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ベル麻痺の予後推定と針灸治療

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1.ベル麻痺の病態生理

 ①幼少の頃の単純ヘルペス感染の既往
    ↓
 ②成人になり免疫力低下時、膝神経節内で単純ヘルペスウイルスの再活性化。顔面神経の炎症。
    (膝神経節内での帯状疱疹ヘルペスウィルス感染は、ハント症候群になる)
  ↓ 
 ③顔面神経浮腫とくに顔面神経管の骨トンネルによる絞扼。神経内毛細血管の虚血。
    ↓
 ④麻痺発症
  
一昔前までベル麻痺の真因は不明ながら、循環障害説とウィルス説が存在したのだが、現在では上記のようにウイルス感染による顔面神経管内の顔面神経浮腫が原因とされるようになった。
  
※単純性疱疹とは:単純ヘルペスウィルスによる。幼少の頃に感染するが、神経細胞に潜み込んで症状の出ないことも多い。免疫力低下すると皮膚に症状出現する。1型は唾液から感染、口唇部のヘルペスとなる。2型は性行為から感染し、外陰部や殿部のヘルペスとなる。終世免疫ではなく、何度も感染する。


2.症状と顔面障害部位
  

顔面神経管内のどのレベルで顔面神経の浮腫が生ずるかにより、顔面神経本幹の他に、顔面神経や伴走する中間神経から分岐した神経枝が圧迫されて機能障害を起こす。顔面神経管内の奥側であるほど、多彩な障害を呈することになる。しかしだからといって自然治癒しにくいかといえば、そうともいえない。

 

※末梢性顔面神経麻痺では、顔面神経管内の障害部位が末梢に近いほど症状の種類は少なくなる。
顔面神経管の直径は、管の上部~膝神経節部あたりの直径は1㎜、茎乳突穴附近で直径2㎜と非常に細いので、浮腫に脆弱。

3.予後の推定
 
一般的に発症してすぐに針灸を求める患者は少ない。医療施設で治療を続けるも、発症後7~10日間は目立った効果が現れなないので不安になり、針灸にも通院してみようかと考えることが多いと思う。  
 
予後良好の場合は3週問以内に回復が始まり8割は自然治癒する。」とされているので、発症1~2週後に針灸に来院すれば、タイミング的に自然回復時期に針灸治療を行っていることになり、患者には針灸治療でベル麻痺が治ったような印象を与えることがある。まあこのことは針灸院の営業上、有利fなことであろう。 
 
その一方で残り2割は速やかには麻痺は回復せず、長い日とで半年以上、そして麻痺が残存する。では8割の早期回復者と2割の回復に時間がかかる者の事前予想はどのようにすべきなのだろうか? 実はこれも分かっていて、発症7~10日で予後判定可能なNET(電気生理学的検査)検査が、予後の目安となるという。

NETは、顔面神経本幹または分枝を電気刺し、顔面表情筋の収縮度合をみるもので、収縮が観察できる最小閾値と健側を比較する。これは針灸臨床で用いられることの多い低周波治療器をで代用可能である。顔面神経数カ所に直接刺針し、そこにパルスを流すようにする。健常者に行えば、顔面表情筋の攣縮が観察できる。しかし顔面神経に鍼が命中していない場合、表情筋攣縮はほとんど生じない(やむなく通電電流量を一定以上に上げると刺痛を訴えることになる)。

2.医療施設での治療
 
1)初期治療

病医院での治療は、発病当初は入院による副腎皮質ステロイドの10日間大量点滴療法を行う。これは生体のエネルギー利用を助ける作用がある。局所的には抗炎症作用、浮腫軽減作用)。抗ウィルス剤が使われることも多い。これは単純疱疹ウィルスの死滅を目的としている。入院不能な場合は外来によるステロイド内服漸減療法12日間が標準治療となっている。
麻酔科医は連日の星状神経節ブロックを推奨している。顔面部交感神経機能を遮断 →相対的に副交感神経機能を更新させる →顔面血流量を増加して自然治癒力を高める増強されるとの観点からだが、効果を証明するに足るエビデンスに乏しい。
 
2)予後不良者の治療

治癒まで3ヶ月以上かかると判定された場合、病的共同運動(4ヶ月以降:たとえば閉眼すると口が動き、口を開閉すると眼も閉じる)やワニの涙現象(食物を食べると涙が出る。これは唾液を出そうとすると涙腺分泌が刺激される)が出現しやすい。
   
漠然と様子を眺めるのではなく、ステロイド追加投与さらには顔面神経管開放術(圧迫された顔面神経の周りの骨を取り除く手術)を行うこともある。

 
3.ベル麻痺の針灸治療
  
発症直後1週間程度は、医療施設でステロイド大量投与治療が行われるのが普通である。針灸 のよくいわれる自然治癒力増強作用が、副腎皮質ホルモン分泌増強によるものだとすれば、この 時期に行う針灸治療効果は乏しいものとなる。代田文彦先生がよく話してくれたのは、ステロイド多量投与が針灸の効果を削ぐのか、ステロイド多量投与しなければならないほど重度の疾患だから針灸が効果ないのか、という内容になる。

1)顔面表情筋刺激  
麻痺表情筋に刺針する。顔面表情筋は皮筋なので、浅刺し、血行回復目的で10~20分間置針する。かつては針に低周波をつないだものだが、現在では筋攣縮しないほど高い周波数で通電するか、または単なる置針するかになる。 低周波刺激をすることによって後遺症が重症化(病的共同運動=閉眼すると口の周りが動く、口を動かすと が閉じるなど)する可能性があることが専門医から警告されている。努力して顔面麻痺筋を動かそうとする訓練も推奨されていない。逆に病的共同運動プログラムが助長される。(本来的には正しい分離運動プログラムが発達すべき)

単なる置針と置針通電との効果の違いは不明である。それ以前に、針をしてもしなくてもベル麻痺の回復に違いがあるかもハッキリしていない現状がある。
現在の私は、刺針部位や刺針深度を確認する目的で、刺柄に一時的に低周波を通電して筋攣縮を起こすべく刺針深度や角度を試行錯誤し、針先が顔面神経に当たっていることを確認後、低周波を通電せずに置針10~20分程度するという方法をとることが多い。 

2)顔面神経刺激

①顔面神経本幹部治療点
顔面神経の顔面部走行は、翳風部から起こり、耳垂の直下を通り、顔面部に扇型に広がる。 私は、扇型に広がる手前の軸に相当する顔面神経幹部の部として、翳風穴と耳垂が顔面に付着する部の中央(深谷流難聴穴)の2点に10~20分間の置針を行うことが多い。 
 
※直刺2㎝では舌咽神経の分枝の鼓室神経(鼓膜の知覚支配)に命中し耳中に響く。難聴耳鳴の治療 に使う。

②顔面神経の主要分枝に対する治療点   
主要枝は、側頭枝・頬骨枝・頬筋枝・下顎縁枝・頚枝である。耳下腺自体は顔面神経の支配を受けない。耳下腺の分泌を司るのは舌咽神経。


                                            
・とくに顔面上半分→下関・客主人
 頬骨弓中央の下縁陥凹部。直刺。パルス通電しながら深度を少しずつ深め、唇や頬が最も振動する処に針を留める。
   ※深刺すると、咬筋→外側翼突筋に刺入され、三叉神経の第2枝または第3枝に当たる。
・顔面神経全枝→頬車・大迎

  

 

   

 

 


むずむず脚症候群の針灸治療Ver.1.1

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むずむず脚症候群の正式名称は、下肢静止不能症候群、RLS, Restless Legs Syndromeという。最近になって認知されてきた疾患である。ある日、橈骨麻痺で来院中の患者が「むずむず脚症候群もある」と訴えた。これまで抱いていた私の印象から、「それは大変だ」と応じたが、その患者は薬を飲めば治るが、あまり薬は飲みたくないと云った。私は患者がむずむず脚症候群であること以上に、治す薬があることに驚いた。早速ネット検索してみて、かつての常識がすでに古くなっているこをを思い知らされ、新たな見解も生まれたので、本稿としてまとめる。

1.症状
脚の不快感と動かしたい欲求。脚の表面ではなく深部に不快な感じがあり、動かすと少し軽減する。その不快感は様々に表現される。むずむずする、虫が這う、痛がゆい、など。
症状は夕方から夜間にかけて強くなることが多い。自然治癒はごくまれで、進行性増悪することが多い。人によっては背中や腕にも現れることがある。
 
2.原因:神経伝達物質であるドーパミンの機能異常。
    
神経伝達物質ドーパミンの機能低下
         ↓
A11と呼ばれる脳の神経細胞の機能低下。
                 ↓
脳に送る必要のない身体深部知覚の些細な信号をカットできず、脳が過敏状態
         ↓
     「むずむず脚症候群」
   
身体の中では、脳が認識する運動刺激や身体感覚の他に、一定の閾値に達しない「雑音」のような深部知覚が無数に発生している。これらの深部知覚は、間脳部に相当するA11領域から脊髄に伸びる下行性の神経細胞によって抑制されているので脳にまでは達しない。

しかし何らかの原因によってA11の神経細胞の働きが弱まり、特に夜間、運動刺激や身体感覚の刺激がなくなると、「雑音」のような深部知覚が上行しやすくなり、脳が感覚情報過多の状態になり“むずむず”するような不快感を覚えるようになる。

なおA11の働きが弱まる原因として、ドーパミン神経細胞の機能障害や、脳内の貯蔵鉄(フェリチン)減少や鉄代謝異常が関係しているとされている。
   
夜になると脳の松果体からメラトニンが分泌され、身体が眠りにつきやすいように深部体温が下がる。とともに“むずむず”するような異常感覚も現れてくる。明け方になってメラトニンの分泌が減って、深部体温が上昇し始めると異常感覚は消失する。
 
3.現代医療での治療

 「ビ・ シフロール錠」が、日本で初めてむずむず脚症候群の薬として2010年1月に保険適用された。本剤はドパミンアゴニスト(=作動)薬で、ドパミンの代わりとなってドパミン受容体を刺激するもの。要するにドーパミン量を増やし、弱まったA11神経細胞に直接刺激を与え 脚の不快感のもとをブロックする機能を回復させるもの。
  
※本剤は、パーキンソン病での治療薬だが、むずむず脚症候群で使われる場合はパーキンソン病治療に比べて、6分の1~18分の1という少ない量で効果がある。ただし長期間連用すると効かなくなっていくる。
 

4.針灸治療

1)考え方
A11神経細胞の機能低下により、脳に届ける必要のない深部知覚信号カットできなくなっている。であるなら脳へより大きい深部知覚信号(=響かせる針)を送ることで、先の「雑音」のような深部知覚信号をマスキングできるのではないだろうか。
  
2)発作時、足三里に対する深刺で響かせる(小宮猛史先生)
体験例:うちの家内は、寝室で寝ていたかと思うと脚をどんどん叩きながら起きてきて「なんとかしてー」と訴える。虫が這うようなむずむず感を感じ、じっとしていられないと言う。発症はたいてい右側。

そこで発症するたびに足三里に、そっとゆっくり止まるまで刺入し、ゆっくり雀啄することで得るズーンという響きを与える。すると直後に8割くらい楽になり、次に足三里の少し下にもう一箇所響かすように鍼をするとすっかり消失し、そのあとぐっすり眠れるようになる。時間にして2~3分。なお切皮程度の深さで高速撚鍼して響きを与えても症状の軽快はみられない。

先日の発作時、家内に協力してもらい、いつもの鍼するところをお灸にしてみた(半米粒大の大きさで7壮ずつ)。しかし、じっとしていられるような効果までは出なかった。結局そのあと鍼して鎮静。(小宮猛史:ブログJTDの小窓 ムズムズ脚足症候群 2014.3.12より)
  
3)治療無効だった症例(筆者)
10年ほど前経験した例。80過ぎの女性。背中がムクムクする(夜間に強いが、日中もある)という訴え。その時は「むずむず脚症候群」といった疾患も医療関係者内でもあまり知られておこらず、ましてや背中のむくむく感であっても「むずむず脚症候群」と捉えて良いことなど知らなかったので、でヒステリーを考えた。
鍼灸治療は、症状部である背部に中国針の置針通電+湿吸という強刺激を実施するも治療効果乏しく、治療数回でサジを投げた。

今になった考えれば、それは物理的に強刺激ではあったが響かせる刺激ではなかったことを反省している。困難なことではあるが、夜間に治療すると良い結果が得られたかもしれないとも考えた。 

新・耳鳴の針灸治療 鼓室神経刺激と顔面神経下顎縁枝刺激 Ver.1.1

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1.耳鳴に対する鼓室神経刺針と治効機序  

1)耳鳴に対する鼓室神経刺激とは

筆者はこれまで、体性耳鳴に対して針灸治療が効果的であることを説明してきた。ムチウチ後遺症や顎関節症に付随した耳鳴は、顎関節関連筋や胸鎖乳突筋の緊張を緩めることが耳鳴の治療につながるということである。
 
