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血管性頭痛の病態生理と針灸治療の検討 Ver.2.0

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2011年11月に<片頭痛の病態生理と鍼灸治療の検討>を記したが、その全面改訂版を記すことにした。タイトルも<血管性頭痛の病態生理と鍼灸治療の検討Ver.2.0>に変更した。

 1.三叉神経血管説の整理

片頭痛の病態生理は、なお不明な点は少なくないが、現在では「三叉神経血管説」が最も有力 視されている。これは神経因子(脳の大血管や脳硬膜に分布する三叉神経刺激による痛み)   に加え、血管因子(この血管から放出された血管拡張物質CGPR)による複合性の痛みとして 説明される。この説明は難解だが、簡単に内容を示せば次のようになる。
  
一段目:三叉神経第1枝が中心となる痛みがある。これは神経因子の反応。
二段目:三叉神経血管拡張物質(CGPR)放出することで血管拡張と炎症が生ずるとする血管      因子の反応。

 

2.片頭痛に対する薬物療法の変化
私が30年前に病院勤務だった頃は、片頭痛に対して酒石酸エルゴタミン(商品名カフェルゴット)投与が定石だった。トリプタンが販売されて随分事情は好転した。 

1)従来的消炎鎮痛剤
いわゆる「痛み止め」。片頭痛の痛みは神経因子+血管因子の複合であるが、この神経因子に対する作用のみになる。血管因子に対しては無処置であるから、鎮痛効果に乏しい。

2)酒石酸エルゴタミン
一世代前の片頭痛の特効薬。30年前頃筆者が病院勤務だった頃は、これが定番だった。主成分はカフェインで、これには血管収縮作用がある。拡張しようとしている血管を、拡張させないという予防効果がある。しかし拡張し、拍動性頭痛となった後は、それを改善させるだけの力はない。

3)トリプタン製剤
現在の主流薬。三叉神経終末からの血管拡張物質(CGPR)放出を止める作用がある。すなわち血管因子の痛みの連鎖を停止させる作用がある。拍動性の痛みも鎮痛できる。


3.筆者の片頭痛の針灸治療の変化 

率直にいうなら、緊張性頭痛とは異なり、片頭痛が針灸にくることはマレである。もともと西洋人に比べ、日本人が片頭痛になることは少なく、また発作時は院困難である。片頭痛予防に針灸しようと考えるような周到な者は、医師の薬物療法をうけているからである。
結果的に、数少ない臨床経験から、推論することにならざるを得ない。

1)動脈血管壁刺針

拍動性頭痛期の治療としては、拍動している外頸動脈の分枝を強圧すると数秒間痛みが減少することが知られている。そこで異常拡張を抑える意味で動脈血管壁に対する刺激のが検討されてきた。たとえば浅側頭動脈に対する和髎刺針であるが、大した効果は得られなかった。

その理由は、<三叉神経血管説>によれば、「頭蓋外拍動部が痛むのではなく、痛みは頭蓋内硬膜部の静脈血管やこの血管にまとわりく三叉神経第1枝の興奮の結果として痛む」からであり、そもそも頭蓋外の痛みは病態の本質とは異なるものだからだろう。 
 
2)上部頸椎への刺激

片頭痛の痛みは、神経性因子と血管性因子の複合である。神経性因子に働きかける治療とは、脳動脈に分布する三叉神経の治療をいう。しかし頭蓋内については針灸で直接的にアプローチはできないから、三叉神経-大後頭神経症候群の治療と同じように扱う他ない。
すなわち頸にある上位頸神経(C1~C3)へ刺激を加え、上位頸神経の興奮を取り除くような針が有効だとする見解がある。

ただし痛みの主体である血管性因子について働きかける治療はしていないのだから、治療効果は限定的なものになるであろう。  
 

3)足趾間刺針とグロムス機構刺激 

①上衝による頭痛には足指間を刺激する
筆者が針灸臨床の駆け出しの頃、臨床経験不足を補うために、玉川病院症例検討会の報告資料(先輩達の残した症例報告数千例)を読みあさった時期があった。そして上衝タイプ(のぼせて赤ら顔)の強い頭痛には、足指間の最大圧痛部を刺激すると頭痛が改善したとの報告が多いとの報告が多いことが判明した。

②内侠谿刺針
自分なりに患者の足趾間圧痛を多数調べてみると、足指間の最大圧痛点は、第3趾第4趾間に出現することが多いということもわかった。この圧痛は、侠谿の内側にあるので、筆者はこれを内侠谿と命名した(実際の臨床では内侠谿に限定することなく、足趾間の最大圧痛点を取穴する)。
最大圧痛点にに2~3分間置針するだけで痛みが取れてくることを多数確認できた。
この頭痛に対する効果は、強い頭痛であれば効果があり、弱い頭痛ではあまり効果がなかった。
また針灸が効果あるか否かは、治療時の頭痛が拍動性か非拍動性かに関係し、非拍動性のタイプは有効となる場合が多いように思った。 

③グロムス機構
足趾間の圧痛点に刺針で頭痛が改善する理由は、グロムス機構の機序が考えられる。グロムス機構とは、動脈脈吻合あるいは動動脈吻合部をいう。一般的に血液循環は動脈→毛細血管→静脈と移行するが、全部の血流が毛細血管まで達するのではなく、一部は小動脈から小静脈へとショートカットする。この血行動態の変化を起こす水門に相当するのがグロムス機構である。   
グロムス機構の性質として、例えば1カ所の水門が閉じると、それが全身のグロムスの水門も閉じられるという仕組みがある。つまり足母趾部グロムス水門を閉じると、脳内のグロムスも閉じ、血流減少するという機序が考えられるということである。

 

 

 

 

 

 


へバーデン結節の針灸治療 Ver.2.0

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筆者は2012年8月12日にブログ「へバーデン結節の針灸治療」を公開したが、内容に不備があり、考え方も少し変化したので、  「へバーデン結節の針灸治療 Ver2.0として改訂することにした。

1.ヘバーデン結節の基礎知識の病態  

手指のDIP関節にみる変形性関節症。DIP関節基底部背側中央の伸筋腱付着部を挟んで、2つのコブ(結節性隆起)ができる。骨肥大による変形であり、これをヘバーデン結節と呼ぶ。単発または多発的に出現。閉経との関係が指摘されている。40才以上の女性に多い。語呂:「女は40でへばる(ヘバーデン)」
※ブシャール結節 Bouchard node:手指のPIP関節にみる変形性関節症。
※RAとの鑑別:関節リウマチは、PIP関節を侵すことはあっても、DIP関節は侵さない。

 

 

2.へバーデン結節の症状と経過

1)初期には一時的にDIP関節が左右対称性に赤く腫脹し、自発痛を伴うことがある。DIP 関節の変形進行(関節の狭小化と軟骨の変性)。やや屈曲する。

2)基本的には運動時痛。骨棘形成によりDIP関節が竹のフシのように太くなる。関節の可動 域制限により、手が十分握れない、手がこわばるなどと訴える。 

3)一定時間(3ヶ月~)経過し、ある程度変形が進んで関節の動きが悪くなると、痛みがなくなる者が多い。著しい機能障害を来すことは少ない。


3.一般治療
冷えると痛む場合、温水で指を温める。痛みが強いときは、テーピング(幅20㎜前後テープをDIP関節周囲にぐるぐる巻きにして関節の動きを抑えるなどの一般的治療がある。針灸治療は次のようである。

4.針灸治療
鍉針などで関節部圧痛点を見つけ、3~5のゴマ大灸をすることが多い。圧痛点の所在により何が痛みを引き起こしているのか推定できる。

1)DIP関節基部背面の左右に、へバーデン結節が出現するが、その中点に指伸筋腱が走行している。指伸筋腱の末節骨に停止している部の圧痛点に治療点を求める。    




2)上記部以外のDIP関節部の圧痛は、関節包の痛みを考える。関節包は腱筋につながって関節と連動して牽引収縮されるので運動時痛を生ずる。

3)上記圧痛点へは細針にて浅刺置針または糸状球数壮を行う。その際手掌を上にし、DIPとPIPとも屈曲させた状態で行うと、指伸筋腱が緊張するので、効果増大が期待できる。一般に施術直後は減痛できるが、持続効果は一両日なので、自宅施灸を毎日行わせるのがよい。


5.いゆわゆる突き指について

1)概念
へバーデン結節と同じくDIP関節部の痛みだが、病態は異なる。「突き指」とは野球・バレーボール・バスケットボールなどの球技で、ボールを受けそこなった時や転倒して指を突いた時に発生する指周囲の外傷の総称。診断としては、捻挫、槌指(=マレットフィンガー)、側副靱帯損傷などになる。

2)槌指(ついし)の分類
槌指とは腱断裂のことで、DIP関節が屈曲したままで自力では伸展不能の状態である。槌指は慢性になると痛みはなくなるが、DIP関節が屈曲した状態のままである。

