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代田文誌の鍼灸姿勢 その2:沢田流太極療法 Ver.1.3

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代田文誌が沢田健の治療院を見学したのは、昭和2年のことで、沢田健50才、文誌27才の時だった。代田は神業的な治効を出すその姿をみて驚嘆し、鍼灸古道を学んでいく決意を新たにした。

その沢田流太極治療とは、どのような内容だろうか。筆者の手元には、通い弟子あった代田文誌著「沢田流聞書 鍼灸真髄」昭和16年発行と、内弟子であった山田国弼(くにすけ)著「鍼灸沢田流」昭和7年発行(昭和55年再版され現在再び絶版)のものがある。

前者は、まさしく治療見学で見聞きしたことが中心で、詳細で綿密なメモ風となっているのだが、澤田流に太極療法について、順序だてて書かれている訳ではく、初心者にとって難解だろう。その点、山田先生の「鍼灸沢田流」は、治療現場とは一歩離れた立場から、教科書的に整理されているので、最初に読むべき書として適切だと思う。本稿では、山国弼著「鍼灸沢田流」(絶版)の内容のポイントを整理しつつ、代田文誌の見解を交え紹介する。

1.沢田健の治療風景
沢田先生は灸を主として針はその補いとして使うことの方が多かった。使用針は金鍼ばかりで、多くは4~5番だった。長さは2寸~2寸5分。最初の頃は管を使わず、すべて捻針だった。多くは直刺だが斜刺もあった。手技は雀啄または回旋が、単刺も随分やった。刺針は徐々だったが、抜針は右手で一気に抜き去るというもの(刺針速抜)。昭和2年に代田文誌が見学した時は、沢田先生は体を診て腹と腰だけに灸すえ、あとは背部も手足も灸ツボをとって墨をつけて、城一格(内弟子)へ回していた。朝9時から昼飯抜きで、夜8時頃まで、1日40~50人みていた。

2.太極療法の語源
 「太極」とは元来「易」の用語で、万物の根源をさし、ここから陰陽の二元が分かれる。太極療法とは、沢田健の造語で、天地の究極原理に根ざした治療法という意味がある。これに反する治療を小極治療(≒対症治療)と呼び批判していた。
ただし澤田健自身は、自分の治療を「沢田流」と称せず、「普遍的な古典治療」とよんでいた。ただし澤田は、古典とは異なる位置を経穴として用いることがあり、通常の取穴位置と区別する意味で、例えば沢田流合谷などといった表現をすることがあった。このことが沢田流とよばれる下地になっていたのかもしれない。沢田流太極療法というのも、おそらく弟子たちが考えた造語だろう。

 

3.診療の第一段階:三原気論から太極治療へ 

1)三原気論

古法の一つに「三原気論」というのがあるらしい。先天の原気系は腎、後天の原気系は脾、原気の別使系は三焦であると考えた理論で、今日ではあまり有名とはいえない。これは三焦が五臓を巡っていると考える点で独自なものであった。血が回ると、手足が温かくなるとの素朴な観察から考えたものだろうか。

※稚拙ながらここで筆者独自の東洋医学観を述べるならば、三焦という蒸籠容器のに腎水を入れ、それを丹田の炎で熱することで水蒸気が生ずる。この水蒸気は後の世で蒸気機関にも利用されるように、非常に強い力が生ずる。この推動力は血を循環するエルギーでもあり、血を温めるエネルギーにも使われるということである。体温は丹田の炎(=命の炎)が熱源だが、丹田から生ずる熱が腎水を温め(=これを腎陽とよぶ)、熱い水蒸気となって蒸籠容器を温める。三焦とは、温まった蒸籠容器そのもののこと、あるいは生命活動する内部環境をさすと、筆者は考えている。その点、三原気論の立場には納得できないものがある。 

 


2)先天の原気の治療部位として、丹田と腎兪に施術

診療手順では、まず仰臥にて腹をみる。そして丹田(または気海)の虚実を診る。生命根本は先天の原気系をつかさどる腎が重要だからである。丹田に力が満ちてくれば、いかる病気も治る、とする考え方がベースになっている。腎の治療により患者個体の治癒力増進の心勢力に働きかける。次に伏臥位にした後、腎兪(ときに腎の募穴である沢田流京門=室)を施術。
※「腎間の動悸(=腹腔動脈の拍動)は人の生命、十二経脈の根なり」という

3)原気の別使系は三焦であることにより、陽池に施術
難經の66難には次のような記載がある「原穴の部位は三焦の気が運行して出たり入たり留止する場所でもある。故に五臓六腑に病があれば、所属する経脈の原穴を選穴すきである」。これを論拠とし治療穴として三焦経原穴である陽池を使う。人身の右を陰となし左を陽となるとの古典の説より、左陽池に施術する。
丹田は、体温の発生源であり、体温によって三焦は温められ、胸腹腔内臓は、本来の理機能の営みが可能となる。  

4)続いて後天の原気系である脾をみる。代表穴中カン
腹部診察では、上腹部より下腹部を重要視するのだが、下腹部に問題が少ない場合や、善した場合は、上腹部とくに中カンを施術。なお必要ならば水分や気海や大巨や滑肉門を使う。その狙いは栄養代謝の改善にある。 

 


4.第2段階:五臓六腑の調節

三原気論による施術は、匙加減はするとはいえ、どの患者に対しても同じようなターン取穴をすることになる。しかし第2段階になると個別治療の理論が必要である。 

患者ごとの個別治療の基本理念は、五臓六腑を調整することにあるが、患者の訴え、所等を五臓色体表に照合することで、いずれの臓腑に根本の問題があるかを決め、治療方針とした。

一例として肝の体質者を示せば「顔色青く、眼に異様な光があって、怒りっぽい性質で酸っぱい味を好み、病季は春に配す。すなわちヒステリーや怒発性の神経疾患(逆上)春に萌しがち」なことが裏書きされる。

その治療は、背部においては膀胱經の背部兪穴を、胸腹部においては募穴を選穴し、補的に手足の原穴を治療点として重視した(ときに五行穴中の兪穴・合穴を施術した)。三焦の病変で、と全身性急性病変など急激な病状の悪化に対処するためには、人の発生的見地から、臍傍の八穴(気海、大巨、天枢、滑肉門、水分)を以て、外邪と生命力の極の闘争の場としてこの部の治療を重視した。 

 

6.沢田流になかったもの

沢田健は五臓色体表を座右に置き、診療の指針とした。基本の治療穴は、障害のある五臓の兪募穴と原穴であり、難經66難(五臓六腑に病あれば、所属する経脈の原穴を選穴する)を中心に考えていて、經絡治療のように、一つの害ある臓腑にひきづられる形で関連する他臓腑も悪くなるといった波及作用は考慮しなった。

沢田の没後に經絡治療が誕生し、その派は相生相剋関係を治療に織り込んだ。すなわち經69難(虚すればその母を補い、実すればその子を瀉するべし)や難經75難(肝実虚に補水瀉火法を応用する原理)は治療に応用した訳だである。經絡治療を沢田の治療式の発展型として捉える見方もあれば、型に溺れて堕落したという見方もできると思う。脈診にしても、沢田の脈診も遅速虚実程度であって、三部九候の脈は治療に取り入れなかった。(代田文誌も、代田文彦も脈診は行わなかった)
 
沢田健の太極治療(沢田のいう「古典に基づく治療」)を文字として説明すると、そ理論は、いわゆる經絡治療派の治療理論に比べれば単純だといえよう。しかしながら、実際の効果という点で、やはり沢田健は名人であった。「生ける体を読んで治療するという識に基づき、長年の経験によって自得された特別な能力があった」と代田文誌は記してる。

おそらく幼少から鍛錬した武術や柔術の修業も、その能力形成に関係していたことだろうが、こうした能力は天才一代のみ可能であって、代々伝えるということは不可能なことである。このことが沢田流が現在さほど普及していない理由といえるかもしれない。代田文誌著「鍼灸治療基礎学」の序には「我が沢田流の如きは、教えても解らぬ。心眼で感得し得る者にのみ理解できる」と沢田健が話したという旨が書かれている。

 

7.沢田流基本穴について

沢田流太極療法をしようと思っても、知識不足・技術不足の者がいる。沢田流太極治療を行っていると、自ずとよく使うツボと、そう使わないツボが出てくるので、使う頻度の高いツボをリストアップすることはできる。こうした観点から、沢田流基本穴が選ばれた。

基本穴は、百会穴、身柱穴、肝兪穴、脾兪穴、腎兪穴、次髎穴、澤田流京門(志室穴)、中脘穴、気海穴、曲池穴、左陽池、足三里穴、澤田流太谿(照海穴)、風池穴、天枢穴などである。 (時代により多少変化あり)

どのような患者が来院しても、このようなツボに灸治を行えば、「当たらずといえども遠からず」の治療ができるというものだが、本来の沢田流太極治療と異なる。沢田流太極療法とは、どのような患者が来ようと、沢田流基本穴に施術する、との安直な考え方が一人歩きしてしまった。代田文彦先生は、それを嘆き、たとえ一穴治療であっても、太極治療といえる場合がある(例:小児疳の虫に対する身柱の灸)と語っていた。

9.お宝写真

十年前位に、代田泰彦先生(文彦先生の実弟)から、沢田健が代田文誌に贈ったという<五臓色体の図>を拝見させていただいた。縦20㎝、横100㎝くらいの巻物のようなものだった。紙は茶色く変色し、年代を感じさせる。余りに長いので、3回に分けてスキャンした。(本稿ではパソコン操作で2分割した)て残すことにした。代田文誌先生から代田文彦先生が譲り受けたのだが、文彦先生も亡くなったので、泰彦先生が保管していた。五臓色体表と五行穴のほかに、ここでも難經六十六難のことが記されている。

 

 

 

 


テニス肘に対する筋と筋付着部への運動針 Ver.2.0

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1.テニス肘の病態と症状

 

テニスのバックハンドでボールを打つということは、飛んでくるボールをラケット面で捉え、さらに打ち返すという動作である。これは手首の強制背屈状態に対応するため、前腕伸筋群は、瞬間的にコンセントリック収縮状態になり、しかも次の瞬間にはエキセントリック収縮に移行している状態である。

打球を捉え打ち返す時、前腕伸筋(とくに短橈側手根伸筋)に非常に強い筋収縮力が加わっている。前腕伸筋群は上腕骨外側上顆を起始としているので、テニス肘では同筋の緊張のほかに、筋起始部に筋付着部炎をおこし、曲池穴に強い圧痛をみる。

これと対照的に、ゴルフ肘では、前腕伸筋群に負荷がかかるので、同筋の緊張をみるほか、その付着部である上腕骨内側上顆部(=小海穴)に強い圧痛をみる。なお、ゴルフ肘ではクラブを支える側(右効きの者の場合は、左肘)がゴルフ肘になりやすいことに注意。

 

 

 ※筋収縮の3種類

等尺性筋収縮(アイソトニック収縮):筋は短縮はするが、短くはならない。例)太極拳での姿勢

等張性筋収縮には次の2種がある。
 短縮性筋収縮(コンセントリック収縮):筋が短くなる場合。例)腕相撲で勝ちつつある状態
 伸張性筋収縮(エキセントリック収縮):筋が長くなる状態。例)腕相撲で負けつつある状態

筋へのダメージが強い順番は、エキセントリック収縮>コンセントリック収縮>アイソトニック収縮であり、エキセントリック筋収縮が最も強い力を引き出せる反面、ダメージが強い。エキセントリック筋収縮は、可能な限り重いバーベルを持ち上げる運動でもあって、筋損傷しやすい一方、筋肉を増やすのに適している。ボディービルで用いられる。等尺性筋収縮運動は、持久力向上に適している。
      

 2.テニス肘の理学テスト
 
椅子テスト、トムセンテスト(=テニス肘テスト)、中指テストなどがあるが、
針灸臨床で最も有用なのは中指テストであろう。手掌を下にして肘以下をベッド面につけた肢位にさせ、検者は中指の先を押圧しながら、患者に中指を過伸展させるよう命じる。この時、肘部に痛みを誘発できれば陽性とするものである。


3.テニス肘の針灸治療

1)筋走行上の圧痛点に対する運動鍼
 
中指テストでは、少し長めに中指の過伸展をさせたままにさせておき、前腕橈側の伸筋群すなわち大腸経から三焦経ルートを探ると、緊張したスジを触知できる。このスジ(短橈側手根伸筋であることが多い)の緊張(=短縮)改善目的に、刺針して運動鍼を行うのがよい。その運動とは、手首の背屈である。

2)筋付着部への針灸治療
 
上述の治療で、筋の短縮が改善されれば、筋付着部の牽引力も低下するはずなのだが、曲池に強い圧痛があって付着部炎を起こしているのであれば、筋付着部への施術も併用する必要となる。付着部への施術も運動鍼でよい。
その他に手関節の背屈を制限するようなテーピングを併用した方がよい。