ただし耳鳴患者の中には、顎関節症や頸椎症状がないのに耳鳴を訴える者がいる。このタイプの耳鳴には、耳そのものへの治療が必要で、筆者は下耳痕穴をその治療点として掲げた。
 
耳中に響かせる針をするには、下耳痕穴(≒柳谷素霊の一本針である完骨移動穴、もしくは深谷伊三郎の難聴穴)から1~2㎝直刺刺針が一定の価値のあることはすでに説明済である。それは舌咽神経(主に舌奥や咽頭の知覚支配)の分枝である鼓室神経(中耳~鼓膜の知覚を支配中耳知覚支配)を刺激するからである。
※下耳痕穴位置:中国では耳垂つけね部に耳痕という新穴が制定されている。その下方5㎜。

 

 

 下耳穴刺針で、鼓室神経を刺激する意味は、中耳炎等による中耳痛に適応があるらしいことは推定できるが、それだけでなく耳鳴や難聴などの内耳症状にも効果あるらしい。その旨を耳鳴で来院している一人の患者に説明すると、
<玉突き>にような作用だとの返答が得られた。実に分かりやすい理解なのだが、医学的説明とはいえない。 

 

2)蝸牛神経は、延髄で三叉神経、顔面神経、迷走神経、舌咽神経でつながっている 
 
下耳穴刺針で耳中に響かせることが、なぜ耳鳴や難聴に効果があるのかは、専門家の解釈を待たねばならないのだが、ネットで色々と調べていくうち、次のような解釈があること分かった。
 
耳鳴は難聴と同様に蝸牛神経障害であるが、延髄において蝸牛神経背側核は、体性神経核とつながっている。この体性神経核は中耳と外耳を支配している三叉神経、楔状束、顔面神経、迷走神経、舌咽神経に枝を送っている。すなわち上記の脳神経は耳鳴は関係があると考える学者がいる。要するに、耳鳴に対しては、三叉神経、顔面神経、迷走神経、舌咽神経を刺激することが治療につながる余地があるということらしい。(Byung In Han MD  他 Tinnutus:Characteristics,Causes,Mechanism,and Trearment TheJou rnal of Clinical Neurology 2009;5:11-19) 

①蝸牛からの交通枝は、顔面神経・三叉神経・ 舌咽神経・迷走神経などと交流している。この結果、顔面麻痺時にみるアブミ骨筋反射(大きすぎる音は中耳に入れない)や、三叉神経(第1枝の瞬目反射←角膜知覚支配)などの現象がみられることになる。

②耳鳴りと顎関節症(三叉神経第3枝の咀嚼筋緊張)との関係も指摘できる。   

③三叉神経第Ⅲ枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚を支配しているだけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与してい る。これは顎関節症によ り二次的に外耳道や鼓膜 症状が出現することを示唆している。筆者は針灸 臨床上、顎関節症を治す ことが耳鳴軽減につなが ることを多く経験している。


3.顔面神経下顎縁枝刺激(佐藤意生先生の臨床実験)
(佐藤意生「顔面神経下顎縁枝刺激による耳鳴の抑制」耳鼻科臨床98:11,2005より)

1)考え方
聴覚路の比較的末梢(蝸牛、聴神経)で発生したと推測される異常なインパルスが中枢に送られ、これを耳鳴として感じとると考えている。そうであれば、この異常なインパルスを中枢経路のどこかで蝸牛神経への交通枝を通して他の神経からのインパルスによってブロックできれば、耳鳴は軽減するはずである。佐藤意生(耳鼻科医)はこのように考え、感音性耳鳴患者の顔面神経下顎縁枝に経皮的に反復電気刺激を与える試みを実施した。

2)刺激方法
具体的には顔面神経下顎骨底中央部の皮膚表面に陽極、その2.5㎝上方に陰極の円形表面電極(直径0.7㎝)を装着、パルス低周波刺激を与えた。周波数は初めは1ヘルツの筋収縮がみられる閾値の強さまでとし、患者に耳鳴の軽減具合を聴取しつつ、耳鳴が軽くなったと返答するまで徐々に周波数を上げた。耳鳴が軽減したと答えた場合、その周波数で2分間持続的に刺激を与えた。最高50ヘルツまで上げ、それでも耳鳴に変化ないものは治療中止した。

3)治療成績
①有効率
頭鳴を除く耳鳴患者91例中、耳鳴が5/10以下に減少した者は47例(51.6%)、6/10~8/10に減少した者は34例(37.4%)、9/10~10/10に止まった者28例(11.0%)だった。 
②有効となる周波数と刺激強度
この治療が有効だった者に与えた周波数は、2~30ヘルツと人によって異なっていた。
なお閾値以下の刺激では、改善は得られなかった。
③治療効果の持続性
治療有効だった者(53例)の持続効果は、1週間以内に元に戻ったのは43例(81.1%)、このうち、持続効果2~3日だった者は17例(32.0%)だった。ただし4週間経過後におても耳鳴が以前より軽いと答えた例も5例(9.4%)あった。

4)考察
蝸牛神経は、眼神経や頸神経とともに顔面神経に反射経路をもっている。この具体例としては、アブミ骨筋反射(大きすぎる音は中耳に入れない)や瞬目反射(角膜分布の三叉神経刺激で瞬目が起こる)、ガラスを爪で引っ掻くような音がした場合、顔面表情筋の収縮がみられるなどがある。
要するに顔面神経を刺激することで、蝸牛神経の異常を抑制しようと試みた。
 
ただしその一方では、三叉神経と蝸牛神経間、そして三叉神経と顔面神経間にも反射経路があるともいわれるので、今回の顔面神経下顎縁刺激による耳鳴抑制効果は、顔面神経に与えた刺激だけでなく、三叉神経も大きく関与している結果になる。 

 

 

4.まとめ

佐藤意生先生の耳鳴に対する顔面神経下顎縁枝刺激刺激点は、経穴でいうと陽極が大迎、陰極が頬車の位置に相当すると思う。これは筆者の提唱する刺激点である下耳痕の近傍であることにまず驚かされた。確かに下耳痕から刺針すると、浅層で顔面神経を刺激(針響は生じない)し、深層で舌咽神経鼓室神経を刺激するので、筆者は鼓室神経刺激が耳鳴に有効と思っているが、実際は顔面神経刺激が有効なのかもしれない。たたし筆者は佐藤意生先生のように低周波刺激を行っていないので、当然顔面表情筋の攣縮も起こらない。その一方で、佐藤先生は2分間程度の刺激時間なのに対し、筆者は30分以上置針しているという違いがある。

代田文彦先生13回忌法要の集い

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以下は、月刊誌「医道の日本」のニュースとして、筆者が平成27年4月中旬に投稿したもので、同年5月号に記事として誌面を飾ったものである。集合写真は小さなさなモノクロにすぎない。本稿ではカラー大判で紹介する。

                                                                     
平成27年3月29日、故・代田文彦先生(前東京女子医大教授、元日産玉川病院東洋医学科。平成15年1月23日死去)の13回忌法要として、元日産玉川病院東洋医学科研修有志が、高尾霊園(JR中央線高尾駅徒歩15分)の墓前に集合した。喪主は奥様の代田瑛子様。このお墓には、お父様である代田文誌先生の遺骨も納められている。
 
玉川病院東洋医学科の研修制度は昭和53年~平成15年の27年間の長きにわたり、文彦先生が中心となって行われた。鍼灸師にも生の現代医療に触れつつ、医療としての鍼灸を追究しようとした試みで、文彦先生の尽力なしには成り立たない企画であった。この試みに共感し在籍した針灸研修鍼灸師はのべ97名であった。うち今回の13回忌に集まったのは40名だった。これも代田文彦先生への人徳を示すものだといえよう。

 


代田文誌・文彦先生の墓前にて。人数が多いのでお墓が隠れてしまった。下段左から4番目は文彦先生実弟の泰彦先生)

 

急性足関節捻挫には局所強刺激単刺+テーピング Ver 1.4

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1.捻挫の概念
関節捻挫とは、関節が一瞬ずれ、次の瞬間には元に戻るという状況である。関節が元に戻った後に来院するので、関節包や靱帯など、関節支持組織の損傷ということになる。足関節に好発する。
※今回は、急性足関節捻挫を説明し、次回は慢性足関節捻挫をとりあげる。

2.捻挫の好発部位
1)足関節外側捻挫(内反捻挫)
足関節の靱帯損傷は、外果縁(前距腓靱帯、踵腓靱帯)、と内果縁(三角靱帯)に起こりやすい。足関節の外側靱帯には前距腓靱帯・踵腓靱帯・後距腓靭帯がある。これらの靱帯損傷を総称して外側靭帯損傷とよぶが、外側捻挫はとくに前距腓靱帯損傷が多い。
2度(詳細後述)以上の重度の靭帯損傷があると、前距腓靭帯+踵腓靭帯損傷の形となることが多い。

2)二分靱帯捻挫
踵骨から舟状骨に、また踵骨から立方骨に靱帯が分かれしてついているので、この二つの靭帯を合わせて二分靭帯とよぶ。二分靭帯捻挫は、外側捻挫とほぼ同様の機序で発症する。二分靱帯はまれに剥離骨折を生ずることもある。
日常診療においては、足関節捻挫の最多好発部位である前距腓靭帯と部位が近いので、見逃しやすく、正確な触診による圧痛点(外果のやや前方の圧痛)の把握が診断に重要である。二分靱帯捻挫は、後遺症なく治るとされている。

3)足関節内側捻挫(外反捻挫)
足関節の外反捻挫は、前記の内反捻挫と比べて少ない。足の内果と足根骨は4本の靱帯で結合され、これを総称して三角靱帯と称する(4つの靱帯個々の名称は記憶する必要なし)。
三角靱帯は強靱なので、大きな捻挫を起こすことは稀である。一方、強力な力を受けた場合は、剥離骨折を生じることもある。

 3.捻挫の自然経過と治癒過程
1)炎症過程(急性期) 
捻挫では関節包靱帯を損傷し、関節包靱帯の内面の滑膜層に炎症性の腫脹が発生する。腫脹の中身は滑膜層からの分泌物で、これが関節包の中に充満すると関節の可動範囲が狭まり、疼痛が発生する。
関節包靱帯やそれを補強する側副靱帯などが部分断裂を起こすと、その部分より出血を生じ、見た目にも青黒く皮下出血斑が広がっているのが確認できる。そのため、いち早いRICE処置が必要となる。

2)消炎期(治癒期)
3~4日の急性期が終わると、腫れも落ち着き、各組織が移動を始めて新しい組織を生み出す準備を開始し、組織修復が始まる。この頃になると、最初の炎症期のような激しい痛みはなくなる。この組織修復の原動力となるものは腱に含まれるコラーゲンであるという。

3)再生期(修復期)
腫れが引き、治癒の準備ができると組織は再生と修復を始める。筋肉や腱、靭帯などの組織は、受傷後3~4日して瘢痕組織を形成してしばらくの間、補強され、数ヶ月後にはほとんど元の組織に回復する。この瘢痕が存在する時期は、捻挫を再発しやすい時期でもある。この時期に捻挫を繰り返して瘢痕組織を傷つけると、捻挫が慢性化してしまう。
また受傷後の毛細血管はケガから2~3日で修復を開始し、新しい血管を形成していく。この段階は約4ヶ月も続くことがある。
新しい組織が強い構造(ケガの前の正常な構造配列)を形成するためには、ある程度のストレス(運動)が必要なことから、適切なリハビリが重要になる。

4.重症度分類と処置法

1)第1度
病態:靱帯断裂を伴わない軽度または微小な捻挫。
症状:ある程度の腫脹を伴う軽度の圧痛。
治療:安静とサポーター

2)第2度
病態:不完全または部分断裂を伴う中程度の捻挫
症状:明らかな腫脹、斑状出血、歩行困難
治療:膝下歩行、3週間のギブス固定

3)第3度
病態:完全な靱帯断裂
症状:腫脹、足関節不安定性、歩行不能
治療:ギブス固定または手術

5.針灸治療

1)針灸の適応とテーピング固定
針灸治療は第1度捻挫に著効する。第2度にもある程度適応がある。第3度には適応がない。要するに痛いながらも何とか歩けるものが適応になる。針灸治療自体は鎮痛消炎目的で行うので、ごく軽い捻挫を除き、治療院でも関節固定を行うべきである。とはいっても捻挫の固定は整形外科や整骨院が本業とするところなので、針灸院レベルではテーピング固定(伸縮性のないテープを使用)を行う程度となる。逆にいえば、テーピング固定しても歩行困難な患者は針灸適応外といえる。針灸治療だけで固定をしない場合、痛み自体は間もなく消退するが、靱帯がゆるんだまま炎症が治まった状態(これを慢性捻挫とよぶ)に移行しやすい。慢性捻挫では、一定の負荷の持続で、関節部が腫脹し痛みを訴える。また捻挫を起こしやすくなる。

