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慢性メニエール病に対する針灸治療

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 1.急性メニエール病の症状の機序

 内耳で平衡感覚をつかさどるのは三半規管と耳石器で、身体の動きや位置に伴う管内部にある内リンパ液の動きを、有毛細胞が捉えることで空間における自己の位置や動きを把握している。

 何らかの原因で内リンパの吸収障害が起こると、内リンパ圧が上昇し、内リンパ水腫状態になる。すると音を感ずる細胞を圧迫されて鼓膜からの振動が伝達しにくくなり、感覚細胞を乗せて震動する蝸牛基底板の動きを全体的に悪くするので、低音障害型の難聴となり、有毛細胞が過剰刺激されて無意味な信号を発信して耳鳴が生ずる。

 水腫が一定以上の大きさになると、ライスネル膜は破綻し内リンパ液が外リンパ液に混入し、その瞬間リンパ液の乱流が起こる。この時、回転性メマイ発作が起きる。このメマイは2~3時間程度、ときに半日続く。メマイ発作は、発作性反復性に起こる。メマイ発作が治まり、寛解期に移行すれば、難聴・耳鳴も消失する。

その後、ライスネル膜は自然修復され、内外のリンパ圧は等しくなるので、症状は寛解するが、数週間~数ヶ月後には、同じ機序で発作を繰り返す。 

 

 

  

 2.内リンパ液の吸収障害となる原因

内リンパの吸収障害となる原因について、これまでは自律神経異常が関与しているとされてきた。しかし2009年12月に大阪市立大の山根英雄らの研究グループが、「球形嚢内で微小な炭酸カルシウムの耳石が剥離して、内リンパ液の通路をふさいだ結果、内耳が内リンパ水腫になって発症する」との見解を提示している。

※球形嚢の耳石の欠片が剥がれて、三半規管内のリンパ液に浮遊すると、良性発作性頭位メマイとなる。

 

 

 

 3.慢性メニエール病の症状の機序

メマイ発作を繰り返すうちに、ライスネル膜は厚くなるので、膜の破綻は起きにくくなり、前庭器官の機能低下を視覚や深部知覚が代償するようにもなるので、メマイ発作は起きにくくなる。内リンパ浮腫は前庭部だけでなく蝸牛部にも生ずるので、コルチ器が正常に機能せず、持続的な難聴・耳鳴を生ずるようになる。聴覚は、蝸牛の他に代償できる仕組みがないので、慢性メニエール病では、恒常的な難聴(感音性)・耳鳴りが主訴となってくる。

慢性メニエール患者の訴えは、片側性難聴が中心で、調子に波があり、悪い時は糸電話で音を聞いているようだと言い、また頭がパンパンになるとも訴えることが多い。

 
4.慢性メニエール病の針灸治療

1)急性メニエール病と慢性メニエール病の針灸治療目標の違い  

急性メニエールのメマイ発作時はとても来院できる状態になく、来院は非発作時になる。したがって現在起きているメマイを改善させることが治療目標とはならない。次のメマイを起きにくくする(あるいは非発作期間の延長)におくので、本当に効果的な針灸治療ができているのかどうか、はっきりしないという扱いづらさがある。
その点、慢性メニエールは現に存在している耳閉感が主訴となり、この耳閉感の改善が治療目標となるので、治療手法の試行錯誤や治療効果を行いやすい。 

 
2)感音性難聴と耳閉感の違い 

回転性めまいであれば、まず内耳障害を疑う。めまいは慣れるにつれ、視覚情報や深部知覚情報が代償されて軽減するのが普通であるが、針灸では天柱や風池などの深刺により深部知覚情報に干渉することで有効となる場合が少なくない。項部深部筋が、姿勢保持機能をもっていることに関係しているであろう。片側性の項深部筋緊張では、メマイを生ずることも知られている。 

一方、聴覚は代償機能がないので一般的には難聴・耳鳴の治療は難しいとされる。現時点での医学では故障したマイクロホン(=コルチ器)を修理する方法はない。すなわち騒音性難聴やストマイ難聴、発症1週間を過ぎた突発性難聴には、効果的な治療に乏しいわけである。

 ところで慢性メニエール症の訴える難聴とは、厳密にいえば耳閉感のことであろう。耳閉感は、片側性(まれに両側性)の軽度低音障害性感音性聴力障害(低い音が聴きづらい)をいい、患者が耳が詰まった感じがすると訴えることが多い。耳閉感は、蝸牛内のリンパ液循環障害により、コルチ器が音波を拾いづらい状態であって、コルチ器自体の故障ではない。その代表疾患にメニーエール病がある。すなわちメニエール病の耳閉感は治す余地があるといえそうである。

 
3)慢性メニエール病の耳閉感に対する針灸治療方法 

治療点は、文献では項部の天柱・下天柱・風池置針を推奨している者が多い。針灸で内リンパ浮腫の状態に干渉し、前庭機能障害であるメマイや蝸牛機能障害である耳閉感に効果的だといえるのではないか。 

 

①針灸治療のコツは、20分以上の置針が必要なので、仰臥位で実施すること。(長時間の伏臥位は患者に負担になる)

②上頸部の深部の筋(主に後頭下筋群)のシコリ中に刺入する。8番針程度の太い針の方が効果があるが、患者の感受性を考慮して2番針をしてもよい。(脊柱深部の小筋は、体幹の運動や体重支持の役割は少なく、姿勢保持機能としての機能をもっている。すなわちメマイ治療には深刺する必要がある。

③頭部症状があれば、太陽穴、百会、上星などの置針を追加する。

④座位にさせて、ふたたび後頭下筋のシコリ中に数カ所刺針し、それぞれ10秒間ほど雀啄した後に抜針。

⑤治療直後は、聴力改善することが多い。しかし週1回(調子の悪い時は2回程)度の通院が必要で、しかも長期的な展望としても完治にはつながらないが、とりあえずの症状軽減策としては他に代わる方法がないわけで、針灸の必要性は高いといえる。

 

 

 

 

 

 


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