 

 

3)突き指の鑑別と針灸治療

応急処置は、捻挫と同様にRICE(安静・冷却・圧迫・高挙)の処置。外観上の異常があれば整形外科に急送。側副靱帯捻挫や指針腱停止部症の場合、指側面の局所に単刺で速効できることが多い。突き指では「指を引っぱるとよい」というのは間違い。

腓腹筋外側頭の痛む患者の針灸治療

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1.腓腹筋外側頭部が痛む患者

腰殿部に症状はないのに、正座時に腓腹筋外側頭部が痛むという患者の治療を何例か経験した。正座しても膝関節痛はないのだが、この部が痛むという。この部は腓腹筋外側頭のトリガーポイントであろう。
 

 

2.余談:腓腹筋内側頭部の痛み

腓腹筋内側頭部であれば、沢田流内合陽なのに‥‥と残念に思った。ちなみに沢田流内合陽は腓腹筋内側頭のモーターポイントなので、いわゆる筋疲労や一部の坐骨神経痛で圧痛が出やすい。


3.腓腹筋外側頭部が痛む患者の針灸治療



膝窩部の痛みに対しては、伏臥位にて委中附近の症状部に刺針するのが一般的だろうが、この方法では改善できない。膝を90度屈曲位にして出現する痛む局部の硬結に刺針すると、比較的簡単に膝窩痛がとれる。このことは本ブログで報告済である。
※膝窩部の痛みで、そこに筋緊張が確認できる場合、これを「膝窩筋腱炎」という名称をネットで与えることを知った。

腓腹筋外側頭部痛の場合も同様に、膝屈曲位で腓腹筋外側頭部の症状部に、寸6#2程度で軽い手技針を施すと、治療直後から改善することが多い。

膝窩痛に対する委中刺針の体位 Ver 1.4

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1.膝窩部の痛みをとる刺針体位 

圧痛膝痛患者で普通にみられるのは、膝の内側、正面、外側の3つであり、どれも鍼灸はよく奏功することが多い。しかし中には膝窩部の痛みを訴える患者もある。これは施術体位を工夫しないと、治すことが難しい。

一般に針治療は、皮膚および筋層に刺すことを目指している(どちらを意図するかは疾病により異なる)が、膝窩痛の場合、伏臥位で委中あたりに局所治療しても、豆腐に針を刺しているようで、効いている感じがせず、実際に効果もない。

 そこで筆者は、図のような体位にさせて膝窩を押圧することにしている。膝窩横紋上を押圧すると何ヶ所か驚くほど強い圧痛点が発見できることが多く、この圧痛点に、寸6#2~3程度の針で5~10秒間程度の手技を行って抜針している。刺針中、コリに命中している感じがして確かな手応えが得られる。施術後は速効することが多い。私がこの方法を考え出してから後は、むしろ膝窩痛を得意とするようになった。


2.膝窩筋腱炎

ところでなぜ膝窩痛が出現するのだろうか。押圧すると確かな筋のシコリを感じるので、筋筋膜症であろうが、最近ネット上の知見であるが、これを「膝窩筋腱炎」とよぶらしい。
歩行動作では、スムーズな膝関節の伸展と屈曲が必要だが、立脚相では支持脚の膝は伸展位となる。とくに歩幅を大きくしたり、同じ歩幅でも速度を上げようとするほど膝関節は過伸展状態に近づくようになる。この時、膝関節の過伸展を防ぎ、次の膝屈曲動作への弾みをつける役割が、膝腋窩筋だと考えられているという。 

※筆者は、これまで足底筋の緊張だと考えていた。膝窩部において、足底筋は膝窩筋の浅層にあるためである。しかし足底筋は細い筋なので、圧痛があるとすれば委中附近にピンポイントで限局することになる。実際は、膝窩部横紋に沿って、3~4㎝の範囲で数カ所圧痛が発見できる。  



奇経の走行について その1 Ver.1.1

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 1.奇経の諸元
奇経は分からないことが多いが、手始めに奇経八脈の諸元について示し、古典的な語意について若干の解説を加える。



1)下極:体幹の一番下の兪穴。すなわち長強穴。
2)陽脈の海:「海」とは、多く集まる処の意味。すなわち他の陽経と多数連絡する。
3)陰脈の海:他の陰経と多数連絡する。
4)足少陰の別絡:腎経の伴走路。
5)足太陽の別絡:膀胱経の伴走路。

6)経絡の海:脊柱の深部を走行。前方では諸陰経に、後方では諸陽経に交わる。

7)維:大地をつなぐツナ、四隅を引っ張るツナの意。
中国の神話,伝説において,天は大地の四方の果てにある柱によって支えられ,逆に大地は天に結ばれた4本の維(=太い綱)によってぶらさげられていると考えられた。天変地異が起こると、天柱が折れ,地維が切れて,大地が東南に傾いたなどと、大げさに表現することがある。
なお四維とは四方のことだが、東西南北とは違って、東南・西南・西北・東北の方角になる。

8)きょう(足+喬):足関節の外果、内果のこと。奇経は緊急予備用の経で、たとえて言えば、地面なのか川なのか区別がつかないほどの大雨の時のようなものである。こうした大雨の時も、小高い丘であれば、水に埋もれることないので、道しるべとなり得る。それが足の外果や内果である。人間でいえば重度浮腫のような場合である。

9)衝:つきぬける勢い。衝脈は深層を走り、その浅層は腎経が走る。                                                                                                                                                                                                                                                        

10)任脈の絡穴が鳩尾、督脈の絡穴が長強であることについて
  私が針灸学生に経穴概論の講義をする際、学生の興味を引き出すため、「昔の中国人は、人間には尾っぽが2つ有ると考えていたようだ」と話すことにしている。すなわち後の尾は尾骨先端、前の尾は剣状突起である。尾の直下に骨はないので、押圧すると指が沈む。絡穴は、正経では次経と連絡する部位であるが、奇経では深層への出入り口と考えたらしい。

2.ペアとなる奇経の走行図
奇経その走行についての古典的な図は載っていても、詳しく調べようとすると曖昧性が残る。そこで筆者は、東洋療法学校協会編「経絡経穴概論」(旧版)のテキスト記載に基づき、それを現代感覚での図式化を試みた。また奇経八脈は、臨床上は特定の2つの奇経をペアとして組み合わせて治療するのが普通なので、その2経を一枚の図に示した。








3.奇経の規則性について
1)奇経八脈は、帯脈を例外として、下から上に流注する。

2)ペアとなる奇経
陰きょう(足+喬)脈、陰維脈、陽きょう脈、陽維脈の4つは、体幹+下肢を走行するが、任脈、督脈、帯脈、衝脈は体幹のみを走行する。
下肢を走行する経と、下肢を走行しない経でペアをつくる。

3)要穴
 奇経八脈は、それぞれ固有の宗穴をもつ。「宗」にとは、中心・代表といった意味がある。
げき穴があるのは、陰きょう・陽きょう・陰維・陽維の4経で、絡穴をもつのは、任脈・督脈の2経である。

4)体幹部の奇経走行の規則性
体幹前面において、陰きょう脈と陰維脈は、上下の線対称的な走行をする。
体幹背面において、陽きょう脈と陽維脈は、上下の線対称的な走行をする。





足三里刺針、陽陵泉刺針の響かせ方

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1.足三里から深腓骨神経に響かせる方法
 
足三里から刺針し、足首背面方向に響かせようとすれば、仰臥位で膝完全伸展位にて、脛骨粗面の下1~2㎝の部から、脛骨エッジ部から1㎝程度外方を取穴。ベッド面に対して直刺し、前脛骨筋の固い筋層奥にに入ったら、強めの上下の雀啄を行うようにする。このようにすると、ほぼ確実に深腓骨神経に刺激を与えることができる。
要するに、膝完全伸展位にすること、そして標準的足三里位置よりも、脛骨寄りに取穴すること、比較的深刺することなどがコツであろう。

 

 

2.陽陵泉から浅腓骨神経に響かせる方法

1)陽陵泉傍神経刺の発見
 ある時、当院に、陳久性の下腿外側の痛みを訴える患者が来院した。診察すると陽陵泉に強い圧痛を発見できたので、寸6#2で直刺すると、下腿外側に弱い響きを与えることはできたが、症状は改善されなかった。針を太くしても置針しても効果なし。一応坐骨神経ブロック点に刺針もしたが、元々圧痛はあまりなく、効果ないことに変わりなかった。 効果の乏しい治療を何十回も繰り返すうち、仰臥位下肢完全伸展位で、偶然に教科書陽陵泉位置から2㎝ほど足三里方向を取穴し、ベッド面に対して直刺することがあった。
すると患者がびっくりするほど強い針響が下腿外側に与えることができ、始めて症状の軽減せしめることができた。