2)針灸治療法
現代医学においても、打撲・捻挫などの外傷の時に、圧痛点に局所麻酔を打つと治癒が促進されることが知られている。痛みを放置した状態→反射的に筋肉の緊張が強くなる→交感神経の緊張が続き、腫れや血行障害が続く、ということで局麻注射は痛みの悪循環を遮断する意味がある。
   
圧痛点に針灸治療を行う意義も同様で、鎮痛→筋緊張緩和→交感神経緊張緩和→血行促進→自然治癒力増強という機序が作用する。

代田文彦は、「捻挫時の圧痛点刺針は、骨膜に至るまで深刺した方がよく、その理由として骨膜は広汎に響きを与えられるので、刺針効果の及ぶ範囲が広くなる」と話していた。 針灸治療自体は容易で、捻挫部の圧痛点を数カ所みつけ、そこに強刺激の単刺法を行う。結果として阿是穴治療になることが多い。
刺針時の患者体位としては、捻挫部を広げて靱帯伸張させて刺針すると針が骨間の凹みの底に至りやすくなり、針の響きも広範囲になる。

 

 





女性の機能性不妊症の針灸治療と治療成績

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全国には婦人科疾患の針灸治療を謳った針灸院が少なからず存在している。月経痛などは速効性があるのであまり問題はない。逆子の治療は短期間なの治療の成否とは関係なく問題は少ないだろう。しかし不妊症はどうだろうか。結果が出るまで数ヶ月以上を必要とし、かつ結果が成功・失敗の二択になる。高額な治療費をもらっている以上、治療者としては結構な冒険だろう。それでも妊娠する確率が、ある一定以上であれば、治療失敗もやむを得ない面があると思うが、実際はどんな具合なのだろうか。


1.女性の機能性不妊症について
 
1)女性の機能性不妊症の原因

受精卵が着床するためには、子宮内膜の血流量が豊富なことが重要な条件であることが知られている。その子宮内膜の血流量を減少させる要因にストレスである。ストレスがあると、鬱血の増大および末梢循環を減少させ、「冷え」をひどくする元凶となる。冷えが瘀血を生じて、子宮・卵巣・卵管の血流量を減少させると、おのずと卵胞の発育成熟も遅れて無排卵になる。同時に子宮頸管粘液の分泌機能に障害をきたして授精・着床障害を起こすことも考えられる。
 
2)不妊症に対して針灸ができること    

自分自身の生命が不安定な状況では、新しい生命を誕生させる余力がない。機能性不妊症では、基本的には母体がある一定以上に健康体である必要があるのだろう。不妊に対して針灸ができるアプローチとしては、子宮・卵巣に対する血流動態の改善と、ストレス改善が考えられている。具体的には次のようである。
  
①胚の質が改善
卵子自体の質の改善は困難だが、卵胞の発育不良の改善を目指すことができる。
  
②着床側の子宮内膜の環境の整備
子宮内膜が厚くならない場合にその改善を目指す。内膜が8ミリ以上と未満とでは、体外授精の妊娠率も有意に異なる事が知られている。内膜の状態は妊娠率を左右する。大切なのは子宮周辺の血行の促進が内膜の厚さに関与するという研究結果があることで、局所の血行促進は、針灸の得意とするところである。
  
③ストレスの緩和  
卵巣は視床下部から脳下垂体を経て、ホルモンによる指令を受けるが、ストレスが大きいと、この指令に不調和を起こす。ゆったりとした治療でストレスの緩和を行なう。


2.不妊症に対する針灸の治療成績

不妊の針灸治療を受けようとする者は、人工授精や体外受精を行っていることが多いので、針灸単独での治療効果は判然としないが、総合的にはだいたい5割程度の妊娠成功率であるとされている。現代医療での成功率が3~4割程度なので、1~2割程度の上積みが針灸の効果といえる。
 
1)越智正憲(産婦人科医)の見解
東洋医学だけでの機能性不妊症施術の妊娠率は5%以下に過ぎない。その理由は、機能性不妊症の90%以上は、卵管采でのピックアップ障害か精子の受精障害であって、これらの障害には東洋医学の効果は全くない。
(越智正憲:「概説 不妊症の検査と施術」医道の日本 第752号 平成18年6月号より)
 
2)形井秀一の治療成績
約3年間に不妊患者20名に対して針灸治療を試みた。11回以上治療を受けた15例についての平均治療回数は27.4回、治療期間は平均11.7ヵ月だった。このうち妊娠に至ったのは4例だった。この4名はいずれも21回以上治療をした者だった。妊娠した4例の治療回数は13~27回で治療日数は95~274日であった。
(形井秀一:婦人科疾患に対する鍼灸治療「鍼灸臨床の科学」医歯薬出版、2000.9.25)
※単純にいえば、妊娠成功者は、4/20で、成功率5%になる。

3.針灸治療の方法 (三島泰之「身近な疾患35の治療法」医道の日本社)

針灸治療の成否は、もちろん最終的に妊娠できたか否かで判断するのだが、針灸を継続して実施するためのモチベーション保持には、成功への手がかりや手応えが必要であろう。

三島泰之は、治療が効果的に作用しているかどうかの目安が次のものになるという。
①長めだった生理周期が、28日型に近づく。
②基礎体温の高温期が長くなる。
③投与される薬剤量が減っても、同じ効果が得られる。
④骨盤の歪みの是正:腸骨稜の高さに左右差、脚長差
⑤腎虚所見の是正:下腹・腰・足の冷え、小腹不仁(下腹部の空虚)
⑥瘀血所見の是正:小腹急結、小腹硬満
   ※少腹急結左下腹部に擦過痛があり、索状物がある。瘀血証。桃核承気湯の適応。
     少腹とは、側腹のこと。
   ※小腹硬満:下腹部に堅硬な抵抗物があり膨満感がある。瘀血症で桂枝茯苓丸が適応となる。  
       小腹とは下腹、大腹は上腹のこと。

 

慢性足関節捻挫に足根洞(=丘墟)刺+腓骨筋群刺 Ver.2.0

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2012年6月12日に「慢性足関節捻挫に足根洞(=丘墟)刺針」と題したブログを発表したが、一部に誤りがあり、その後の知見も増えたので、上記タイトルとして書き改める。


急性足関節捻挫による靱帯損傷が治りきっていない状態というのが、狭義の慢性捻挫である。この状態で、激しい運動や足首に負担のかかる姿勢を行えば、痛みが出現する。「治りきっていない」という意味には、次の2つがある。

1.靱帯の緩みが原因となる場合 
    靱帯断裂    ※急性捻挫の痛み自体は数日~数週間で消失
        ↓
   切れた靱帯線維間が、瘢痕組織で埋まる
     ↓
   靱帯が緩む(ゴムのように伸びる訳ではない) ※「関節不安定症」状態(靱帯損傷の数%)
        ↓
    普段は痛まないが、わずかなきっかけで捻挫を繰り返しやすい
        ↓
     靱帯再建術  ※術後は9割以上が治癒するが、残り数%は本手術でも完全には回復しない。
 

2.関節とくに足根洞の固有知覚の異常が原因となる場合   

靭帯の機能不全が軽度な場合でも捻挫を繰り返すことがある。それは、主に関節の固有知覚(関節の位置や関節にかかる力を感じる=バランス感覚を担う神経群)の異常が考えられている。足部の関節の固有知覚は、靱帯や関節包などのほかに、とくに足根洞窟部は神経終末が集合しており、足部の固有知覚に重要な役割があることが知られるようになった。

 1)足根洞の構造と機能
足の外果の斜め前下方で、距骨と踵骨のつくる骨溝を足根洞(丘墟穴に相当)とよぶ。足根洞は漏斗状で、内部には骨間距踵靱帯と、下伸筋支帯から分岐した3本の線維束がある。この線維束は、伸筋の緊張が、下伸筋支帯を介して、距骨-踵骨間に一定の動きあるいは安定性を与える生体力学的な機能をもつと考えられている。

 

2)足根洞の機能異常
       
足の外果の斜め前下方で、距骨と踵骨のつくる骨溝を足根洞(≒丘墟穴)とよぶ。足根洞は漏斗状で、内部には骨間距踵靱帯と、下伸筋支帯から分岐した3本の線維束がある。足根洞内部には、神経終末が集約されており、「足の目」ともいわれるほどに地面から足に伝わる微妙な感覚を感受するセンサーがある。

 「足根洞」で捉えた足の感覚は、脊髄を上行して脳まで伝わり、脳が解析した感覚は脊髄を下行して腓骨筋に伝わる。つまり、足根洞部→反射弓→腓骨筋緊張という反射弓で制御されている。
    
もし足根部の神経終末が何らかの原因で傷を受けている場合、足はつま先が下垂し、かつ内反足傾向になるので、足先を床に引っかけやすくなるので、足関節外側捻挫を起こしやすくなる。 
  

3.慢性足関節外側捻挫の治療

1)足根洞症候群としての針灸治療
   
ペインクリニックでは、このような慢性足関節捻挫に対しては、足根部へのブロック注射が効果をあげている。針灸でも太い針で、足根洞底部に到達するような深刺を行い骨膜刺激を行うとよい。単に仰臥位で丘墟から直刺深刺してもあまり響かないので、跪座位 (両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢)、または俗にいう和式トイレ座り (足裏を地面につけてしゃがむ姿勢)にて刺針すると響くようになる。
  

 


 


2)腓骨筋群の筋力増強訓練と治療点
       
前距腓靭帯が傷ついた足首であっても、腓骨筋群(長・短腓骨筋)などが足関節をしっかりと支えているとぐらつかずに歩行できる。腓骨筋群を鍛えることが捻挫の再発を防ぐことにつながる。その訓練方法には、長座位になって両足母趾間をゴムで連結し、足を外旋 (踵を支点として足母趾を遠ざける)させる方法などが知られている。
針灸治療では、長・短腓骨筋に対する刺針として、陽陵泉・懸鍾などが局所治療点となる。
   

 

 

 

3.殿部の下肢内旋筋群に対する坐骨神経ブロック点刺
    
足の内反訓練が慢性捻挫の予防につながるのであれば、殿部深部筋(梨状筋など)増強目的で訓練するのも良いかも知れない。ただし殿部深部筋の収縮力低下によるものであれば、筋力を復活させるには、たとれば坐骨神経ブロック点刺針(=梨状筋刺針)をすることが効果的になるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

椎間関節性腰痛と筋々膜性腰痛の針灸 再整理

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下肢症状のない腰痛の針灸治療の代表的疾患といえば、椎間関節性腰痛と筋々膜性腰痛であろう。両疾患はともに、痛みの直接原因が脊髄神経後枝にあるという共通性があり、症状も紛らわしい部分がある。これらに対して現代針灸はどのようなアプローチをすればよいのだろうか。かつて解剖学的針灸という単語はあったが、現代針灸という単語はなかったように記憶している。確かに三十数年前は、「単に何々筋が緊張しているので、そこに刺針して緩めたので症状改善した」という以上の内容がなかった。一歩一歩ではあるが、現代針灸も進歩を続けているようだ。

 

1.椎間関節性腰痛

1)病態生理
 
急激な腰胸の動きで関節包内の関節滑膜が挟まり関節包炎症  → 椎間関節部の圧痛(+)
                   ↓
脊髄神経後枝内側枝に興奮伝達   →  背部一行(棘突起外方5分)圧痛(+)
                   ↓
脊髄神経内側枝の興奮が後枝外枝にも伝達  →  外下方45°方向に痛み放散、同部位に撮痛(+)

2)針灸治療

側臥位または伏臥位にて、2寸4番程度の針を用い、棘突起外方1.5㎝あたり(=椎間関節部)から骨に当ら深刺直刺し、骨に当てる。針先を骨にぶつけて数秒間タッピングを続けると、症状部に至る針響を得ることができる。(技量必要)

 註釈:脊髄神経後枝の皮膚走行

脊髄神経後枝の内側枝と外側枝は、約60°の角度で外下方に走行して皮膚知覚を支配していると主張しする文献( ScientificRwserch Open Acsess HP)がある。デルマトームの背腰部神経支配の分布の縞模様は、せいぜい30~45°なので、60°という角度は受け入れ難いかも知れない。 
しかしの60°というのは、撮診を行った結果であって、筆者の実感でもある。ただそうするとデルマトームの知識との整合性に無理があるので、あえて本稿では45°とした。

 


2.筋々膜性腰痛

1)病態生理

背腰部の過伸展や捻転で椎体間の急な位置変化
                   ↓
とくに短背筋群のトリガー活性   → 背部一行(棘突起外方5分)圧痛(+)
 (棘突起直側の深部筋)
                   ↓           
脊髄神経後枝内側枝の興奮が後枝外枝にも伝達  →  外下方45°方向に痛み放散、同部位に撮痛(+)


