仙腸関節のズレ(小さな脱臼)の治療では、AKA療法が知られているが、この方法は診察や治療手技とも独習が難しい。自宅療法として仙腸関節ベルトの使用も少しは有効だが、効果は満足できるレベルにならず、あくまで治療室内で行う治療の補助として用いたい。
そこで私は10年ほど前に仙腸関節運動鍼法を考案し、成果をあげている。
なお、仙腸関節のズレによる症状は、仙骨部痛(患者はしばしば腰痛という)で、症状部位の聴取だけでは、一般的筋膜症との判別は難しいが、治療法も大きく違ってくるので鑑別は重要である。その見極めかたとして、①一般的腰痛は動的腰痛すなわち動かすと痛むというのだが、仙腸関節のズレは、静的腰痛であること、すなわち同じ姿勢をとり続けているとじんわりと痛みが増加する点、②ワンフィンガーテスト陽性であること。最も痛む部位を患者自身の指先で指示してもらうと、仙腸関節部分を指し示すこと、などがある。
1.患者体位を変更した新法
最近までの10年間は、患側を下にした側腹位で本手技を実施してきた。この方法は仙腸関節裂隙に刺入しやすいメリットはあるが、運動針効果が弱いという欠点もあった。そこで最近では患側上した側腹位で行う方式に変えた。その方が治療効果が向上することを感じる。
以下は、患側上での刺針手技について説明する。
2.刺入点と刺入角度
患側上で、上後腸骨棘とS1棘突起の中点を刺入点とする。鍼は2.5寸(痩せた者は2寸)の5~8番を使用。ベッド面に対して、斜め45度方向に刺入、仙腸関節刻面に沿うように1.5寸程度刺入し、最終的には骨に命中させる。鍼が途中でつっかえるようならば、刺針転向法で角度を微調整する必要がある。
人によって症状部に一致した針響が得られることがある。
※針先が仙腸関節裂隙に入りにくい場合には、助手等に大転子あたりを上から押圧させると、関節裂隙が広がるのでやりやすくなる。
3.運動鍼の併用
患側の大腿を腹に近づけるような自動運動、すなわち股関節の屈伸運動を10回指示。その間、術者は刺入してある鍼を、関節裂隙の骨にコツコツとタッピングし続ける。その後5~10分置針して抜針。
4.治療効果と意義
痛みは関節周囲の軟部組織の興奮から生じている。また軟部組織の緊張は、仙腸関節をズレた状態で固定する。したがって上記治療法で軟部組織の緊張を弛めることで患者の愁訴は大幅に改善できる場合が多い。ただし真の原因は関節のズレなので、鍼灸治療効果は2~4日程度である。週2回治療で2~3週間続けることで、周囲軟部組織の緩んだ状態を保つことで、仙腸関節のズレの自然修復を期待することになる。