1.手根管症候群の概要
手根管とは、手根骨と屈筋支帯(旧称は横手根靱帯)の間隙をいう。ここを縦走する正中神経が圧迫刺激され、圧迫部から末梢の正中神経麻痺が生じた状態。透析患者、閉経前後と妊娠・出産を機に多発する。
正中神経麻痺は、高位麻痺と低位麻痺(肘から遠位での神経絞扼障害)があり低位麻痺がほとんどである。低位麻痺の代表疾患が手根管症候群になる。円回内筋症候群も正中神経低位麻痺になるがマレな疾患。
※透析アミロイドーシス:透析中、手がしびれると訴える。ある種の線維状のタンパク質が屈筋支帯に沈着して太くなり、正中神経を圧迫。
2.手根管症候群の症状・理学検査
1)ファーレンテスト Phalen test
手首を強く屈曲(掌屈)させる際の痛み。
2)正中神経低位麻痺症状
走行部(小指以外の指端)の痛みと異常知覚(ピリピリ、ジンジン)。母指対立筋の筋力低下、短母指外転筋の筋力低下、母指球萎縮。
3.手根管症候群の治療
1)局所治療点である労宮穴
手掌中央で、第3第4指屈筋腱の間に労宮穴をとる。労宮と手関節掌側横紋の中央 (=大陵穴)を三等分し、大陵に近い側の 1/3を「労宮移動穴」と定める。労宮移動穴から直刺すると、手掌腱膜→手根管(内部に正中神経と長・短手根屈筋腱)→虫様筋に入る。
この治療の直後は手のしびれは若干改善するのが普通だが、症状は間もなく元に戻りやすい。 局所治療に併せて腕神経叢や斜角筋を刺激することも行われるが、針灸が有効か否かは不明。手根管症候群の病理は屈筋支帯による手根管の圧迫にあり、筋々膜刺激ではどうにもならないのかもしれない。
2)手の腱に対するグライディングエクササイズ Gliding Exercise(滑走訓練)
手指には、長指屈筋と深指屈筋という 2つの屈筋腱がある。これらの腱は鞘内でまとめられ、その下の骨の近くに押さえつけられている。関節の動きを生み出すため に、腱はこの鞘内だけでなく個別に滑る必要がある。この訓練は、前腕屈筋側にある浅指屈筋・深指屈筋を強圧した状態で行うと、腱がより伸張されるので治療効果が増す。この治療原理は、バネ指の運動療法、ヘバーデン結節の運動療法と治療と同種のものである。