※註釈:ダメージを受けやすい筋とは

不正動作により突発的に生ずる痛みは、大腰筋、腰方形筋、短背筋群(=回旋筋群、多裂筋、半棘筋)の問題らしい。これらの筋群は、腰椎に直接付着しているという共通点がある。短背筋群の長さは短く、したがって起始と停止間が短いので、脊椎捻挫の際に衝撃を受け流すことが難しいので筋ダメージを受けやすい。

   

2)針灸治療

①夾脊刺針
短背筋群の筋筋膜症に対して実施。側臥位にせしめ、3~5番程度の針で、症状部から内上方45°の圧痛ある棘突起直側から深刺し、短背筋群中まで刺入。普通は症状部に至るような響きはない。

②志室外方から横突起方向に深刺:大腰筋、腰方形筋  ( 詳細省略)

 
3.T4症候群(椎間関節性腰痛特殊型)

T4症候群とは、カイロプラクティック分野の概念なので、医学的にはマイナーだが参考にはなる。胃に神経を送り胃の働きを制御している中部胸椎Th4,5,6の中でもTh4の背骨が神経関節機能に障害をきたすことで、胃の働きに影響を及ぼ症状が出現するのだという。主に「逆流性食道炎」がその特徴だという。

横隔膜は、その中心部がC3~C4神経支配で、辺縁部がTh7~Th12肋間神経支配であることが知られている。胃は内臓としては知覚過敏な方だが、横隔膜と比べれば鈍感なので、我々が胃症状と思っている心窩部痛は、実は横隔膜過敏症状であることが多いだろう。
熟練を必要とするがTh6~Th7棘突起外方1.5㎝から深刺して椎間関節に針先を当てて、数秒間タッピングすると、針響はあたかも胃に響いているような感じを与えることができる。先のT4症候群いうのは、この現象のことを示しているのかも知れない。
 

 

 4.メイン Maigne 症候群(椎間関節性腰痛特殊型)

胸椎腰椎接合部症候群のことでMaigneが提唱した。胸腰椎移行部(Th12/L1棘突起間)の椎間関節捻挫に伴う後枝興奮のこと。臨床上高頻度である。胸椎間は回旋の可動性があるが、腰椎間は屈曲伸展の可動性はあっても回旋可動性はない。上体を大きく回旋した場合、Th12/L1棘突起間の椎間関節に強い力学的ストレスが加わることになる。上殿皮神経が圧迫を受けて発症。上殿皮神経とはL1~L3脊髄神経後枝外側枝の別称である。

上殿痛・大腿外側~大転子部痛・鼠径部~陰部痛という3つの領域の痛みを起こす。腸骨稜の辺りに圧痛が出る。上殿皮神経の走行を調べるには撮診法が利用できる。

上記症状に対しては、Th12棘突起下直側の夾脊または椎間関節刺で再現痛が得られ、直後から痛み軽減することが多い。

 

 

 

 

 


 


筋々膜性腰痛の針灸治療(上) 短背筋群性の腰痛

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1.概念

背腰部の過伸展や捻転→筋々膜のトリガー活性化→脊髄神経後枝が筋膜を貫く部位で刺激されて枝興奮。なお腰背筋の代表といえるのは脊柱起立筋だが、この筋は脊柱を支え、固定するための能が中心で、寝ている時以外は常に緊張状態にあることが知られるようになった。筋筋膜性腰痛の関係は密接でない。
 

不正動作ににより突発的に生ずる痛みは、大腰筋・腰方形筋・短背筋群の問題らしい。これら筋群は、腰椎に直接付着しているという共通性がある。

2.短背筋の筋々膜性痛

1)短背筋の構造 

棘突起外方5分で背腰部督脈に伴走するラインを背部一行線(または夾脊)とよぶ。この部には半棘筋・多裂筋・長回旋筋・短回旋筋があり、基本的に骨盤もしくは腰椎横突起を起始とし、それより上部の腰椎棘突起を結んだ筋。靴ヒモ様の構造になっている。すべて脊髄神経後枝支配。

 

 

2)短背筋の脆弱性

胸椎の椎間関刻面の構造上、左右回旋ができるが、前後屈はできないという特徴がある。なお胸を左右に回旋させる作用がある短背筋群は、半棘筋・長・短回旋筋である。
上体を左右に回旋する時、上下に隣接する胸椎は、半棘筋・長・短回旋筋の作用で少しずつ回旋るが、腰椎以下はし、左右回旋運動できないが、前後屈はできるという特徴があるので、回旋運はTh12-L1間でスムーズに流れず、強い力学的ストレスが椎間関節に加わることになる。結果椎間関節症を起こしやすい。またこの椎体間の不正な動きは、半棘筋・長・短回旋筋を無理に伸張させる動きとなるので、同筋群の筋々膜性腰痛も引き起こしやすい。

※短背筋は短い、すなわち起始と停止の距離が短いので、椎体間の不正な動きの衝撃を受け流すことが難しく、筋ダメージを受けやすい。

   棘筋は脊柱起立筋に所属する。

 

3)短背筋性筋々膜性腰痛の所見と針灸治療

胸椎部一行線上の短背筋群に圧痛出現する。この圧痛点下にある障害筋中2~3㎝刺入。置針5~10分。なおTh12-L1間の椎間関節性腰痛は高頻度に起こり、これをメイン症候群とよぶ。

 
3.とくに多裂筋性腰痛について

1)多裂筋の脆弱性

胸椎範囲の短背筋群の障害筋は、半棘筋・長・短回旋筋が代表的なのに対し、腰椎範囲の短背の障害筋は多裂筋が代表である。多裂筋は腰椎の前後屈運動を行う機能があるので、腰仙部で発している。多裂筋性腰痛は、上体の回旋動作で発症するのではなく、上体の前屈や再伸展動作で症しやすい。

寝ている時は何でもないのに、寝床から上半身を起こす動作で、急に腰痛を自覚する場合がある重症では継続して痛むが、軽症の場合では昼頃になると自然と腰痛消失し、翌朝は同じような腰が再び出現する。これは不良な就寝姿勢とくに軟らかすぎるマットにより殿が深く沈むことで腰前彎の増強→多裂筋緊張増強となっている状態である。
この状態は、仰臥位で腰部に手を差し入れるようにすると腰が浮き上がっていることで確認できる仰臥位で、両手で膝を抱えるようにして、背中を丸めるような姿勢をすると多裂筋伸張体操とな(=ウィリアム体操)。

2)カリエの「腰痛三角」刺針

脊柱起立筋は、腰部を過ぎて仙骨まで走行しているが、仙骨部は腱構造となって先細りしている起立筋の筋収縮は、この先細り部に加わる力が非常に大きいので、筋筋膜性の障害が起きやすい。第5腰椎棘突起、第1仙椎棘突起、上後腸骨棘の3点を結んだ領域に腰痛が起こりやすいことら、カリエはこの部を「腰痛三角」とよんだ。これも多裂筋緊張を診ていると考える。

伏臥位にて、腰痛三角部中央部から直刺して、針先を多裂筋中に入れる。そして両脚の膝関節を0回程度、交互に屈曲(足をバタバタさせる)させると、多裂筋に対する運動針になる。

 

 

 

3)小腸兪と関元兪について

代田文誌著「鍼灸治療基礎学」では、小腸兪をL5棘突起外方1.5寸を取穴しているので、カリエの腰痛三角中央は、小腸兪一行に相当している。しかし今日の標準的な小腸兪位置は、S1仙骨の外方1.5寸になってしまった。一方、関元兪はL5棘突起下外方1.5寸に取ることに決まったので腰痛三角の中心は関元兪一行といえる。ただし沢田健は、L5棘突起外方1.5寸の部の小腸兪をリウマチの熱をとるツボと考えていた。その意味するところを代田文彦先生に質問したが、全身的症状に対しては、いちいち疼痛部に針灸すると大変なので、痛みの中心路である脊髄、その中で上肢に関係深い頸膨大部として大椎穴を、下肢に関係深い腰膨大部として小腸兪に施術するとい考え方があるのを教えていただいた。


 

筋々膜性腰痛の針灸治療(下) 腰方形筋性腰痛と大腰筋性腰痛

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1.腰方形筋性腰痛

1)腰方形筋の構造
起立筋は仙骨に向けて幅が狭くなっている関係で、腸骨稜上縁にあるのは起立筋ではなく、腰方筋になる。第12肋骨から骨盤の間に走る筋。腰神経叢支配。本筋は腰背筋ではなく、腹筋に分類される。  

 腹筋前腹筋:腹直筋                                       
 側腹筋:外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋                      
 後腹筋:腰方形筋                                                                                
                                                                  

 

 

※かつては、腹筋力が弱いと腰部筋に、より体重負荷が加わるので 腰痛になるとされ、腰痛治療には腹筋強化が重視された。しかし現在では腰痛で腹筋の関与は、あまりないとされるようになった。

 

2)腰方形筋性腰痛の特徴 

①腰方形筋起始部の圧痛点

トラベルのトリガーポイント書籍をみると、腰方形筋の放散痛は殿部になっているが、私の経験からは、そうした印象はもっていない。症状部位から障害筋を推察するのは難しく、結局は圧痛点所見が重要である。患者が痛みを感じるのは、腰方形筋の起始である腸骨稜縁が多く、腰宣穴や力針穴が代表的圧痛点となる。側腹位にさせて、これらの部点を押圧すると圧痛点が明瞭になる。  

腰宜(ようぎ)穴:L4棘突起下の外方3寸。すなわち大腸兪の外方1.5寸。腸骨稜上縁。
力鍼(りきしん)穴:L4棘突起下の外方4寸。腸骨稜上縁。

②腰方形筋停止部圧痛点

腰方形筋停止である第12肋骨部(≒胃倉穴)が痛むこともある。この場合、側腹位にさせ、この部を母指腹で深々と押圧するようにすると圧痛が明瞭になる。
 
胃倉:教科書の胃倉は、Th12棘突起下外方3寸にとる。ここでは側臥位にせしめて、腰方形 が第12浮肋骨に付着している部に胃倉をとる。起立筋の外縁を触知する。その筋の外縁を圧し、脊柱方向に押圧し、最も指が沈む方向を把握。それが起立筋と腰方形筋のつくる筋溝でり、深部には横突起の先端がある。指の沈む方向に沿い、3寸~2.5寸の5番~10番針を5㎝ 程度刺入する。

※胃倉は代田文誌が腹痛の特効穴として「胆石疝痛に対し刺針すると、疼痛が頓挫できることが多い」と記している。実際は尿路結石疝痛に対して、これを頓挫できることが多い。私の経験では、胆石疝痛の鎮痛は側臥位にしての魂門斜刺深刺((肋間には刺入しない)である。

 

 

 

2.大腰筋性腰痛

1)大腰筋の基礎知識

大腿骨から腰椎のそれぞれ全部の間に走る筋である。腸骨筋は骨盤から大腿骨の間に走る筋で、途中で大腰筋と同じの束(腱)になり大腿骨に付着しているので、2筋合わせて腸腰筋とよばる。股関節を屈曲の作用がある。腹腔の後にあり、脊柱を前屈させる筋でもある。

起始:浅頭は第12胸椎~第4腰椎までの椎体および肋骨突起。深頭は全腰椎の肋骨突起
停止:大腿骨の小転子
支配神経:大腿神経
作用:股関節の屈曲(大腿の前方挙上)
 

2)病態生理と原因

腸腰筋中の大腰筋は、腰痛と深い関係がある。腰背部筋収縮は脊柱を後屈させる際の力となり、腰筋は脊柱の収縮は脊柱を前屈する際の力となるから、生理的には両者間に力学的バランスがとている。何らかの原因で腸腰筋の持続的収縮が起こると、中腰姿勢状態になり、上体を伸展させる際に、どく痛む。中腰姿勢の持続は、バランスをとるために腰背部筋の緊張を惹起するようになり、背筋の筋筋膜性腰痛も合併するようになる。

※「すべての腰痛は大腰筋に原因がある」と説く者もいるが、まったく同意できない。大腰筋を刺激しなければ速効できない腰痛は1割以下だと思う。

3)腰方形筋性腰痛と大腰筋性腰痛の鑑別
   
腰方形筋性も大腰筋性も、背部一行線上に圧痛がみられないという共通点がある。両者のいだが、腰方形筋性腰痛は、腸骨稜上縁の同筋起始部に圧痛があることが多いが、大腰筋性痛は、通常の押圧ではどこも圧痛点は発見できず、起立筋外縁から椎間板方向に深く押圧し圧痛点が発見できる。

4)大腰筋過収縮の症状
  
①中腰姿勢になり、無理に上体を起こすと腰痛増悪。
②朝起きたときに痛いことが多い。(持続収縮した腸腰筋を無理に伸張状態にしている)
③腰神経叢興奮症状
大腰筋と腰方形筋の間を腰神経叢の分枝が通っている。この腰神経叢から出る神経中、とくに大腿神経と閉鎖神経が刺激され、これらの神経を刺激すれば、それぞれ大腿前面あるい下腿内側に針響を与える(同時に、大腿前面痛や下腿内側痛が本法の適応になる)。針がや下方を刺激すれば、腰神経叢からの分枝である陰部大腿神経(陰部~大腿内側に響く)外側大腿皮神経(大腿外側に響く)に響く。大腰筋過緊張の場合、5~10分程度置針する。

