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成書にみる便秘の局所治療穴

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 まずは便秘の基本的分類を示す。

この分類で、針灸適応となるのは痙攣性便秘で、これは過敏性腸症候群の便秘型でもある。
過敏性腸症候群の便秘型は、大腸運動を支配する迷走神経の過緊張のため腸が痙攣し、下方に押し出せない状態。いわば急性便秘の状態で腹痛(+)。兎糞便(コロコロと硬い)。グル音増強。左下腹のS状結腸部に強い痛みがあるなどの症状や所見がみられる。尿路結石や胆嚢症での、中腔器官の痙攣による痛みは針灸でも効果あるのと同じで、痙攣性便秘も針灸の適応になる。

弛緩性便秘は、腹痛(-)で本人にも切迫感がない。基本的に慢性便秘であり、大腸刺激作用のある市販の便秘薬を使っている者も多く、いわば刺激されることに慣れていて、針灸も反応しづらい。針灸が効きづらいのは直腸性便秘も同様である。糞便が直腸に入ると、直腸内壁が伸張しその刺激は骨盤神経を経て脳に伝わり便意を感ずる。しかし排便を我慢する ことが習慣になっている者は、機械的な刺激によっても便意を感じにくくなる。直腸を刺激しても、その刺激が脳に達しないので便秘が起こらないのである。
木下晴都は、便秘の針は難しく、針灸が奏功したとしても一回の排便させる効果しかないと記している(最新針灸治療学)。

効く効かないとは無関係に、私の所有している針灸書から、便秘の治療穴について書かれているものを整理してみた。この類の作業は、これまで何回となくやってきた。同様のテーマの前作は< 便秘に関する局所針灸治療点の検討 ver.3.0>  だったのだが、新たな知見があったので新たに書き改め、前作は破棄した。

           


    1.腰部

大腸の上行結腸と下行結腸は後腹膜に固定されていて、腰部後壁と大腸間に後腹膜は存在しない。この臓器を刺激するには、腹部ではなく腰部からの刺激が適する。一般的に上行結腸は便秘の治療点とならず、下行結腸刺激を刺激目的では、左大腸兪・左腰宜(ようぎ=別称、便通穴)などを刺激する。これらの穴から刺針すると、腰部筋→後腹膜→下行結腸に入る。
上行結腸と下行結腸の内縁には腎臓(Th12~L3の高さ)があるが、下行結腸に刺入する際には、腸骨稜上縁(L4の高さ)から実施することで、腎臓への誤刺を回避できる。 

1)便通穴=左腰宜(ようぎ)   

L4棘突起左下外方3寸。起立筋の外縁で、腸骨稜縁の直上に腰宜をとる。木下晴都は、左腰宜を便通穴と名付けた。やや内下方に向けて3㎝刺入するとある。腰方形筋→下行結腸と入っていく。ただし3cmm程度では下行結腸に達しないかもしれない。横突起方向に斜刺すれば腰仙筋深葉の広範な響きは得られるだろう。
森秀太郎著「はり入門」での刺針深度は「深さ50㎜で下腹部に響きを得る」とある。
代田文誌著「針灸治療の実際」には、「便通外穴」の記載がある。本穴は、木下晴都の便通穴の外方3cmでL4棘突起下の外方8cmとしている。


2.腹部 

1)天枢

森秀太郎が便秘の治療で最も重視しているのが天枢への雀啄針だった。森の天枢刺針は、臍の外方1.5寸を取穴(教科書的には臍の外方2寸)、15~30㎜直刺する。針は腹直筋→大網→壁側腹膜→内蔵側腹膜→腸間膜→小腸と入ることになる。
中国の文献には、天枢から深刺した場合、下腹から下肢へ引きつれるような針響を得て初めて効果が出ると説明したものがある。大網と臓側腹膜には知覚神経がないことから、この響きは壁側腹膜(体性神経とくに肋間神経)ないし腸間膜刺激となる。なお腸間膜の知覚は迷走神経支配だとする文献があった。 肋間神経を刺激しても下肢への引きつれるような針響を得ることは難しく、この下腹から下肢へ引きつれるような針響というのは腸間膜刺激になるかもしれない。刺針目標が腸間膜だとすれば、かなり深刺が必要だろう。

