1.モートン病Morton disease の概略
足の5つの中足骨は深横中足靱帯により互いに固定され、足底の横アーチを形成している。横アーチの下には指神経(=固有底側指神経)が縦走し、足指間の知覚をつかさどっている。もし体重に耐えきれず、深横中足靱帯が緩んで横アーチが平旦化すれば、歩行時に床から繰り返し加わる上向きの力によってMP関節の関節包が炎症を興し、指神経は圧迫され、足裏の指部分にピリピリした刺激が生ずるようになる。とくに踵を上げて、MP関節を背屈してのスピードを上げた歩行ではさらに指神経圧迫の程度が増して痛みが強くなる。第3趾と第4趾の間におこることが多く、第2趾第3趾間に起こることもある。
2.モートン病の自験例(63才、男性)
1)発症原因
7ヶ月前、原因不明で右半月板亜脱臼を発症。保存療法により現在はかなり改善している。しかし階段を上る時は健常者と変わりないが、下りる時右膝に不安定感が強く、この数ヶ月来、「二足一段」で自然と下りるようになった。
正しい二足一段というのは、階段を上り下りする足使いの方法をいう。階段を上る時は健側から先に出し、階段を下る時は患側から先に出すのが正しい二足一段である。私の場合、階段を上る時は健常者と変わらない(これを一足一段といい、健常者にみる普通の階段の上り下り方法)が、階段を下る時は健側を先に出すという習慣があった。左健側から下の段に下ろす際、右患側膝の四頭筋は廃用性萎縮があるので、患側四頭筋を収縮させつつ筋長を伸ばすというエキセントリック収縮を円滑に行うことができない。そのため左足は下の段に衝撃を与えて着地するような動きになり、その瞬間に左第4指と第3指裏面がビリビリ・ピリピリと痛み始めた。すなわち左足がモートン病となった。やがて平らな場所を歩く時も、足裏中足指節関節部を背屈させても、ビリッとするようになった。
※エキセントリック収縮:伸張性筋収縮のこと。すなわち筋収縮しつつ筋は長くなる収縮様式。もともとエキセントリック収縮は筋増加を目的としてハードな筋トレでよく使われる。エキセントリック収縮の対義語となるのはコンセントリック収縮で筋は収縮しつつ筋長は短くなる。これは階段を上る時の大腿四頭筋の活動などでみられる。
2)針灸治療
①筋膜性疼痛か?
圧痛点は湧泉から1㎝ほど踵寄りと、第2第3指中足骨間と第3第4指中足骨間にあった。強く押圧すると末梢に痛みが放散した。あるポイントを押圧して末梢に放散する場合、それは神経痛とみなすのが従来の常識なのだが、最近の筋々膜症の知見では、末梢に放散する痛みは、筋膜症によるものだとみなすことになる。上述の圧痛点にしても、筋膜症が原因なのだろう。たとえば梨状筋が殿部坐骨神経を圧迫すると下肢に坐骨神経走行に従った放散痛が生ずる。これは坐骨神経痛ではなく、梨状筋等の臀部筋緊張による下肢放散痛だと考える。というのも、知覚神経は上行性だからである。
②承山への円皮針
自分で足裏や足指間の局所圧痛点に刺針するのは、痛そうなのでやる気になれない。とりあえずネット検索してみると、「針灸陽気堂」の鍼灸師のツボ日記<このツボ! モートン病を疑ったら迷わず承山>の記事を発見。承山の下2㎝あたりの圧痛点にに刺針すると効果があるとの内容だった。
半信半疑ながら、早速自分の承山あたりの圧痛を調べてみると、こよくもこんな処に強い圧痛があるものだと感心するほどの処を3カ所発見した。いずれも承山穴周囲であった。夜も遅かったので、とりあえず円皮針を貼っただけで様子をみることにした。これで効果なければ、翌日に通常の針をするつもりでいた。その後はすぐに就寝。翌朝いつものように家の階段を二足一段で下りてみると、足指にビリッと来ないのを発見した。症状9割減となった。
この下腿後側の反応探索は、椅座位で膝を90度屈曲で実施した。この時下腿三頭筋は、腓腹筋弛緩しヒラメ筋緊張状態にあるので、圧痛の所在はおそらくヒラメ筋だと思った。
③考察
筆者(似田)は、以前<足底筋膜炎>に対しては下腿三頭筋の運動鍼が有効であることを報告した。この内容と同様に、モートン病に対しても下腿三頭筋(この場合、承山やや下方)圧痛点に刺針すると効果があった。すなわち足底筋膜炎とモートン病は同じ範疇の疾患だといえるのではないだろうか。そしてモートン病も神経痛ではなく筋膜症なのではないか。足底筋膜炎の圧痛を探るには足母趾を強く背屈して足底筋膜をピンと張った状態にするが、モートン病の場合も足の第2~第5趾MP関節を強く背屈すると症状が出やすいという共通性がある。
足底筋膜炎の針灸治療
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