDIP関節が左右対称性に赤く腫脹し、自発痛を伴うことがある。 一方、3ヶ月が経過し、ある程度変形が進んで関節の動きが悪くなると、痛みがなくなる者が多いとされる。しかしいつまでも痛みが去らない者もおり、通院しても痛み止めや湿布を処方するばかりで、医者は頼りにならず、針灸で何とかならないかと来院する。
2.腱付着部症としてのヘバーデン結節
ヘバーデン結節部の圧痛点を探ると、DIP関節の2つのコブの間にあることが最も多く、他に左右側面に、そして時にはDIP関節掌側面中央にみることもある。時計の文字盤でいうと12時、3時、6時、9時以外の圧痛点は、あまりない。すなわち圧痛点は、いずれも腱や靱帯部分になる。
2つのコブの意味は、背側側腱付着部組織は隆起し、腱の骨付着部症がある。これは腱付着部 に微細な損傷をうけ、その修復機転としての軟骨化生、瘢痕性肥厚、石灰沈着、骨棘形成などが 発生している状態だとされるが、コブそのものに圧痛はないことが興味深い。痛みの正体は、変形に由来する関節包からくるのではなく、腱付着部症なのではないかとのの見方もできる。(辻田祐二良ほか:いわゆる「指曲がり症」(ヘバーデン結節)発症メカニズム、産業医学、1988)
腱付着部痛は次の機序で進展する。
指のDIP関節の変形
→関節包痛および関節変形にともなう腱痛(指背側にある指伸筋腱、指腹側にある浅・深指屈筋腱、 関節側面にある側副靱帯)付着部痛
→指の屈伸で痛む
→痛むので指の屈伸運動をしなくなる。
→たまに屈伸運動する際には、以前よりも強い痛みを感ずる。
3.局所針灸治療
へバーデン結節の痛みは、筋腱付着部症と関節包の痛みの2種類あるが、腱付着部症の痛みが 主体になると考えられる。一般に施術直後は減痛できるが、持続作用は一両日なので自宅施灸を毎日行わせる。
1)DIP関節基部背面の左右に、2つのこぶ(へバーデン結節)が出現する。その中点に指伸筋腱が走行しており、鍉針でさぐって圧痛がある部に糸状灸。指伸筋腱の末節骨停止部に圧痛あれば、この部にも糸状灸。施術は、DIPとPIPとも屈曲させた状態で行うと、指伸筋腱が緊張するので、効果増大が期待できる。
2)DIP関節側面の側副靱帯停止部に細針にて浅く刺針。その状態でDIP屈伸運動実施。
3)DIP関節側面の側副靱帯部に圧痛あれば糸状灸を行う。
4.遠隔針灸治療
指の背面にある指伸筋腱、および指腹側にある浅・深指屈筋腱に続く筋収縮をゆるめる目的で行う。これはⅠb抑制に相当する。すなわち腱を刺激すると腱の続く筋緊張が緩むと言う生理的現象を利用する。余分な筋収縮がなくなると、腱をひっぱる力も弱くなるので関が屈曲しやすくなる。
浅指屈筋腱(第2~第5指のPIP屈曲)と深指屈筋腱(第2~第5指のDIP屈曲)に続く浅指屈筋と深指屈筋は、下図の位置にある。浅指屈筋と深指屈筋に対する刺針は、手根管症状群と同様になる。ヘバーデン結節のPIP関節掌側面中央の痛みに対しては、浅指屈筋に対する刺針になり、郄門あたりから深刺する。
指伸筋腱の延長上にある指指筋に対する施術は、三焦経の四瀆(前腕中央)および三陽絡(四瀆の下方1寸)になる。手関節を背屈させた肢位で行うとよい。
5.マッサージ治療
指伸筋腱、指屈筋腱、指でつまんでこするように上下にすべらせるような、商品名「指コロ指圧ローラー」(富永喜代医師考案)で刺激する。本製品はアマゾンで千数百円で入手できる。
ただし、このような器具を使わずとも、健側の指腹で指元から指先までつまむようにしてこするようにマッサージを行ってもよい。これも1b抑制理論で説明でき、指伸筋や指屈筋をゆるめる技法になる。1日数回実施。1回5分程度でよい。
6.テーピング治療
痛みが強いときは、幅20㎜前後の紙絆創膏(百均ので可)をDIP関節周囲に巻て関節の動きを抑える。特に夜間睡眠時には無意識に指を屈曲するので、紙絆創膏巻きが推奨できる。医療用 絆創膏は粘着力が強すぎて連用すると皮膚角質層にダメージを与えるので勧められない。