 

5)大腰筋刺針 

広く知られているのは、伏臥位にてL4、L5椎体棘突起の外方3寸からの深刺で大腰筋に刺入するものである。この方法は、起立筋や椎体横突起間を貫かねばならないため、技術に難しく、刺激感も強くなるのが普通である。

筆者の方法を紹介する。側腹位、3寸#5~10の針を用い、ヤコビー線の高さで、起立筋外縁(痩せた者では横突起の直前)を刺入点とし、椎体側面方向に7~8㎝刺入針先が患部へ響くと、ズーンと重く響くような感覚が腰全体に広がる。

※大腰筋刺針は普通は強い針響を与えるが、押し手を弱くして組織に抵抗を与えないようスルスルと刺入すれば、3寸#10程度の針であっても、比較的抵抗なく患者に用いることもできる。    



6)大腰筋脱力のケース

まれなケースだが、腰砕け状態で、まったく立位になれない者がいる。これは大腰筋の脱力を意味している。大腰筋の伸張持続が極端な場合、このままでは筋が断裂すると筋・腱紡錘中の受容器が反応し、反射的に脱力状態になる。このような症状の腰痛は、10年に1度ほど診る感じである。

この状況から本来の筋トーヌスまで回復するには、大腰筋に対して長時間置針(1時間ほど)が必要であるとの見解がある。
 

慢性メニエール病に対する針灸治療

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 1.急性メニエール病の症状の機序

 内耳で平衡感覚をつかさどるのは三半規管と耳石器で、身体の動きや位置に伴う管内部にある内リンパ液の動きを、有毛細胞が捉えることで空間における自己の位置や動きを把握している。

 何らかの原因で内リンパの吸収障害が起こると、内リンパ圧が上昇し、内リンパ水腫状態になる。すると音を感ずる細胞を圧迫されて鼓膜からの振動が伝達しにくくなり、感覚細胞を乗せて震動する蝸牛基底板の動きを全体的に悪くするので、低音障害型の難聴となり、有毛細胞が過剰刺激されて無意味な信号を発信して耳鳴が生ずる。

 水腫が一定以上の大きさになると、ライスネル膜は破綻し内リンパ液が外リンパ液に混入し、その瞬間リンパ液の乱流が起こる。この時、回転性メマイ発作が起きる。このメマイは2~3時間程度、ときに半日続く。メマイ発作は、発作性反復性に起こる。メマイ発作が治まり、寛解期に移行すれば、難聴・耳鳴も消失する。

その後、ライスネル膜は自然修復され、内外のリンパ圧は等しくなるので、症状は寛解するが、数週間~数ヶ月後には、同じ機序で発作を繰り返す。 

 

 

  

 2.内リンパ液の吸収障害となる原因

内リンパの吸収障害となる原因について、これまでは自律神経異常が関与しているとされてきた。しかし2009年12月に大阪市立大の山根英雄らの研究グループが、「球形嚢内で微小な炭酸カルシウムの耳石が剥離して、内リンパ液の通路をふさいだ結果、内耳が内リンパ水腫になって発症する」との見解を提示している。

※球形嚢の耳石の欠片が剥がれて、三半規管内のリンパ液に浮遊すると、良性発作性頭位メマイとなる。

 

 

 

 3.慢性メニエール病の症状の機序

メマイ発作を繰り返すうちに、ライスネル膜は厚くなるので、膜の破綻は起きにくくなり、前庭器官の機能低下を視覚や深部知覚が代償するようにもなるので、メマイ発作は起きにくくなる。内リンパ浮腫は前庭部だけでなく蝸牛部にも生ずるので、コルチ器が正常に機能せず、持続的な難聴・耳鳴を生ずるようになる。聴覚は、蝸牛の他に代償できる仕組みがないので、慢性メニエール病では、恒常的な難聴(感音性)・耳鳴りが主訴となってくる。

慢性メニエール患者の訴えは、片側性難聴が中心で、調子に波があり、悪い時は糸電話で音を聞いているようだと言い、また頭がパンパンになるとも訴えることが多い。

 
4.慢性メニエール病の針灸治療

1)急性メニエール病と慢性メニエール病の針灸治療目標の違い  

急性メニエールのメマイ発作時はとても来院できる状態になく、来院は非発作時になる。したがって現在起きているメマイを改善させることが治療目標とはならない。次のメマイを起きにくくする(あるいは非発作期間の延長)におくので、本当に効果的な針灸治療ができているのかどうか、はっきりしないという扱いづらさがある。
その点、慢性メニエールは現に存在している耳閉感が主訴となり、この耳閉感の改善が治療目標となるので、治療手法の試行錯誤や治療効果を行いやすい。 

 
2)感音性難聴と耳閉感の違い 

回転性めまいであれば、まず内耳障害を疑う。めまいは慣れるにつれ、視覚情報や深部知覚情報が代償されて軽減するのが普通であるが、針灸では天柱や風池などの深刺により深部知覚情報に干渉することで有効となる場合が少なくない。項部深部筋が、姿勢保持機能をもっていることに関係しているであろう。片側性の項深部筋緊張では、メマイを生ずることも知られている。 

一方、聴覚は代償機能がないので一般的には難聴・耳鳴の治療は難しいとされる。現時点での医学では故障したマイクロホン(=コルチ器)を修理する方法はない。すなわち騒音性難聴やストマイ難聴、発症1週間を過ぎた突発性難聴には、効果的な治療に乏しいわけである。

 ところで慢性メニエール症の訴える難聴とは、厳密にいえば耳閉感のことであろう。耳閉感は、片側性(まれに両側性)の軽度低音障害性感音性聴力障害(低い音が聴きづらい)をいい、患者が耳が詰まった感じがすると訴えることが多い。耳閉感は、蝸牛内のリンパ液循環障害により、コルチ器が音波を拾いづらい状態であって、コルチ器自体の故障ではない。その代表疾患にメニーエール病がある。すなわちメニエール病の耳閉感は治す余地があるといえそうである。

 
3)慢性メニエール病の耳閉感に対する針灸治療方法 

治療点は、文献では項部の天柱・下天柱・風池置針を推奨している者が多い。針灸で内リンパ浮腫の状態に干渉し、前庭機能障害であるメマイや蝸牛機能障害である耳閉感に効果的だといえるのではないか。 

 

①針灸治療のコツは、20分以上の置針が必要なので、仰臥位で実施すること。(長時間の伏臥位は患者に負担になる)

②上頸部の深部の筋(主に後頭下筋群)のシコリ中に刺入する。8番針程度の太い針の方が効果があるが、患者の感受性を考慮して2番針をしてもよい。(脊柱深部の小筋は、体幹の運動や体重支持の役割は少なく、姿勢保持機能としての機能をもっている。すなわちメマイ治療には深刺する必要がある。

③頭部症状があれば、太陽穴、百会、上星などの置針を追加する。

④座位にさせて、ふたたび後頭下筋のシコリ中に数カ所刺針し、それぞれ10秒間ほど雀啄した後に抜針。

⑤治療直後は、聴力改善することが多い。しかし週1回(調子の悪い時は2回程)度の通院が必要で、しかも長期的な展望としても完治にはつながらないが、とりあえずの症状軽減策としては他に代わる方法がないわけで、針灸の必要性は高いといえる。

 

 

 

 

 

 

肩関節の結帯動作制限に対する針灸治療

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H27.1.25.上記タイトルのブログを書いたが、パソコン操作ミスで消えてしまったので、再度書き直すことにした。

1.結帯動作制限に関係する筋
    
五十肩では外転時痛とともに結帯動作時痛が生じやすい。結帯動作は、肩の伸展+内転+   最大内旋の複合運動障害である。しかし肩の伸展筋・内転筋・内旋筋の筋力が低下しているのではなく、その動きの拮抗筋が緊張し過ぎた結果である。

したがって結帯動作制限に荷担している筋は、屈曲筋→三角筋前部線維、外転筋→三角筋中部線維と棘上筋、外旋筋→棘上筋・棘下筋・小円筋ということになる。とくに内旋運動の障害が強いので、棘上筋・棘下筋・小円筋が問題となり、なかでも運動分析的には棘下筋と小円筋緊張が結帯動作制限に関係している。
                      

            


 2.内旋運動制限をもたらす緊張筋   

内旋運動には、上図のように2つの方法名があるが、筋の起始停止の位置関係から、第1肢位での内旋制限は、棘下筋の過緊張によるものであり、第2肢位内旋制限は、小円筋の過緊張によるものであるという。

 

 3.棘下筋刺針
  
結帯動作により棘下筋のトリガーが活性化すると、棘下筋部だけでなく、上腕外側や上腕前面 に広範囲に運動時痛が生ずる。このような場合、座位で第1肢位内旋をさせて症状出現させた状 態で、天宗あたりの圧痛点に刺針すると内旋痛が改善することが多い。
  
上腕外側の痛みは、外側上腕皮神経痛と考えがちで、この部から水平刺の皮膚刺激を行っても、 治療直後しか痛みを減ずることはできないので、本質に迫った治療とは言い難く、この場合、天宗圧痛点に刺針すると改善できることが多い。

   
 

4..小円筋運動針

座位で第2肢位内転姿勢をさせると、後腕付け根あたりに痛みを訴えることが多い。ただしこの痛みは不鮮明なので、施術者は意識的に、小円筋の停止部圧痛を見出して刺針する必要がある。刺針すべき場所は、第2肢位内転姿勢にさせ、て肩髎穴(三焦経、肩峰の後下端)から肘方向に1寸ほどの部になる。 

 

 

 

肩関節の結髪動作制限に対する針灸治療 Ver.1.1

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2015年1月15日付けで、私は「肩関節の結帯動作制限に対する針灸治療」というブログを発表した。その姉妹編ということで、今回は上記タイトルについて見解を記す。

 

1.結髪動作制限に対する大円筋・肩甲下筋刺針

筋緊張により結髪動作制限(屈曲+外転+外旋の複合動作)が起こることがある。結髪動作に関係する筋は、肩関節の屈曲筋や外転筋や外旋筋ではなく、それらの拮抗筋の伸張障害が原因となる。

したがってり、伸展筋→三角筋後部線維、内転筋→なし、内旋筋→大円筋・肩甲下筋のに対する刺激が重要となる。とくに経験的には内旋筋である大円筋と肩甲下筋刺激重要で、具体的には後方四角腔を刺針点とし、肩甲骨と肋骨の間に針を入れるように深刺する 。

2.肩貞からの水平刺 

後方四角腔(≒肩貞)を刺入点として、針を肩甲骨と肋骨の間隙に刺入すると、針はまず大円筋を貫き、次いで肩甲下筋に刺入できる。肩甲下筋中に刺入し肩甲骨裏面附近に響かせるには、5~7㎝以上の深刺が必要である。トラベルにより、肩甲下筋のTPsは後方四角腔部に痛みを生ずることが調べられている。


3.膏肓からの水平刺

治療側を下にした側臥位をとらせると、肩甲骨が浮き上がり、肋骨との間に隙間が空く。この体位にさせ、膏肓あたりから肩甲骨と肋骨間に向けて、5~7㎝水平刺すると、ズンという針響を肩甲骨裏面に与えることができる。それを患者は、やっとつらい処に当たったと喜ぶことをよく経験する。

先の肩貞水平刺に比べて、膏肓水平刺の方が、十分に深刺するのが容易である。

※伝聞だが最近のMPs研究会の席上、肩甲下筋に対する刺針が、肩の外旋制限に効果あるとの報告があったという。すなわち結髪制限に対して、膏肓水平刺が有効となる可能性が強いといえる。

※肋骨面に対して、肩甲骨の外転の動きにくさは、条口からの深刺で改善できたとの台湾医師の見解を報告済。

 

 

経絡走行モデル Ver 2.0

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筆者は2011.1.11付で「經絡走行モデル」ブログを発表した。その内容は、經絡走行をトポロジー的に捉えたものであったが、分かりにくい点が多々あった。そこで今回は、經絡走行概念図を示しつつ、実際の部位(あるいは経穴名)を付け加えることで、經絡を利用した針灸臨床を考えるための素材を提供することを考え大幅な改良を行い、「經絡走行モデル Ver.2.0」として発表する。 

 

1.三陰三陽の表在経絡 

一般的な経絡図は、表層経絡(正確には絡脈)だけが描かれているのは周知の通りである。十二經絡は、走行別に手の三陰經、手の三陽経、足の三陰経、足の三陽経に分類される。この4種の走行パターンを下記に示した。

 

