主訴:上腕外転時の痛みを伴う運動制限
本ブログは、2012年10月9日報告の「五十肩で上腕外側痛を生じる理由と治療法」(以下アドレス参照)の内容を、さらに工夫した治療内容となっている。
現病歴
2ヶ月ほど前、細い上り坂を犬を連れて散歩していた。すると正面から大きな犬を連れた人が来たので、あわてて犬を抱っこし、その際に転倒して階段を何段か滑り落ちた。その直後から左頸部痛、両臀痛、両膝痛を生じたが、現在最も辛いのは左腕を上げようとすると外転120度で上腕外側が痛くて上がらないという。ヨガインストラクターをしているので、この状態では指導できないとのこと。
理学テスト
他動的は肩関節のROM正常。アームドロップテスト正常。ペインフルアークなし。
病態把握:肩関節外転運動に関する筋膜症。圧痛をみると三角筋に顕著な圧痛はないが、肩甲骨の天宗に強い圧痛あることから、棘下筋の筋膜症と診断。(棘下筋のトリガーポイント刺激は、上腕外側に放散痛をもたらすことを知っていると治療に大いに役立つ。)
治療
患側上の側臥位にて、2寸4番針にて天宗刺針し、痛みを伴う角度まで上腕外転の他動運動を数回行わせた。これで効果不十分だったので、座位にして再び天宗刺針を行い、上腕外転の他動運動を行わせると、さらに症状軽減した。外転は170度程度までに改善した。
このような治療を1週間に1~2回行わせたが、患者がいうには、現状ではネコの伸びのポーズのヨガができないという。いつもならこのポーズでは、自分は胸が床につくのに、と言った。そこでベッド上でそのポーズをさせ、その状態で天宗刺針をして軽く雀啄して抜針してみたが、直後からネコのポーズが軽々できるようになった。
勉強になったこと
ある姿勢にして痛みが出るのであれば、その状態にして症状部の圧痛点を探り、刺針すると効果が増大することはもはや常識だろう。すなわち過緊張状態にある筋をストレッチさせて圧痛点刺針を行うのがよい治療効果を生む秘訣である。今回はネコの背伸びのポーズというもののあることを知り、これが棘上筋を強力にストレッチさせる方法であることを知った。
本稿を発表して9ヶ月後、これまでネコの背伸びのポーズは棘上筋をストレッチするものと思っていたが、大円筋のストレッチかもしれないとう変化した。棘上筋刺針は肩甲骨棘下窩ほぼ中央の天宗を刺激するが、大円筋は肩甲骨外側縁から上腕骨小結節稜を結ぶので治療点は肩甲骨外側縁の肩貞やや下方になる。
追記
昔、あるお殿様が、弓を引こうとした際、右肩に痛み出現して十分な力が出せなかった。そこで何人かの有名な針医に治療してもらったが、結局効き目がなかったという。そうしたある時、別の針医がやってきた。その針医は、殿様に実際に弓を引かせて肩に痛みを出現させ、その部位に刺針したところ、弓が引けるようになった。殿様は大変喜び、褒美をとらせたという。痛い動作を出現させ、その姿勢で出現した圧痛点に刺針することの重要性を示した逸話であった。