2)陽陵泉傍神経刺
陽陵泉の局所解剖は、総腓骨神経あるいは浅腓骨神経が長腓骨筋を通過する部である。筆者の行った方法は長腓骨筋に対知る刺針なので、総腓骨神経(あるいは浅腓骨神経)傍神経刺になっている。傍神経刺といえば、木下晴都先生が有名で、先生の「最新鍼灸治療学」を見たが、陽陵泉の傍神経刺については記載ないようであった。

奔豚の病態生理と一症例

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はじめに

昔、日産玉川病院で、漢方薬についての講義を、代田文彦先生直々に、週1回、毎回90分、1年間受けたことがあった。その中で、「奔豚」も学習した。豚がみぞおちで暴れ回っているというユーモラスな名称が面白く、使う漢方薬は黄土湯といって、かまどの土を原料として使うもの。その土も古く直火に長く触れたほど良いというこも面白かった。
ただし奔豚症の患者はめったに来くことがなく、それから30年近くたって、ついに当院に来院したのだった。

1.奔豚とは

奔豚とは、奔豚気病ともいい、胸腹部をちょうど子豚が走り回っているような感じがする者と理解されている。現代でいう、不安神経症で、不安要素が強い人や、ストレスが溜まった者などに多いとされている。しかし、一部の不安神経症で、なぜ奔豚症状が出現するのかという理由は、これで明かになっていない。


2.奔豚の病態生理の一考察

土佐寛順ほか(富山医科薬大学)は、奔豚気症患者に、発泡剤を服用させた後、胃X線検査を試みたところ、奔豚発作が誘発されたことを契機として、胃腔内に送気することで奔豚誘発試験法を考案した。非発作時は交感神経は亢進していないが、奔豚発作時は、交感神経過緊張状態(ノルエピネフィリン分泌亢進、エピネフィリン分泌亢進)する。

要するに次のような一連の病態生理が考察できるという。
体質傾向→交感神経緊張発作→胃部内圧亢進→奔豚症状(胸内苦悶、動悸など)
      ↑
 精神的ストレス   
 
なお、この体質傾向とは水毒症のことで、胃部内圧亢進すると吐水し、すると胃腔内圧が下がって奔豚は起こらないが、吐水できない状況で奔豚が惹起されるともいう。
なお土佐らは、奔豚症状に対して、苓桂味甘湯を投与して症状軽減したという。


3.機能性ディスペプシアと横隔膜反射

胃部内圧亢進は、機能性ディスペプシア(FD functional dyspepsia)と考えて差し支えないと思う。
胃潰瘍所見がないのに、胃症状を訴える者をFDというが、FD自体は、ありふれた病態である。胃内圧亢進が、特異的に奔豚を生ずるためには、横隔膜反射の過敏性が関与するのではないか、と筆者は考えている。 
 
ただ針灸来院時には奔豚発作が起きていないのが普通なので、針灸治療が、奔豚にどのように影響を与えるのか観察できない。


4.症例  T.M. 45才男性    
 
期外収縮が1日数回起こり、そのたびにドッキンドッキンという動悸がする。医師は、心配不要として様子観察状態。左乳頭と胸骨間に圧痛と、両背部Th1~Th5の高さの起立筋に緊張あり。

心臓に対する内臓体壁反射帯として 第1~第5胸骨傍の肋間筋と、Th1~Th5起立筋に10分置針.。横隔膜辺縁過敏による肋間神経反応を反応を考慮して、下部肋骨~上腹部反応点にも同様治療。、および同部の乾吸治療5分実施。
 
2回目以降の経過。
針灸するとしばらく奔豚発作は起きない。ただしつらいと思う症状は、大胸筋上部~左乳頭周囲前面~心窩部~上腹部と、転々と移動。背部は前胸部と比べて症状は弱いが、後頸部~中背部の間の筋部を移動している。
 
発作が起こると当院を受診するが、そのたびにしばらく症状が治まっている。初診以来3年が経過したが、現在でも2週に1回ないし月1回来院中である。

 


余談:豚と猪

奔豚という用語は、『金匱要略』が初見である。金匱要略は2世紀~3世紀初に、中国で書かれた。当然ながら中国語である。ところで奔豚の「豚」とは、今日我々がイメージする豚と同じものだろうかという疑問がわいてきた。

豚肉を中国では猪肉という。日本に不慣れな中国人が、スーパーでまず戸惑うのが、この「豚肉」という表記であろう。猪は元来野生であるが、人間の食料に叶うよう、育ちが早く、肉量も多くなるように品種改良され、わが国では豚とよばれるものになった。ただし中国では、ずっと猪という漢字が使われている。ちなみに日本でいう猪は、中国では野猪という言葉になる。

豚という文字は、肉+豕(いのこ)からなるが、「いのこ」の別称は「いのしし」である。
中国で、豚という漢字は、もっぱら河豚(ふぐ)で用いられるのが普通である。ただ、海豚(いるか)という熟語もある。すなわち、ずんぐりした形の動物が、豕(いのこ)だするイメージがあるらしい。

奔豚の豚とは、まるまる太った猪という意味があるが、猪なので、きっと動きは敏捷なのだろう。

 

 

 

 

舌痛症の針灸治療 Ver.1.2

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1.序

以前、<東洋医学の穴>を主催しているマサさんから、「今度針灸のQ&Aという企画を始めるので、とりあえず舌痛症の針灸治療について何か書いて欲しい」との連絡が入った。私の針灸臨床歴もそこそこ長いが、舌痛症の患者とは出会ったことがない。当然針灸治療について考えたこともないのでお断りした。しかし私の祖母(故人)が舌が痛いといって熱心に病院に通ったが、一向に良くならかったことを思いだし、その後から舌痛症について、その疾患自体とその鍼灸治療につい調べてみた。  

2.舌痛症の概要

1)自覚症状

舌の「ヒリヒリ」、「ピリピリ」した痛みやしびれるような感覚が何ヶ月も何年も続く。舌の外見的異常はなく、諸検査でも異常ない。食事で口中に食物が入ると痛みを忘れるという特徴がある。
 
2)原因

貧血(鉄欠乏性、悪性)、亜鉛欠乏症、齲歯周囲炎、口腔内乾燥(シェーングレン、薬剤性)、糖尿病性など原因究明できるものが全体の1/4。狭義の「舌痛症」とは、それ以外の3/4を占める心因性ないし原因不明のものをいう。
歯科治療などが契機となり、一時的な舌へのこだわりが長く続くことで知覚神経の回路が混線が生じているためだと解釈されるようになった。

3)舌痛症の現代医学治療
舌痛症の痛みは、幻肢痛と同様、抗うつ薬(SSRI)によって軽減あることが証明された。抗うつ薬を服用すると、早ければ4~10日目で舌の痛みが緩和し、理想的に治療が進展していけば、3~4週間後には痛みは7割方改善するという。

3.舌痛症の針灸治療(私見)
もし抗うつ剤投与により、比較的簡単に舌痛症が改善するのであれば、針灸を訪問する必要はないであろう。治らない患者は結構多いのである。現代医学の知識では、舌の問題ではなく、脳の問題だとしているので、以下に示す針灸アプローチが通用するか否か不明だが、ネット検索しても現代針灸の治療法は載っていないようなので、僭越であるが書いてみることにした。

1)舌の知覚は、前2/3が三叉神経第3枝の末梢枝である舌神経が支配し、後1/3は舌咽神経が支配している。ゆえに舌痛の直接的な原因は舌神経の興奮と考えられる。
※味覚は、舌前2/3が顔面神経、舌後1/3が舌咽神経支配。
 
2)舌骨上筋群の緊張過多が、舌神経を刺激し、舌痛を生じていると捉えれば、舌骨上筋を触診し、そのコリを緩めるような刺針をすることが重要になる。上廉泉穴から顎二腹筋前腹に直刺すると、次いで顎舌骨筋→オトガイ舌骨筋→舌根部付近に刺入できる。
※上廉泉穴(新穴)の位置:前正中の舌骨直上に廉泉を取穴。その上方1寸。

4.舌痛症の治験(追記)

先に私は、これまで舌痛症の治療をしたことがないと書いた。しかしこのブログを見として、数週間前に来院した患者(58才、女性)がいた。

1)主訴:右舌縁痛、右上歯肉痛

2)現病歴

9年前、歯科で上奥歯を抜歯後から上記症状出現。一日中、安静時も痛む。
いろいろ薬も服用したが、満足できる効果はなかった。神経ブロックも何回か行ったが無効。

3)所見

舌所見、歯肉など、口内に異常は発見できない。右大迎の咬筋の圧痛(+)、右顎二腹筋の圧痛(+)、上承漿圧痛(-)

4)考察と治療

これまで私の舌痛症というと、舌先痛を念頭においていたので、上廉泉から、舌根部に向けて刺針するという方法がよいと考えていた。しかし本症は舌縁痛ということなので、上廉泉刺針の適応はない。そもそも上廉泉に圧痛はなかった。