2.表在經絡と深部經絡

これは初歩的学習としては妥当なものだが、経絡を利用した治療をしようと思えば、まったく不足している。一つの経絡の特徴としては、走行のどこかで該当臓腑につながっていて、臓腑と直接つながっているのは深部經絡であって、上記の図では省略されているからである。 

直接、鍼灸刺激できるのは、上図の表層經絡部分だけだが、鍼灸刺激が表層經絡→深層經絡→臓腑というように伝播されるので、内臓治療が可能となるというのが古典理論になっている。

3.經絡走行モデル図

実際の經絡流注は極めて複雑で信憑性も高いとは言い難い。經絡を考慮した鍼灸治療するにしても、經絡走行を細部まで記憶するのは難しく、それを記憶しなければ治療できないというわけでもない。 

手元には本間祥白著「図解鍼灸実用経穴学」と同氏著「誰でもわかる經絡治療講話」の二冊がある。両書籍とも下図のような經絡走行一覧表が載っている。非常に複雑であることが改めて思い知らされる。(色づけは私自身の勉強のために付加したもの) 

 

だが、始点と終点、深部經絡が臓腑に出入りする部位、浅層經が深層經絡と潜る部位(あるいは深層經絡が浅層經絡に浮き上がる部位)など、要点をきっちりと押さえる一方、細かな走行を省略することにすれば、經絡走行の全体像が見渡せるものとなるだろう。 

①上図で青色が表層經絡で針灸刺激できる部位である。表層經絡は、四肢と体幹ともに流れている、体幹部分の表層經絡は体壁を走行している。黒色は深層經絡で鍼灸刺激できない部位である。深層經絡は体幹深部(=体内)にある。

②經絡で、太線は太線が直經、細線が支脈である。

③四肢末端附近にある経穴は、<絡穴>であり、次経への流入口である。四肢の經絡末端は<井穴>である。 

④手三陰経と足三陽経は直接はつながっているようには図示されていない。これは頭蓋の感覚器官や脳内を複雑に走行していて図示困難なことによる。  

 

 

 

4.經絡モデル図から読み取れること

①肺経と大腸経、あるいは胃経と脾経といった表裏関係で一つの循環を構成している。

②大腸経から胃経への連絡、あるいあ小腸経から膀胱経への連絡の際は、頭蓋部の経絡論の連絡が必要。



 


 

    

医家のための低炭水化物ダイエット入門

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1.序

一昔前単純性肥満は、摂取カロリー>消費カロリー状態なので、食事量を減らし身体運動量を増やせばよい、と単純に考えられていた。それができないというのは、本人の意志の弱さが原因だとした。1990年代になって肥満と食欲の関係について、大きな進展があった。以下、自分自身の勉強がてら、インターネットに散在している文章を、カット&ペーストの要領でまとめた。

アメリカ人医師、ロバート・アトキンスが開発した開発された低炭水化物ダイエット(=ローカーボダイエット)を説明する。現在流行しているライザップもこの食事指導をしている。アトキンスのダイエット手法は2003-2004年ごろに北アメリカでブームになった。1年以上の長期では低水化物ダイエットは健康に有害だとされている。 
 

2.低炭水化物ダイエット 

ダイエットの2大柱は、食事療法と運動療法である。食事量を減らして運動量を増やせば、痩せるのが当たり前だが、運動での消費カロリー以上に食欲は増加するので、ダイエットとしては現実的でない。要するにダイエットとしての重要性は9対1で、圧倒的に食事療法が重要になる。
  
1)食後も血糖値をあまり増やさない工夫
       
血糖値が上昇するとインスリン分泌を強いられる。インスリンは血中のブドウ糖を身体組織が取り込むための媒介として機能するが、インスリンは血液中のブドウ糖を体脂肪に変えてしまう働きもある。つまりインスリン分泌を増やさない食事がダイエットには必要である。
  

2)低炭水化物、中脂肪、高タンパク質食が重要  

イスリン増加は炭水化物摂取の結果である。その一方で、脂肪やタンパク質はインスリン分泌は増やさない (かっては低脂肪食がダイエットに適しているとされた)。脂肪摂取量の多さが肥満につながるわけではない。高タンパク質食もインスリン分泌を増やさず、しかも基礎代謝を高め、ダイエット中の筋肉量低下を抑制するから推奨できる。
   
痩せるための食生活は、高タンパク、中脂肪、低炭水化物が適切である。炭水化物は、摂取カロリーの5%程度にするのがよい。キノコ、サラダ、ツナ缶、豆腐、納豆、ひじき、こんにゃく、スープ、しらたき、ゼリーなどを「お腹が空いたら食べて良い食材」と位置づけると気が楽になるという。 

 
3)糖新生(炭水化物以外の栄養素からブドウ糖を製造する)
    
炭水化物を摂取しないと血糖値が下がらないので、空腹信号も出せなくなる。このような食生活を続けると、3日目位からは空腹感がまったくなくなる。一方、身体はエネルギーを必要としているから、肝臓に蓄えられているアミノ酸からブドウ糖を合成して脳のエネルギー源とするようになる。なお、このような炭水化物以外の栄養素からブドウ糖を製造することを糖新生とよぶ。
    
アミノ酸から生成できるブドウ糖だけでは脳のエネルギー源を100%補給するには不足なの   で、体は緊急非常処置として、アミノ酸から生成したブドウ糖を利用する糖代謝から、中性   脂肪を分解する際に副産物として生成されるケトン体を利用する脂質代謝経路へ切り替える。   この状態をケトーシスとよぶ。この回路により体脂肪を効率良く消費させる。
  
4)ケトーシスとケトアシドーシスの違い 
    
ケトン体は酸性物質であるが、ケトン体量が増えても血中の炭酸イオンの働きにより、血液のpHが大きく変動するのを抑制しているので身体に悪いというわけではない。一方、ケトアシドーシスも血中のケトン体の量が上昇した状態だが、上記の炭酸イオンの働きを超えて増えてしまったため、血液が酸性になった状態をいう。本ケトアシドーシスは、ケトーシス状態下に糖尿病などの病気が合併したときに生じ、意識消失や死に至ることもある。
   
血中のケトン体濃度が上がり、ケトン体を体外へ排出するため、多量の水を必要とするので、脱水を避けるために1日に2リットルは水分補給すること。この時期には、ケトン体の甘酸っぱい匂い(いわゆるダイエット臭)がするようになることがある。
  
※ケトン体を利用し始めたら脳の活動能力が一気に低下し、基礎代謝も大幅低下を招き、体力、抵抗力、思考能力、そして食欲自体も低下するので空腹感なしに減量することができる。
   
※長い人類の歴史の中で、炭水化物を直接摂取するようになった歴史はせいぜい数千年であり、現在の野生動物がそうであるように肉食が中心だった。一昔前までイヌイットは生肉を食べていた。すなわち糖新生をエネルギー源としていた。


3.ダイエットに伴う空腹感と飢餓感の相違点
   
1)空腹感=血糖値低下
    
摂食中枢を養う血液の血糖値が下がある一定以下(100mg/dl程度)に低下すると、空腹感が生じ食事を欲する。食事をすると、血液が食事中に含まれる糖分を吸収して脳に運び込み血糖値が上がり、満腹中枢を刺激して「満腹ですよ」という信号を出すと同時に、食欲が抑えられる。すなわち空腹感は血糖が上昇し、脳のエネルギーが確保されると解消する。人間は通常1日3回程度、このような循環を繰り返している。 
   
2)飢餓感=レプチン低下

1994年に体脂肪から分泌され、食欲抑制作用のあるホルモンであるレプチン leptin が発見された。正常状態では、体脂肪から血中に分泌されたレプチンは、視床下部に受容体がありの摂食中枢がレプチンを受け取って初めて飢餓状態でないことを確認している。
       
飢餓状態になると、体細胞がレプチンを多量に分泌して血中濃度が高くなっても、視床下部のレプチン受容体がレプチンに反応しなくなることで、摂食中枢がレプチンを受け取れなり、飢餓感を生ずるので、体脂肪が一定以上になるまで、食欲の増進状態が継続する(いくら食べても満腹感がない)。
       
一般的にが血中にレプチンを注入すると、満腹感が得られるので食欲抑制される。しかし一部の肥満者では、あたかも飢餓状態であるかのように、視床下部でのレプチン受容体の感受性が低下しているのでレプチンを投与しても、満腹感が得られず、食べ続けるようになる。その食欲は、血糖値が上昇しても食欲は抑制されず、体脂肪量が回復によりレプチン濃度が高まるまで、ずっと食べ続ける。日常は、食べることしか考えられなくなる。
   
※神経性食思不振症者は、レプチン分泌過剰なので、食欲がない。ある一定以上に脂肪細胞が減少し、レプチン分泌も減少すると、一転して過食期となり、体脂肪が増加するまで食べ続ける。
     
※肥満した人がダイエットをして体脂肪が減少しても、レプチン抵抗性が改善されるだけで飢餓感は起こらない。痩せた人が体脂肪を減らす場合が問題で、飢餓感が生ずる。飢餓感は血糖が上昇しても解消され ない。体脂肪が増加し、レプチンが回復するまで続く。
 

3)ダイエット失敗要因であるグレリン
   
①グレリンとは

グレリンは1999年に日本の研究者によって発見された成長ホルモン分泌促進因子(growth hormone-releasing peptide )の略称。   

長時間食事をとらないと低血糖状態になるが、通常は低血糖になる以前にも、胃がカラになるだけで空腹感が生じている。それは胃がカラになると、強力な食欲増進ホルモン「グレリン」ghrelin が胃壁から放出されることによる。グレリン濃度と血糖値は関連がない。

正常な身体のバランスの状態では、グレリンは肥満になると低下し、やせると上昇する。つまり体重を適正にするように調整が行なわれている。しかし太り易い体質の人では、何故か食後にもグレリンが低下せず、このことが太り易い原因の一つと考えられている。
     
②グレリンの作用機序

グレリン分泌→迷走神経を刺激→情報を脳の中脳に伝達→ノルアドレナリンを仲介→視床下部の摂食中枢を刺激して食欲が増す。ダイエットが順調にすすむと、ときに突然猛烈な食欲に襲われることがある。これはカラになった胃壁からグレリンが大量に分泌された結果であり、ダイエットを行う上で失敗原因になる。(グレリンは最強のホルモンで、分泌される   と摂食せずにいられなくなる)
    
胃の中にある程度食べ物が入ると、速やかにグレリン分泌は減少するので、胃を膨らませるもの、例えば豆腐やこんにゃくを食べ 5分間ほど我慢することで、あれだけあった食欲がウソのように消退する。
  
③グレリンの他の作用 

 ・グレリンは成長ホルモンを刺激するので、食欲を出すばかりでなく、筋肉を増強したり、心臓を保護するような効果も期待されている。現在グレリンを使った薬物を開発研究中。
  
・グレリンは「腹持ち」に関係する。タンパク質摂取では6時間グレリン分泌を抑制するが、炭水化物は4時間しか分泌を抑制しない。ダイエットにはタンパク質摂取が推奨できる。 

4.ダイエットの生活指導(レプチンを増やし、グレリンを減らすための工夫)
  
1)睡眠をしっかりとる 

睡眠時間が短い人ほど、食欲を刺激するグレリンが多く、食欲を抑制するレプチンが少ない、つまり過食を招きやすい状態になることがわかっている。睡眠時間が5時間以上の人に比べて、5時間未満の人は肥満になりやすいという結果もでている。
  
2)ストレスを避ける
    
人類の歴史の中で、最も大きなストレスは『飢餓』でした。人類は長きに渡って“食べられない“という苦しみに対して非常に強いストレスを感じてきた。現代人の遺伝子にもストレス=飢餓と翻訳するメカニズムが組み込まれている。つまり、ストレスを感じると飢餓に耐えられるよう、なるべく脂肪を分解しないようにしたり、代謝を低くして蓄えたエネルギーをなるべく使わないようにしたりと、体が痩せにくい状態にシフトしてししまう。 
    
ストレスを感じると人の体はコルチゾールというホルモンを大量に分泌する。コルチゾールは脂肪を蓄積させやすく、そのうえ食欲抑制ホルモンであるレプチンを減少させるため、食欲に歯止めがかからなくなってしまう。
    
なお「ストレス痩せ」についてだが、これは胃腸機能の低下による食欲減退が主な理由。
  
3)夜食は太る
    
これまで漠然に、夜食べると太るとか言われてきたが、その科学的根拠が解明された。1997年池田正明は遺伝子中にBMAL1(ビーマルワン)を発見した。BMAL1の生成量は人の概日リズムや自律神経の活動リズムと連動していて、昼間は量が少なく、夜間多くなるという性質があり、日中は少ないが夜10時~深夜2時頃が増加のピークになる。BMAL1は脂肪細胞を作る酵素を増やす働きがあるので、生成量が特に多い深夜は脂肪を溜め込みやすいい(太りやすい)時間帯であるといえる。
  