3)回外筋運動針

テニスの際、前腕伸筋群に強い収縮力が作用するが、前腕の回外筋にも負荷がかかっている。治療は、前腕回内肢位で回外筋に刺針し、置針した状態のまま、前腕回外運動を行わせるのが有効である。先に示した短橈側手根伸筋刺針を深く行えば、回外筋に達するので、手関節の背屈運動針と、肘の回内-回外運動の両方を行わせると治療効果が高まる。回外筋刺針を目標にして、手三里(長橈側手根伸筋と短橈側手根屈筋の筋溝)から深刺してもよい。







4)難治例の治療

 陳久性のテニス肘は、前腕の回内制限が軽度あることも多い。この場合は、回外筋と短頭側手根伸筋の筋膜間の癒着を剥がす必要があるが、針では癒着部を中心にコツコツと針先を当て、これを繰り返す(来院する度に行う)。なお回外筋は肘関節包を前面~外側側面~後面まで付着している。

筆者は最近、橈骨頭部が痛むという症例を経験した。 これは皮膚・結合組織はあっても筋腱が存在しない部である。最初は橈骨頭周囲に存在する筋腱付着部に対して刺針施灸を実施したが、効果がなかったので、橈骨頭上の圧痛ある骨膜を直接刺激してみたところ、症状軽減をみたので驚いた。小山曲泉の掃骨針法のつもり。

 



 

脂肪褥炎のテーピング治療 Ver.1.1

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1.踵中央(湧泉)の痛みを訴える者

踵中央部に鈍痛を感じ、押圧すると強い圧痛がある患者を何人か診た。私自身もこの10年に2~3回そうした経験がある。この症状を成書を調べても記載がなく、不明のままでいたが、朝日新聞朝刊(H18.6.12)に踵が痛む病気として、足底筋膜炎の他に踵脂肪褥炎(しょうしぼうじょくえん)が載っていた。


2.脂肪褥炎とは

踵脂肪褥創炎とは、踵を包む脂肪層が減少し、弾力を失っている状態であり、痛みの直接原因は、脛骨神経分枝の内側足底神経踵骨枝の刺激による。起床時に踵接地部が痛むというのが典型的な症状であり、踵中央部に脂肪層を寄せるテーピングをするだけで、痛みはかなり改善する(矢部裕一朗 整外医師)と書いてあった。

踵脂肪褥炎は、我が国ではあまり知られていないが、ネットで海外情報を調べると、欧米ではポピュラーな疾患であることが知れた。名称も様々で、踵脂肪パッド萎縮、踵脂肪体萎縮などともよばれている。



4.脂肪褥瘡炎の治療

治療法は非伸縮テープを用い、踵を覆うようにテーピングする。さらに歩行時には踵部にヒールカップを入れて、体重の免減をはかったり、靴の中敷きの踵中央部に穴を開けて、刺激が加わらないようにする。

テーピングの幅は、筆者は2㎝と4㎝の2種を使う。下の写真1と2は2㎝テープを使う。この時、重要なのは、写真2で踵前方の凹みをしめつけるよう、横アーチを復活させるようにテープ固定する。1と2が終了すると、踵部の脂肪が盛り上がり、押圧するとフワフワしていることが確認できる。写真3と4は4㎝幅テープ(2㎝テープでも可)を使って踵全体を覆うように緩めに貼る。まずは自分の踵で練習されたい。なお100均ショップで売っている非伸縮テープは粘着力が弱すぎて、実用にならない。ニチバン製または日東電工製をお勧めする。

 




5.灸治療

自体験例では、踵中央に針する気にならなかったので数日間灸治療をしたが症状に改善ないため、デルマトームを考えて八りょう穴中の圧痛点数カ所を選び、せんねん灸2壮を行ったところ2日間(2回治療)で症状消失した。これには再現性があった。ただし重症の脂肪褥炎患者に試したところ、効果がなかった。 

 
 
 
 

足底筋膜炎の針灸治療 Ver.1.1

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1.病態
   
足底の筋は、表在性の足底筋膜に覆われている。足底筋膜は踵骨隆起から起こり、足の指に至って、足底の縦のアーチ維持に貢献している。過度の足底筋膜に加わる張力の反復により、足底筋膜に付着部の牽引ストレスが作用する。また足底筋膜の微小断裂を起こす。
   
この微小断裂は、夜間就寝中に治癒機転が働いて固くなる。しかし朝、固まった損傷部に体重が加わると、再び引き伸ばされて激痛となる。長距離の選手に多い。

2.症状

痛みの直接原因は脛骨神経末端興奮による。

1)脛骨神経内側踵骨枝刺激
歩行開始時や走行中に、踵に近い部分が、ビリビリと痛む。踵骨前方の圧痛。
2)内側足底神経刺激:母趾背屈時の足底痛。
 
3.所見:X線で、足底部の踵骨内前方に骨棘。

4.整形治療:整形での治療は安静。ときに筋膜付着部への局麻注射を行う。スポーツ再開までには、数ヶ月の安静が必要。(治癒まで半年以上かかる例が10%ある)
 
5.針灸治療

1)刺痛をなるべく与えないよう細針を使い、足底の圧痛点に直接浅刺刺針。跪座位(両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢)をさせ、足底筋膜のストレッチ運動を行わせる。徐々に体重をかけていく。1~2分筋運動実施後に抜針。


  




2)母趾の強制背屈からの保護を目的とするキネシオテーピング。

 

3)下腿三頭筋のトリガーポイント刺針
       
ふくらはぎが攣った時の応急処置は、足母趾を強く背屈させるのがよいことが知られる。これと同じうような意味で、足底筋膜緊張時には下腿三頭筋のストレッチが有効である。足底筋膜と下腿三頭筋は一体として捉える必要がある。
MPS(筋膜痛症候群)で知られる木村裕明医師は、足底腱膜炎と言われているものの殆どは、下腿の筋の関連痛だったり、アキレス腱下脂肪体内の筋膜付着部症あるいはアキレス腱下滑液包炎によるものだったりすると主張している。



     
①ヒラメ筋ストレッチ
立位でアキレス腱を伸ばすポーズ。ただし膝屈曲位にする。この姿勢で、圧痛点(三陰交、地機などのヒラメ筋反応点)に運動針。

②腓腹筋ストレッチ
 立位でアキレス腱を伸ばすポーズ。ただし膝 伸展位。この姿勢で、承山、承筋、太谿、崑 崙など腓腹筋反応点に運動針。

慢性副鼻腔炎の針灸治療

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  当院にたまに来院していた女性患者は、近くの整形外科の理学療法室で無資格ながらアルバイトをしていた。その人が私に慢性副鼻腔炎に鍼灸は効くか、と質問したのできちんと自宅施灸すれば効果があると返答した。しばらくして理学療法室の同僚の若い男性を副鼻腔炎を治してくれといって連れてきた。私は上星に直接灸3壮を行い、挟鼻穴(下記参照)に単刺して治療を終えた。そして上星には毎日自宅施灸するように指示した。この男性は毎日、自分で鏡をみながら上星の灸を続けたところ、数週間後にはついに鼻汁が止まった。それを見ていた女性患者はよほど驚いたらしく、鍼灸学校に入学したのだった。


1.副鼻腔とは

1)前頭洞、上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞の4種ある。うち上顎洞が最大。

2)副鼻腔の構造と特徴

鼻腔に接する頭蓋内の空洞で、開口部が鼻腔とつながる。
上鼻道の開口:篩骨洞(後部) 
中鼻道に開口:上顎洞、前頭洞、篩骨洞(前部、中部)
下鼻道に開口:鼻・涙管 
蝶形骨前洞窟に開口:蝶篩陥凹
  
大部分の副鼻腔の開口部は洞の下方にあるので、分泌物も溜まりにくい。しかし上顎洞は上方に開口部があり、分泌物や膿が貯留しやすい。 

 


 

2.副鼻腔炎の)病態生理
  
慢性鼻炎により鼻粘膜が充血、肥厚
    ↓   
副鼻腔開口部付近の粘膜も肥厚し、充血する。
    ↓
副鼻腔開口部が閉鎖され、血流により副鼻腔は陰圧になり、
貯留物が排泄できない。
(本来は副鼻腔に溜まった分泌物は、生理的に外に排出される)  
    ↓
感染が起きる。
 

3.副鼻腔炎の症状
   
慢性副鼻腔炎時は、同時に慢性鼻炎も存在している。症状は慢性鼻炎に似るが、膿性鼻漏が多量で、異臭があり、鼻周囲の圧痛出現する点が異なる。ときに鼻茸を合併。前頭洞の副鼻腔炎では攅竹附近は、前顎洞の副鼻腔炎では四白附近に重い感じがあり、押圧すると副鼻腔内圧上昇するとされ、鈍痛増悪する。

R/O 上顎癌:
50才以上で鼻の癌では上顎癌が最も多い。
その7~8割は慢性副鼻腔炎をもっている。血性鼻汁となる。


 

4.現代医療

抗生物質、上顎洞洗浄、ネブライザー。しかし根本的治療法に乏しい。


5.針灸治療
  
慢性鼻炎があれば慢性副鼻腔炎も存在している。両者の共通症状は、鼻汁(粘性~黄色粘性) と鼻閉。慢性副鼻腔炎では前頭部鈍痛や頬部鈍痛を訴えるのに対し、慢性鼻炎では、これらの訴えに乏しい。  
  
鼻炎と副鼻腔炎の治療は、針灸では治療は同様にう行ってよい。鼻炎と副鼻腔炎とは、鼻粘膜に連続性があり、神経支配も同一であることによる。

1)鼻周囲の三叉神経第1枝刺激 
  
鼻腔と副鼻腔は三叉神経第1枝が支配している。この神経を刺激すれば、鼻交感神経を緊張させ、血管収縮を引き起こすので、鼻閉や鼻汁に対しても効果がある。

上鼻甲介付近の炎症や腫脹では、三叉神経を介して頭重が起こるとされる。慢性鼻炎や慢性  副鼻腔炎の者は、前頭部の前頭髪際付近に圧痛がみられることが多く、圧痛があればこの圧痛点である顖会(前髪際を入ること2寸)や上星(前髪際を入ること1寸)に長期的に透熱灸をすることが多い。
  
これは三叉神経を刺激することで、鼻腔や副鼻腔に持続反復刺激を与えている。頭髪中に施灸するので、灸痕が目立たず長期施灸を可能としている。施灸により、長期間良好な状態を保つ間に、鼻粘膜の修復が行われ、施灸中止後も、症状は消失状態を保つことができる。
     
①攅竹から睛明方向への水平刺
   前頭神経→鼻毛様体神経

②挟鼻(鼻翼の上方の陥凹部で鼻骨の外縁中央)直刺。
鼻毛様体神経刺激。本神経は、知覚神経で鼻背、鼻粘膜(嗅覚部を除く)、涙腺に分布。
揮発成分を含むワサビを食べると鼻がツーンとし、涙が出るのは、鼻毛様体神経刺激による。
 

 

2)大後頭-三叉神経症候群として後頭神経刺激
   
三叉神経線維は三叉神経脊髄路というルートを持っている。外部から入力された感覚は、三叉神経節を経た後、三叉神経脊髄路を経由して、すなわち一度、第2頸髄の高さまで一度下行してから、再び上行して脳に行く。下行時には大後頭神経と連絡しているので、大後頭神経と三叉神経の間に、密接な関係を生ずる。眼精疲労時には後頭部痛も生じやすいのもこの理由による。天柱に刺針すると、三叉神  経刺激症状(特に第1枝の眼神経)に影響を与える。大後頭神経が興奮して三叉神経症状を生  じたものを、大後頭神経-三叉神経症候群とよび、ペインクリニックでの通称も天柱症候群とよばれる。針灸臨床では、眼精疲労、鼻閉に天柱刺針を用いることが多い。


3)顔面関連痛をもたらす筋刺激(山田智子先生の発表による)

①急性副鼻腔炎患者に、座位で頸部前屈すると顔面痛増悪する例があった者に、伏臥位で頸部前屈されても顔面痛増悪がなかったこと。②頬骨筋を収縮させた状態(イーッと歯を見せる)では、顔面部圧痛増悪したこと、③項部と上顔面部に針灸治療を行って、副鼻腔炎治療に効果をあげていること、などから顔面症状は、後頸部筋(後頭下筋、頭半棘筋、頸半棘筋、頭板状筋、頬骨筋、咬筋など)のトリガー活性の結果かもしれない。後頸部や  顔面部の筋刺激の有効性が示唆される。<山田智子(六ヶ所村尾鮫診療所):第3回プライマリ・ケア学会>


 

仙結節靱帯刺針の効果

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平成26年5月10日報告の<坐骨滑液包炎の針灸治験>ブログで、坐骨結節滑液包炎の鍼灸治療について説明した。今回は仙結節靱帯痛と思える症例を経験し、よい成果を収めることができたので報告する。