舌の前2/3の知覚は舌神経(三叉神経第3枝の分枝)、舌の後1/3の知覚は舌咽神経なので、本症は舌神経の神経痛が考えられた。なぜ舌神経を刺激するには、下図のように、大迎から下骨内縁に刺針する。要するに、「素霊の下歯痛の一本針(頬車水平刺)」のようなことを行うことにした。初回なので、寸6#2で10分間置針とした。
上歯痛抜歯をきっかけとして生じた、舌神経痛だと解釈したからであった。あるいは下歯槽神経やその分枝だえる舌神経興奮が、二次的に内側翼突筋緊張をもたらしたのだろうか。



他に、クルクミントローチ服用するよう指示した。
クルクミントローチはネット上で口内炎の治療として有名になっている。されている。クルクミンとはウコン、すなわちカレーの黄色の成分である。1日(3粒)~2日(6粒)で、殆どの患者が治癒するという。クルクミンは医薬品ではなく、機能性食品なので通販などで購入できる。なお口内炎に対して有効ということであるが、とくに舌痛症に対する評判はないようであった。


5)第二診(初診3日後)
症状不変。クルクミントローチ注文したとのこと。
前回訴えていなかったが、右上歯肉痛もあるとのこと。そこで木下晴都の上歯痛の傍神経刺を追加実施。素霊の下歯痛の一本針は継続実施。ただし使用は2寸#4とし、30分間の置針パルス通電とした。

6)第三診(初診7日後)
嬉しそうに「症状2割減」と話した。こんなに楽な感じとなったのは珍しいとのことだった。使用針中国針の2寸#8で、40分間置針パルスとした。クルクミントローチは昨日から服用開始しているとのこと。家庭用低周波治療器を購入して、自分で低周波治療を随時行ってみることを提案した。

一般に症状2割減というと、有効だったとの判断はされにくが、9年来の一日中痛む症状であることを考慮すると、針灸治療は、一定の役割があったといえる。

※ただし不完全である。舌痛症は、舌粘膜の知覚刺激過剰をいい、痛みの主体は、舌神経なのだが、鼓索神経(顔面神経の分枝、舌前2/3の味覚支配)や副交感神経線維も関与するという。これらの知覚神経の混線が問題だとする見解もあり、舌痛症の病態を複雑にしている。 

 

 


平成26年秋の「現代針灸科学研究会」開催のご案内

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今回のテーマ:足部症状と産婦人科疾患の効果的な針灸治療 

 「お互いに刺激しあう」という趣旨で、小規模ながら、すでに十年ほど針灸研究会を開催しています。基本的に「原稿の読み上げはしない」で、討論中心でいくことにしております。なおこれとは別枠で、聴講者として新人鍼灸師、針灸学生参加もOKです。

1.日時:平成26年11月16日(日曜)午後2時~5時30分
2.場所:JR国立駅南口下車、徒歩3分。国立中(なか)1丁目集会場(下記地図参照)
3.参加条件:臨床鍼灸師 
4.参加費用:2000円(ドリンク付き)当日払い
5.懇親会:希望者のみ午後6時~ 国立駅前の飲み屋 実費(3~4000円)当日払い
6.参加申し込み:似田 敦(にただ  あつし)(主催者)までご連絡ください   
         電話:042(576)4418   メール:nitada25@yel.m-net.ne.jp  
7.お申込み締め切り:11月6日 ただし規定人数に達した場合は、その時点で締め切り。

<当日の進行>
1.午後2時~3時   
 1)足部症状の基本的事項確認のための講義(15~20分間) 
 2)足部症状の針灸治療に関する討論会‥‥司会進行:似田 
     ※足底筋膜炎、踵脂肪褥炎、足根管症候群、外反母趾、慢性足関節捻挫など
2.午後3時15分~午後4時15分
 1)産婦人科疾患の基本的事項確認のための講義(15~20分間) 
 2)産婦人科疾患の針灸治療に関する討論会‥‥司会進行:似田 
3.午後4時30分~午後5時30分:フリートーキングおよび実技 
      ※上記の「基本‥‥講義」は、若手加者中から人選し、お願いするつもりです。

  

 主催:あんご針灸院院長、東洋鍼灸専門学校非常勤講師  似田 敦 

当ブログにようこそ

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                 「現代医学的鍼灸治療」に、ようこそ

   ご関心のある方は、長年にわたり、諸先生がたの治療文献をたよりに勉強してきたが、針灸臨床を始めて28年(平成18年現在)が過ぎた現在、自分なりの針灸治療も確立しつつあるように思う。単なる知識の受け売りにとどまらず、自分なりの見解をつけ加える内容にしたいと考えている。記す意味は、これまで世話になった諸先輩への御礼、および真摯に針灸を研究している先生がたのご参考に供することにある。本ブログは、平成18年3月10日から配信開始している。

※ブログのこの稿を見て、「日付が違っている」と連絡している人がいます。しかしこれば、このページが最初に来るようにした一つの工夫で、意志的にやっていることです。ただしこのページ以外のブログの日付は正確です。

 ブログ原稿で、現代針灸系の下地は、私著「現代針灸臨床論」Ⅰ・Ⅱにあります。本書のCD版は、好評にて発売中です。御購入希望の方は、この画面左下ブックマークにある「あんご針灸院ホームページ」をご覧下さい。

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五十肩拘縮期の関節モビリゼーション技法

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拘縮期の五十肩に対しては、鍼灸治療であっても、あまり効果的な方法がない。肩関節癒着には無効なのであって、治療の中心は関節モビリゼーションや運動療法(アイロン体操や棒体操など)におかざるを得ない。  

1.モビリゼーション

1)モビリゼーションとは
モビリゼーションとは、整体手技の一種で、瞬間的矯正をかけることなく、関節に細やかな運動を繰り返し与え、硬直した関節部分を動くように回復させたり、痛みを軽減させるテクニックのことをいう。関節モビリゼーションともいう。
 
2)癒着をゆるめ、肩関節腔を拡大する手技 
凍結後であれば通常の針灸では治療法に乏しく、ROM拡大を目的とする手技療法が主体となる。下方関節包が短縮していたり、腱板の骨頭を関節窩に引きつける求心力が低下している場合、自動運動で上肢を挙上すると、骨頭の下方移動が障害され、上腕骨頭を包む腱板と、これを上方から覆う烏口肩峰アーチと衝突が生じ、運動痛を誘発したり、この部分の炎症を生じさせる。
この衝突を避けるため、上肢の長軸に沿った遠位方向への牽引力もしくは徒手的に骨頭の下  方移動を働かせながら可動域を拡大する方法が考案されている。

 

 

 2.筆者の工夫した徒手矯正手技
  
肩関節腔を拡大する手技として、以前筆者は、「側方引き出し運動」を参考に、下写真の手技を考案した。十年ほどこの方法を実践していたが、」肩関節腔拡大に作用する力の効率が低く、何らかの工夫が必要だった。 

 

 

現在は、下図のような肩関節腔を拡げる手技(下図)に変更している。本法は、森ノ宮鍼灸学校にある「はりきゅうミュージアム」(同校ホームページ内で紹介)。にある資料で、江戸時代の華岡青洲らが行っていた肩関節脱臼整復法に準拠している。ただし肩関節脱臼とは異なり、ゆっくりと持続的な間歇的牽引10~20回程度行う。柔道の「一本背背負い」に似た肩関節脱臼の整復法を発見した。なお本法を、凍結肩拘縮期のモビリゼーション法として応用するには、一気に強い力で肩関節口腔の拡大を図るのではなく、徐々に牽引力を強める必要があろう。という早速実践してみるとテコの原理を利用しているので、術者側は非常に行いやすいこが判明した。

五十肩拘縮期の関節モビリゼーション技法

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拘縮期の五十肩に対しては、鍼灸治療であっても、あまり効果的な方法がない。肩関節癒着には無効なのであって、治療の中心は関節モビリゼーションや運動療法(アイロン体操や棒体操など)におかざるを得ない。  

1.モビリゼーション

1)モビリゼーションとは
モビリゼーションとは、整体手技の一種で、瞬間的矯正をかけることなく、関節に細やかな運動を繰り返し与え、硬直した関節部分を動くように回復させたり、痛みを軽減させるテクニックのことをいう。関節モビリゼーションともいう。
 
2)癒着をゆるめ、肩関節腔を拡大する手技 
凍結後であれば通常の針灸では治療法に乏しく、ROM拡大を目的とする手技療法が主体となる。下方関節包が短縮していたり、腱板の骨頭を関節窩に引きつける求心力が低下している場合、自動運動で上肢を挙上すると、骨頭の下方移動が障害され、上腕骨頭を包む腱板と、これを上方から覆う烏口肩峰アーチと衝突が生じ、運動痛を誘発したり、この部分の炎症を生じさせる。
この衝突を避けるため、上肢の長軸に沿った遠位方向への牽引力もしくは徒手的に骨頭の下方移動を働かせながら可動域を拡大する方法が考案されている。