4)ダイエットの意義:老化速度を減速させ長寿をもたらす
    
ダイエットすると、身体がいわゆる「倹約モード」に入り、基礎代謝が低下する。そのため肥りやすくなるのだが、この倹約モードが若さを保ち長寿をもたらすと考えられている。
   
※低酸素状態では、酸化スピードが遅くなるので、はやり長寿になる。

 

 

 

 

 


耳閉感に対する下風池刺針の作用

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かなり以前に針灸学生用の実技テキストをつくる目的で、文献を集めたことがあった。その中で、芹沢勝助先生の書いた記事を発見し、今日まで気になっていたことがあった。


1.耳鳴に下風池の押圧
(芹沢勝助:圧痛点の意義とその臨床、医道の日本、昭和61年4月号)
 
耳鳴を主訴(難聴を伴う場合が多い)とする患者群に下記の圧痛点を発見した。後頭部の髪際の天柱と風池を底角とし両穴間を底辺とする逆三角形の頂点に当たるところを取穴する。この圧痛点を3~5㎏圧(最も普通に押圧した時の圧)で3~10秒間圧迫した時、耳鳴が変化した場合に効果が期待できる。圧痛のみの場合は効果が期待できない。
 
この治効の考察として、「この部は椎骨動脈が大後頭孔に向かって左右にふくらむ輪状の輪をえがく部分に相当する。この循環系が筋で圧迫された結果、難聴や耳鳴が起こる可能性のあることを示唆している。」と記していた。

 

 

 

 2.下風池刺針の追試
 
芹沢先生の考察を読むと、この部は後頭三角(大後頭直筋、小後頭直筋、上頭斜筋が三辺を構成する三角形部)に一致するようだ。芹沢先生がそのように記しているのであれば、確かな確証があるのだろうと思い、何人もの耳鳴り患者に、この方法によって下風池刺針を追試した。しかしあまり手応えがなかった。下風池を押圧して耳鳴りの音の変化の有無を聴取しなかったし、押圧と刺針では治療効果が異なるのかもしれない。芹沢先生の示した部は後頭部三角部を針で刺入すると抵抗感少なく、スースー刺入できる。まあゆえに椎骨動脈に当てやすいのだろが、椎骨動脈に当てるとなれば非常な深刺となり危険を伴いかねない。

 

3.下天柱刺針
 

 

動揺性めまいや耳閉感を訴える患者は、項部筋とくに後頭部下筋の緊張がある者が多く、その筋緊張を緩めるような刺針を行うと、これらの症状が改善することが少なくない。何度も書いてきたことだが、後頭下筋は頭部を前後左右に動かすのが主役割ではなく、体幹に対する頭蓋骨の位置を定める役割がある。もし頭蓋骨の正確な位置情報を脳に送れないのであれば、動揺性めまいが生ずることになる。
 ところで後頭下筋に刺針することが重要であるとしても、具体的にどのポイントを狙うべきだろうか。やはり筋の骨付着部となるだろう。その代表例は、上天柱や上風池などで、これらは大・小後頭直筋や上頭斜筋が後頭骨に停止する部としてエンテソパチー enthesopathy の病理機序が働いている。
 

しかし筋は、起始と停止がある。すなわち1本の筋に対して必ず2カ所の骨付着部が存在するから、後頭下筋の主なる起始のことも考えてみるべきだろう。こうした視点から後頭部下筋を眺めてみると、C2棘突起の傍から大後頭直筋と下頭斜筋が起始していることが知れる。
耳閉感を訴える慢性メニエール患者に対し、伏臥位または座位にしてC2棘突起外方1寸の部から、4番~8番程度の針で直刺すると、上天柱や上風池に負けない針響が得られることが分かった。
 

芹沢勝助先生の下風池の押圧というのは、ここでいうC2棘突起傍1寸からの刺針(下天柱)の効果と同じようなものではないのかと思った。なおC2棘突起傍2寸から頸髄方向に斜刺気味に刺入しても下天柱と効果は変わらないようであった。

白内障の鍼灸治療論理

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一般的に白内障は針灸の不適応症であるとされている。代田文彦先生もそう考えていたし、私もそう思ている。しかし針灸の先生の中には「科学的な裏づけこそ少ないものの、豊富な臨床実績からもその有用性は明らか」といった、こちらが赤面するような発言が飛び出したりする。これはいったいどうした訳だろうか。常々感じていることを記してみたい。


1.白内障の混濁部位からの分類と症状
水晶体自身は血管も神経もない。毛様体で産生される眼房水によって酸素と栄養が供給され、炭酸ガスや老廃物を排泄運搬することにより、その透明性を保っている。水晶体は、加齢や長年にわたる紫外線暴露の影響を受けて、次第に白濁する。この加齢による白濁を加齢性白内障とよぶ。60才代で70%、80才以上ではほぼ100%が加齢性白内障である。

ここでは代表的な2タイプを記す。ともに進行すれば皮質と核ともに白濁し、放置すれば失明に至ることもある。




1)皮質白内障 

皮質周辺部から中心に向かって進むもの。皮質周辺部がトゲトゲした白濁。老人性白内障の大部分で、最も多いタイプ。中心部(核)が透明であれば視力は保たれる。しかし照明が暗いと、眼に入る光量を増やすために虹彩が開く→水晶体辺縁まで光が入る→水晶体辺縁部の部分的白濁によってレンズが歪み→網膜に映る像が二重三重にだぶって見えるようになる。要するに、水晶体辺縁部の濁りがある場合、暗所では物の細部が見えづらくなる。
白濁部が光を乱反射するので、夜間車の運転中、対向車のライトがまぶしい=羞明(しゅうめい)。

2)核白内障

水晶体中心にある核とよばれる部分のタンパク質が変性、レンズの厚みが増すような働きをして屈曲率が変化し、老眼鏡がなくても  文字が見えるようになるようになることもあ る。
視野の中心附近が霧がかかったようにぼやける(霧視)。また核部のタンパク質変性した結果、レンズが着色し、像が黄色がかってみえる。

 

 2.白内障の針灸治療

 

 


薄暗い部屋では、虹彩が開いているので、水晶体辺縁部にまで光が入る。水晶体辺縁部に部分的な白濁がある(=皮質白内障)と、水晶体が乱反射して網膜に映る像が二重、三重にだぶ ついて見える。


   
こうした状況で、縮瞳させれば、ピンホール効果も期待できる。すなわち水晶体中心附近部のみから集光し、水晶体周辺部は使わない。この場合、水晶体皮質部の白濁は、視力の妨げにはならない。ピンホール効果では、外界は暗くみえるので夜間は明るい照明が必要。

縮瞳させるには、星状神経節刺針や大椎刺針により頸部副交感神経刺激状態を作り出す。あるいは、項~背腰部に気持ちのよい針を行い、リラクセーション効果を期待することが考えられる。いずれにせよ、これらの方法は治療直後の一時的作用であって本当の治療法とは言い難い。皮質白内障が進行して水晶体中央付近まで白濁したり、核白内障では、この方法は有効とならない。


※ 米・カリフォルニア大学リン・ザオ博士や、中国・中山大学の科学者たちからなる研究グループは、白内障の発症が動物の体内で合成されるステロイドの一種である「ラノステロール」と関係していることを明かにした。 ラノステロールは、水晶体に元々存在するステロールの一種で、白内障の原因となるさまざまな変異型クリスタリンタンパク質の細胞内での凝集を防止できる作用があるらしい。将来的に点眼薬で改善できる日が来るかも知れない。( Nature 523, 7562  2015年7月30日)

 

眼窩内刺針が刺激対象とするもの Ver.2.1

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筆者は加藤雅和先生(米沢市で鍼灸院開業)に誘われ、最近、MPS(Myofascial Pain Syndrome 筋膜性疼痛症候群)研究会に入会した。そこで小山曲泉の掃骨針法の存在を知った。小山曲泉の眼窩内刺針を追試してみると具合が良いようなので、第2版としてこの内容を付け加えた。

1.はじめに
眼科疾患に対する治療で、古くから上下の眼窩内刺針という技法が存在している。この刺針は、治療効果を論ずる以前の問題として、眼球を傷つける懸念、皮下出血しやすい部であること(軽い場合は瞼に皮下出血斑をつくる。ときには瞼が腫れあがる)、施術に対する患者の恐怖感があることなどから、施術するのに躊躇する部位となっている。

実際に臨床に用いるかという問題はさておき、理論的にどういう意味があるのかを整理してみたい。

2.上眼窩内刺針 

1)魚腰(奇穴)
位置:眉毛中央。正視するとき瞳孔の直上。
刺針:内方に横刺する。
解説:三叉神経第1枝の分枝である眼窩上神経刺激になる。正中から外方2.5㎝外方の眉毛上に眼窩上神経ブロック点がある。
 
2)上眼窩内刺針 
位置:眼球と上眼窩の間隙。具体的には瞳孔線上、瞳孔線の内眼角寄り、瞳孔線の外眼角寄りの3つの方法がある。
刺針:閉眼させ、細針にて静かに直刺。1~2㎝刺入。置針。
解説:深刺すると上眼窩裂内に刺入できる。

①上眼窩裂刺
睛明の上からの眼窩内に非常に深刺すると、上眼窩裂刺針になる。上眼窩裂とは、眼窩底の内方にある穴で、ここから三叉神経第1枝、動眼・滑車・外転神経、眼静脈も出る。
※郡山七二は、眼窩内刺針には、鎮静作用もあると記し、鎮静法として内眼角付近からの眼窩刺針を第一に推薦している。(郡山七二「現代針灸治法録」天平出版)

②上眼瞼挙筋刺
※上眼瞼挙筋(動眼神経支配)は、上眼瞼を挙上させる働きがある。本筋は眼瞼腱膜を介して眼瞼板につながっている。上眼瞼挙筋の腱膜が剥離すると、後天性腱膜性眼瞼下垂になるが、一説によれば老化などで眼瞼挙筋が伸びて弛んだ状態になっても眼瞼下垂となるとされる。この場合、上眼窩内刺針をする意義がある。もっとも専門家は、眼瞼挙筋に対する刺針や、その拮抗筋である眼輪筋に対する刺激は無効だと判断しているようだ。

③涙腺刺激
外眼角と眉の間部の眼窩内に涙腺がある。外側からの上眼窩内刺では、涙腺を刺激できる。
※ドライアイは、涙腺分泌減少によるものではなく、マイボーム腺からの脂分泌が減少すため、眼球表面に分布した涙の蒸発量が増加するためだとされる。涙腺直接刺激はあまり価値がない。


3.下眼窩内刺針 

1)毛様体神経節刺針
歴史と意義:毛様体神経節刺針法とは1979年、中村辰三氏が発表した。毛様体神経節は副交感神経性の神経節(眼の栄養、分泌、疲労回復などの機能)であることから、この部への刺針を試みる価値があると推測した。実際に試みると、針治療により急速に視力が改善するという。針治療が眼底出血に有効である症例があったとの治験も得たという。
刺針技法:眼耳水平面(眼窩下縁の最低点と耳孔最上部を結ぶ面)から、上向き角度約30度、正中面に対する内向き角度約30度で、眼窩下縁と外側縁の交点から、眼球の後方に向けて約3.5㎝内側上方へ刺入。1号針を用いた10分間置針。軽く雀啄後に抜針。


 

2)球後刺針

位置:外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さ。
刺針:眼窩内に直刺、その後針尖を上内方に少し向け、視神経孔方向に刺入。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚える。針の刺入時の注意は睛明の刺針と同様。
解説:球後とは、眼球の後という意味がある。中国では内眼病の治療穴として用いられる。
※深刺すると下眼窩裂に入ると思うが、下眼窩裂が眼窩下神経(三叉神経第2枝の分枝)が通る部であって、臨床上は眼窩下孔(=四白)刺激と同等の価値があると思う。したがって、三叉神経第2枝の興奮時に使えるであろう。 

4.小山曲泉の上眼窩内刺と下眼窩内刺

小山曲泉(1912-1994)は、掃骨針法を創案者ちして知られている。その理論は今日の医学観点から納得のいかない部分はあるが、実践面では「骨にぶつけるように深刺することがよい治療効果を生む」と指摘した。

眼精疲労に対しては、これを軽い眼窩神経痛としてとらえるべきだとする。眼痛を訴える患者に対して、眼球自体を指圧するのと、眼窩内に指を折り曲げて按圧するの とでは、どちらが快痛であるかを術者が問うと、文句なしに骨を圧重した法が気持ちよいと言うと指摘し、3番~5番で圧痛方向に刺針して軽く雀啄すようにする、必ず快痛の響きがあるということである。
  
筆者は眼の疲れを訴える患者の何例かに本法を追試してみた。これまで筆者が眼窩内刺針を行う場合、これまでは押手を弱く構えていたこともあって、圧痛の有無を調べていなかった。閉眼させ、眼窩内に指を折り曲げて按圧してみると、患者に聴くまでもなく、術者の指先に圧痛硬結を感じとれる共通ポイントのあることを発見した。それは睛明のやや上方と、承泣の2点だった。
  