1.仙結節靱帯痛の概要と鍼灸治療方法

1)症状
下殿部~大腿後側痛、陰部神経症状(肛門や肛門奥の鈍痛)

2)病態
ランニングやストレッチ体操のような、繰り返される大腿の大きな動作により、仙結節靱帯のTPが活性し、下殿部~大腿後側痛出現。この靱帯深部には陰部神経が走行するため、陰部神経絞扼障害も出現することがある。

3)針灸治療
伏臥位で、仙結節靱帯に相当すると思える部に、3寸#10にて深刺し硬い組織に当てる。3~5本集中置針(30~60分間)。

 

 

4)コメント

仙結節靱帯が原因で症状をもたらすことがあることは、つい最近のMPS研究会の報告で知った。それ以前、そもそも靱帯が痛みを起こすとは考えていなかった。仙結節靱帯は、皮下組織の厚い部にあるため、触診や押圧によって圧痛等の異常を確認しづらく、刺針点を定める確証が得られにくい。そこで解剖図を参考にして、刺針して仙結節靱帯に命中しそうな部位を選択したが、やむを得ず、一直線となるように3~5本深刺し、またTP過敏性を鎮めるために、長時間(筆者は30~60分間)置針することを考えた。

 
2.症例

1)左下殿部内側から大腿内側上部の痛み、頻尿を訴える例(60才、女性)

当院来院1年間くらいから、思い当たる理由なく、左下殿部内側から大腿内側上部が痛む。頻尿もあり。椅子に座ると、坐骨あたりが圧迫されるので、長時間座っていられない。股関節X線正常、骨盤部MRIで左側梨状筋の肥大を確認。ペインクリニック科で硬膜外神経ブロックや殿部からの坐骨神経ブロックを行ったが、無効だった。坐骨結節部に圧痛なし。
     
当初は左側陰部神経障害を考え、左側陰部神経刺針を行い、また念のために左梨状筋刺針(=坐骨神経ブロック点刺針)も行い、10~30分置針パルスを実施した。また仙骨神経叢と陰部神経に影響を与える目的で左中髎に直接灸実施。
   
何回か上記治療を繰り返すうちに、頻尿は改善したが、下殿部内側の痛みは、あまり変化なかった。このような治療を週1回ペースで1年3ヶ月継続した。針灸を継続していればいくらか座っていられるとのことだった。それ以上の治療を思いつかず難儀していたところ、仙結節靱帯もTPポイント活性になることを知り、前述した治療に変更してみると、治療直後から自覚的に明かに下殿部症状の軽減をみたということだった。

※後日、当人がこのブログをみて、発症した原因は不明と言ったが、膝をのばして両脚を開いた姿勢で、長時間何日も絵を描いたのが原因かもしれないと話してくれた。両脚を開いたというのは下の症例と類似点がある。


2)会陰部奥の痛み、左下殿部痛(53才、女性) 
     
数ヶ月前、ヨガで開脚姿勢をとろうとした際、足がすべって股が無理に開いた。その直後から、上記症状出現。会陰部は脱肛感や灼熱感があるが、外見上異常なく、 肛門周囲に圧痛はない。内科、婦人科では異常は見つからなかった。それ以外に、ふくらはぎと足底痛もあり。ヨガやランニングを好んで行っている。
   
坐骨結節部に圧痛なく、会陰部にも圧痛なし。上記症状の経験より、当初から仙結節靱帯TP活性化を考え、伏臥位にて左仙結節  靱帯に相当する部から5本深刺で30分間置針実施した。治療後数時間は残針感があったが、その後に肛門周囲がポカポカし気持ちよかく、翌日久しぶりにランニングする気になったとのこと。ただしランニング後に症状は元に戻ってしまった。
   
3日後再診。今度も同様の刺針を行い、置針時間60分としてみた。また症状が安定して回復するまで運動中止を指示した。現在も治療継続中である。
  
※本患者は足底痛や左脚第4趾DIP関節痛もあったが、仙結節靱帯刺針を行うことで消失または症状部位置が移動した。これらはTP活性化に起因した放散痛部位だったのかもしれない。

膝痛に対する手技療法を応用した大腿四頭筋刺針

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膝OAの多くは大腿四頭筋(大腿直筋・ 外側広筋・内側広筋・中間広筋)の筋力低下の結果であり、その治療には以前から大腿四頭筋の筋肉量を増やす目的で、大腿四頭筋強化運動をおこなわせるのがよいとされてきた。これは、次のような悪循環を想定している。
☆膝痛→動くと痛むのであまり動かさない(廃用性筋萎縮)→膝関節痛の増悪。

この考え方では、廃用性萎縮を避けるには、筋肉量を増やす必要があり、大腿四頭筋強化運動等を行うべきだという結論になる。しかし筋肉強化訓練は、短期間の訓練では効果が乏しく、途中で訓練中断してしまうケースは少なくない。

ただし実際には、長期的な努力を強いられるので途中で挫折してしまうという話をよく聞く。膝OAの病理機序として次のようなことも考えられるのではないか。
☆膝痛→膝関節周囲筋の常時収縮 (保護スパズム)→動くと痛むので動かさない(廃用性筋萎縮)→膝関節痛の増悪。

筆者が行っている大腿四頭筋を緩める方法は、大腿直筋に対するものと、内側広い筋外側広筋に対するものとでは違ったものになっている。自然と区別されるに至っている。


1.大腿直筋の緊張緩和方法

大腿直筋が過緊張して短縮状態にあることで、膝痛を生じるので、大腿直筋を緩める方法を考える。
大腿直筋は股関節と膝関節をまたぐ2関節筋であり、本筋のストレッチは、股関節伸展と膝関節屈曲を同時に行うと効果が高い。もっともアスリートに対する方法はその通りであっても、膝OAの患者多くは高齢者なので、仰臥位で膝屈曲姿勢のなどのように、股関節屈曲状態で、膝関節だけ屈曲させても大腿直筋に対するストレッチは治療に使える。

この姿勢で、大腿直筋の膝蓋骨停止部(≒鶴頂穴)を触診し、圧痛硬結を診て、圧痛点に刺針して雀啄刺激を行うことで、大腿直筋緊張が緩み、筋長が伸びるので膝痛が軽減されることが多い。これはⅠb抑制の機序を利用したものである。 

Ⅰb抑制:筋の持続的伸張などでゴルジ腱器官を興奮させることにより、Ⅰb線維を介して、目的とする筋の緊張が低下する現象。筋腱の骨付着部などゴルジ腱器官の集まる部位を針灸などで刺激すると、これと連なる筋の緊張緩和すること。

 

 


2.外側広筋・内側広筋

外側広筋・内側広筋・中間広筋の三つは膝関節をまたぐ単関節筋である。中間広筋については不明なことが多いので、以下は外側広筋と内側広筋について記す。

上記の大腿直筋緊張を改善する方法では、膝蓋骨の上縁(鶴頂)の大腿直筋付着部を押圧して圧痛点に刺針するのだが、膝蓋骨の内外縁(下血海)や外内縁(下梁丘)には圧痛が出現しないことに気づいた。すなわち膝屈曲位で圧痛を調べる方法は、内側広筋や外側広筋の圧痛検出には向かないのかもしれないと思った。

内側広筋や外側広筋の筋収縮は、股関節の状態は無関係で、座位で膝関節を伸展状態に保持すること、あるいは仰臥位で下肢をベッドからやや挙上させること(=ともに等張性短縮性筋収縮)で痛みの有無を調べられる。これと同じ原理だが、臨床では仰臥位で、意識的に太ももにギュッと力を入れさせて意識的に膝完全伸展にして圧痛を調べる方法(=等尺性筋収縮)もあり、すぐに刺針しやすいという意味で後者の方が合理的だろう。 

このような肢位にさせると、内側広筋停止部痛(とくに外側広筋)に強い圧痛硬結をみることが多く、圧痛硬結部に2番針程度の針で軽い雀啄して抜針すると痛みが減ずることをよく経験する。
要するに内側広筋(または外側広筋)の骨付着部症に対する治療の要点になる。

 

全身筋骨格症状に対する下関深刺

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1.顎関節症Ⅰ型に対する針灸治療の基本

顎関節症Ⅰ型は、顎関節周囲筋の過緊張による筋の伸張時または開口制限ということであった。この周囲筋というのは咀嚼筋のことだが、調べてみると咬筋の問題が中心となるらしかった。
そこで顎関節Ⅰ型に対する針灸治療は、主に咬筋のコリ部を触知し、置針または口開閉の運動針をしていて、そこそこの効果をあげていた。なおⅠ型以外の顎関節症は、針灸はあまり効かないと考えていた。


2.全身骨格症状と顎関節症の関連

昔から顎関節の異常は、全身の筋骨格障害に異常をもたらすという話は知られていた。ある時、当時通院していた歯医者にそのことを聞いてみると、「話には聞くが、自分としてはそういうケースは経験したことはない」とのことだった。顎関節が全身に関係するといったことは、、「便秘に神門の灸が効く」という格言と同様に、珍しいので面白がって報告するのだろうと思った。


3.脊柱側湾症に由来した肋骨の左右不対称の症例(38才、男性)
 
幼少の頃から身体の骨格が歪んでいた。とくに右前面の下部肋骨が陥凹いている。背部は右起立筋の緊張が顕著。顎関節症、股関節症もある。主訴は左肩甲骨内縁の痛みとコリ。脊柱の歪みが根本にあると考え、背部一行に深刺置針し、他に症状部にも置針した。すると治療数時間は歪みが改善された感じはするも、数日間は持続しないとのことだった。この患者は、整形外科やペインクリニック以外にも、AKA仙腸関節矯正や山元式新頭針法、種々の民間療法も試みていた。それなりに効果あるというが、いずれも一時的効果しかなかった。
 
当院通院もトータルで何十回にもなった頃、ここがつらいといって、咬筋部(四白、顴髎、大迎、頬車あたり)を自分で指し示した。こうしたことは以前にもあり、とりあえず患者の示す圧痛点に置針したのだが、その時ふと外側翼突筋のことが頭をよぎった。顎関節症のゆがみが全身に波及しやすいとされるのは、外側翼突筋の問題だという見解を思い出した。


4.外側翼突筋について

1)機能

口を開くには、下顎の蝶番運動を行うが、さらに大きく開口するには、下顎を前方に滑走する運動が必要になる。この「下顎の突き出し」は外側翼突筋独自の運動で、他の3つの咀嚼筋がどれも閉口作用なのと異なる点である。
※まず口を開き、この状態から強く下顎を突き出すと、顎関節あたりに軽い痛みと緊張を感ずるが、これは外側翼突筋の収縮によるものであろう。






開口時下顎関節頭は回転し、 「下顎の突き出し」時、下顎関節頭は回転とともに大きく2横指ほど前方に滑走するので、顎関節円板に負担がかかっている。「下顎の横ずらし」は、内側翼突筋と外側翼突筋の共通機能である。「下顎の横ずらし」の意義は、穀物などの固い食べ物をすりつぶす役割である。

 
2)診察方法

外側翼突筋は、他の3の咀嚼筋(側頭筋、咬筋、内側翼突筋)と比べて最も小さな筋で、顎骨内縁を擦り上げるように触知して圧痛をみるのがやっとである。しかし口内から指を入れての触診は可能である。触診する手にディスポのゴム手袋をつける。口内に示指を入れて、上顎の歯の、左右にある最も奥にある歯(第2大臼歯、親知らずがあれば第3大臼歯)を確認。 さらにその奥まで指を伸ばし、今度は歯茎と頬の間の粘膜に指を入れる。頬と歯茎の間に指が入ったら、示指の指腹を上に向けて、頬粘膜の最も奥の当たりを、上に押圧。そのあたりが外側翼突筋の位置。軽く触ったり押しただけで痛いときは、外側翼突筋が痛んでいる可能性がある。
 

3)刺針法
   
外側翼突筋深刺の元祖は、木下晴都の聴関穴(木下晴都の下歯痛に対する傍神経刺)になると思われる。聴関穴というのは、聴宮穴と下関穴の中間に位置するということで木下が命名したが、現在の標準的な下関穴の位置にほぼ一致している。

仰臥位でやや口を開いた状態にさせ、この標準下関から2寸針を使って3.5㎝直刺し、咬筋深葉を貫いて外側翼突筋中に刺針するというもの。2寸4番針を使って追試してみると、記載通り3.5㎝直刺でコリのある筋に命中できた。それ以上深刺すると骨にぶつかる。なお直刺でなく、針を傾けて刺入すると2~3㎝の深さで骨にぶつかってしまい、外側翼突筋にまで入らない。




 