 

 

 2.筆者の工夫した徒手矯正手技
  
肩関節腔を拡大する手技として、以前筆者は、「側方引き出し運動」を参考に、下写真の手技を考案した。十年ほどこの方法を実践していたが、術者が苦労して上腕を引っぱっている割に、肩関節腔拡大に作用する力の効率が低く、何らかの改良が必要だと考えていた。 

 

 

3.江戸時代の肩関節脱臼整復法の応用

現在は、下図のような肩関節腔を拡げる手技(下図)に変更している。本法は、森ノ宮鍼灸学校にある「はりきゅうミュージアム」(同校ホームページ内で紹介)。にある資料で、江戸時代の華岡青洲らが行っていた肩関節脱臼整復法に準拠している。ただし肩関節脱臼とは異なり、ゆっくりと持続的な間歇的牽引10~20回程度行う。柔道の「一本背背負い」に似た肩関節脱臼の整復法を発見した。なお本法を、凍結肩拘縮期のモビリゼーション法として応用するには、一気に強い力で肩関節口腔の拡大を図るのではなく、徐々に牽引力を強める必要があろう。早速実践してみるとテコの原理を利用しているので、術者側は非常に楽であることが納得できた。

咽頭痛に対する局所刺針と合谷皮膚刺激

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1.咽頭痛に対する局所刺針

下咽頭知覚(舌骨~喉)は上喉頭神経内枝興奮の結果なので、この部に対する刺針をすると効果がある。筆者の日常的治療は、咽痛の対象治療点は上喉頭神経内枝が甲状舌膜から出る部を治療点と定め、寸6#2程度の針で2㎝前後直刺し、咽に響かせる。

 

 2.柳谷素霊の咽痛に対する合谷刺針技法

咽痛に対する遠隔治療としては、柳谷素霊の「秘法一本鍼伝書」には、合谷浅刺多数刺が知られている。※一本鍼伝書では、「喉の鍼」として紹介されているが、喉頭症状とは咳嗽や嗄声であって、痛みとは異なる。ゆえに「咽の鍼」とするのが正解だろう。 

1)取穴:直径1寸3分位の丸竹を患側に握らせた状態で、第1中手骨と第2中骨の底間の硬結下際部に合谷をとる。

2)体位:正座させ、両手を膝上大腿部に置き、腹部に力を入れされ、健側の手も強く握らせ、かつ全身に力を入れるように指示する。

3)刺針:寸3#2を使用。針先をやや上方硬結様横絡の下縁に入れるように傾斜させて刺入。刺針深度は1分くらい、深くとも1~2分以内。細刺術、すなわち反復的に皮膚に刺針、そして直ちに入れ直す。皮膚が発赤するまで行う。

4)針響:針先が皮膚に触れて直ちに針響が上腕の方に感通することがあれば、それ以上深く刺さない。そうならない場合、徐々に刺すか、抜いてやり直す。針響が前腕に響くか、またはさらに上腕に上り、咽喉に達すれば成功。喉に至らなくても、反復刺針し、穴部が赤潮し、または軽く血滲むようになれば、喉病患は軽減する。ことに扁桃炎に効あり。

 

 

3.合谷皮膚刺激に対する筆者の見解

柳谷素霊の一本鍼伝書の技法は、深刺するものが多いが、「喉の鍼」に限っては浅刺多数刺している。合谷部の皮膚は手背~指背においては、特異的に橈骨神経皮枝の固有支配なので、この神経を刺激することが意味をもつのかもしれないと考えている。

合谷部の筋は、表層筋が第1背側骨間筋、深層筋が母指内転筋だが、ともに尺骨神経支配なので、橈骨神経支配である皮膚の刺激でなくてはならない理由があるのかもしれない。
合谷部皮膚刺激で有名なのが、桜井戸の灸(面疔に対する合谷多壮灸)だが、柳谷素霊の合谷浅刺多数枝との共通項とは、口~咽喉部の血行を盛んにするという共通項があるように思う。 

※桜井戸の灸については、多って、当ブログ内<桜井戸の灸について ver. 1.2 > 参照のこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調節性眼精疲労に対する針灸治療の考察 

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1.機能性眼精疲労の分類
機能性眼精疲労の原因は、次の2つに分類されるが、調節性眼精疲労の方が主なる原因であるとされている。

1)調節性眼精疲労(=内眼筋障害) 
毛様体筋の疲労による。毛様体神経節は、目の焦点を合わせ、虹彩の開き具合を調整する機能がある。眼精疲労は、この毛様体神経節および毛様体筋の疲労であると考えられる。 

2)筋性眼精疲労(=外眼筋障害)
輻輳(=より目)不全、斜視による。左右の眼の動きの不統一。                


2.調節性眼精疲労と毛様体筋

瞳孔括約筋は、虹彩の内周にある。巾着袋のような作用で、筋緊張すると口が狭まり、縮瞳になる。瞳孔散大筋は、虹彩の外周にある。瞳孔括約筋と逆で筋緊張すると虹彩が開き、散瞳になる。

遠見時:毛様体輪状筋が弛緩して輪が広がる → チン小帯はピンと張る→ 水晶体は引っ張られて薄くなる。
近見時:毛様体輪状筋が緊張して輪が狭まる → チン小帯が緩む→ 本来もっている性質により、水晶体は厚くなる。

 

 

3.調節性眼精疲労の針灸治療

1)調節性眼精疲労は副交感神経緊張によるのものだろうか?

眼精疲労を訴える患者に対し、伏臥位で天柱から深刺手技針を十数秒間行なった後、患者は「目がすっきりし、外界が明るく見える」などの喜びの声をあげることは、日々の臨床で普通にみられる。ただ筆者は昔から、「外界が明るくなった‥‥」という返答から、虹彩が開いた状態になった、すなわち交感神経緊張状態になったと理解すべきかどうかを悩んでいた。
常識的に考えれば、ストレス→交感神経緊張→眼精疲労という機序の改善は、副交感神経緊張状態に誘導すべきだと考えがちなのだが‥‥

2)調節性眼精疲労の機序の考察 

①成書には調節性眼精疲労は、副交感神経緊張→毛様体筋収縮→水晶体厚くなるという機序が載されている。これは一見すると意外で、交感神経緊張の間違いではないかと考えがちである。

しかし考えてみれば、本来、人間は近くを見ているとき、リラックス状態をつくっている状態に る。というのは原始時代、人間は仕事として獲物を狩り、そして狩ってき食料を住居で食べて生するという形をとってきた。そのため、遠くにいる獲物を探したり、狩るときは交感神経が優位なり、家の中で家族とご飯 を食べている時は副交感神経が優位になることが正常な自律神経サクルだったのだろう。

副交感神経緊張→毛様体筋収縮→水晶体厚くなるというのが調節性眼精疲労であるなら、これは毛様体過緊張による仮性近視状態になっているともいえる。この状態での対処法として、凸レンズめがね(=老眼鏡)をかけてみるのも一つの方法である。凸レンズめがねを使うと、水体が以前より厚くなる必要がない→毛様体筋収縮緩和→眼精疲労改善という機序になる。
(以上、さくら眼科 院長とスタッフblog )

②天柱深刺で眼精疲労がとれる機序は、身体を交感神経緊張状態に誘導した結果だと考える。わが国の習慣として、気合いをいれて物事に取り組もうとする時、ハチマキ巻くことがある。こも交感神経緊張どを高める方法として広く知られている。こめかみにメントール軟膏を少々塗って、眠気を防ぐのも同様である。
 
 

眼窩内刺針が刺激対象とするもの

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1.はじめに
眼科疾患に対する治療で、古くから上下の眼窩内刺針という技法が存在している。この刺針は、治療効果を論ずる以前の問題として、眼球を傷つける懸念、皮下出血しやすい部であること(軽い場合は瞼に皮下出血斑をつくる。ときには瞼が腫れあがる)、施術に対する患者の恐怖感があることなどから、施術するのに躊躇する部位となっている。

実際に臨床に用いるかという問題はさておき、理論的にどういう意味があるのかを整理してみたい。

2.上眼窩内刺針 

1)魚腰(奇穴)
位置:眉毛中央。正視するとき瞳孔の直上。
刺針:内方に横刺する。
解説:三叉神経第1枝の分枝である眼窩上神経刺激になる。正中から外方2.5㎝外方の眉毛上に眼窩上神経ブロック点がある。
 
2)上眼窩内刺針 
位置:眼球と上眼窩の間隙。具体的には瞳孔線上、瞳孔線の内眼角寄り、瞳孔線の外眼角寄りの3つの方法がある。
刺針:閉眼させ、細針にて静かに直刺。1~2㎝刺入。置針。
解説:深刺すると上眼窩裂内に刺入できる。

