肩関節痛の治療でよく分からないのは、特定動作をとる際に生ずる肩~上腕痛である。その多くは肩甲上腕関節由来の問題ではなく、肩甲骨上方回旋・下方回旋に関係しているのだが、どこが痛むのか患者本人でもよくわからない。今回、五十肩ADL検査の代表である、結髪動作制限と結帯動作制限について、その主因と針灸治療技法について記す。なお本稿は、<奮起の会>肩関節痛で使ったテキストから部分的に引用した。
1.結髪動作の制限因子
肩関節の外転制限あるが90°以上可動できる場合、結髪動作制限が生じることがある。肩部痛の場合の運動制限が筋由来の場合、原因は筋力不足ではなく、筋の過収縮にともなう筋の伸張制限による。肩甲骨外縁と上腕骨を引き離すような筋の伸張制限がある時に結髪制限は起こる。
具体的には大円筋と肩甲下筋が十分にストレッチできないことが原因である。 大円筋と肩甲下筋は、ともに肩甲骨外旋制止筋である。
2.結髪動作に対する鍼灸治療
1)大円筋運動針
大円筋の痙縮痛の放散痛は、三角筋後部線維部に出現するという点で、棘上筋の放散痛とは異なってくる。 患側上の側臥位で、できる限りの結髪動作体位をとらせる。すると肩甲骨が下方回旋して肩甲骨下角が外に出てくる。この状態で肩甲骨外縁~肩甲骨下角外縁に位置する大円筋に刺針その状態で、術者は患者の肘を少しずつ押すことで上腕の外転角を強める運動針を行う。
☆)大円筋運動針アドバンス治療
下の左側写真の姿勢(ヨガでいう 「ネコストレッチ」)をさせた状態で肩貞に刺針すると、強い運動針効果が得られるこが多い。
2)肩甲骨内縁(膏肓)から肩甲下筋刺針
肩甲下筋の放散痛は後方四角口腔に出現する。治療側を上にした側臥位をとらせる。膏肓あたりから肩甲骨と肋骨間に向けて、5~7㎝水平刺すると、ズンという針響を肩甲骨裏面~腋部に与えられる。これが肩甲下筋トリガーポイント刺激である。響きを得たら抜針する。響きが弱い場合には、刺針した状態でゆっくりと肩関節の自動外転動作を行わせる。これに肩甲骨-肋骨間のファッシア(筋膜)癒着を剥がすねらいがある。
2.結帯動作の制限因子
エプロンやブラジャーを結ぶような動作を結帯動作といい、肩関節の伸展+内転+最大内旋を強いる複合動作になる。結帯動作時痛では、肩甲上腕関節部前面に痛みが出ることが多い。 肩関節前面で三角筋前部線維部の痛みはよくみられるので、三角筋前部線維や同部位への皮膚刺激(上外側上腕皮神経。これは腋窩神経の下流で皮膚知覚支配)を行ってみるが、持続効果が1日と保たない。このことは症状が上外側上腕皮神経に由来するものでないことを示唆している。上腕外側に痛みを生ずるのは、棘下筋トリガー(天宗)または小円筋トリガー(臑兪)の活性された結果であろう。ただしこれらの反応点に単に刺針しても効果は乏しいので、患部筋をストレッチした体位にさせて刺針するのが効かせるコツである。
3.鍼灸治療
1)棘下筋刺針
上腕外側痛は、実際には棘下筋のトリガー活性化に由来するものが多い。患者は痛む上腕外部を触ることはできるが自分の棘下筋を触ることができないので、患者自身どこからくる痛みなのか迷う。 棘下筋のトリガーポイントは肩甲骨棘下窩部で何カ所か出現するので、棘下筋の筋線維走行方向とずらして圧痛点から3~5カ所選出。斜刺し、肩甲骨骨膜にぶつけ、こすりつけるように刺入を進めると、重い針響が症状部に達する。肩甲上神経は肩甲骨に沿うように走行しているので、肩甲骨骨膜刺激になる。
天宗:肩甲棘中央と肩甲骨下角を結んで三等分し、上から1/3の処。
下写真のように側臥位で肘90°屈曲位で手掌をベッドにつけた状態で、肩甲骨をグルグル回すような自動運動を示指すると棘下筋の響きを得やすい。
2)小円筋刺針と刺針体位
単に後方四角腔部に刺針するだけでば豆腐に刺しているようであって緊張した筋硬結に命中させることは困難でり、これでは効果的な治療はできない。肘掛け椅子に座らせ、患肢の肘を肘掛けに置き、肘に体重をかけるよう上体を傾ける肢位にすると、小円筋ストレッチされる。 この体位をさせた状態で、後方四角口腔から2寸#4程度で直刺すると小円筋のコリに当てることができる。