ツボに当たったことを確かめた後、運動針(開口させた状態で下顎の突き出し自動運動10回)と、その後置針30分を行った。

4)刺針効果 
 
コリに当たると、患者もツボに当たったことが納得できるようだ。耳中に響いたり、上歯に響いたり、首から背中に響いたりするという。治療後10分くらいすると、背中の血流がよくなったことを自覚でき、非常に気持ち良いという。こんな経験は初めてで、効果持続時間も数日以上で、これまで5年間受けてきた種々の治療中、ベストだということだった。

5)感想

インターネットでいろいろ調べてみると、線維筋痛症に対して外側翼突筋に対するトリガーポイントブロックなどが効果ある例が報告されている。 本筋は他の筋と違って筋紡錘がないという。これは本筋の筋トーヌスが自動的に調整され難いことを意味している。咬み合わせの異常など→外側翼突筋の持続的緊張 →中枢の興奮と混乱→全身の筋緊張といった機序が考えられるということである。外側翼突筋深刺の適応症は意外と広いのかもしれない。


 


歩行時のよろめきに対する足関節キネシオテーピング

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1.「歩行時のよろめき」の2症例

1)自転車から下りる際のよろめきに対するテーピング治療(76才、女性) 

6ヶ月前から膝関節痛があるも、膝関節部の鍼灸治療で症状かなり改善していた。現在は、自転車から下りる際(クセでどうしても右側からになる)、よろけて転倒しやすいというのが悩みだという。診ると右足外側関節外側部に圧痛多数あり、左慢性足関節捻挫状態になっていた。

以前、別患者で歩行時の不安定感(よろめき)に対して、股関節部をゴムベルトで巻いて改善した例が数例あったので、本症例も左右の股関節を覆うようなゴムベルトを試しに巻いてみたが、まったく改善なかった。
脳卒中のリハ訓練で、足関節装具を使うとブレずに歩きやすくなることを想いだし、本例に対して右足関節を固定するようなキネシオテーピングをして治療を終えた。1週間後の再来時、具合を聴くと、自転車を下りる時もよろけることはなくなったとのことだった。
 
2)橋本病にともなう歩行時のよろめきに対するテーピング治療(83才、女性)
 
20年程前から橋本病があり、甲状腺ホルモン剤を常用服用している。このためか易疲労や色素沈着がある。運動不足もあり、下肢は細く筋力低下もある。
 
当院来院理由は、膝痛と右肩関節痛で、膝痛と右肩関節痛は鍼灸治療により非常に改善しているが、高齢なこともあり、定期的な鍼灸受診で良い状態をどうにか維持している状態であった。
 それ以外に、歩行時のよろめきがあった。20年程前も甲状腺低下症状による歩行時のよろめきがあり、その時は交感神経緊張させる目的で項部~上背部の強刺激治療で、施術直後は症状軽減していたので、今回も同様の治療を行うも歩行時のふらつきはあまり改善しなかった。また股関節部をゴムベルトで巻いてみたが、歩行時のよろめき感は改善なかった。

そこで、足関節部に圧痛点はなかったが、先の症例と同じく、左右の足関節を固定するようなキネシオテーピングをし、直後に治療室内を歩かせてみた。すると、ふらつきを感ぜず、安定して歩けるとのことだった。


2.歩行時の「よろめき」と「ふらつき」の相違


 
周知のように平衡覚は回転性めまいや動揺性めまいに分類される。回転性めまいは、外界がぐるぐる回ると訴える。その代表疾患には、メニエール病や良性発作性頭位めまいがある。

動揺性めまいは、ゆらゆらする、ふらふらすると訴える。動揺性めまいは、頸性めまいの頻度が多いが、他に中枢疾患(聴神経腫瘍、小脳脊髄変性症など)や内科疾患(貧血、起立性低血圧)も考え得る。
 
ところで上記した2症例のような歩行時の「よろめき」は、動揺性めまい症状である「ふらつき」と似ているようで、まったく違う病態だと思われる。要するに歩行できないほどの筋力低下が真因となっている。具体的には筋力低下→足関節を安定支持できない→歩行でよろめく、といった状態になる。 
 
片痲痺の歩行では、短下肢装具を使う場合がある。私が昔病院勤務の頃、片麻痺で歩行困難な患者でも、本装具を装着すると歩行できるようになることを何度も見たことがある。大いに驚いたものだ。足関節のぐらつき防止は、歩行するために重要なのだろう。このことは登山靴やスキー靴の例でも理解できる。

立位保持は重心バランスが正常であれば、あまり筋力を使わない骨支持が主体となるが、その例外は足関節であり、足関節固定の目的で下肢の拮抗筋同士がランスをとって緊張している。つまり下腿の筋力低下は、足関節のぐらつきを生じ、歩行困難を生じやすい。これと同じことは、股関節周囲筋にもいえるので、股関節のぐらつきがあると歩行困難になるのだろう。
 

3.余談:キネシオテープの利点と欠点
  
上記2例は5㎝幅キネシオテープを30~40㎝使って一側の足関節捻挫の治療と同じような処置を行った。これは大変効果あったのだが、このようなテーピングを続けることは皮膚を痛める原因になるので長期的な治療として使うことは困難である。以前当院にキネシオテープ製造をしている日東電工の社員の人が患者として来院したことがあった。その人に、長期的に使用できるキネシオテープはないのか、と質問したことがあった。しかし粘着テープを剥がす度に、皮膚の角質層を剥がすことになるので、原理的に無理だという。もし行うのならばアンダーラップを使う他ないというのがその答えだった。結局、応急処置としてはキネシオテープでよいが、少々長く使おうと思えば、足関節サポーター以外ないようだ。足関節サポーター着用のままでは靴が履けないという大きな欠点は存在している。

 

 

 

代表的な薬物灸について ~灸基礎実技講師のために Ver.1.2

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はじめに
東洋療法学校協会編の「鍼灸実技」教科書には、薬物灸の説明が載っている。現在のわが国において、薬物灸を実際に行っている処は非常に少ないのだが、灸基礎実技の担当講師は、不案内なのにも関わらず、立場上薬物灸について一通り説明する必要にせまられる。

薬物灸について簡明に、かつ興味深く、教えるにはどういう内容にいたらよいのだろうか。私が過去に教えた内容を記すことで諸先生方の参考に供したい。 

1.天灸

自灸ともいう。発泡薬を一定時間皮膚に貼るもの。この代表的な薬物には白芥子(はくがいし)がある。
打膿灸直後に、この天灸で用いる発泡薬を貼布すると、さらに化膿しやすくなる。

※発泡薬:皮膚刺激剤の1タイプ。血管壁に作用して血管拡張作用があり、皮膚透過性があるので、疼痛・発赤、ついで漿液性滲出をきたし、局所に水疱が生ずる。その作用部位や作用時間の長短により、引赤剤や化膿剤にもなる。

※白芥子(はくがいし):カラシナの乾燥種子。カラシナは食用植物で少々辛く、オシタシなどにして食べる。粉末にしたものを水で調合し、皮膚に貼って発疱させる。

2.漆灸

漆灸には、生漆(きうるし)を用いる方法と乾漆を用いる方法がある。前者は、生漆と樟脳油を調合し、ヒマシ油を適量加えて混和したもの。これを棒で皮膚に塗布したり、艾に浸ませて経穴部などに置く。
植物毒によって皮膚に炎症を起こす目的。

※樟脳:クスノキのことを樟という。樟脳とは、クスノキの香りの成分の結晶。爽やかな芳香があり、気分をリラックスする作用がある。かつては強心剤としてカンフルを用いた(実際には無効だった)ことがあり、これも樟脳が原料である。
樟脳で、混同されがちなのがナフタリンである。ナフタリンはコールタールを原料として製造され、においがきつい。


3.水灸

いくつかの薬物に組み合わせがあるが、代表的なのは薄荷、竜脳、アルコ-ルを混和したものである。筆、箸、棒などを用いて皮膚に塗布する。メンタムを塗ったような爽快感がえられる。


4.墨灸



琵琶湖湖畔の草津市穴村(温泉で有名な群馬県草津とは無関係)にある伝統療法として墨灸は有名だった。 明治初期の鍼灸・漢方界のオピニオン雑誌発行者として有名な駒井一雄はその跡取りだった。墨灸のことを紋状に跡が一時的に付くことから“もんもん”と呼び、駒井家の屋号は“穴村のもん屋さん”だった。1日300人。多い時に1000人を超えたという。
墨灸とは、艾のエキスをツボに筆などで塗る治療法で、熱さも、のちのち熱傷跡も皮膚に残らないツボ療法として、かつては幼児・子供の治療法として普及した。

何種類かの生薬の組み合わせがあるが、代表的なのは、黄伯(きはだ)を加えた墨を、筆でツボに塗るものである。墨の遠赤外線効果が治効に関係しているという見解もある。

※黄伯:樹皮の内側の内皮が黄色のことからこの名がついた。内皮は胃腸薬として用いられる。

※この溶液をモグサに染みこませて団子状にし、皮膚において扁平にした後、艾しゅを置いて点火する方法もある(鏡の坊鍼灸院HP)。

※余談:灸点をとるのに、マジックインキを使うのと、灸点器を使うのとでは違いはあるのだろうか。私が鍼灸師初心者の頃、「同じようなものだ」といったら、非常に憤慨した先生がいた。「灸点器で使っているのは墨だが、マジックインキは化学物質である。墨は炭素であるから、モグサを燃焼させる際、無害なのに対し、マジックインキを使うと化学物質が皮膚内に入る」という主張であった。確かに昔は灸点をとるのに、書道用の筆を使って墨を使ったので、一理ある話ではある。

現在、私は灸点器を所持していないこともあり、懲りずにマジックインクを使って灸点をとっている。一方針灸学校教育では何故か灸点ペンを使わせることが多い。このあたりの事情は、施灸治療的に無視していいことなのだろうか。少々気になっている。 


5.紅灸

紅花から絞った汁(紅花水)をツボに塗布する。紅花は、化学染料が普及する以前は、布の赤色染料として大変高価なものだった。口紅の原料としても用いられた。赤色は、血の色であることから、古来から生命増強の力があるとされた色で、赤ちゃんの宮詣りや祭りの時、額に紅をつけた。紅灸で、紅花水を使わず、単なる食紅を水で溶いて、使ったという例もあるようで、まじない的効果のようでもあった。 

 ※現在、紅灸を製造しているのは、鹿児島の本常盤というところ(販売は丸一製薬)で、戦前は赤紅(アカベニ)が主に使われていたが、赤い色が衣類に付いたり、原料も手に入らなくなったということもあり、やがて白紅(透明ではなく、淡いピンク色)に変わったという。ただし白紅がどういうものかは調べきれなかった。 

※私は以前の勤務先の針灸学校で、灸実技用として、白紅(紅花水)を買ってもらう機会があった。色はヒビテンを薄めたような透明感のあるピンク色で、ニッキ飴のような香りがした。白紅を十分含ませた脱脂綿を皮膚に置く。スースーした感じがした。紅花水そのものは、刺激感がないということで、これはがこれは、配合している樟脳精・チモール・トウガラシチンキ・サリチル酸メチール・Lメントールなどの作用であろう。
いまでいうメンソレタームやムヒみたいなものだろうか。


 

鵞足のウンチクおよび鵞足炎の針灸治療 Ver.2.0

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1.大航海時代の肉の保存方法
 
大航海時代とは、15世紀から17世紀前半にかけて、ポルトガル・スペインなどのヨーロッパ諸国が、航海・探検により海外進出を行なった時代をいう。
大航海時代以前から、ヨーロッパでは気候の関係で、コショウ類を栽培することが難しかったので、インドなどからの香辛料(とくにコショウ)を、多くの商人の中継で陸路で地中海経由で輸入していたが価格は上昇し、一般人が入手することは難しかった。

ヨーロッパでは、草がが枯れて放牧ができなくなる冬には、大半の家畜を殺してその肉を塩で漬け保存食とした。しかし、ただ塩漬けした肉のにおいはあまりにも強烈で、これを何とかごまかすには、香辛料を使うほかなかった。さらに香辛料を使うことが、肉の腐敗防止に役立つとも考えられた。
南洋を長期航海中の船では、肉の長期保存は切実な問題で、この臭みを消すためにコショウが珍重され、同じ重さの金と交換されていた。

長期航海する大船は、生きた状態で鶏や豚が飼育していた。生きていれば腐らないからである。鶏の飼育はケージに入れればよかったが、豚は難しかった。豚が船内で暴れないようにするため、鵞足をナイフで切断し、歩き回れなくしたという。


2.鵞足の命名由来

鵞足は、英語ではグースフットgoose`s  footという。 マザーグースのグースである。
ガチョウの足は、指が3本あり、指と指の間は水かきでつながれている。鵞足は、半腱様筋腱・薄筋腱・縫工筋腱が集合した部分をいう。その形がガチョウの足に似ているところから名付けられた。
ちなみにガチョウを鵞鳥と書くのは、ガーガー鳴くからだという説がある。

※単に鵞足といえば、浅鵞足のことをさす。他に深鵞足がある。

 

