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三叉神経痛と針灸治療(仮性三叉神経痛を中心に)

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針灸師の守備範囲は結構広く、四方にアンテナを広げているつもりでいても、いつの間にか各分野の新知識に遅れをとってしまいがちになる。今回もそのようなケースであった。ある日三叉神経痛の患者が来院した。これまで三叉神経痛は針灸不適応だと思っていたのだが、この患者に対しては、予想外なことに1~2回の施術で症状消失をみたのだった。嬉しいことである反面、どういうことなのか疑問に思って調べ直してみた。


1.現在と一昔前の三叉神経痛の分類の違い

一昔前の三叉神経痛の分類では、本態性三叉神経痛と症候性三叉神経痛に大別していた。本態性とは原因不明な場合をいうが、このタイプの三叉神経痛の9割は橋付近の血管による三叉神経圧迫が原因だと特定されたので、もはや本態性という名称はふさわしくない。そのためだろうか、いつの間にやら真性三叉神経痛という名称に変わった。
 
一方、症候性三叉神経痛というと三叉神経領域の帯状疱疹とか齲歯痛が思いつくが、実際には原因不明であることも非常に多い。ただし真性(=本態性)三叉神経痛と違う点は、押圧しても痛みを誘発するポイントがないこと、ビリッビリッとした耐え難い数秒間の痛みではなく持続性の鈍痛であることなどがあった。そこでネットで調べてみると、かつての症候性三叉神経痛は、現在では仮性三叉神経痛と呼ばれていることを知った。仮性三叉神経痛の8割は原因不明だという。

2.真性(特発性)三叉神経痛 
話の順番として、真性三叉神経痛について総括する。
  
1)原因
40~50歳代の女性に多く見られる原因不明の三叉神経痛とされてきた。しかし今日では三叉神経痛の9割が橋付近の血管による三叉神経圧迫が原因だとされるに至った。なお発性叉神径痛と思われた1割で脳腫瘍が発見されてる。            
  
2)症状
痛みは顔の右か左かどちらか一方におこる。痛みの部位は、上顎部・下顎部・鼻翼外に出ることが多く鼻や口唇の周りなどを触ることにより激痛(風に当たっても痛いという)が誘発される。これをPatrickの発痛帯とよぶ。夜間睡眠時は、これらの発痛帯に刺激が加わらないので、痛み発作は起こらない。
発作時は、鋭い電気の走るような激しい痛みが、発作的(2~10秒)に、繰り返し起こる。洗顔、歯磨き、ひげ剃り、化粧、食事、会話などにより痛みが誘発される。
※Patrick発痛帯:無痛状態時に刺激されると必ず疼痛を発現する部位。口角、口唇、鼻翼鼻唇溝、眉、歯肉などの特定部位。
   

3)三叉神経痛の現代医学治療
①「微小血管減圧術」手術
約9割以上が脳幹出口部における三叉経の“神経血管圧迫”であり、これに対ては、脳外科的に神経を圧迫している血を神経か剥がし、圧迫を解除するのが根本療法になる。有効ほぼ100%だが、再発することもある。

②薬物療法
抗痙攣薬カルバマゼピン(商品名:テグレトール)が第一選択。多くの症例に効果あるが、服用を中止すると再び疼痛が生じる。本剤は本来は抗テンカン藥で、てんかん発作痙攣を抑制するが鎮痛効果はないはずである。しかしこの中枢神経興奮抑制効果を利用して叉神経痛など一部の末梢神経痙攣痛に対し、痛みの発症以前の痙攣を抑制する目的で処方れる。元々が痛みの発症する前に使われるので、痛みのあるなしは関係がない。
    
近年ではリリカ(一般名プレガバリン)など使われるようになった。リリカは末梢神経障性疼痛の治療薬であり、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛に適応がある。従来の鎮痛剤であるロキソニンやボルタレンなどの消炎鎮痛剤は無効。


③針灸治療の意義
真性三叉神経痛発作時は、パトリックの発痛帯に触れると、耐え難い痛みが誘発するので 顔面を施術すること自体が難しい。現代では鎮痛効果のある治療薬も出現しているので、治療効果的にもあえて針灸を行う意義は乏しくなった。



