1.曲骨(任)、横骨(腎)
「曲骨」(任)は恥骨結合の直上にとる。本穴は恥骨上縁で弯曲した処なので曲骨とした。
横骨は恥骨の意味であるとともに、腎経の穴名でもある。骨度法では、横骨長は骨度法では6.5寸と定められている。横骨とは現代でいう恥骨のことだが、これを恥骨結節両端間の距離とすることは無理があるので、おそらく恥骨上枝の左右外端の間の長さを意味するのだろう。
なお横骨長には < むご(6.5寸)い横骨 > という語呂がある。
「横骨」(腎)は腹直筋上であるが、曲骨は白線上にある。白線とは筋を包む結合識で、外腹斜筋や内腹斜筋、腹横筋それぞれの腱のつながりである。筋ではなく腱なので刺針時には抵抗を感じるのを避け、曲骨の代用として横骨に刺針するという使い方もある。神経は陰茎背神経(陰部神経の枝)なので、膀胱炎やEDで使われることが多い。もっとも曲骨から刺針してペニスに響かせてもEDが治る訳ではない(尿道炎の鎮痛には効いたことがある)。曲骨の灸(毎日7壮以上)は慢性反復性膀胱炎に適応がある。抗生物質内服をいつまでも続ける訳にはいかないが、服薬中止すると症状が再発しやすいが、施灸を継続すると症状再発がない。曲骨の灸3壮では再発し、7壮に増やしてから症状が治まったという経験がある。
2.衝門(脾)
上前腸骨棘と恥骨結節外端の結ぶのは鼠径靱帯で、このほぼ中央に「衝門」(脾)をとる。「衝門」は大腿動脈拍動部でもあるので取穴上の基準点になる。理論的には下肢の血流改善の目的での治療点となるだろう。下肢閉塞性動脈硬化症では衝門の拍動作が減弱することがある。
3.気衝(胃)
「気衝」は”衝”の文字がついてはいるが動脈拍動部ではない。下肢から上行してきた胃経には勢いがあり、髀関穴で直角に折れ曲がり、気衝で再び折れ曲がって、下腹部を上行する。経絡がぶつかって流れが急変するという意味で、”衝”の文字がつけられたのだろう。衝突の”衝”である。
4.髀関(胃)
”髀”は大腿の意味。学校協会教科書では「上前腸骨棘の下方、縫工筋と大腿筋膜張筋の間、陥凹部」とある。このあたりの解剖学的要所は、下前腸骨棘であり、この部は大腿直筋の起始部でもある。髀関は私は、ここを取穴している。
6.急脈(奇)
急脈とは、水なし川状態にあったものが、急激に流水量が増した状態のようなもので、勃起状態(出現する陰茎海綿体の充血)を示すのだろう。私が数十年前に針灸学生だった頃、急脈は奇穴だったが、近年は肝経所属になったようだ。鼠径部で曲骨の外2.5寸。気衝のわずが5分(≒1㎝)外方になる。
<医心方>によれば「急脈の別名を羊矢(ようし)、陰部の腹と股が相接するところ」とある。羊矢穴周辺が羊のようにニオイがきつい(なまぐさい)ことを例えたものである。羊はもともと生臭い家畜であり、木を三つ合わせて「森」になったように、羊が三つ合わさるとなまぐさいという意味になる。部位的にアポクリン腺がある部なので腋の下と同じようなニオイとなる。羊矢の「矢」は、クサビ型(V字形)を意味し、左右の鼠径部が合わさるところを矢に例えた。
羊矢がニオイがきついことは、膻中穴もニオイがきついことを示す。膻は羊+亶からなり、亶はこってりした状態を示す。要するに「膻」のように生臭いという意味になる。これはおそらく乳頭からこぼれた母乳が両乳間に位置する膻中あたりに溜まり、それが腐敗してくさいニオイとなったものだろう。
7.居髎(きょりょう)(胆)
居髎と環跳については、以前にも書いた記事があるので参照のこと。
居髎と環跳の位置と臨床運用 ver.1.1
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/7238c899cf40bfc3b09499a44a5f6a61
私は居髎を<こりょう>と読むと習ったのに、いつのまにか<きょりょう>に変わってしまった。「居」はしゃがむ姿勢、「髎」は骨の陥凹部。膝を屈してできた陥凹部に取穴することから。これは和式トイレでの排便姿勢になる。上前腸骨棘の内縁で、鼠径溝外端、縫工筋の上前腸骨棘起始部にとる。直下に大腿外側側神経が縦走している。なお蹲踞姿勢とは下写真のような姿勢で相撲や剣道などで対戦前の儀礼姿勢になる。
8.環跳(胆)
側臥位、上になった側の股を関してできる鼠径溝の外端。「環」は丸いことで股関節回転軸を意味。「跳」はジャンプすることで、ジャンプ時に股関節は大きく動くことから。
居髎と環跳は、ともに股関節を強く屈曲した状態で取穴するのだが、居髎は股関節を屈曲させた上で、さらに外転させた姿勢で取穴することになる。