 

3.鵞足炎

1)鵞足炎の病態
 
浅鵞足炎はランナー膝の一タイプである。階段昇降時や急激な立ち上がり動作、しゃがみこみ動作時の、鵞足部の痛みを生ずる、鵞足部に腫脹と圧痛がある。過使用による浅鵞足腱炎の場合、その近傍を走る伏在神経を興奮させるので、痛みが出る。浅鵞足の直下にある浅鵞足滑液包炎のこともあり、この場合は熱感や滑液貯留をみる。

 

2)深鵞足炎について 
     
半膜様筋の起始は坐骨結節、大腿後内側を下行し、膝関節の後内方を経過し、内側側副靱帯をくぐり、脛骨内側踝に停止する。本筋の過使用により、半膜様筋停止部附近の腱炎や腱直下にある滑液包炎を生ずることがある。深鵞足特有の問題として、内側側副靱帯損傷に伴う場合もある。 

 


4.鵞足炎の針灸治療
   
鵞足部を触診し、圧痛を発見する。撮痛反応も陽性となることが多い。このような場合、鵞足の痛みの直接原因は皮膚を知覚支配している伏在神経のことが多いように思う。その根拠として、皮膚痛の改善目的で皮内針を数カ所置くのが非常に有効となる例が多い事実がある。 

浅鵞足部構成筋である半腱・薄筋・縫工筋の緊張により、鵞足部腱の伸張ストレスが生じている場合、患側を下にして、これら筋群の圧痛点を探し、そこに膝屈伸動作の運動針を実施することも考える。鵞足構成筋の緊張短縮により、鵞足部の伏在神経が興奮すると考えれば、大腿後内側にあるこれら筋群の運動針の方が本質的になるだろう。
深鵞足炎では、半膜様筋が内側側副靱帯に絞扼されて症状を生している場合もあるので、曲泉や陰谷あたりの圧痛点も診ておく必要はある。

 

肩関節の結髪動作制限に対する針灸治療 Ver.1.2

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2015年1月15日付けで、私は「肩関節の結帯動作制限に対する針灸治療」というブログを発表した。その姉妹編ということで、今回は上記タイトルについて見解を記す。

 

1.結髪動作制限に対する大円筋・肩甲下筋刺針

筋緊張により結髪動作制限(屈曲+外転+外旋の複合動作)が起こることがある。結髪動作に関係する筋は、肩関節の屈曲筋や外転筋や外旋筋ではなく、それらの拮抗筋の伸張障害が原因となる。

したがってり、伸展筋→三角筋後部線維、内転筋→なし、内旋筋→大円筋・肩甲下筋のに対する刺激が重要となる。とくに経験的には内旋筋である大円筋と肩甲下筋刺激重要で、具体的には後方四角腔を刺針点とし、肩甲骨と肋骨の間に針を入れるように深刺する 。

2.肩貞からの水平刺 

後方四角腔(≒肩貞)を刺入点として、針を肩甲骨と肋骨の間隙に刺入すると、針はまず大円筋を貫き、次いで肩甲下筋に刺入できる。肩甲下筋中に刺入し肩甲骨裏面附近に響かせるには、5~7㎝以上の深刺が必要である。トラベルにより、肩甲下筋のTPsは後方四角腔部に痛みを生ずることが調べられている。


3.膏肓からの水平刺

治療側を下にした側臥位をとらせると、肩甲骨が浮き上がり、肋骨との間に隙間が空く。この体位にさせ、膏肓あたりから肩甲骨と肋骨間に向けて、5~7㎝水平刺すると、ズンという針響を肩甲骨裏面に与えることができる。それを患者は、やっとつらい処に当たったと喜ぶことをよく経験する。

最近、私は治療側を上にした側臥位で肩甲骨と肋骨間に刺針し、肩甲下筋を刺激するように治療法を変更した。この肢位では、肩甲骨と肋骨の間隙が広がらず、また針も下から上に向かって刺入する関係から、少しやりにくい。しかしこの肢位では、刺針した状態のまま、上肢の他動的運動を行うよう指示しつつ、肩甲骨の外旋の徒手矯正が行うことができるというメリットがあり、確かにこの肢位での施術の方が治療効果は大きいように感じる。

※伝聞だが最近のMPs研究会の席上、肩甲下筋に対する刺針が、肩の外旋制限に効果あるとの報告があったという。すなわち結髪制限に対して、膏肓水平刺が有効となる可能性が強いといえる。

※肋骨面に対して、肩甲骨の外転の動きにくさは、条口からの深刺で改善できたとの台湾医師の見解を報告済。

 

 

 

4.肩甲下筋停止部運動針

肩甲下筋が緊張して短縮すると、 伸張に制限されて肩関節の外旋制限が生ずる。このような 場合の治療は、肩甲下筋の筋緊張を緩めればよい。肩甲下筋の停止は上腕骨小結節にあるが、この部への運動針を行うと、外旋制限の程度が改善することが多いようである。

私の経験では、これまで肩関節と肩甲骨の接合部に深刺したことはなかった。近  年、自動・他動とも外転90°程度の50才前後の凍結肩を疑った患者だった。この患者は、自動的にも肩関節外旋30度程度の患者だった。仰臥位で肩関節外転90度位にて、この方法 で深刺してみると、スッと外旋80度程度ができるようになった例があり非常に驚いた。と同時に、他動・自動運動とも外転90°程度で、一見すると凍結肩かと思うような例であっても、本刺針が有効となる例があることを知った。

 

 

膝窩筋腱炎の針灸治療

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筆者はかって、<膝窩痛に対する委中刺針の体位 Ver. 1.4>2014.7.28 を発表したが、その後に内容がかなり充実してきた。ともに、このタイトルが内容にふさわしくないものとなったので、内容を大幅に追加するとともにタイトルを変更することにした。

 

1.膝窩筋とは
     
膝窩筋は、膝窩部にある小さな筋である。起始は大腿骨の外側顆、停止は脛骨の上部後面である。膝関節屈筋の補助筋として膝関節の屈曲作用の他に、わずかに膝関節を内旋する働きもある。歩行で立脚期には膝は伸展位となるが、歩幅を大きくしたり速度を上げての歩行では、さらに膝関節は過伸展位に近づく。歩行を連続する時には、膝関節の伸展→屈曲をスムーズに行う機構が必要となるが、膝窩筋は、過伸展方向への「動き抑制し、屈曲への助走」の役割を担っている。 
   

※足底筋の機能:アキレス腱が断裂しても、足底屈ができるのは、足底筋の収縮による。
  

 2.膝窩筋炎の症状・所見
   
膝の動きに伴う鋭い膝窩部痛(ゆっくり膝を伸ばす際にはあまり痛まない)
正座時痛。
膝裏に何かが挟まっているような感覚。膝窩部の膨隆

 

3.膝窩筋腱炎の針灸治療
     
異常がある場合、膝関節屈曲位にて、膝窩横紋中点から外方1寸ほどのところに圧痛硬結を触知できる。伏臥位で膝窩  をさぐっても膝窩筋は弛緩しているので圧痛は検出しづらく、刺針しても硬結に命中したことを感じないので、筆者は下図のような姿勢をさせて膝窩部の圧痛・硬結を見出し、手技針を行うことを考案した。

   
これは膝窩筋を緊張させる肢位である。上図の膝窩附近の断面では、腓腹筋が描かれているが、これは膝窩横紋のやや下方からの横断図であろう。膝窩横紋の委中外方からの直刺刺針時では腓腹筋やヒラメ筋は関与しない。
   
解剖学的には、膝窩横紋を三等分して、腓骨側に近い側から1/3の処に膝窩筋があるので、委中と委陽の中点あたりを押圧して、シコリを触知することになるのだが、膝窩横紋のやや下方(踵方向)から押圧すれば、押圧方向次第で圧痛はいろいろな場所になる。シコリを押圧すると、あたかも針で刺されたようなチクッとした強い痛みを自覚するので、とにかくこうした過敏性を伴うしこりを2~3カ所発見し、そのすべてに刺針することが効果的な刺針となる。
  




伏臥位にての委中刺針に比べ、治療効果が高い。不安定な姿勢なので置針はできない。脛骨神経に命中させる治療的意義はない。

足のツレの治療 Ver. 2.1

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1.こむら返りとは

睡眠中に、突然足がつれ、痛みで目覚めるという訴えを、よく耳にするようになった。通称こむら(返りともよばれる。 「こむら(=腫)」返りとはふくらはぎが、つ(=攣)ること。腓腹筋の有痛性痙攣である。筋肉内に分布する運動神経終末部の自発性興奮に始まる。筋線維の一部が強く収縮すると、収縮した筋線維と収縮しない筋線維の間にずれの力が働き、筋肉の痛覚線維を刺激して、痙攣と痛みが生じる。

2.原因
 
1)脱水時
夏の暑い時期、激しい筋肉労働で大量の汗をかいたとき。水分やミネラル分(CaやMg)不足になると、筋肉内のセンサー(筋の張力情報を脳に伝達)がうまく働かなくなる。
  
2)睡眠中
①冷え 
日中に比べて夜間は気温が低くなる。ヒトは就寝中は、熱エネルギー産生力を低下させ、体温も午前3時から5時頃が最も低くなる。こうした時であっても体幹深部の内臓温は一定に保つので、結果として手足末梢温は低下せざるを得ない。その結果、夜中から明け方にかけて、筋の血流が悪くなり、したがって新鮮な酸素、栄養素の供給や老廃物の排除がうまく行われず、こむら返りが起こりやすくなる。
     
②足関節の底屈状態
長時間の就寝状態では、足は掛け布団に圧迫されたり、伏臥位で寝ていて敷き布団を押しつけるなどして、足は底屈状態を強制させられている。この時、腓腹筋は収縮状態にある。この状態で、寝返りや膝や足を伸ばしたりすると、さらに腓腹筋は収縮し、生理的収縮の限界を超える。
※暑い時期には使う布団も薄くなる。この説では夏場に起こる腓腹筋痙攣を説明できない。


 


3.腓腹筋痙攣時の応急処置

夜間とくに気温の冷える朝方に、腓腹筋痙攣はおきやすい。痙攣が起きて痛みにじっと耐えているだけでは、なかなか痛みは去らない。
腓腹筋のストレッチ目的に、自分の手指で足母趾を強く背屈状態にする。痛みが止まるまで、30秒間ほどこの状態を保つようにするというのが普通だが、寝ている状態では上体を起こさねばならず面倒である。そこで私は、下図のように、仰向けに寝たまま、健側踵を吊った側の足母趾の上に置き、下向きの力を加えることで母趾背屈を行うよう指示している。。

 

 

4.太衝への神経ブロックが有効

高山瑩・伊藤博志医師は、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、太衝穴から深腓骨神経ブロック(局麻注射)を実施。全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少すると発表した。一度行えば数カ月間、効果が持続する。なお中封からの深腓骨神経ブロックも試みたが、太衝ブロックよりも効果は劣ったという。(「腰痛などを伴っ ているこむら返りに難渋している症例に対しての治療効果」:日本腰痛会誌、8(1):126--130.   2002)
       
これをどう解釈すべきだろうか。太衝の皮膚は特異的に深腓骨神経支配になっている。こむら返りに、太衝部へのソマセプト(皮膚刺激)貼って効いたという報告もある。
       
深腓骨神経ブロック自体が、坐骨神経痛に対する治療のような効果をもたらし、下腿筋群の筋弛緩に関与したということだろう。下腿三頭筋の過収縮を改善するには、その拮抗筋に相当する前脛骨筋(=深腓骨神経)を刺激すると効果あるのかもしれない。つまり「Ⅰa 抑制」の機序が働くのではないだろうか。
     
        



  
     

筋膜(ファッシア)の問題点の整理

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最近、筋膜の理解が大きく進歩し、これまで経験的におこなってきた治療も理論づけができるようになってきて喜ばしいことである。しかし新しい考え方であるため、知らない者もおり、知ってはいっても断片的理解に留まる者もいる。自分の勉強かたがた、整理をしてみたい。

筋膜というと、筋を包む深筋膜だけを考えがちであるが、皮下組織(=皮下脂肪)を包むのも筋膜で、これを浅筋膜とよぶ。皮膚は表面から、表皮→真皮→皮下組織→深筋膜→筋肉の組織になるが、浅筋膜は脂肪体を包む膜のことである。

ちなみに皮内鍼は、真皮にまで水平刺する(表皮・真皮を合わせて厚さが約1.5~4.0mm)。皮下組織にまでは刺さない。皮下組織まで刺入すると、動作時にチクチクすることがある。

例外も少なくないが、現代鍼灸では深筋膜にまで刺し、響きを求めることが多い。これに対して古典派は一般に浅針の者が多いが、中には管針法を使った5㎜程度の切皮でさえ、深すぎるとする者がいる。これはおそらく浅筋膜刺激をしているのだろう。 
 