これらを刺入部位とし、指頭で探し当てた圧痛硬結に向けて刺入すると、しっかりと硬い筋中に刺入できているといった手応えがあった。針灸師にとって、硬い筋中に刺入できている手応えというのは非常に重要で、これまでの眼窩の骨にも、眼球にも当てないように刺入するような針では、効いているのか効いていないのかの感触がつかめないのであった。

この硬い筋といいのは場所的に、外眼筋や眼瞼挙筋のだと思えた。眼窩内の骨にぶつかるまでこのシコリに向けて4番針で約2㎝刺入して5分間置針してみた。患 者は眼球部に重い感じがしたという。さらに閉眼したまま、上下左右の眼球運動を数回指示した。 (眼球運動の際は、何も刺激感がなかったという)。施術後は、眼のスッキリ感があったとのこと。

眼精疲労には、眼の奥がつらいという者と、目頭がつらいという者に大別できる。前者には天柱深刺を、後者には小山曲泉流を、と使い分けをすればよいのではないかと思った。  

 

※このテーマでブログを発表したところ、掃骨鍼法の存在を知らしめた<小橋正枝先生からご返事を頂戴し、以下のような詳しい手技を披露していただいたので紹介する。

 

ご本人に鍼管を持って頂き、最も納得の行くポイントを検出して頂くこともあります。その位置から直近の骨壁に先ず当ててから、骨に添わせて刺入します。石灰沈着など必要が有れば、雀啄も致します。

 


 

 

 

 

変形性股関節症の針灸臨床 ver 1.4

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   これまでも何回か変形性股関節症の針灸について報告してきたが、その時々に興味をひく内容を書いたので、内容は断片的だった。今回は、とくに初学者を意識し、変股症の針灸治療というテーマで総括的に記すことにした。内容的には過去に報告したものと重複しているがご容赦願いたい。

1.変股症の症状

変股症の自覚痛は、股関節付近だけでなく、殿~下肢に広範に及んでいることが知れる。一見すると、坐骨神経痛+大腿神経痛のようである。

 

1)疼痛の進行
初期は運動後や長く歩いた後などに、股関節に限らず殿部や大腿部、膝上部などに鈍痛が出ることが多く、この痛みは数日すると治まる。
少し症状が進むと、動作開始時に股関節辺りに痛みを感じる「始動時痛」を感じるようになる。痛む箇所は次第に股関節周りに限定されてくる。
さらに進行すると歩行時に股関節の前後が痛む、途中休憩なしに歩けない、などの運動痛が出現。
最終的には安静にしていても痛むようになり、痛みの程度もだんだんと強くなる。

2)股関節の可動域制限
痛みが強くなるのにつれて、靴下が履きにくくなったり大きな段差が上りにくくなったりする。痛みから関節を動かさずにいると関節拘縮が起こり、深く屈げた足を開くなどが苦痛になる。
拘縮がひどくなると骨盤が傾いて悪い方の足が短くなったように感じられる。

3)跛行(片足をひきずって歩く)
痛い方の足をかばって歩こうとしたり、また痛みのために活動量が減って中殿筋などの筋力が衰えると悪い方の足をついたときに身体が傾くため、肩を揺らして足を引きずるような歩き方「跛行」になる。

 


2.股関節周辺の痛みとは

股関節に限らず、関節症では関節可動域は減少するが、関節そのものは痛まない。軟骨がすり減って、骨同士がぶつかるから痛むというのは間違い。変形性股関節症の痛みは、股関節周囲筋の筋膜痛によるものが中心である。
針灸は股関節周囲筋の痛みに対して有効であるが、変股症が進行すれば、筋に対する刺針効果も一過性に過ぎなくなる。これが針灸の守備範囲というものであろう。  
股関節を動かす筋の種類別に整理すると以下のようになろう。


3.股関節の外転筋の痛み

主動作筋は中殿筋、他に小殿筋が重要である。大腿骨大転子を中心軸として、腸骨の上前腸骨棘と上後腸骨棘を結ぶ扇型部分に中殿筋があり、中殿筋の深層に小殿筋がある。股関節病変の場合、中殿筋や小殿筋が緊張することで、股関節を保護する役割がある。

これら二つの筋の緊張度をみるには、被験者を側臥位にし、上記扇型部分を、力を深部に到達させるように、ゆっくりと、深々と母指で押圧する力加減が重要である。筋緊張を把握できたら、筋緊張部分に針先が達する深さまで刺入する。 
 

 

 

1)中殿筋の緊張の痛み

トラベルによれば、中殿筋の放散痛は殿部に限定される。

なお 変形性股関節症の者は、骨盤前傾位になっていることが多い。この理由は、骨盤前傾斜位になると中殿筋の筋活動が弱まるので、歩きやすくなることによる。中殿筋を緩めると、関節症変化は著明に改善する。

 

2)小殿筋の緊張と痛み

トラベルによれば、小殿筋前部線維緊張では、大腿外側痛が生じ、小殿筋後部線維緊張では大腿後側痛が生ずるという。このような患者の訴えを聴取することは 問題筋の所在をつきとめる参考となり、それは刺針深度を決定するのに役立つ。

 

 
4.大腿内側の痛み

1)長内転筋の痛み

中殿筋や小殿筋が股関節外転筋だが、長内転筋は股関節内転筋であって、中・小殿筋とは拮抗筋の関係にあるので、中・小殿筋に圧痛があれば、長内転筋も圧痛が出現しやすい。股関節の外転・外旋位(パトリックテストをするときの肢位)にすると内転筋群緊張していれば、とびだしてきて触知しやすくなる。とくに出てくるのが長内転筋である。股関節外転不十分な者に対して、陰廉や足五里から刺針して長内転筋に刺入すると、股関節外転の可動域が増す(たとえば、あぐらがかけるようになる)ことが多い。

 

 

2)腸骨筋の痛み

変股症患者の感じる疼痛部位は、外殿部とともに、鼠径部に見つかることが多い。鼠径部の圧痛部位を調べると、鼠径溝の外側1/3ぐらいの処(=外衝門)になる。位置的には腸腰筋でとくに腸骨筋にが問題となる。腸骨筋は腸骨稜内上縁を起始とし、股関節前部を縦走し、股関節前面を擦るように角度を変えて大腿骨小結節に付着する。したがって、変股症時には障害となりやすい。腸骨筋を弛める目的では、パトリックテストの肢位にて、この部に中国鍼針または2寸#4針で4~4㎝刺して骨(=股関節部)にぶつけ、その状態で、股関節屈伸の自動運動を行わせるとよい。

以下は参考までに記す。大腿基部内側で、縫工筋、長内転筋の内側縁、鼠径靱帯で囲まれた部を、スカルパ三角(=大腿三角)とよぶ。鼠径靱帯中央部(教科書の衝門位置。拍動触知する)を、大腿動・静脈が縦走し、その外方(外衝門:鼠径靱帯の外側1/3の処)を大腿神経が縦走する。スカルパ三角の深層にあるのが腸腰筋があり、さらに深部には大腿骨骨頭がある。
         

 

5.変形性股関節症の徒手整復的ストレッチ 
 
歩行時痛ではなく、股関節可動域が減少したり、歩行がギクシャクしたりしている場合、あるいはパトリックテストで可動  域低下が顕著な場合、筋に対する刺針は有効性が低いが、徒手矯正的なストレッチが有効となる場合がある。
   
この方法は、術者の首と膝窩下をサラシなどで巻いてつなげ、術者が牽引する。外傷性股関節脱臼時のように、瞬間的に力を加えて、関節を元の位置に戻すというものでなく、ゆっくりと数秒間ずつ数回、大腿をストレッチする感じに行うと、事故もなく行えると思う。本法により、股関節の可動性が増加し、これまでできなかったパトリック肢位ができるようになったりする。
幅30㎝善後サラシで輪をつくるのだが、大きすぎても小さすぎてもうまくいかない。試行錯誤した結果、内周96㎝が妥当であることがわかった。

6.変形性股関節症の徒手整復的ストレッチの改良型

上記方法は、変股症にかなり有効で、筆者にとって変股症患者に対して必ず行う方法となっていた。しかしある日。この手技を実行する段になったが、輪にしたサラシが探しても見つからない時があり、とっさに思いついたのが次の方法である。この新しい方法の方が、股関節に作用する牽引力が強く、サラシも要らない。サラシは間もなく見つかったが、以降は次の方法をとるようになった。

①患者は左変形性股関節症。変股症側を術者側に向けての仰臥位とする。
②術者は患者の顔方向に立ち、術者の左脚をベッド上に乗せ、術者の大腿上面に患者の下腿(なるべく膝関節に近い側)を乗せる。
③術者の右手を患者の左上前腸骨棘部に置き、術者の左手を患者の下腿に置く。
④ベッドに載っている術者の左脚の足関節を伸展させる。さらに患者の下腿に乗っている左手に下向きの力を加える。この動作で、患者の左側骨盤は少々浮き上がる。
⑤上前腸骨棘を押さえている術者の右手は、この浮き上がるのを妨げるように、ベッドに向けて押しつけるように力を加える。
⑤この要領で、ゆっくりとした間欠的牽引を10回実施。

 

乗物酔いの応急処置

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1.内関刺激
乗物酔いの悪心嘔吐に、内関に置針または皮内針をすると、悪心嘔吐は鎮静化され、つわりによる悪心嘔吐にも内関刺激は効果あることが知られる。このことから、内関刺激は、嘔吐に求心性機序ではなく、延髄嘔吐中枢→迷走神経→効果器(胃)という遠心性機序に対する抑制が想定されている。下は、欧米で市販されている酔い止め用リストバンド。
    

 

 2000年の英国医学会において、嘔気嘔吐に対して内関穴刺激が有効だとのEBMが承認された。(Edzard Ernest & Adrian White 山下仁ほか訳「針治療の科学的根拠」  医道の日本社 2001.6)


2.冷水をかける方法

2012年8月、探偵!ナイトスクープ(朝日放送)で紹介されていたもの。バリ島の漁師の間で伝わっている方法だという。船酔いで嘔吐・昏倒している者の不意をつき、後首や股間に向けて冷水を勢いよく浴びせかけるというもの。番組中では、現在舟にのって船酔いの者3名(医者を含む)に本法を行った。全員ギャッとしてビックリ状態だったが、その直後、「めちゃシャキッとした」といい、信じられないという顔つきをしていた。テレビを視ていて大笑いだった。  
この方法で、なぜ乗物酔いが治るのかという点だが、交感神経を亢進させることで、相対的に迷走神経緊張を緩め、胃の逆蠕動性を解消したものだろうとは考えてみたが確証はなかった。 

 

 

 

3. 船酔い・乗り物酔いの「特効薬」(高橋和宏医師(「代替療法の光と影」HP) より
 
患者に海上自衛隊の自衛艦に勤務している人が、「酔い止め」のお薬を所望した。通常の「酔い止め」では、海が荒れると船酔いを抑えることができないということだった。私は船酔いの「特効薬」を処方した。
通常の酔い止め薬とは:抗ヒスタミン薬。嘔吐は脳から放出されるヒスタミンが、嘔吐中枢を刺激することによって起こる。ヒスタミンの作用を抑え、吐き気や嘔吐を抑える。

その52週間後、患者さんが来院した。今回、大きな台風に遭遇して時化(しけ)は長期間にわたってひどく、乗組員の8割の方は船酔いしたとのこと。しかし、この患者さんは、私の処方した「特効薬」を服用したお陰で、全く船酔いしなかった、とのことだった。

その「特効薬」とは、気管支喘息や尿失禁の治療薬で有名な「スピロペント」だった。なぜ気管支喘息の治療薬が「酔い止め」として効くのだろうか?
 
「乗り物酔い」をした時の症状を列挙すると、①吐き気、②吐く、③お腹がグルグル音を鳴らす、④便意を催す、⑤下痢をする、⑥顔面蒼白になる、⑦冷や汗をかく、⑧めまいがする、⑨血圧が下がる、⑩脈が速くなる等で、これらの症状は医学的にはショック症状かあるいはショック前駆症状を意味する。つまり、乗り物酔いは「ショック状態」なのである。
 「ショック状態」は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、交感神経が立ち直れない時に起きる現象のこと。体の平衡感覚に負荷がかかり、そのコントロールをするために自律神経(交感神経・副交感神経)も「ドミノ倒し」的に負荷がかかり、自律神経のアンバランスが極限状態になって「乗り物酔い」になる。

 「スピロペント」は気管支交感神経興奮剤で、気管支喘息(気管支を拡張作用)させ、あるいは尿失禁(尿道筋肉を収縮させる作用)に対する治効がある。

※、「スピロペント」には厚労省の承認の薬効上「乗り物酔い」の適応がないので、ご希望の方は近医に相談のこと。

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