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凍結肩の針灸治療

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凍結肩の臨床症状は、関節症状(癒着性関節包炎や癒着性滑液包炎)と、これに付随した保護スパズムによる伸張時痛の混合したものになる。
ROM制限があり、かつ結髪・結帯動作で痛むタイプで、とくに夜間痛のある者は、非常に苦痛を感じる。このようなタイプが針灸治療を求める。一方、ROM制限があるも痛み少ない凍結肩完成期では、患者は生活に不便を感じるが、あまり痛まないので日常生活を何とか過ごすことはできる。
自覚痛の強い凍結肩の場合、針灸治療はどのように行うべきかのかを考えてみる。

1.ADL制限を生じている過緊張筋に対する治療

凍結肩による肩関節の運動制限の本態は、肩関節の関節包の癒着なので、どうにも対処することができないが、運動痛であれば筋緊張と結びつけて考えることが可能である。凍結肩での主要症状は、次の3つに要約できると思う。

1)外転制限
棘上筋に続く肩腱板のエンテソパチー enthesopathy(腱付着部症)針灸治療は、肩髃深刺で肩腱板を刺激、また巨骨斜刺深刺で肩腱板刺激。

2)結髪制限
結髪制限に関わるのは肩関節の屈曲・外転・外旋であるが、その中核となるのは外旋にあると考えている。肩関節癒着が本態。過緊張状態にある棘下筋(天宗)と小円筋(臑兪)が伸張された際に痛みに対処。結髪動作をしようとする肢位にて施術する。

3)結帯制限
結帯制限に関わるのは肩関節の伸展・外転・内旋であるが、その中核となるのは内旋にあると考えている。肩関節癒着が本態。過緊張状態にある肩甲下筋(膏肓から肩甲骨-肋骨間へ刺入)と、大円筋(肩貞)が伸張された際に痛みに対処。結帯をしようとする肢位にて施術。

 ※肩貞と臑兪の位置についての私見
標準的には肩貞は腋窩横紋の後端から上1寸にとり、臑兪は肩甲棘外端の下際陥凹部にとっている。しかし本稿では肩貞を腋窩横紋の下で大円筋上にとり、臑兪を腋窩横紋下で小円筋上にとる。このようにすると臑兪=小円筋では結帯動作の治療穴、肩貞=大円筋で結髪動作の治療穴になるので整理しやすいと思う。


2.結髪動作制限と結帯動作制限制限の運動療法

結髪制限は、肩関節外旋筋の過収縮、結帯制限が肩関節内旋筋の過収縮がROM制限の主役である。これらの伸張がリハ訓練になる。

                 内旋運動→大円筋緊張訓練。結髪動作制限時に。
                 外旋運動→小円筋伸張訓練。結帯動作制限時に。

上図で右凍結肩の場合、両手を右に動かせば、右肩は外旋動作で小円筋伸張訓練になり、左に動かせば内旋動作で大円筋伸張訓練になる。実際の凍結肩では、結髪動作と結帯動作が同時に制限を受けているケースが多いので、本訓練は合理的だろう。

 

3.浅層ファッシアと「次どこ」方式
   
凍結肩であれば、結髪制限に対して膏肓から肩甲下筋刺針および肩貞から大円筋に刺針、結帯制限に対して棘下筋から天宗に刺針および臑兪から小円筋に刺針しても、大した効果のみられないことは非常に多いのが現実である。動作分析による障害筋の推定という方針は、痛みが頸部・肩甲上部・大胸筋部・上肢といった広範に及ぶ場合、治療ポイントが絞りきれない。圧痛点に施術するにしても治療点が多すぎるのである。
 
個々の筋膜の問題、すなわち深層ファッシアではなく、皮下組織に広範に拡がる浅層ファッシアの症状と理解したらどうだろうか。
浅層ファッシアにあって、とくに動作時痛と関係している部位を探りあてるには、「次どこ」方式による治療点の決定が便利である。古くから知られている治療方法だが、このユーモラスな名前は三島泰之氏(著著「今日から使える身近な疾患35の治療法」医道の日本社,2001年刊)で発見した。患者に痛む部位を指差させて刺針し、今度はどこが痛むかを再び指差させて刺針し....といった局所を繰り返す。痛む部が不明瞭になるまで5~10回繰り返す。刺針すると痛む場所が移動するタイプに適する治療法といえる。もし刺針しても圧痛点が無くならなう部位があるから、その上位治療法として局所集中刺絡をすることも考える。
 

4.条山穴透刺
 
1)歴史と術式
 
下腿胃経のほぼ中央にある条口から深刺して下腿後側の承山まで貫くように刺入する。本刺針法は中国の清代以降に発見されたらしいが、わが国には1970年以降に中国から伝わった情報として知られるようになった。原法に忠実に行うには、6寸もの針が必要となるので、実際の臨床では条口と承山からそれぞれ1寸程度刺入する。原著では条山穴刺針は健側を使うとしている。実際には健側患側どちらを使っても効果に大差ない。

 

2)治療効果
 
座位にて刺針したまま何回か患側肩関節の運動をさせると、ROM拡大が得られることもあるが、効果ない場合も少なくない。筋腱性の肩関節痛には有効であっても、凍結肩になると治療効果が落ちるのはやむを得えない。ただし凍結肩だと診断して局所を中心とした治療をして満足のゆく治療効果が出せず、窮余の策として条山穴透刺をしてみると、肩関節可動域が大幅に拡大したこともある。本当に肩関節関節包が癒着していれば効く筈もないから、過度な保護スパズムにより、凍結肩だと見誤った結果であろう。要するに、やってみる価値があるということだ。


3)治療機序
 
条山穴透刺は肩関節痛全般に効果あるとされるが、凍結肩に対する治効性は高くはない。台湾の陳潮宗(元、中国中医臨床医学会理事長)は、条山穴刺針は肩甲上腕関節の動きよりも肩甲胸郭関節の動きが増加することで、肩甲骨上方回旋の可動性も増す作用があることを発表した。これは結髪動作改善に効果のあることを示唆している。肩腱板炎や腱板部分断裂に適応があるのかもしれない。
      
条山穴がなぜ五十肩に有効となる場合があるのだろうか。条口と肩関節の関係はうまく説明できない。しかし承山は陽蹻脈上にあるツボで、陽蹻脈は肩関節にまで流注しているということで、ある程度説明ができそうだ。


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