1.筋膜の構造

これまでの認識では、筋肉を包む膜を筋膜とよび、筋膜には浅筋膜と深筋膜があるというものだった。だが浅筋膜は筋肉ではなく、皮下組織(=皮下脂肪)を包むものである。皮膚と皮下組織間の結合がゆるむと、皮膚に加わる外的衝撃を逃すことがで きず、筋へダメージを与えやすくなることがわかった。 
  
一方、隣接する深層筋膜間は、互いに筋活動を円滑に行うためにFuzz(線毛)があって摩擦を防いでいるが、筋同士の摩擦が弱すぎると、Fuzzが癒着しやすくなることが知られるようになった。
  
筋膜は、Fascia(ファッシア)の意味だが、ファッシアは元々はシーツのような薄い膜を意味している。なお以降は、浅筋膜のことを浅層ファッシアとよび、深筋膜のことを深層ファシアと よぶことにする。
  
筋膜には無数の神経細胞(受容器や自由神経終末)が分布しているので痛みに敏感である。
  
なお日常的には筋膜を、浅筋膜・深筋膜といった区分で呼ばない。筋肉で分けられるものが深 筋膜であり、浅筋膜は頭部・頚部・胸部とった身体区分で分ける。
  
浅筋膜の区分の境界は、「シワ」によって確認できる。人間は屈側が強いため、屈曲シワができる(分かりやすいのは手首のシワ、鼡径部のシワなど)。屈側が強く屈曲シワができるということは、伸側は張っていて強度が強いということになる。脈管神経は隙間のある部分を通るので、脈管神経隙ができやすい屈側側を多く通ることになる。






2.浅層ファッシア(=浅筋膜、皮下筋膜) Superficial fascia
 
1)浅層ファッシアの所在と機能
   
皮膚の下には皮下組織があり、その下には結合織がある。皮膚のすぐ下にある皮下組織の別名を浅層ファッシアとよぶ。浅層ファシアは皮下組織(=皮下脂)肪をゆるく覆う疎性結合織である。例えば、皮膚をオーバーコートとするなら、その裏地の様なもの。皮膚と筋の間のスライドを援け、外部からの圧力に対して筋肉を保護する。


 

 

 2)浅層ファッシアの障害
    
浅層ファッシアは、セーターのように互いに絡み合ってネットワークを形成しているので、どこか一か所を引っ張ることが、全体的な緊張やバランスに影響をあたえ、引っ張りや緊張が身体全体のバランスに影響を与えている。

2.深層ファッシア(=深筋膜)Deep fascia
   
深筋膜は、筋肉自体を被うスジ状の白い膜で、個々の筋~筋群を覆って内外から支える。固定、収縮の制限、他の筋との摩擦の軽減作用がある。例えば、コートの下に着るスーツの生地。
  
皮膚面から深層に向かって、表皮→真皮→浅筋膜→深筋膜となるが、その下には浅層筋→中層筋→深層筋の順で層を成している。正常な状態にあるときは、筋膜間は組織液に満たされている。この組織液が潤滑油となって筋と筋との摩擦を軽減している。
   
①筋上膜(=筋外膜):筋を包み、腱・靱帯に連なる。
②筋周膜:筋束を包んで、腱。靱帯につらなる。
③筋内膜:筋線維単を個々に包む(コラーゲン線維)
④腱・靱帯:筋と骨、骨と骨を結わえつける。伸び率は4~5%。6%で部分断裂、8%で断裂する。

    

 3.筋膜症状と臨床

1) Fuzzの生成と進行
 【Fuzz Speech by Gil Hedley with Japanese subtitles】日本語字幕:倉野幸雄 より
筋膜と筋膜が癒着した状態を、 Fuzz(=直訳で綿毛)とよぶ。引きはがそうとすると、ゆるいゼリーのような粘性のある透明な糸が伸びる。夜寝ている間や、じっと同じ体勢でいる時に作られる。起床時などで、腕をうーんと上にのばして背伸びをするなどするのは、胸の側面から肩にかけての筋膜癒着を取り除いて、隣接する組織がスムーズにスライドするように無意識に行っている動作である。筋膜癒着が生じて間もなければ、このような動作で筋膜間の滑りを回復できる。
ストレッチすると肩に痛みが出るなどの事態では、次の変化が起こりえる、 

動かさない肩に筋膜癒着が重なる
→関節の可動域が狭まる
→関節に付着する筋肉が完全に伸縮 しなくなり、固くなる
→組織間の摩擦が増える→微細裂傷が起こる→筋膜癒着がさらに増える。
     
何週間、何ヶ月、何年、あるいは何十年もかけて積み重ねられた筋膜癒着は、自然治癒は困難である。このような場合、筋膜間をメスで剥離する訳にもいかなので、ドクターであれば食塩水や局麻剤を癒着部に注入して剥離させることを考える。

針灸師であれば、ファッシア内に針先を入れ、運動針を行うことで癒着を剥がすようにすることになるだろう。典型的には肩甲骨と肋骨間の筋膜癒着で、肩甲骨内縁を刺入点とし、肩甲骨と肋骨間内に深刺しつつ、肩甲骨の外旋運動を示指する。これは肩甲骨と肩甲下筋間の癒着剥がし行なう。
 

2)浅層ファシアを剥離する挫刺針(塩沢幸吉著「挫刺針法」医道の日本社、1967より)
   
塩沢幸吉創案の挫刺針法は、この浅層ファッシアの癒着を剥がすので効果があると考える者がいる。塩沢は「挫刺針法とは、挫刺に適する特殊な針を使用して、表皮・真皮及び皮下組織の一部を極めてミクロな状況下において刺切し、挫滅することによって、‥‥」と記している。
   
右側の背部から肩頚部に強度の疼痛を発し、さらに右上肢に強い倦怠を訴えて通院する慢性胃炎の患者の鍼灸治療を1年2ヶ月色々な方法で治療してみたが疼痛は一向に軽快しなかった。しかし皮下組織とおぼしきところまで数回にわたって線維を引き出しては切除したところ、患者は今までの苦痛が一掃したとの治験を紹介した。
 

3)撮診反応
   
皮膚と皮下組織を一緒につまむと、痛みを強く感じる部とさほど感じない部があることに気づくが、この現象を治療に応用したのが撮診(=skin rolling スキンローリング)ではないかと思う。撮診の異常所見で、「撮痛」は皮神経の閾値低下部位であろうが、痛みの有無は被験者にしか分からないことである。しかし撮診時、他部位と比べて「皮膚と皮下組織が分厚く感じる」のが常だが、これは検者が感じる所見である。分厚く感じるのは、浅層ファッシアの反応を捉えていると思えた。
     
日常的鍼灸臨床で、よくみるのは深層ファッシアが存在しない腱・腱鞘部の反応である。腱鞘炎時にいける手関節背面の撮診反応は、撮診すると跳び上がるような痛みを感じ、また撮んだ皮膚が厚ぼったく感じる。 厚ぼったく感じる理由こそ、 浅層ファッシア反応なのだろう。鵞足炎時の膝関節内下方の撮診でも同様のことがいえる。
     
結合織マッサージやロルフィング(1930 年代にアメリカでアイダ・ロルフによって開発された浅層ファッシア癒着を解放する治療)は同様の意義をもつと思えた。
 

4)顔面のシワ取り(美顔針)
  
関節自動運動時は、筋収縮を伴うが、その時皮膚は浅筋膜を介してかなり自由に動く(ずれる)ことができるので、皮膚はそれほど変形せず、従ってシワも出にくい。それには皮膚と浅筋膜間がきちんと密着していることが要件となる。老化などで皮膚がゆるみ、両者間の密着性が弱くなると、筋運動時に皮膚が筋の運動に追従できず、シワの原因になる。
     
浅筋膜があるところから無いところへの移行部では、そのズレるということができず、やはり皮膚が変形しやすい。つまり、骨格筋のない他の器官(内臓、眼、関節部)への移行部は、変形を強いられシワがでやすい。目や口元は、女性がシワを気にしやすい部位であるが、これらはこの移行部にあたる。 浅筋膜部に対する針治療が重要になるゆえんである。
 

5)関節変形
   
中年以降、膝などの関節の痛みを訴える者が増えるが、ズレることのできない場所のひとつである関節部では、内側からの力を拡散しずらいので、関節の変形が起こりやすくなる。


平成28年を迎えての沢田健先生墓参

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平成28年1月3日、念願だった沢田健先生の墓参をした。沢田先生は、代田文誌先生の師匠であった。新大塚駅(池袋から地下鉄丸ノ内線で1つ目の駅)で仲間と待ち合わた。お花は現地で買うのがよかろうと思って、事前に花屋の場所を調べていたが、お正月ということだろう、どこも閉まっていて大いに焦ったが、道すがら1件のスーパーを発見、そこでどうにか一束発見できた。本来は二束必要だがやむを得ない。
 
歩くこと薬7分で、本伝寺に到着。立派な門構えのお寺だった。本殿の向かって右手から墓地に入ると東西に長い墓地で、多くの墓石があった。果たして沢田先生の墓石を発見できるか不安だったが、墓地に入って1分もしないうちに、墓地の東側に簡単に見つけることができた。あまりに普通のお墓であることに驚いた。墓石を水で洗い、一束のお花を二つに分けて供し、お線香を大量に焚いた。各人、手を合わせて本年の鋭気を養うべく黙とう。沢田先生、どうか我々に力を与えてください!

そして記念写真撮影した。
 

その後は、新宿で新年会。午後10時40分終了。

 

 

イボ、ウオノメ、タコに焦灼灸、水イボにせんねん灸

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焦灼灸の治療的意義は、灸熱刺激で、患部の温度を90℃くらいに高め、急速にタンパク変性を起こさせ、組織を炭化させることにある。炭化とは、タンパク質の最終加熱状態で、熱傷による痂皮(=かさぶた。死滅組織が組織から剥がれかかっている状態)のことだと説明される。
 イボ、水イボ、ウオノメには古来から焦灼灸が使われてきたということだが、この具体的な意義は、基底層にまで高い温度の灸熱を加えて組織を炭化させることにあるようだ。イボと水イボはウィルス感染症で、魚の目は機械的刺激によるものだが、治療法そのものは同じようになる。というのは、
ウィルスの構成物質も一種のタンパク質であるためで、焦灼灸の適応となる。

 

 

1.尋常性疣贅(いぼ)   

 

 手指や足底にできる。円形~楕円形で皮膚から小さく隆起。小さく硬い良性腫瘍。痒みや痛みはない。ヒト乳頭腫ウィルス(ヒトパピローマウイルス HPV)が皮膚の傷口から侵入し、表皮の最深部にある基底細胞に感染し増殖したもの。接触感染だが感染力は弱い。
 

2.伝染性軟属腫(水いぼ)                                                           

 

 まだ免疫力不足状態の4~7才の子供に多くみられ、他の部位に次々にできる。伝染性軟属腫ウィルスが皮膚に付着、ウィルスは真皮にまで潜りこむ。感染した真皮の細胞は風船のように膨らみ、さらに細胞分裂を繰り返して増殖していく。風船のような細胞が集まることで、その部分がプックリと膨らみ、中に水が入っているかのような外見になる。真珠のような白からピンク色の湿疹。
実際に入っているのは、液体ではなく白い乳液状のもので、この中に伝染性軟属腫ウィルスがある。引っ掻いたりつぶしたりすると、このウィルスが外に飛び出し、他部位に接触することで感染が拡大する。感染力は弱いが、尋常性疣贅よりは強い。数個~十数個できるのが普通。他者との接触や、タオルや衣類を介しての接触感染もある。痒みや痛みはない。数ヶ月~半年で自然治癒。

3.鶏眼 corn(通称、ウオノメ)
特定の部位に圧迫や摩擦が繰り返し起こることで生じる。皮膚の防衛反応による角質の肥厚。中央部は芯のようにクサビ型に真皮内にくい込んでいるので、押圧など真皮にある知覚神経の刺激を受けると痛む。

 

 
4.腁胝(べんち 通称タコ)
特定の部位に圧迫や摩擦が繰り返し起こることで生じる皮膚の防衛反応による角質の肥厚。表面が固くなるだけなので押圧痛(-)。感覚が鈍くなっていることの方が多い。タコの症状を放置していると、さらに患部が圧迫や摩擦を受け悪化したものが魚の目。

5.イボ、水イボ、ウオノメ、タコの一般的な治療法

イボはヒトパピローマウイルス感染症、水イボは伝染性軟属腫ウィルス感染症、ウオノメとタコは皮膚の圧迫摩擦等による角質層肥厚とそれぞれ異なっているが、3者の共通点は表皮最深部の基底層あたりが障害部だということである。
一般的な治療法は、皮膚表面から表皮を削り、基底層を刺激するという点が共通である。
 