①上眼窩裂刺
睛明の上からの眼窩内に非常に深刺すると、上眼窩裂刺針になる。上眼窩裂とは、眼窩底の内方にある穴で、ここから三叉神経第1枝、動眼・滑車・外転神経、眼静脈も出る。
※郡山七二は、眼窩内刺針には、鎮静作用もあると記し、鎮静法として内眼角付近からの眼窩刺針を第一に推薦している。(郡山七二「現代針灸治法録」天平出版)

②上眼瞼挙筋刺
※上眼瞼挙筋(動眼神経支配)は、上眼瞼を挙上させる働きがある。本筋は眼瞼腱膜を介して眼瞼板につながっている。上眼瞼挙筋の腱膜が剥離すると、後天性腱膜性眼瞼下垂になるが、一説によれば老化などで眼瞼挙筋が伸びて弛んだ状態になっても眼瞼下垂となるとされる。この場合、上眼窩内刺針をする意義がある。もっとも専門家は、眼瞼挙筋に対する刺針や、その拮抗筋である眼輪筋に対する刺激は無効だと判断しているようだ。

③涙腺刺激
外眼角と眉の間部の眼窩内に涙腺がある。外側からの上眼窩内刺では、涙腺を刺激できる。
※ドライアイは、涙腺分泌減少によるものではなく、マイボーム腺からの脂分泌が減少すため、眼球表面に分布した涙の蒸発量が増加するためだとされる。涙腺直接刺激はあまり価値がない。


3.下眼窩内刺針 

1)毛様体神経節刺針
歴史と意義:毛様体神経節刺針法とは1979年、中村辰三氏が発表した。毛様体神経節は副交感神経性の神経節(眼の栄養、分泌、疲労回復などの機能)であることから、この部への刺針を試みる価値があると推測した。実際に試みると、針治療により急速に視力が改善するという。針治療が眼底出血に有効である症例があったとの治験も得たという。
刺針技法:眼耳水平面(眼窩下縁の最低点と耳孔最上部を結ぶ面)から、上向き角度約30度、正中面に対する内向き角度約30度で、眼窩下縁と外側縁の交点から、眼球の後方に向けて約3.5㎝内側上方へ刺入。1号針を用いた10分間置針。軽く雀啄後に抜針。


 

2)球後刺針
位置:外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さ。
刺針:眼窩内に直刺、その後針尖を上内方に少し向け、視神経孔方向に刺入。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚える。針の刺入時の注意は睛明の刺針と同様。
解説:球後とは、眼球の後という意味がある。中国では内眼病の治療穴として用いられる。
※深刺すると下眼窩裂に入ると思うが、下眼窩裂が眼窩下神経(三叉神経第2枝の分枝)が通る部であって、臨床上は眼窩下孔(=四白)刺激と同等の価値があると思う。したがって、三叉神経第2枝の興奮時に使えるであろう。 


 


肩関節の結帯動作制限に対する針灸治療

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1.はじめに 

結帯動作は肩関節の複合動作なので、障害原因を探ることも複雑になる。そこで、かつての筆者の針灸治療は、結帯動作制限の原因を分析することなく、結帯動作をさせた際に生じる圧痛点部の筋に問題があるとして、そこに刺針施灸するという方法を行っていた。しかし結帯動作をさせ て生ずる痛みの発現部は、肩関節前面だったり後方四角口腔部だったり、上腕外側に縦状に放散 したりと、さまざまであって法則性を発見することが難しかった。
  
このような知識は運動学に含まれるものだと思うが、さすがに理学療法士らの研究報告に興味 深いものが多く発見できた。今回は、それらの研究論文の中から、針灸治療にとって価値あるものを取り上げ、自分の臨床経験を重ねあわせて紹介する。 


2.結帯動作制限時の外旋筋の伸張痛 
  
五十肩では外転時痛とともに結帯動作時痛が生じやすい。結帯動作は、肩の伸展+内転+最大内旋の複合運動障害であるが、肩の伸展筋・内転筋・内旋筋の筋力が低下しているのではなく、その動きの拮抗筋が緊張し過ぎた結果で生じている。
※ちなみに結髪動作=肩の屈曲+外転+最大外旋

したがって結帯動作制限に荷担している筋は、屈曲筋である三角筋前部線維、外転筋である三角筋中部線維と棘上筋、外旋筋である棘上筋・棘下筋・小円筋になる。とくに内旋運動の障害が強いので、棘上筋・棘下筋・小円筋を注目したいが、運動分析的には棘下筋と小円筋緊張が結帯動作制限に強く関係しているという。

 

2.二つの内旋肢位と伸張筋
 
内旋運動には、下図のように2つの方法があるが、筋の起始停止の位置関係から、第1肢位での内旋制限は、棘下筋の過緊張によるものであり、第2肢位内旋制限は、小円筋の過緊張によるものであるという。

  

 

 

1)棘下筋刺針
  
結帯動作により棘下筋のトリガーが活性化すると、棘下筋部だけでなく、上腕外側や上腕前面に広範囲に運動時痛が生ずる。このような場合、座位で第1肢位内旋をさせて症状出現させた状態で、天宗あたりの圧痛点に刺針すると内旋痛が改善することが多い。
  
上腕外側の痛みは、外側上腕皮神経痛と考えがちで、この部から水平刺の皮膚刺激を行っても、 治療直後しか痛みを減ずることはできないので、本質に迫った治療とは言い難く、この場合、天宗圧痛点に刺針すると改善できることが多い。

  
 

2)小円筋刺針
  
座位で第2肢位内転姿勢をさせると、後腕付け根あたりに痛みを訴えることが多い。ただしこの痛みは不鮮明なので、施術者は意識的に、小円筋の停止部圧痛を見出して刺針する必要がある。 刺針すべき場所は、第2肢位内転姿勢にさせ、て肩髎穴(三焦経、肩峰の後下端)から肘方向に1寸ほどの部になる。 

フルート練習過多による指の屈伸障害が、「バネ指の針治療」で改善した例 

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1.フルート練習過多による指の屈伸障害に対する針灸治療 

51才女性。かつて音大でフルートを学習していた。最近、久しぶりにフルートの演奏会をす るということでフルートの猛練習を開始した。すると指のすばやい屈伸動作を行おうとすると、 両側の示指と中 指の指がつった状態になるという。どうにかしてほしいということで当院受診。このような訴えは筆者も初めてだったので、次のような順番で治療にトライした。

1)指間針は無効
   
患部に最も近い刺激という意味で示指・中指間の腰腿点刺針し、指の屈伸自動運動を行わせるも無効たっだ。

考察:手背側から指間基部刺針は、背側骨間筋(指の閉扇)→掌側骨間筋(指の開扇)刺激(さらに深刺すると虫様筋(DIP伸展)にも刺針)になる。本患者の訴える指の屈曲動作とは直接的な関連は乏しいのだろうか。
このように考察し、さらには次のような着想を得た。腰腿点刺針は、軽くグーを握る肢位で行うことが多いと思うが、そうではなく、指を伸ばした姿勢で刺針し、指の開扇・閉扇運動を行わせた方が腰痛治療に効果があるのでは?

2)指の井穴刺絡も無効

考察:一般的に糖尿病性末梢神経障害にともなう下肢末端の知覚鈍麻に対し、鈍麻指端から刺絡すると、一過性ではあるが、指先の知覚が復活して歩きやすくなることが多いが、今回は無効だった。神経症状には井穴刺絡は効果あるが、筋腱症状には効果が乏しいということだろうか?

3)「ばね指」としての治療で有効
 
指の屈曲障害という点で、本症はバネ指に似ていると思った。しかも第2第3指のMP関節に腱腫瘤がないだけ、バネ指よりも治療に反応しやすいのではないのか?
 
