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神経性疼痛に対して、針灸はリリカより効果ないのか? Ver.1.2

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1.序

針灸治療は「痛み」に対して効果があるといわれてきた。それは原則としては正しいものの、針灸で上手に治せない痛みも相当数あることを、日頃からうすうす感じていた。これまで針灸の直接的な治効は、筋膜痛と神経痛によるものだと考え、刺激目標も両者に対して行ってきたのだが、最近になり後者の神経痛に対する針灸は効果的でないのではないかとも思うようになった。 

話は代わるが、これと同じような感慨は30年ほど前にもあった。ステロイド剤使用中の患者に対する針灸であった。気管支喘息患者や関節リウマチ患者が、すでにステロイド剤を内服している場合に、やはり針灸の効きが悪いことを痛感した。これには、ステロイドを使わねばならないほど疾患レベルが悪いので、針灸も効きが悪いという観点と、それに針灸の治効の一端は、副腎皮質ホルモン分泌を促すことにあるから、すでに薬剤としてステロイドホルモンを使っているのなら、針灸してもステロイドホルモン分泌は増えないので効きが悪くなる(下図青矢印ルートは既に使われている)という視点があった。

 


2.神経性の痛みは針灸で効かないのか?

常見症状である坐骨神経痛は、神経根症による痛みというより、梨状筋症候群に代表される筋による神経絞扼障害であるらしい。それゆえ梨状筋緊張部に刺針すると、症状は軽減されることが多い。また大後頭神経痛の原因は、多くの場合、後頸部筋の神経絞扼障害による痛みであるから、天柱や上天柱への刺針で改善されることが多い。すなわち神経痛の原因が筋緊張にあるという点で、筋痛症の範疇になるであろう。
一般的に針灸が効きづらい疾患には、三叉神経痛、帯状疱疹後肋間神経痛などがあるが、頸痛や腰殿痛の中にも、針灸無効なことが数%程度存在するように感じる。

症状だけからは一見すると、針灸適応かに思える筋肉痛かと思える症例であっても、触診すると症状部分に、圧痛・硬結などが指先に触知できない場合、刺針施灸ポイントを見出すことは困難になる。神経痛かと思っても、いわゆるワレーの圧痛点に圧痛がない場合、途端に病態把が難しくなり、やはり刺針施灸ポイントを見出せないのである。
※線維筋痛症も、針灸であまり効果ないが、中枢性の痛みに分類されるので別格扱い。 


3.神経障害性疼痛に対処するリリカ 

近年、新薬リリカ・カプセルを使っている患者が来院するようになった。リリカを使って少しは楽だが、完全に痛みがなくならないとの訴えをよく耳にする。なおリリカとは従来の消炎鎮痛剤で改善しにくかった痛み(これを神経障害性疼痛とよぶ)に対しても奏功するとされる薬で、2010年に発売された。2012年になり、保険適応になるとともに、本剤の適応が拡大された。
概して、リリカを服用中の患者は、針灸の効きが悪いといえるのだが、そうした患者は圧痛硬結などの体表反応も乏しく、針灸治療点を探し当てるのは困難だと感じている。

リリカについてネット検索すると、次のようなことが書かれていた。痛みは大きく次の2つになる。 
1)炎症性疼痛:頭痛や歯痛、肩こり、打撲、切り傷 重くズーンとした痛み 
2)神経障害性疼痛:強いしびれ、電気が走る、灼熱痛、ビリッとくるなど、鋭い痛み。
従来の痛み止め(バファリンなど)は、1)に対しては効果あるが、2)には効き目が悪い。2)に対してはリリカが効果があるという。痛みを伝える神経伝達物質が放出され、脳に伝わって痛みを認識するのだが、この伝達物質が出すぎることで起こる痛みを神経障害性疼痛とよび、これを制御する作用がリリカにあるということらしい。

針灸治療は、MPS(筋膜痛症候群)にはよい効果を上げることができるので、バッファリンやロキソニンなどの通常タイプの消炎鎮痛剤以上に針灸治療が適応するので、神経障害性疼痛が適応するリリカとは適応分野が異なるのだろう。紛らわしいのは、<神経痛>という名称である。大後頭神経痛は診断名というよりは症状で、上部後頸深部筋の緊張に由来するので、筋膜症としての治療が必要になる。坐骨神経痛も殿部梨状筋の緊張や神経根付近の筋膜刺激が症状を呈しているので、やはり筋膜症として施術するのがよい。

4.リリカが効き、針灸が効かない症例
現実にはリリカを使って少しは楽だが、完全に痛みがなくならないので、針灸で何とかならないかとの要求がある。

1)K.I. 76才女性
右三叉神経第1枝痛
数年にわたり、膝OAで針灸治療を実施し、良好にコントロールされている。
2ヶ月前、急に右眉上~コメカミ~前頭部に間歇的にビリビリとした痛みを訴えるようになった。痛みは強いが我慢できる程度。右三叉神経第1枝痛と考えた。三叉神経痛に針灸は効きが悪いことは知っていたが、試しに三叉神経第1枝の代表的圧痛点に、寸6の2番で置針。膝痛症状は、その都度改善するも、三叉神経痛はやはり改善がない。そこで近医に、リリカまたはテグレトールの処方を検討してもらった。
その医師はテグレトールの方が副作用が強いとのことでリリカ処方。なお副作用として、めまいと眠気が生ずるこことがあるとの説明も受けた。
実際、服用して数日間、めまいや眠気は有ったようだが、その後消失。服用した直後から三叉神経痛症状消失した。2ヶ月経った現在も服用中であるが三叉神経痛消失した状態が続いている。

2)M..H. 60才女性
右臀部痛
1ヶ月前から、右下臀痛が生じ、間もなく両側性に痛むようになった。痛みでデスクワークできない。腰部圧痛点なし。殿部を押圧すると不鮮明に圧痛点はあるも、筋硬結はない。
SLR、パトリックは両側性に正常。
病院受診し、リリカ4錠/日服用。リリカを飲んでいると殿痛あまりなく、仕事もできる。他に頻発性膀胱炎あり。
神経根症状なく、特定筋の緊張症状も発見できないので、とりあえず坐骨神経ブロック点刺針を実施、また膀胱炎あるので陰部神経刺針も実施。しかし症状不変。

3)H.N. 49歳男性
頸痛、肩甲上部痛、両側第4、5指の知覚低下
1年半前から上記症状出現。変な格好で重量物を持ち上げ、その2~3日後から出現したとのこと。X線、MRIで異常なし。1年以上、整形にて保存療法を行うも改善なし。頸部神経根伸展テストや圧迫テストは正常、胸廓出口用理学テストもほぼ正常。
リリカとテルネリン(筋弛緩剤)を服用し、とくに痛みが強い場合には、スミルチック塗布藥(非ステロイド抗炎症藥) を使うとのこと。
側頸の神経根部付近の圧痛なし。斜角筋部緊張なく、小胸部緊張もなし。頸椎レベル棘突起両側に弱い圧痛あったので、頸椎棘突起傍刺針、大椎付近湿吸実施。しかし治療効果なし。


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