1.十二正経の概念図
筆者は以前、十二正経走行概念の図を発表した。
これと同じ内容をさらに単純化した図を示す。この図の面白いところは、赤丸の内側は胸腔腹腔にある臓腑で、鍼灸刺激できない部位。赤丸び外側は手足や体幹表面で鍼灸刺激できる部位となっているところである。鍼灸の内臓治療の考え方は、赤丸外の部位を刺激して赤丸内にある臓腑を治療すること、もしくは体幹胸腹側もしくは体幹背側から表層刺激になる。これは兪募穴治療のことである。
2.奇経の八脈と宗穴
1)奇経の基本事項
上記十二正経絡概念図をベースとして、これに奇経走行を加えてみることにした。
始めに奇経に関する基本中の基本を確認しておく。奇経八脈はそれぞれ次のような宗穴をもっている。この治療点は次の奇経の二脈をペアで使い、4パターンの治療をすることになる。( )は宗穴名。
陽蹻脈(申脈)---督脈(後谿)
陰蹻脈(照海)---任脈(列缺)
陽維脈(外関)---帯脈(足臨泣)
陰維脈(内関)---衝脈(公孫)
2)福島弘道の提唱した新たな四脈と宗穴
福島弘道氏は、従来の奇経八脈の宗穴治療だけでは不十分だとして4脈を加え、次の2パターンを付け加えることを提唱した。福島がなぜこのような事柄を思いついたのかを探ることが奇経を理解するヒントになる気がした。
足厥陰脈(太衝)--手少陰脈(通里)
手陽明脈(合谷)--足陽明脈(陥谷)
3)十二正経走行概念図への追加事項
1)前図に奇経八脈の宗穴を描き加えてみる。つまり十二經絡上に8つの宗穴を描くことになるが、4經絡は宗穴が存在しない。
2)そこで改めて福島の提唱した4新宗穴をさらに描き加えると、十二經絡上にそれぞれ一つの宗穴が載ってくる。
①肺経(列缺)、②大腸経(合谷)、③胃経(陥谷)、
④脾経(公孫)、⑤心経(通里)、⑥小腸経(後谿)、
⑦膀胱経(申脈)、⑧腎経(照海)、⑨心包経(内関)、
⑩三焦経(外関)、⑪胆経(足臨泣)、⑫肝経(太衝)
3)ペアとなる宗穴を点線で結ぶことにする。陽経ペアは赤色、陰経ペアは青色を使うことにする。
<陰経ペア>
①肺経(列缺)--⑧腎経(照海)
⑨心包経(内関)-④脾経(公孫)
⑤心経(通里)--⑫肝経(太衝) ※福島提唱
<陽経ペア>
②大腸経(合谷)-③胃経(陥谷) ※福島提唱
⑥小腸経(後谿)-⑦膀胱経(申脈)
⑩三焦経(外関)-⑪胆経(足臨泣)
4)奇経走行概念図
上に示した正経と奇経の総合概念図は、内容が込み入っていて、直感的に把握しにくいので、本図から、正経走行を取り除いてみることにする。奇経は臓腑を通らないので臓腑も取り除いてみることにした。
するとかなりシンプルな図が完成した。きちんとループを描いたが、奇経の8宗穴+合谷と陥谷を使った場合ということであって、これが奇経治療になるかは少々疑問である。というのも、使っているのは正経をショートカットしたルートだからである。
3.手足の八宗穴を使うことと奇経流注の謎
上図は、症状に応じて定められた手足の一組の要穴を刺激することで治療が成立することを示すものだが、この方法は奇経治療以外にも行われている。手足の陰側と陽側それぞれにある定められた12の要穴を使った治療は、1970年代に発表された腕顆針(日本名は手根足根針)が知られている。この図を見ると、手を上げた立位の状態で縦縞模様に区分されている。
奇経治療は、八つの奇経を組み合わせて使うのが原則なので、4パターンの治療になるが、同じような縦縞模様となっている図に、「ビームライト奇経治療」というものがあることをネットで知ることができる。
http://seishikaikan.jp/blkikei.htm
4.新しい奇形流注図
縦割りの考えで奇経を眺めると、体幹と頭顔面の中央に、陰側に任脈があって背側に督脈がまず存在している。任脈のすぐ外方には陰蹻脈が伴走し、さらに陰蹻脈の外方に陰維脈が縦走している。督脈のすぐ外方には陽蹻脈が伴走し、陽蹻脈の外方には陽維脈が縦走しているといった基本構造がまず想定されている。一方、衝脈と帯脈は、流注構造では反映されていないようだ。
これまで鍼灸治療の治療チャート図は、頭針であれ耳針であれ、高麗手指針であれ、ある日突然完成形が提示され、その理論の正しさを、実際に治療効果がみられたとすることで読者を説得してきたが、論理的とは言い難く、知的満足感も得られない。自分にできる方法として、現実どうしてそう考えるのかの、思考過程を順序立てて明らかにすることで、その間違っているかもしれない部分を指摘できるようにすることが重要だろう。
これまでいろいろなことを考えてきたが、①手足の八つの宗穴で、定められた手足のペアとなる宗穴を結んだ図を描く。
②衝脈と帯脈の走行は無視するが、衝脈の宗穴である公孫、帯脈の宗である足臨泣は。各ペアとなる陰維脈ならびに陽維脈の流注における足部代表治療点として位置づける。以上の2点を重視し、私の考える奇経走行図を示したい。手足のペアとなる宗穴は連続してつながっている必要があるが、本図では背部の陽維・帯脈の流れは、肩甲骨によって上下に分断されていることになる。しかしながら、陽維・帯脈は、肩甲骨・肋骨間を上行している、つまり立体交差していると考えれば、納得いくものとなるだろう。
衝脈と帯脈は、他の奇経と同列に論じられない。というのは、ともに婦人病に関与するという共通点があり、衝脈の病証は月経異常に、帯脈は、腹部の脹満、臍から腰周りの痛みで、女性では帯下などが起こるとされている。要するに、この二脈の病証は、女性の初潮から閉経の期間に限定されるからである。