1.主訴
左肩関節の運動制限を伴う痛み
2.現病歴
思い当たる理由なく、2~3ヶ月前から、左上腕を90°以上外転したり前方挙上したりすると、左肩関節の奥に痛みを感じるようになった。結髪動作で痛みなく、結帯動作で母指頭位置はL5程度と制限され、それ以上は痛みのためにできない。右肩関節に異常ない。 自分で右肩関節周囲を、触れる範囲での圧痛点はない。
3.推定診断
肩甲骨周囲筋の筋々膜症。おそらく肩甲下筋、棘下筋の筋痙縮
4.診断理由
肩関節90°は痛み発生することなく十分できるので肩甲上腕関節の問題ではない。 すると肩甲骨上方回旋時にともない、過収縮状態にある筋を、強制的にストレッチさせる際の筋伸張痛だろう。ゆえに上腕挙上時に伸張を強いられる肩甲下筋・大円筋の過収縮を考えた。一方、棘下筋は結帯動作時を行う際に働く筋だが、本患者は棘下筋過筋腸もあり、肩甲上腕関節の前方挙上や外転時に伸張痛を発するのではないかとも考えた。
5.針灸治療
自分自身では施術困難な部位なので、友人鍼灸が当院訪問する機会に施術してもらった。
1)治療A
Aベテラン鍼灸師に肩甲骨周囲の圧痛反応を診てもらうと、肩甲棘に際だった圧痛があった。一方大円筋の反応である肩貞や肩甲骨下角部に圧痛乏しく、肩甲骨内縁にも圧痛はなかったので、棘下筋の過伸展時痛と判断。天宗あたりの圧痛点を狙い、骨膜刺数本を行うよう依頼したところ、 直後効果は5割以上改善した。しかし数日後には元に戻った。
2)治療B
あまり症状が改善しないまま、A鍼灸師の施術約2週間経った。今度は当院を訪れたB新人鍼灸師に、棘下筋の圧痛点を4~5カ所発見し、骨膜に達するまで深刺するよう指示した。なお刺針中、棘下筋がビクンと痙攣して響いたことが2回あった。5分間置針して抜針。抜針後は症状ほぼ消失した感じである。
6.棘下筋拘縮と刺針点の解説
棘下筋の正穴は天宗穴しかないが、実際には何ヶ所もの反応点が出ていて、それをつぶして以下ないと治療効果もあまりでないようだ。上図のごとく、肩甲棘下端の内側半分と、肩甲棘中央から、天宗穴を通過する直線上に圧痛が出やすいと成書には書かれている。この根拠は判然としないものの、棘下窩部での棘上神経分布との関係あると筆者は予想している。以下の図を参考に圧痛点を数カ所選し、できればビクンと棘下筋が一瞬痙攣すること目指すと良いだろう。
※天宗の教科書位置:肩甲棘中央と肩甲骨下角を結んで3等分し、上から1/3の処
棘下筋集中刺針している患者(2寸4#4使用)