「秘法一本鍼伝書」は、柳谷素霊自身の臨床経験に裏打ちされた治療技法を集めたものである。古典派の大御所でありながら、古典理論に基づいていないという意味で、現代鍼灸派にとっても研究対象となると考えている。平易に書かれているが、奥深い内容をもっている。ある程度実力のある者は、自分のやり方と比較することで、勉強になる点を多々発見するだろう。これまで本ブロクでも部分的には取り上げてきたが、内容は不十分である。
このたび「秘法一本鍼伝書」の中から、<下肢後側痛の鍼><下肢外側の病の鍼><下肢前側の病の鍼>の3項目を取り上げ、3回シリーズとして現代鍼灸の立場から検討していくことにした。
※「秘法一本鍼伝書」は1959年に医道の日本社から出版されたが、長期間絶版状態になった。しかし2013年9月8日に(学)素霊学園から再版された。
1.「秘法一本鍼伝書」下肢前側の病の鍼(居髎)
(読みやすくするため、現代文のように若干文章を変えた)
1)取穴法
上前腸骨棘の最前側端に2本の腱様の硬結線状がある。外側のものは太く、内側のものは細い。その2筋の間を指頭で下圧するように押さえると陥没するところがある。これが本穴の居髎穴である。
※居髎は、教科書では上前腸骨棘と大転子を結んだ線上の中点にとる。大腿筋膜張筋中になる。
2)用鍼
3寸で2~5番の銀鍼、あるいは2~3番の鉄鍼
3)患者の姿勢
両足をのばして力を入れ、上体が動揺しないようにさせる。こうすれば前記した太い筋と
細い筋の間の陥没がますます深く顕著に指頭に感ずるものである。
4)刺針の方向
上前腸骨棘に鍼体を接触させながら、上方より下方に陥没の中央を目標に刺入する。すなわち腹壁に沿うようにして刺入する。
5)技法
鍼を静かに上下しつつ、進退動揺させながら刺入する。最初手に鍼尖のさわりが軽く感じるが、漸次硬物にあたるような感じがある。ニョロニョロするものに当たると鍼響があるものである。この鍼響が下肢前側に響くと効果ある。
細い筋との間の陥没がますます深く顕著に指頭に感じる。
6)深度
おおよそ2寸内外である。ただし皮膚に鍼尖を接したのみでも鍼の響きあるものもある。7)注意
もし響きがないときは鍼をゆるやかに上下させる。あるいは刺針転向法を行う。
なお膝中痛み、あるいは力のない時には鍼尖を膝蓋の中央に入れるようにして刺入する。補助鍼として、痛みには瀉法、力ない時には補法の鍼をする。
2.現代鍼灸からの解説
上前腸骨棘の最前側端には外側に大腿筋膜張筋腱、内側に縫工筋腱がある。
この腱間を潜るように深く押圧すると大腿直筋がある。押圧部あたりは大腿直筋のトリガーポイントに相当し、大腿前面~膝蓋骨に痛みを生ずることが調べられている。
刺針して大腿に響きを与えられない場合、所定の鍼を刺入したまま大腿直筋のTPを活性化させるために、患側大腿を少し挙上させて大腿直筋を緊張させた姿勢を保持してもらい、鍼の上下動の雀啄を行うと所定の響きを与えやすい。
上記の居髎刺針の深さは、2寸内外だが、「皮膚にと鍼尖を接したのみでも鍼の響きあるものもある」とも書かれている。これは縫工筋緊張により大腿外側皮神経が絞扼された結果だろう。
「膝中痛み、あるいは力のない時には鍼尖を膝蓋の中央に入れるようにして刺入する。補助鍼として、痛みには瀉法、力ない時には補法の鍼をする」との記載が文末にみられる。この技法と同様な意図(四頭筋緊張を緩める目的)で現在私が行っているのは、膝蓋骨直上の大腿直筋刺針で、鶴頂穴刺針になる。仰臥位膝屈曲位で、あらかじめ四頭筋を緊張させた状態で刺針するのがコツである。この技法は、すでに触れた。
。