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腰痛に関する最近の筆者の考え ver.1.1

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何といても腰痛で来院する患者は非常に多い。針灸治療も手慣れた感じで行うことになるが、今更ではあるが新たな発見があるので、昨今の知見を総括してみたい。


1.背部一行の圧痛好発部位

第1胸椎以下の背部一行(棘突起外方3~5分外方)の圧痛を触診すると、胸椎全域と胸椎と腰椎の接合部、および腰椎と仙椎接合部に圧痛が出現することが多いことに気づく。

 

 2.胸椎間は回旋可動性、腰椎は前後屈可動性
 
椎間関節の関節刻面の傾斜により脊柱の運動方向が決定される。胸椎は左右の回旋運動(上体を後にひねる動作)が可能である反面、屈伸運動(上体の前かがみや上体反らし動作)ができないので、上体回旋運動による力学的ストレスが胸椎部の椎間関節に加わることで、椎間関節性変化を生ずるのであろう。上体の激しい回旋時、Th12胸椎は左右に動くが、その下にあるL1椎体間は可動できないので、Th12/L1椎間関節は力学的な歪みが生じて椎間関節性腰痛が起こりやすい。

同様のことは腰椎と仙椎間にもいえる。腰椎は前後屈できるが、仙骨は一つの骨に癒合していて可動性がない。強い前屈・背屈ではL5/S1椎間関節の椎間関節症が起こりやすくなる。

3.背部一行にある障害を受けやすい筋

この椎間関節に加わる力学的ストレスによる障害は、そのすぐ近傍にある筋の無理な伸張を強いる。一般的に脊柱起立筋のように長大な筋は上手に力を逃すことができるのに対し、椎間関節近傍にある深部筋(横突棘筋と総称)は、椎間関節の変化を直接受け、筋長も短いので力を逃すことができづらく、筋筋膜症性変化も引き起こす。すなわち筋筋膜性腰痛を生じる。
その問題となる深部筋は、脊椎の可動性に対応したものとなる。胸椎では左右回旋に可動するので、この過剰可動を制止するため長・短回旋筋にストレスが加わる。腰椎部では前背屈に可動するので、この可動を制止するため多裂筋にストレスが加わる。
建物を増築した場合、元からある建物と増築部分の境界が地震に弱くなる。それは地震に伴う建物の揺れ周期が両者間で異なるので、継ぎ目が脆弱になるからである。これと同様のことが胸椎-腰椎間、および腰椎-仙椎間でいえる。
頸椎-胸椎間でも同じ現象が起こるので、大椎や定喘(C7/Th1棘突起間の外方1寸)などは頸回旋時痛に際する治療点となる。


3.背部一行圧痛時の診断名
すなわち椎間関節性腰痛と筋筋膜性腰痛は、背部一行部にある筋においては重複した概念になる。そしてその椎間関節症は、先に示したように、胸椎全般と、Th12/L1間と、L5/S1間に起きやすい。

 




4.椎間関節直接刺について

繰り返して記すが、腰痛は、背部一行の圧痛のある触知をもって、椎間関節性腰椎であると判断することはできない。筋の問題にしても椎間関節の問題にせよ、脊髄神経後枝内側枝の鎮痛を図るという意図からは、背部一行刺針は有効なことが多い。

では捻挫時に局所の関節に直接刺針すると、よく効くのと同じように、椎間関節症に対して棘突起から外方2㎝ほどの部を刺入点として、筋中を貫き、椎間関節の骨にぶつかるまで深刺する方法も考案されている。ドーンという強い針響が得られるとのことだが、2~3番針程度の太さで行うのであれば針響も適度なものとなる。柳谷素霊の秘法一本針伝書中の「五臓六腑の針」もこの機序を利用したものであろう。

ブログ:柳谷素霊「五臓六腑の針」
https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/4def4967b4651eb11221c8cf63c3a6ee


5.背部三行刺針

1)腰方形筋、腰仙筋膜深葉の痛み

背部三行とは、起立筋外縁と腰方形筋のつくる筋溝をいう造語である。筋筋膜性腰痛として腰仙筋膜深葉、それに腰方形筋性やなどの深部の腰痛で、この背部三行の刺針目標となる。穴としては胃倉、外志室、外大腸兪あたりになる。3寸ないし2.5寸の5~7番針程度が必要である。

起立筋は、体幹を下るにつれ、先細りになるのに対し、第12肋骨と腸骨稜間にある腰方形筋は逆に、体幹を下るにつれ広がっている。ゆえに下部腰椎部では起立筋の外方に腰方形筋がはみ出てきている。腰方形筋緊張による腰痛は、上後腸骨稜の外方で、腸骨稜上縁に沿うような痛みも出現しやすい。これは筋の骨付着部症としての脆弱性があるためだろう。立位上体前屈位にせしめ、腸骨稜縁の圧痛点に刺針。上体の屈伸運動を行わせると効果的である。


2)大腰筋性腰痛

大腰筋性腰痛が注目され出したのは最近である。何らかの原因で腸腰筋の持続的収縮が起こると中腰姿勢状態になり、上体を伸展させる際に、ひどく痛む。中腰姿勢の持続は、バランスをとるために腰背部筋の緊張を惹起するようになり、背部筋の筋筋膜性腰痛も合併するようになる。

大腰筋の伸張持続が極端な場合、このままでは筋が断裂すると筋・腱紡錘中の受容器が判断し、反射的に脱力(腰くだけ状態。立つことができない)になるとする説がある。治療は、側腹位、3寸#5~10の針を用い、ヤコビー線の高さで、起立筋外縁(痩せた者では横突起の直前)を刺入点とし、椎体側面方向に7~8㎝刺入。針先が患部へ響くと、ズーンと重く響くような感覚が腰全体に広がる。腰が抜け、立つこともできない者は、大腰筋の脱力を意味している。この状況から本来の筋トーヌスまで回復するには、1時間程度の置針が必要である。


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