1.これまで私は、仙腸関節機能障害に対して次の方法で施術を行い、それなりの効果を得ていた。それは患側を上にした側臥位にして、上後腸骨棘とS2棘突起を結んだ中点を刺針点とし、斜上方45度の角度で刺入し、仙腸関節部に刺入。上になった側のの股関節の自動屈伸運動を行わせるという内容だった。
2.このたび村上栄一・黒澤大輔両先生が、私と異なる方法で、仙腸関節ブロックを行っていることを知った。
①ベッドに両手をつかせて上体を30度屈曲させる、②上後腸骨棘から内方1㎝、上方2㎝を刺入点とする、③23ゲージの鍼を用い、皮膚と30度の角度で下向きに斜刺し、鍼先が仙腸関節部を当てる、④症状部に一致した響きが得られたら、局麻剤を注射する、との内容だった。
YouTube動画→ https://www.youtube.com/watch?v=W7dkEJndiGM
3.この新しい方法を、鍼灸鍼を用いて追試してみることにした。以下に治療成功例を紹介する。やってみて理解できたころは、このテクニックは、従来の方法にくらべて失敗(=症状部に放散痛が得られない)が少なく、また刺針の際の痛みも思ったほどでないことが分かった。鍼先が当たった硬い組織というのは後仙腸靱帯かもしれないが、硬い組織の中を、無理に力をいれなくても鍼が入っていくことを考えると多裂筋なのかもしれないと思った。
症例1(60才、男性)
主訴:正座時の膝痛
現病歴:かなり前から正座ができなくなった。無理に正座しようしても左膝蓋骨周囲がつっぱって痛むのでできない。
理学テスト:膝蓋骨周囲の熱感・腫脹なし。膝蓋骨圧迫テスト正常、膝蓋跳動テスト正常。
初回疑診:四頭筋の緊張にともなう四頭筋付着部筋膜症。
初回治療:四頭筋付着部の筋緊張を緩める目的で、仰臥位膝屈曲位で、四頭筋をストレッチさせた状態で鶴頂穴など膝蓋骨上縁圧痛に刺針、置針した状態での膝関節屈伸運動数回実施。この施術で、治療前よりも膝を深く屈曲することができるようになった。
経過と2回目以降の治療
前回の治療をしたその日は膝を深く屈曲することができるが、翌日になると元にもどるとのこと。皮膚のつっぱりが可動域を狭くしていると考え、下梁丘や下血海を中心として点状刺絡(皮下筋膜刺激)。やはり治療直後は膝の屈曲具合はよいが、翌日になると効果がなくなるとのことだった。
そこでワンフィンガーテストが陽性だったこともあって仙腸関節機能障害を考え、従来からの私の方法(患側上の側臥位にて腸関節運動鍼)を行うも、目立った効果が得られなかった。
立位での仙腸関節刺針:前述した新しい方法で、2寸8番針にで仙腸関節刺針を実施してみた。刺針2㎝を過ぎた頃から抵抗感のある組織に達した。患者は下肢に響くという。なおも自然に止まる処まで鍼を深刺し、軽く雀啄して抜針した。その直後、ベッド上で正座姿勢を試行させてみると、今までにないほどの膝屈曲ができるようになった。
症例2(56才、女性)
主訴:左臀部から左大腿外側の痛み
介護職についたばかりで、以前は板金加工をして重い物を運ぶことが多かった。約2ヶ月から上記症状出現。
初回疑診:メイン症候群疑診
初回治療:2寸4番にて、患側上の側臥位で第12胸椎棘突起直側と、左中殿筋の圧痛点に刺置針5分行った。針したた刺針左臀部から左大腿外側が痛むとのこと。
治療効果:4日後再診。症状に変化なかった。
2回目疑診
どういう動作で最もつらくなるかを問診すると、立位で左足に重心をかけて上体を左に捻ると、この症状が出現するとのこと。左仙腸関節部のワンフィンガーテスト陽性(右は陰性)だったこともあって左仙腸関節機能障害を考えた。
2回目治療
立位でベッドに両手をつけさせ、上体状を30度前屈位。左上後腸骨棘あら内方1㎝上方2㎝の部を刺入点と定めた。2寸8番針にて30度の角度で下向き、かつやや外方にむけて刺入すると、2㎝ほど刺入したところで硬い抵抗感のある組織に達した。そこを貫くようにさらに刺入すると、症状部に響くとの訴えが得られたので、軽く雀啄して抜鍼した。その直後、症状を誘発する姿勢をしても痛みは起こらなくなった。