2012年6月12日に「慢性足関節捻挫に足根洞(=丘墟)刺針」と題したブログを発表したが、一部に誤りがあり、その後の知見も増えたので、上記タイトルとして書き改める。
急性足関節捻挫による靱帯損傷が治りきっていない状態というのが、狭義の慢性捻挫である。この状態で、激しい運動や足首に負担のかかる姿勢を行えば、痛みが出現する。「治りきっていない」という意味には、次の2つがある。
1.靱帯の緩みが原因となる場合
靱帯断裂 ※急性捻挫の痛み自体は数日~数週間で消失
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切れた靱帯線維間が、瘢痕組織で埋まる
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靱帯が緩む(ゴムのように伸びる訳ではない) ※「関節不安定症」状態(靱帯損傷の数%)
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普段は痛まないが、わずかなきっかけで捻挫を繰り返しやすい
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靱帯再建術 ※術後は9割以上が治癒するが、残り数%は本手術でも完全には回復しない。
2.関節とくに足根洞の固有知覚の異常が原因となる場合
靭帯の機能不全が軽度な場合でも捻挫を繰り返すことがある。それは、主に関節の固有知覚(関節の位置や関節にかかる力を感じる=バランス感覚を担う神経群)の異常が考えられている。足部の関節の固有知覚は、靱帯や関節包などのほかに、とくに足根洞窟部は神経終末が集合しており、足部の固有知覚に重要な役割があることが知られるようになった。
1)足根洞の構造と機能
足の外果の斜め前下方で、距骨と踵骨のつくる骨溝を足根洞(丘墟穴に相当)とよぶ。足根洞は漏斗状で、内部には骨間距踵靱帯と、下伸筋支帯から分岐した3本の線維束がある。この線維束は、伸筋の緊張が、下伸筋支帯を介して、距骨-踵骨間に一定の動きあるいは安定性を与える生体力学的な機能をもつと考えられている。
2)足根洞の機能異常
足の外果の斜め前下方で、距骨と踵骨のつくる骨溝を足根洞(≒丘墟穴)とよぶ。足根洞は漏斗状で、内部には骨間距踵靱帯と、下伸筋支帯から分岐した3本の線維束がある。足根洞内部には、神経終末が集約されており、「足の目」ともいわれるほどに地面から足に伝わる微妙な感覚を感受するセンサーがある。
「足根洞」で捉えた足の感覚は、脊髄を上行して脳まで伝わり、脳が解析した感覚は脊髄を下行して腓骨筋に伝わる。つまり、足根洞部→反射弓→腓骨筋緊張という反射弓で制御されている。
もし足根部の神経終末が何らかの原因で傷を受けている場合、足はつま先が下垂し、かつ内反足傾向になるので、足先を床に引っかけやすくなるので、足関節外側捻挫を起こしやすくなる。
3.慢性足関節外側捻挫の治療
1)足根洞症候群としての針灸治療
ペインクリニックでは、このような慢性足関節捻挫に対しては、足根部へのブロック注射が効果をあげている。針灸でも太い針で、足根洞底部に到達するような深刺を行い骨膜刺激を行うとよい。単に仰臥位で丘墟から直刺深刺してもあまり響かないので、跪座位 (両足の指を立て、踵の上に腰を下ろした姿勢)、または俗にいう和式トイレ座り (足裏を地面につけてしゃがむ姿勢)にて刺針すると響くようになる。
2)腓骨筋群の筋力増強訓練と治療点
前距腓靭帯が傷ついた足首であっても、腓骨筋群(長・短腓骨筋)などが足関節をしっかりと支えているとぐらつかずに歩行できる。腓骨筋群を鍛えることが捻挫の再発を防ぐことにつながる。その訓練方法には、長座位になって両足母趾間をゴムで連結し、足を外旋 (踵を支点として足母趾を遠ざける)させる方法などが知られている。
針灸治療では、長・短腓骨筋に対する刺針として、陽陵泉・懸鍾などが局所治療点となる。
3.殿部の下肢内旋筋群に対する坐骨神経ブロック点刺
足の内反訓練が慢性捻挫の予防につながるのであれば、殿部深部筋(梨状筋など)増強目的で訓練するのも良いかも知れない。ただし殿部深部筋の収縮力低下によるものであれば、筋力を復活させるには、たとれば坐骨神経ブロック点刺針(=梨状筋刺針)をすることが効果的になるかもしれない。