尿素軟膏療法といって、尿素希釈駅を塗布するのは、カンナのようにゆっくりと角質を削り取る方法である。スピール膏やイボコロリのようにサリチル酸溶液を塗布するのも、角質を軟化腐食させる方法なので、ノミで削る方法にたとえることがでよう。
 
肝腎なのは、基底層に刺激を与えることなのだが、掘り進んでいくにしても、ある程度の時間は必要である。そこで、角質層を取り除くのではなく、爪切り用ニッパーなどで表面に裂け目を入れ、さらに爪で切れ目を拡大し、なるべく基底層に達するような深いヒビを入れるようにするとよい。
ただし基底層のすぐ下は真皮なので知覚があるので、痛くならない程度に。

 

 5.施灸での治療
 
1)イボの焦灼灸治療
   
いぼの頂点に施灸するが、基底層に灸熱が到達しやすくするため、なるべく角質層  を削っておく下準備を行う。半米粒大にして壮数を増やすような焦灼灸を行う。連日おこなった方がよいが、2回目以降の治療では、痂皮をカットしてから施灸するとよい。(参考:岡田明三「皮膚疾患の灸療法いぼ・魚の目・たこについて」医道の日本、平成16年11月号)
 

2)水イボのせんねん灸治療
   
水イボの頂点に施灸するが、角質層が厚くなっておらず、また患者が小児に多いこともあって、通常の透熱灸は実施しがたい。せんねん灸などのを行っても効果がある。隔日施灸4~5回で自然落屑する。

ヨクイニンを服用させる手もあるが、速効はしない。
皮膚科でピンセットでつぶす手もあるが非常に痛い。
 

3)鶏眼の焦灼灸治療
     
表面の角質層をなるべく薄くナイフ等で削き落とした後に施灸する。角質化した部分(半透明にみえる部)から艾炷がはみ出さない大きさの艾炷で、焦灼灸を行う。焦灼灸を繰り返すうちに、施灸面は縮んで硬化し、またヤニが付着してベタベタしてくる。
角質化している部分は焦げて黒く炭化していく。毎回の施灸は、しっかりと炭化させるまで行う。ただし一度に取ろうとして過剰に行うと、周辺の火傷が発生してしまう。
   
大きさにもよるが、1~2週間のうちにとれると思う。取れた後は、クレーターのような穴が空くが、次第に肉が盛り上がって埋まっていく。
 (増田真彦:いぼ・魚の目・たこの鍼灸施術、出典は同上)
 

 

 

4)タコの棒灸+焦灼灸治療
   
まず棒灸などを使い、腁胝表面を広範囲に加熱し、軟化させる(熱を加えることで、皮膚表面のタンパク質が変性して柔らかくなる)。つぎにタコの部分を削ったのち、米粒大の2倍の大きさの艾炷を、腁胝部にまんべんなく、皮膚表面が褐色に変化するまで施灸する。3日ほどで痂皮ができる。1週毎に黒くなった痂皮をカットして、同様の方法で施灸する。 (岡田明三:皮膚科疾患の灸療法-いぼ・魚の目・たこ-について、医道の日本、H16.11)

 

代田文誌先生の頌徳歌碑(飯田市龍門寺) Ver.1.2

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少し前のこと、代田文誌先生が活躍していた場所に行って見たいという考えが生まれた。そのことを代田泰彦先生に相談してみると、長野市の東京医学研究所(代田36才~)の跡地はまったく面影がないが、飯田市の寺には石碑があるとの話だった。飯田は、文誌先生が幼少期から35才まで住居を構えた土地である。

また、つい最近のこと、沢田健先生墓参後の新年会で話題になったこともあって、玉川病院後輩の寺師健先生から、飯田市の龍門寺にあるという石碑の写真が送られてきた。1999年、飯田市で日本針灸懇話会があった時、自分が撮ったのだものだという。頌徳歌碑と、この歌碑説明文の2枚で、歌碑は光線の関係からか一部判読しづらく、また説明文も錆びたり剥げたりしていて分からないところがあり、読解には苦労した。そもそも頌徳歌碑を建立した「望真会」というのも初耳だった。
 
記憶はいずれ途切れてしまうものだ。代田泰彦、寺師両先生の協力を仰ぎ、この辺の状況を記録しておくべきだろう。

なお石碑建立は、昭和56年なので、私が28才の頃で、日産玉川病院東洋医学科3年目の時にあたる。当時は代田文彦先生と毎日のように顔を合わせていたはずなのに、石碑についての話題は一切なかったのも不思議な話である。今考えると、貧乏な研修生に石碑建立のための寄付金など余計な心配をさせまいと思ったのではないだろうか。

 

 
1.代田文誌先生の頌徳歌碑
  
代田文誌先生でなければ詠めない内容になっていると思う。  

 


あなたふと 
薬師如来の
本願を 
わが身にしめて 
世を救いなむ
文誌


現代文訳(代田泰彦先生による)
ああ尊いことだな、
薬師如来の
本願を 
わが身に背負って 
世を救いたいものだな
文誌

 
2.頌徳歌碑の説明文

 


真の灯は消えず

代田文誌先生は明治三十三年豊丘村河野に生れ、学業半にして
肺結核に冒され、数度の大喀血も堅固な佛道精神と東洋医学によ
りこの難病を克服された。病中の体験から針灸医学を志されこれ
によって病者を救はむ事を念願として、七十四年の生涯を
一筋に精進された。針灸の泰斗としてその科学化に尽瘁され、多
数の著書と、その術技は、後世への不滅の功績として輝いている。
常に医道を説き、望真会を興し後進を導かれた。又島木赤彦に師
事して、歌人としても勝れていた。歌集に「火の山」がある。
この度、その償徳を敬慕する子弟、同志、後輩が相寄りここに頌
徳歌碑を建立するものである。

昭和五十六年十月十八日 大安佳日建立
 
代田文誌先生頌徳歌碑建立委員会
 

略歴
一、望真会会長            一、日本針灸師会副会長
一、日本針灸医学会会長     一、日本針灸皮電学会会長
一、長野県針灸師会会長 
  
昭和四十九年九月二十四日
 
※尽瘁(じんすい):自分の労苦を顧みることなく全力をつくすこと。
※旧字は新字に変更した。

 


3.望真会と石碑建立の経緯(代田泰彦)

望真会とは飯田市を中心として代田文誌先生を慕って集まった鍼灸師の集まりで、2-30人の鍼灸師が、研究会等行って切磋琢磨しあったらしい。この歌碑を作ったメンバーの人たちが、会員であり、推進者であったようだ。丸山薫・林一一等が中心で協力を仰ぎ、250名318万円の浄財が集まったときく。三木健次・清水千里・森秀太郎・米山博久等の名前も見える。
なお、この除幕式には代田家代表として小生が出席したことは思いで深いものがある。(兄、代田文彦は他用があり出席できなかった)

私(似田)も望真会について調べてみると、現代につながる針灸の経緯に直結していることを知った。
先の大戦で敗戦後、GHQは鍼灸治療禁止令を発効しようとしたが、これに反対したのが石川日出鶴丸で、「鍼灸医術ニ於イテ」とする論文を著した。これと同時期、「望真会」として飯田市を中心とした針灸研究交流の場が存在したが、昭和22年2月5日代田文誌は日本鍼灸医学会の再建を決意し、同年11月には、「望真会」を発展解消させ、全国規模を想定した「日本鍼灸医学会」とした。
その第1回の全国大会を飯田市松尾の竜門寺で開催された。従来の迷信的針灸と決別し、新しい科学的な針灸治療を志向したのであった。このような努力が功を奏し、GHQは針灸存続を認めたのだった。

 

針灸の効果を高める運動学的方法

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鍼治療の効果を高めるには、針の手技だけでなく、患者の体位・筋に力を入れるか否か・息を止めるか否かなどを考慮するとよいことが知られている。これらは導引という概念といえるらしいが、現代では導引に代わり、神経生理学的機構に働きかけることで治療効果を高めようとする考えが生まれている。

1.Ⅰa抑制

1)Ⅰa抑制とは
スムーズな関節運動を行うためのしくみ。
主動作筋が収縮する際は、拮抗筋が弛緩する生理的機序のこと。この機能がないとスムーズな関節運動はできない。筋紡錘による拮抗筋の抑制である。肘屈曲の際、上腕二頭筋が収縮する際、上腕三頭筋が弛緩する現象など。

2)Ⅰa抑制の生理学的機序
伸筋からのIa線維が抑制性介在ニューロンを介して屈筋の運動ニューロンに接続していることで起きるIa抑制(=相反性抑制または反回抑制)
 目的筋を大きな速度で伸張する
 →筋紡錘が反応してⅠa求心性線維に刺激を送る
 →その刺激が脊髄を通り脊髄前角にあるα運動線維を介して拮抗筋に抑制的に働く
 →拮抗筋が弛緩。

3)臨床応用
筋紡錘刺激は、拮抗筋を抑制する。

①腰部筋緊張をゆるめる手技:
その拮抗筋である腸腰筋を緊張させる動作を指示する。具体的には仰臥位で大腿挙上させ、腸腰筋を緊張させる動作を指示する。セラピストは、その運動に抵抗を加える。
 
②大腿四頭筋緊張を緩める手技:
その拮抗筋であるハムストリング筋を緊張させる動作を指示する。具体的には側臥位で、上になった側の下肢を、膝関節伸展させたまま、股関節を伸展させる。弓を反らすような姿勢にし、セラピストは、その運動に抵抗を加える。
   ※「筋」紡錘は拮抗筋を抑制し、
 
2.Ⅰb抑制

1)Ⅰb抑制とは
筋肉の両端部分のスジが引き伸ばされても反射的に弛緩する。これをⅠb抑制とよぶ。Ⅰb抑制は、筋肉の収縮や外力によって急激に引き伸ばされスジが断裂するのを防ぐための防御機能である。「腱」紡錘による自筋(目的筋)の抑制。


筋伸張反射とは、筋肉が急に引き伸ばされた時、筋が切れないように筋が防御的に収縮する反射(=Ⅰb抑制)であって、等尺性の筋収縮(=関節運動を伴わない筋収縮)を起こさせる。
 
※急激に筋肉が引き伸ばされた時は伸張反射(例として膝蓋腱反射)が起こり、引き伸ばされた筋肉が収縮する。これは関節が過剰に動き破壊されてしまうのを防ぐ目的がある。
   
2)Ⅰb抑制の生理的機序
筋をゆっくりと大きく伸張する→腱紡錘(=ゴルジ腱器官)腱紡錘が伸ばされてⅠb線 維に刺激を送る→その刺激が脊髄を通りγ線維を介して伸張した筋に抑制的に働く→伸張した筋が弛緩する。
   
※Ⅰa抑制は、目的筋を大きな速度で伸張することでスイッチが入る。これに対して、Ⅰb抑制の起こる閾値が高く鈍感なので、Ⅰa抑制が働かないように、静かにゆっくりした動作が必要である。(例:アキレス腱ストレッチは、腱に伸張刺激を与えることを目的とするので、徐々にゆっくりと負荷をかける。)
  
3)臨床応用  「腱」紡錘は自筋(目的筋)を抑制する。

①アキレス腱のばしの方法:
スタティックストレッチ(反動をつけず、ゆっくり引き伸ばして行うストレッチ。ストレッチ作用は弱いが安全性が高い)
  
②膝OAにおける大腿直筋を緩ませる方法
大腿直筋緊張を緩めるには、単に四頭筋上の筋硬結部に刺針するのではなく、仰臥位で膝関節屈曲させ、四頭筋緊張させる→その状態で膝蓋骨の大腿四頭筋停止部の圧痛(鶴頂あたり)を探って手技針すると効果的。
   
③腰方形筋緊張による腰痛治療:
立位で前屈させて腰方形筋を伸張させる。その状態で腰方形筋の腸骨稜停止部の圧痛に手技針または運動針。  

 

3.筋ストレッチと筋トレの相違
 
「ストレッチ」という言葉は、1960年頃にアメリカで発表されたスポーツ科学の論文中で使われ始めた。筋緊張時、、この収縮状態を引っぱって伸ばす運動のことを筋ストレッチまたは単にストレッチとよぶ。
 筋ストレッチの効能は、①筋緊張緩和と筋の柔軟性改善、②関節可動域拡大、③血流改善などである。今日ストレッチはスポーツにおけるウォーミングアップ、クールダウンの中で盛んに行われ、重要な役割を果たしている。
 一方、筋トレ(筋力トレーニング)は、筋肉(骨格筋)の出力・持久力の維持向上や筋肥大を目的とした運動の総称をいう。目的の骨格筋に抵抗(レジスタンス)をかけることによっておこなうものはレジスタンストレーニングとも呼ばれる。抵抗のかけ方には様々ありますが、重力による抵抗を利用するものをとくにウエイトトレーニングと呼ぶ。
 
4.スタティック ストレッチング(static stretching 静的筋伸張)
 