霊道の上方1寸の心経上の陥凹部位を刺針点とし、2寸4番針にて浅指屈筋・深指屈筋に向け 、斜刺1寸。刺針した状態のまま、軽い指の屈曲運動を数回実施して抜針。これで随分とスムーズに指が動くようになったが、もっと完全に治したいとのことで、同様の治療を中国針8番を使って実施。さらにスムーズになったととのことだった。


2.バネ指の病態生理と鍼灸治療のまとめ



1)浅指屈筋と深指屈筋は指屈曲作用
指を曲げるのは、浅指屈筋と深指屈筋の作用で、浅指屈筋はPIP屈曲作用、深指屈筋はPDP屈曲作用がある。ただしPIPやDIPの動きは律動的腱 固定とよばれ、ヒトが意識しなくても素早い動きが可能であって、このれがピアノやギターの素早い指の動きを可能にしている。この浅指屈筋と深指屈筋は、バネ指を起こす原因筋として知られている。

2)バネ指の重症度分類

第1期  安静
MP関節の手掌側に痛みや圧痛があり、指の運動時痛がある。バネ現象はなく関節の動きも正常。日常生活にほとんど支障がない。このまま自然治癒することもある。治療は安静。
  
第2期 腱鞘内への注射(局所にステロイド+局所麻酔剤)で9割に効果あり。
①バネ現象陽性
指が一定の角度に達すると、自動運動が障害され、これを自動的・他動的に強制屈曲させる時には、弾撥性に屈曲するかろうじて指は屈伸できるが、曲げた指がスムースに伸びない現象。重度バネ指でなければ、無理に伸展させると、轢音を発し、完全伸展可能。
   
② モーニングアタック出現
夜間就寝中に、無意識に指を屈曲するせいか起床後に指を再伸展させる際に強く痛む。
→これに対して、夜間は指の添え木固定するとよい。
    
③ MP関節掌側部の圧痛・運動痛。腫瘤を触知
  

第3期 輪状靱帯の開放手術。
指の屈伸が全く出来ず、自力では指を動かせない状態で、非常に支障をきたす。 


3)筆者の第2~第5指バネ指の針灸治療(再録)   

MP関節屈曲は虫様筋、PIP関節屈曲は浅指屈筋、DIP関節屈曲は深指屈筋が作用する。第2~第5指のバネ指は、浅・深指屈筋腱にできた結節が、両腱共通の輪状靱帯を通過できない結果である。もし浅・深指屈筋が弛緩・伸張した状態では結節が腱鞘に入らなくても指伸展が可能となる筈だと考え、心経の霊道(神門の上方1.5寸)の上1寸あたりを刺入点とし、浅指屈筋または深刺屈筋中に至る斜刺を行う。
置針した状態で、母指を除く4指の屈伸運動といった運動針を行わせる。 

※母指バネ指の治療は、列缺上方1寸ほどのところから、長母指屈筋に向けて斜刺。母指屈伸の運動針を実施。

 

「ぶどうの丘」日帰り旅行会のお誘い(平成27年5月5日)

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年2回、春と秋に<現代鍼灸科学研究会>を開いてきましたが、平成27年の春は、趣向を変えて旅行会に変更してみました。次の要領で行います。

「ぶどうの丘」日帰り旅行 天空の湯と180種のワイン試飲

日時:平成27年5月5日(祝日)、午前11時  

場所:中央本線「勝沼ぶどう郷」駅集合 
(参考) 
①ホリデー快速ビューやまなし号:
新宿駅9:02発→立川駅9:31→八王子駅9:42→勝沼ぶどう郷駅10:54着
②普通列車:高尾駅9:28発→勝沼ぶどう郷駅10:37着

日程:
午前11時 「勝沼ぶどう郷駅」集合
徒歩(20分)またはタクシー(5分)に分乗し、「ぶどうの丘」へ
※集合時刻に遅刻した方は、各人「ぶどうの丘」に行って下さい。
   
午前11時半  
温泉「天空の湯」(610円)甲府盆地の眺望最高
お勧め→コインマッサージチェア、巨峰ソフトクリーム
シャンプーとボディーソープは備付け。タオル、ひげ剃り、整髪料持参のこと
 
 

午前12時半頃
ワイン試飲蔵にて180種のワイン自由試飲(1100円)
※飲めない方は、園内の美術館でも‥‥



午後2時半頃  
「ぶどうの丘」施設内の「ほうとう」または持参弁当(昼食代1500~2000円)
   
午後3時半~4時 
タクシーに分乗して、「勝沼ぶどう郷駅」へ戻る
「勝沼ぶどう郷駅」現地解散

参加申込み:5月1日〆切 似田までメールまたは電話でお申し込み下さい。希望者が少数の時は中止します。
電話:042(576)4418 
メール:nitada25@yel.m-net.ne.jp

大椎・治喘・、定喘の効能

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1.大椎の位置

私の大椎穴の取穴は、基本的にはC7/Th1棘突起間であり、今日の基準だと思われる(代田文誌先生は大椎はC6/C7棘突起間を取穴していた)。大椎は背部督脈上の穴や背部膀胱経上の取穴基準点となるので、経穴の位置を統一しようとする立場にとっては困ったことではある。もっとも臨床的には、大椎穴近辺の圧痛所見をもって、そこを大椎と定めるだろうから、針灸治療的にはあまり混乱は起きないであろう。 

2.大椎一行としての治喘と定喘

大椎穴はすぐ直下に骨があるので、刺針して響かせることは難しい。実際には大椎穴ではなく、大椎一行を治療穴として用いることが多い。大椎一行には、治喘と定喘がある。私は、治喘は大椎穴の外方5分、や定喘は大椎穴の外方1寸としているが、異説も多い。教科書ではて)を治療穴として選択する機会が多い。私の病院研修時代、定喘というツボは耳にしたことがなかったのだが、現在の学校教育ではむしろ治喘の方が知られておいる。定喘と治喘は同一のものであるというまである。

3.代田文誌著「鍼灸臨床ノート第4集」から<治喘の穴 昭47.6.7>の内容から
以下の内容は、現在でも私(似田)の治療に大きな影響を与えている。代田文誌先生は、「快速針刺療法」を読み、「治喘」の存在を知った。従来、この穴を文誌は大杼一行として捉えていた。なお「快速針刺療法」は手帳サイズの薄い本にすぎないが、光藤英彦先生も所持していた。本の余白に細かく書き込みを入れていたものが、愛媛県立中央病院に行った後にも病院に残されていた。

1)「快速針刺療法」からの抜粋
穴位:大椎穴の傍ら2分~3分のところ。すなわち第7頸椎と第1胸椎の間の骨際の処。
主治:喘息、咳嗽、脊柱両側の痛み、後頭部の痛み
針法:直刺1~1.5寸
針感:しびれて腫れぼったい感じが下方に伝わり、背部または腰部に達する。
注意:脊椎から遠くなりすぎてはいけない。肺臓を刺傷して気胸をおこすのを防ぐためである。

 2)代田文誌の体験例
文誌先生が風邪をひいて、身柱・風門に灸したがよくならず、慢性化して咽痛と夜間咳嗽が出現、寝ていると苦しいまでになった。そので自分自身で治喘に刺針したところ、少し症状が楽になったので、息子の(代田)文彦に、針尖を脊柱に沿って下方に向け、1寸5分ほど刺入してもらった。すると針の響きが脊柱に並行して下方に5寸ほど響いていった。今度は針を抜いて直刺1寸ほどしてもらうと、針の響きは頸の方から咽の方に達した。すると間もなく咽が楽になり、咳が鎮まってきて、体を横にして眠ることができた。 

3.現在の私の治喘刺針の意図

1)椎間関節症の治療

椎間関節刻面傾斜角が、上下椎体間の動きは決定している。例えば腰椎は屈伸運動は可能だが回旋運動ができない。すると上体を回旋時、胸椎回旋のアラインメントはTh12/L1椎体間で遮断され、この椎体に大きな歪みが生じて椎間関節症状態になることが多いであろう。
 頸椎:   回旋○  屈伸○
 胸椎:   回旋○  屈伸×   
 腰椎:   回旋×  屈伸○ 
 仙椎・尾椎:回旋×  屈伸×

脊柱は頸椎・胸椎・腰椎・仙椎と尾椎という4つの構造体グループでできているが、建物の建て増し部分との接合部が地震に脆弱なように、構造体の境目に力学的な歪みが生じやすい。頸椎は回旋・屈伸ともに可動性があるが、胸椎は回旋可能だが屈伸に可動性はない。つまり頸部の屈伸運動において、C7/Th1椎体間で動きがストップされ、歪みがこの部に加わりやすいと思われる。頸部の屈伸運動障害時の治療には、脊柱回旋作用のある回旋筋・半棘筋が刺激目標になるので、大椎穴よりも、その直側である治喘穴あたりから深刺する方が効果的になる。

2)交感神経優位化の治療

肺や気管(支)の内臓体壁反射は、心臓とは逆に、「交感神経<副交感神経」の臓器であり、起立筋や大胸筋の反応は比較的弱く、これらの部のコリ痛みを緩めても症状の改善につながりにくい。要するに内臓-体壁反射としての体壁反応は弱く、体壁-内臓反射による治療効果も弱い。
 咳嗽喀痰に対する鍼灸治療は、交感神経優位にすることが症状緩和になると考える(たとえば、喘息発作時には、両手を熱い湯につけると症状緩和する。熱いシャワーを大椎部にあててもよいが、脱ぐのに手間取る)ので、促通手技として座位にし、上背部とくに治喘穴に対して強刺激施術を行う。
 <治喘>
位置:大椎穴(C7、Th1棘突起間)の外方5分(実際には直側)
刺針:刺針:#3~#5針にて、3㎝刺入して強刺激の雀啄。この間、患者に命じて軽く数回呼吸させる。頸部交感神経を興奮させることで副交感神経亢進を是正。

4.星状神経節ブロックと大椎周囲刺激の共通性

1)星状神経節ブロックの治効理由にたいする疑問 
医師の行う星状神経節ブロックは、頭部頸部を支配している交感神経の活動を抑えることで、相対的に副交感神経活動を優位にし、頭部顔面部の血管壁を拡張することで血流増加をまねき、このことが自然治癒力の増強を図るといった意味がある。
代田文彦先生は、この見解に異論があった。星状神経節ブロックでは、普通は局麻剤とステロイド剤の混合薬液を注射するが、実際にはブロック針を刺すことだけでも薬物を使った時と同様の効果が得られるという事実がある。刺針刺激は、局所を麻痺させるのではなく、局所を刺激するという真逆の作用なのに、同じような効果があるのは何故なのだろうか?