2)左四満 

       

学校協会教科書の四満は、臍下2寸に石門をとり、その外方5分としている。柳谷素霊著「秘法一本針伝書」では臍下2寸に石門をとり、その左外方1寸の部としているので、ほぼ同じ位置とみなしてよかろう。

素霊は「実証者の便秘には、2~3寸#3で直刺2寸以上刺入して上下に針を動かす。この時、患者の拳を握らせ、両足に力を入れしめ、息を吸って止め、下腹に力を入れさせる。肛門に響けば直ちに息を吐かせ抜針する」「虚証者の便秘には、寸6#2で直刺深刺。針を弾振させて肛門に響かせる。この時患者の口は開かせ、両手を開き全身の力を抜き、平静ならしめる」と記している。つまりは導引と思える技法を併用している。    
四満移動穴刺針は、解剖的には天枢と同様、腹直筋→壁側腹膜→大網→臓側腹膜→腸間膜→小腸と入る。素霊も「いずれも肛門に響かないと効果もない」と記している。解剖学的には前述の天枢と似ている。

尿道に響かせるには、中極から恥骨方向に斜刺するとほぼ確実に響くのに対し、肛門に響かせるには天枢や左四満足から直刺深刺する(再現性が難しい)という区別があるようで興味深い。
なお、中脘の位置は胃と横行結腸の中間あたりになるようだが、横行結腸はぶら下がって位置が移動するため、意図して横行結腸に針で当てるのは難しい。


3.左鼠径部
 
1)秘結穴   


木下晴都は、標準の左腹結(臍の外方3.5寸に大横をとり、その下方1.3寸)では効果が期待されないと記している(「最新針灸治療学」)。木下の取穴は、仰臥位、左上前腸骨棘の前内縁中央から右方へ3㎝で脾経上を取穴すなわち標準腹結より外側になる。3~4㎝速刺速抜する。この刺針は、針先が腹膜に触れるため、約2㎝は静かに入れて、その後は急速に刺入し、目的の深さに達した途端に抜き取る、と木下は記している。
私は、この針は、腸骨筋刺針になるかもしれないと考えた。下行結腸は深部にあるので、仰臥位で刺入するのは困難である。腸骨筋は、意外にも骨盤内で広い体積を占めている強大な筋である。この部に糞塊を触知できる弛緩性便秘の治療に使えるだろう。   


2)左府舎

森秀太郎は左府舎は恥骨上縁から上1寸の前正中線上に中極をとり、その左外方4寸で、鼠径溝の中央から一寸上に左府舎をとるという。寸6#6番針でやや内方に向けて10~30㎜ほど刺入すると、下腹部から肛門に響きを得る(「はり入門」医道の日本社)とある。
郡山七二は、上前長骨棘から恥骨結合までの10cmあまりの鼠径溝から2~3本。3センチ程度入れるとS状結腸に達する(「現代針灸治法録」天平出版)と記している。

下行結腸と直腸は体幹深部にあるが、S状結腸は鼠径部のすぐ下に位置する関係で、脱腸が好発する部にもなっている。左鼠径部からの刺針で、S状結腸に達することができる。


4.仙骨部

直腸性便秘に対して、直腸刺激を考えている。直腸は、大腸の最も肛門に近い部分で、肛門から約20センチメートルの範囲をいう。直腸性便秘は排便は一応正常であるが直腸部に糞塊が残り、常時残便感を強く感じる。

1)会陽刺針の検討
 
結腸~S状結腸は、副交感神経(骨盤神経)により運動支配されているので、S2~S4骨盤神経をねらって、次髎~下髎を刺激してみたが、あまり治療効果は得られなかった。そこで支配神経に働きかけるのではなく、鈍感になった肛門挙筋(体性神経である陰部神経支配)を直接刺激をしたら効果あるかもしれないとの発想から、会陽穴からの刺針で肛門に響かせることを試したことがある。会陽は激は一般的には内痔核で頻用するツボになる。

しかし会陽から体幹上方に直腸の長さとなる10~20cmも刺入することは現実的ではない。したがって直腸壁に直接刺針する方法はないと考えるに至った。

 

 


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