3.仮性三叉神経痛とは
   
症候性三叉神経痛はそのままとして、現在では原因不明なものの大部分は、顔面の筋膜症と考えられている。顔面部の筋膜症であれば、患者が指で示す圧痛点に深刺置針5~10分で一時的に症状改善でることが多い(治るわけではない)。
 
1)顎関節症Ⅰ型の針灸治療

Ⅰ型顎関節症とは、咬筋や外側翼突筋の過緊張によるものが多い。咬筋緊張に対しては頬車・大迎の緊張部に刺針し、外側翼突筋に対しては下関直刺が有効となる場合が多い。  

2)耳鳴・難聴および耳痛の針灸治療
    
三叉神経第Ⅲ枝の分枝である耳介側頭神経は、側頭部皮膚知覚を支配しているだけでなく、外耳道知覚、鼓膜知覚、顎関節知覚にも関与している。これは顎関節症により二次的外耳道や鼓膜症状が出現することを示唆している。針灸臨床上、顎関節症を治すことが難耳鳴の治療につながることを経験している。

 耳介~外耳道の神経痛は三叉神経第Ⅲ枝痛だが、Ⅲ枝の分枝の耳介側頭神経痛によるもので、これを「神経性耳痛」とよぶことがある。現代医療では、この治療に耳介側頭神経ブロックを行うことがある。この方法が針灸でも流用できる。和髎(耳珠前方で、頬骨弓直上に浅側頭動脈の拍動を触れる。同動脈に伴走して耳介側頭神経が走る部)、または和髎の方1寸から、側頭部に響かせるように斜刺する。
 
3)舌痛症の針灸治療                                               

舌神経(三叉神経第Ⅲ枝の枝、舌前2/3知覚を担当)を刺激する。それには裏頬車~裏大迎から刺針し、内側翼突筋緊張などを緩めるよう刺針を左右計4カ所程度行う。または下顎骨前面の内側縁の顎舌骨筋(前廉泉穴の傍)から直刺し、舌の起始部へ直刺する。治療効果が長持ちしない場合、刺針部に円皮針を追加する。



4)筋膜症としての仮性三叉神経痛の針灸治験症例
 
真性三叉神経痛は、発作時は顔面に触れることができないので、勿論顔面部の針灸治療を行うことは困難である。その一方で非発作時は、そもそも針灸治療が意義あるものかも判然としない。
しかし仮性三叉神経痛の大部分は、筋膜症ではないかとする見解があり、私の治療経験からも、針灸治療は結構有効なのではないかとの印象を受けた。患者が指指す顔面部位に十分に深刺するのがコツで、有効な場合、筋緊張の抵抗の中をグイグイと針を入れていくという手の下感があるようだ。


①症例1 72才、女性
  
二十年以上前から左鼻翼外方に部分的に重苦しい感じがあり、左鼻も詰まるという。病医院でも治療は必要ないとして、無処置であった。寸6、2番で患者の指示する部に骨にぶつかるように斜刺深刺(直刺したのではすぐに骨に当たってしまうので刺針感がほしいので斜刺した)して置針5分。症状軽減した。本例は、完治させることはできないが、こうした鍼をすると症状は毎回大幅に軽減した。
 

②症例2 37才、女性
   
当院初診10日前から左耳前~頬部に強い痛み出現。痛みは発作性ではなく持続性。強く歯を噛みしめると、左下奥歯が痛む。近医受診し、三叉神経痛の特効薬であるテグレトール処方され、以来痛みは7~8割ほど軽減されている。
痛み部位は三叉神経第2枝領域なので、眼窩下孔刺針、下奥歯痛ということで咬筋と内側翼突筋、おとがい孔に刺針。使用鍼はすべて寸3の0番針で、5分間置針。すると痛みほぼ消失。強く噛むと左下奥歯がまだ痛むというので、咬筋に対する運動鍼を行い症状大幅に軽減した。

 


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