2)大椎と星状神経節刺針
 筆者も玉川時代、星状神経節ブロックの真似をして、星状神経節刺針を結構行っていたが、治療効果が不明瞭(星状神経節に針先が命中したか否かを確認することが難しいこともある)であったこと、前頸部から刺針する関係で患者が嫌がる傾向にあったことなどから次第に行わなくなった。
 星状神経節刺針に代えて行ったのが、座位での治喘深刺だった。治喘刺は星状神経節刺と同等の効果があり、治療のやりやすさを考慮すると、治喘の方に分があると思っている。
 その理由として、①星状神経節刺部位と治喘は、座位側面からみると、ほぼ同じ高さに位置すること、②星状神経節ブロック時の薬液浸潤は上部胸椎領域にも広がるという事実による。

 

 

陳久性反回神経麻痺の針灸治験 Ver.2.1

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筆者は2012.4.11に<陳久性反回神経麻痺の針灸治験>と題した治験の一例報告を行った。その後も2例追試を重ね、印象が当初と異なってきたので改訂版をまとめることにした。

1.反回神経麻痺の概略

反回神経麻痺は、左側が右側より圧倒的に多く、3:1の比率である。1割ほどが両側性の反回神経麻痺になる。臨床上、声帯は一側の副正中位をとることが最も多いが、中間位や正中位である場合もある。

1)一側性麻痺の場合、副正中位ならば、左右声帯の隙間が開きすぎるので、声帯を呼気で神道させることができずに発声困難となり嗄声となる。患者は呼気量を増やして声を出そうとするので、発声の持続時間が短くなる。
持続発声秒は、30秒以上が正常だが、ひどい場合は3秒以下になる。手術の適応となる目安は、10秒以下である。

2)両側麻痺では、声帯が開いていると、一側性麻痺に比べても声帯間の隙間が開くので、より嗄声が強度になる。会話する場合は、何回も息継ぎをしながら、しかも枯れた声になので、聞く方はなかなか理解しにくくなる。

3)両側性麻痺で、両側声帯が正中位で固定していれば、声門裂が閉じ、呼吸道が閉鎖され、呼吸困難が起こる。完全に声門裂が閉塞されれば呼吸困難で死亡することもある。

 

2.反回神経麻痺の現代医療
   
原疾患が明らかであり治療可能ならば、その治療を行う。原因不明なものについては、ビタミンB1剤、ATP剤、血管拡張剤、ステロイド剤などを適宜使用してみる。これらの治療で、麻痺自体が改善されれば問題はない。例え治癒しなくても健側声帯が正中を超えて患側まで動くのであれば代償作用が期待でき、嗄声の軽減も期待できる。そのためにも声を出すことがリハビリになる。 
   
6ヶ月間これらの保存療法によっても麻痺が治癒せず代償作用も起こらない場合、手術療法を考慮する。現在の医学では、動かない声帯を動かすことは不可能なので、閉鎖しない声門を元々狭くしておくことで発声時に閉鎖しやすくする。つまり、麻痺した声帯を内側に寄せる手術になる。声帯内BIOPEX注入術は一側性声帯麻痺に対し、声帯外側にリン酸カルシウム骨ペーストを注入して声門裂の間隙を人工的に狭くするものである。

 

3.症例1(38才、女性)
主訴:声が出しにくい

1)現病歴:
6年前に妊娠したが、胎児が死亡したので全身麻酔により掻爬処置した。麻酔から目覚めると、声が出にくいことに気づいた。以来、種々の内科的治療を受けるも治療効果なく、相変わらず声が出にくい状態が続いている。とくに大声は出せない。本人は麻酔時の気管挿管時に、声帯を傷つけたのではないかと思っている。現在は持続的に、12~13秒間、「アー」という声が出せる。専門医より10秒以上声が出せるのであれば、手術の適応はないといわれている(正常であれば30秒以上声がだせる)。遠方の針灸院に週に2回、半年間通院するも効果なかった。 

診断:右反回神経麻痺(専門医による確定診断)

病態把握:全身麻酔時の気管内挿管が声帯を圧迫し、反回神経麻痺を惹起した。

治療方針:輪状軟骨~気管部分の反回神経を刺激することを治療方針とする。これは嗄声に対する郡山七二氏の治療の追試である。ただし発症が6年前のことでもあり、針灸で改善できない確率の方が大きいであろう。

2)当初の針灸治療方針
寸6#2の鍼を数本用い、右反回神経が分布している気管軟骨部分に鍼先をぶつけた状態で、血流改善目的で30分間置針。パルスは使用せず。健側である左反回神経に対する刺激は、万一にも麻痺することを危惧して刺激しない。置針10分毎に、アーと声を出させつつ雀啄刺激。次に伏臥位にて、右後頸一行へ深刺置針10分。
上記治療パターンを10回(5回目から患者の希望で1ヘルツのパルス併用。また鍼を1.5インチ中国鍼30号に変更)行うも、施術直後の持続発声時間は12~13秒と不変だった。ただし患者の弁によれば、針灸施術後は、声の出が良いということだった。

 

 3)治療方針の変更
声帯麻痺の者は、健側声帯が代償として患側に寄っているという知見から、健側声帯を刺激することで、健側声帯の動きをさらに改善しようとする意図から、健側治療のみに変更した。その他のパラメーターは当初の治療方針と変わりなし。
施術後、持続声出しテストを行うと、18秒間という結果になった。

 
4.症例2 (36才、男性)
主訴:声がかすれる

1)現病歴:

2ヶ月前扁桃炎で入院。退院3日後、突然咽喉の痛みと大声の出しにくさを感じた。咽喉痛は間もなく消失したが、嗄声は不変。耳鼻科医は左反回神経麻痺だが、自然回復もありえるので、数ヶ月様子をみようといわれたという。針灸治療前の持続発声7~8秒。

2)針灸治療とその後の経過:

仰臥位にて甲状軟骨~気管軟骨にぶつけるような鍼を患側に5~6本20分置針。治療後、持続発声10秒となった。3日後再診、治療前の持続発声6~7秒。今回は健側と患側両方の甲状軟骨~気管軟骨に向けて置針すること20分。治療後は持続発声10秒。その後、同じよう名治療をくりかえしてみるが針灸治療前は10秒弱で、治療後は12秒程度と、足踏み状態が続いた。

3)治療の転機:

反回神経麻痺の手術治療の一つに、<左右の声帯を近づけるように異物を注入する>というものがある。左右の声帯間にある声門裂を狭めるような徒手矯正を行えば、もっと声が出るようになるのではないかと、ふと思った。そこで仰臥位で持続声出しを行わせてその秒数を確認した後、甲状軟骨を痛みを訴えない程度に術者の母指腹と示指~中指腹で押圧しつつ、もう一度持続声出しを行わせてみた。すると押圧前7秒→押圧中14秒と大幅に延長できた。その後は、治療前も15秒前後を維持できるようになった。要するに、物理的な軟骨の脱臼状態が反回神経麻痺症状を悪い方向で修飾していたのではないかと想像した。その反面、これまでの私の反回神経の針灸治療パターンに無力なものを感じた。というのは症例1で針灸治療の効果だろうと思っていたことが、鍼先による甲状軟骨や気管に対する押圧効果だったかもしれないので。

4)追伸:

上記ブログを書き上げた翌日、2年半ぶりで症例1の患者が再来した。小学校で教えているので「もう少し声の出を良くしたい」とのこと。この改訂した。ブログを見て来院したのだろうと思ったのだが、まったくの偶然の再来であった。
座位での持続発声は18秒、その状態で甲状軟骨を押圧して持続発声を試みると24秒になった。引き続き仰臥位で甲状軟骨と気管軟骨壁にぶつけるよう数本の針を置針すること20分間。さらに座位で天柱手技針を実施して治療終了。再び持続発声時間は18秒だった。で、座位でだった。続いて甲状軟骨を押圧しての持続発声時間は驚いたことに41秒となった。やはり針治療も効果あったことを伺わせるものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

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