1)方法と適応 
   
通常の筋伸張運動。反動をつけずに目的の筋肉をゆっくりと伸ばし、その姿勢を30秒(または20秒)程度保持する。運動後のクールダウンやリラクセーションに適す  るが、パフォーマンス向上には適さない。
  ※伸ばしている時は息を吐く(=交感神経緊張を緩める)と筋が伸びやすい。
 
2)生理学的意義
     
筋肉をゆっくり伸ばすのは、伸張反射を防ぐ意味がある。筋肉には筋紡錘と呼ばれるセンサーがある。筋肉が瞬間的に引き伸ばされると、次の変化が起こる。
   
筋紡錘から「伸張された」という信号が出る→反射的に脊髄から「筋を収縮させよ」  という命令信号が出る→筋肉が反射的に(意思とは関係なく)収縮する。これを伸張  反射とよぶ。伸張反射は筋肉が急激に引き伸ばされたときに起こる防御反応である。
   
この伸張反射はスタティックストレッチングを妨げるので、これを避けるためにはゆっくりとした筋伸張動作を行うのがよい。

2.バリスティック ストレッチング(Ballistic stretching  勢いのある筋伸張)
   
反動を利用したストレッチのことで、筋の柔軟性を改善する効果が高い。柔軟体操やラジオ体操がこれに相当する。可動域 増大、筋温上昇、交感神経興奮の効果が得られる。静的ストレッチングと異なり伸張反射が起きやすいので、健康維持目的の運動(=フィットネス)には用いられなくなったが、 競技スポーツにおいては現在でもバリスティックストレッチが使われている。
   
類似のものにダイナミック ストレッチング(dinamic stretching 動的な筋伸張)がある。これは勢いを制御したバリスティックストレッチングのことで、大きくは反動をつけないので事故が少ないという利点はあるが、効果的にはバリスティックに及ばない。

3.PNFストレッチ
 
1)概要
     
PNFは” Proprioceptive Neuromuscular Facilitation ”の頭文字をとったもので、固有受容性神経筋促通法と和訳される。PNFストレッチとは、リハビリテーションの手法を取り入れた徒手抵抗ストレッチの技法をいう。
   
抵抗を加えながら筋肉を収縮させた後、抵抗をなくすことで、筋肉の柔軟性を高める。すなわち単純に筋を伸ばすのではなく、一旦収縮させることで筋肉が伸びやすく  なる性質を利用し、また力を入れた主動作筋に対して、反対側にある拮抗筋は緩むという性質(Ⅰa抑制)を利用する。PNFストレッチは目的とする筋の緊張を緩めるのに非常に適している。その結果、関節可動域の拡大を図ることもできる。
   
自分一人では行いにくいので、トレーナーがセラピストとなって行うのに適している。これまで針灸臨床の場でも、刺針+筋肉運動が相乘効果を生むことが認識されて  きたが、多分に経験的で運動学的理論に基づいて行われることは少ないように思われる。これからの検討課題となるであろう。
 
2)具体例 
  
①五十肩に対するカリエのリズミックスタビリゼーション
    
患者はセラピストの指示にしたがい、上腕を上下左右に動かす。その時セラピストは患者の上腕を持って腕の動きと逆方向に力を入れる。患者、セラピストとも筋力を使っているのだが、その力が釣り合っているので、上腕はあまり動かない(等尺性運動になる)。この運動を行うと、肩関節ROM拡大が図られる。

 

 ②ハムストリングのPNFストレッチ

 

 ③大腿四頭筋のPNFストレッチ

 

 

 

 ④梨状筋のPNFストレッチ



⑤吸玉療法で筋が緩む現象
     
まず皮膚と皮下組織を吸玉で吸引する。この状態では患者は交感神経緊張状態になっている。5~30分間後に吸玉を外すと、副交感神経緊張状態に変化する。すなわちリラックスするためには、単に筋の脱力を図ろうとするのではなく、そ    の直前に身体緊張状態をつくり、急に脱力させるのがよい。


 

大久保適斎著『「鍼治新書』<手術篇>の要点(上)

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本書は明治25年発刊。明治44年5月25日第2版発行。昭和50年9月30日医道の日本社より復刻再版。

著者の大久保適斎は明治時代の西洋外科医で、群馬県医学校の初代校長、兼病院長の重責に任じられた。自らのノイローゼが鍼灸により軽快した体験から鍼灸に興味をもった。しかし良き指導者にめぐまれなかったため、現代解剖生理学に基盤をおく「自律神経手術」という針治法を独自に開発した。

本著『「鍼治新書』は、、の3部作からなるが、針灸治療法について書かれているのは手術編である。なお本著でいう「手術」とは外科手術のことではなく、解剖生理学的理論に基づく具体的な鍼の手法のことを指している。その手術篇の中でも、内容の中核となっている刺針点についての内容は、今日の現代鍼灸にも非常に参考になると思うので、要点をまとめてみた。
 
なお本著の示す刺激点とほぼ一致すると思われる経穴名を付加した。また必要に応じて図を挿入した。    

1.刺針点の総説

刺針点を多く定める必要はない。「本」の治療が効果あれば、いちいち末梢を治療する必要はない。重要点となるのは以下の11点である。この中で内臓交感神経手術として用いるのは左右6点とする。
 内臓交感神経刺激点:頸部交感神経点(3カ所)と腰部内臓点(3カ所)
 体性神経刺激点:上肢部(3カ所)と下肢部(2カ所)

2.頸部交感神経点






1)頸部第1位点(上頚神経節点)(天柱)

①位置
乳様突起の尖端と下顎角との中間から、頸椎に向け、頸椎中央に至る水平線を引く。その中央より左右に開くことそれぞれ約一横指。すなわち項窩の一横指下の左右、椎体の左右の筋隆起の際を取穴する。

②刺針法
浅層手術:刺入5分~8分。副交感神経の運動性後枝を刺激する。(?)
深層手術:刺入8分~1寸。椎骨動脈への刺入を避けるため、やや外方に向けて刺入する。

③意義
深層手術は、交感神経上頸神経節に刺激を与える。上頸神経節からは上心臓神経が、中頸神経節からは中心臓神経が、下頚神経節からは下心臓神経が、それぞれ心臓神経叢に入る。一方、迷走神経の枝である上頸心臓支と下頸心臓支に影響を伝播させる。

肺臓に対する深層手術は、上頸神経節の喉頭支迷走神経に影響を与える。
肺に対する浅層手術は副交感神経支配の僧帽筋枝であって、これは肺や気管に興奮または鎮圧作用を至らせる目的である。喘息および動悸の鎮静に用いる。 

2)第二位点(中頚神経節点)

①位置
第一位点と第三位点の中間。頸椎の左右で、第4第5頸椎横突起間とする。

②刺針法
浅層手術:6~7分。副交感神経の運動性後枝を刺激する。(?)
深層手術:1寸ときには2寸に達する。熟達した者以外、深層手術を慎むこと。③意義

③意義
深層手術の意義は、頸部交感神経中頸神経節に刺激を伝播させる目的。第一位点の補助。

3)第三位点(下頸神経節点または星状神経節点) (治喘穴または定喘)

①位置
頸椎第6第7あるいは、第7頸椎と第1胸椎間において、その上下横突起間とする。この探り方は、第7頸椎の棘突起の基準として、その左右に去ること横一横指の点である。ときとして第一胸椎と第二胸椎間に取穴することがある。

②刺針法
浅層手術:刺入6分ないし8分。副交感神経の運動性後枝を刺激する。(?)
深層手術:1寸ないし2寸。

③意義
深層手術は、下頸神経節に刺激を伝播する目的で、最も心臓鼓舞の作用がある。時には呼吸催進術として行うべきである。呼吸催進作の効能は、交感神経枝から反射的に、上喉頭枝下喉頭枝を興奮させて、呼吸圧制作用を行なうことができることによる。
かつこの刺点は、痰分泌を減少させる効果はあるようだが、完全にその効を奏するまでには至らない。


 

 

2.腰部内臓点
 
腹部内臓手術の3種の治療点は、腰部交感神経枝を刺激するのが目的だが、針尖は敢えてその交感神経節に直達させる必要はない。脊髄神経の前枝に達すれば、その刺激を交通枝に伝えることで、その交感神経節に伝達させることができるためである。

1)腰部第一位点(三焦兪)

①位置
第1腰椎と第2腰椎の横突起間。患者を伏臥位にしせめ、季肋を探り、その下線より水平に腰椎棘突起に至るラインよりも、一椎体あるいは二椎体上がった処を取穴する。二椎体異常は、往々にして肋間神経痛を発することがあるので、避けるのがよい。そして腰椎棘突起を中心にとり、それよりも左右1横指ないし一横指半のところに刺点を定めるとよい。

②刺針
2寸ないし2寸5分。

③意義
太陽神経叢の分枝に刺激を伝播することで、胃・肝の機能および尿の分泌を調理する。また腸が機能亢進して生じた下痢を鎮静する。糞便の厚薄は腹の蠕動に関している。その機能亢進すれば腸内容物の通過が速まり、液体吸収の時間が少なければ、水分増加して下痢する。その他にも神経切断により、あるいは他の事情により、腸神経およびリンパ管麻痺しても下痢する。この場合、強直性刺激?(こわばったような刺激のこと?)を行うべきである。

2)腰部第二位点(大腸兪)

①位置
第4第5腰椎横突起間。腸骨稜を探り、腰椎に至る水平線を引き、その棘突起の一節上の棘突起の左右それぞれ一横指ないし一横指半。

②刺針
2寸~3寸刺入、非常時は4寸刺入。この時は基準点よりも外側に開く、針先を椎体の前面に向けて刺入する。

③意義
腹大動脈神経叢に対する刺激が目的がある。その細胞から幾多の分枝を生じ、筋層に位するマイスネル粘膜下神経叢、およびアウエルバッハ腸管粘膜神経叢、迷走神経の末梢端を刺激すれば、胃を運動させるとともに腸管もまた同一の運動を起こす。この運動は下腸間膜神経叢から来て、迷走神経と同一の運動を営む
 腸上部の運動は、この二位点の手術を要し、それ以下に至っては針先を下に向ける必要がある。この刺激は腸の疝痛を治する。針尖を少し下方に向けて刺入すれば、下腸間膜神経叢に刺激を与え、下行結腸、S状結腸および直腸の運動を進め、便通を促す。また下痢止めの方法としては持続性刺激法を行うのがよい。
                                                   
3)腰部第三位点(関元兪)

①位置
第5腰椎と仙骨外上部との間隙。

②刺針
2寸ないし4寸(第二位の刺入の要領で)刺入。刺入要領は、腰部第二位点と同様。
腸骨櫛を探り、腰椎に至り、その横突起と仙骨翼(仙骨上外方の張り出し部分)との間に刺針点を求めることは前例と同様である。もっとも、この点においては、第4腰椎と第5腰椎の棘状突起の間に通信を定め、それよりも左右に開いて刺針点を求めれば、鍼先はちょうど第5腰椎棘突起と仙骨翼との間隙に入れることができる。

③意義
下腹神経叢に対する目的で、膀胱・子宮に対する治療にある。その傍ら下腹の血行を調節する。その他に、この刺針点は下腸間膜神経叢の下部を補うところの上痔神経を刺激し、結腸下部お呼び直腸の運動に対しても奏功あるから、便秘にも効果がある。
 
子宮機能にも作用する。しかしながら、出産に臨んで、あるいは単に子宮収縮させる必要がある場合、肩井・合谷・三陰交に鍼してもよい。子宮を運動せしめる要素は多数あるが、直接刺激と反射による刺激に大別される。直接刺激によるもの第一は下腹神経叢、第二は仙骨神経叢から発する勃起神経、第三は腰部仙骨部の脊髄である。

一方反射によるものは、坐骨神経叢と腕神経叢(腕神経叢の中心を刺激すべき)である。また乳房を刺激すれば子宮収縮を起こせるので、肩井は鍼先の方向を左右すれば、腕神経叢の中心に触れることができる。また三陰交も鍼先を左右に動かせば、坐骨神経の末端に触れることから、その収縮を起こすことができる。
 
この2点をすべての妊婦行うことを禁じた方がよいが、分娩時の胎児排出を助け、不規則の陣痛を取り除くことは、前述したように第3位点を必要とする、

すでに胎児発育中心のものは、正規の排出力に加えて排出作用を強力に増し、速やかに排出をさせ、産婦に不必要な努力、疲労を増加させることなく、かつ刺激自体のために、脱胎早産させることはないのので、信念をもって従事すべきである。

4)後仙骨孔刺針(上髎、次髎、中髎、下髎)

①位置
第1~第4後仙骨孔

②刺針
第1後仙骨孔は、やや上方に向けて刺入。第2~第3後仙骨孔は直入する。約2寸刺入。
巧みに刺針してその目的を達すれば、患者は大いに癒された感覚を感じる。

③適応
子宮その他の小骨盤の疾患

 

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