1.百会と囟会
1)解剖と位置
百会:前髪際を入ること5寸、頭頂部のやや後方。正中線上。頭頂孔がある。
囟会:前髪際を入ること2寸。正中線上。大泉門部。
2)臨床のヒント
①百会(ならびに通天)は、頭頂孔あたりにある。頭頂孔は頭蓋の外側にある浅側頭静脈と頭蓋の内側にある上矢状洞を連絡する血管通路で、頭蓋内の鬱血、静脈血の環流の妨げがあると、頭蓋の外側に導出静脈を介して環流をはかる機能がある。(石川太刀雄「内臓体壁反射」1962年より)。代田文誌氏は、百会・通天に刺針施灸または瀉血すると、この部分の血行を促進し、したがって頭蓋内の鬱血を除くと考えた。
②ヒトは起きていると、徐々に脳の深部温度が高くなる。そして過熱状態になると、熱から脳を守る意味で眠気を感じる。入眠開始当初のノンレム睡眠は脳の核心温と体温を強く下げる役割があることが知られている。この事実から、頭痛や不眠等の愁訴に対して、脳の核心温を下げることは治療になり得るだろう。
③これまでも百会に鍼灸すると鎮静効果は得られることが知られていた。実際、百会に灸して脳波を調べると、α波が増えることが確認されることがわかった。ただしα波が出るのは、百会に効果あるとされる主治症の一つである頭重感がある場合に限られた。(七堂利幸, 有地滋ほか「百会施灸時の脳波変化 と情緒的意味」)
鍼灸治療で、百会に施術しようと思うのは、患者が無論のこと百会の主治症をもっている時である。
④頭板状筋のトリガー(下風池)活性では、頭頂部に放散痛が生じることがある。この知見は、かつて鍼灸国家試験に出題されたことがあり、非常に驚いたことがある。こうした内容はすでに鍼灸学校教育で教えられているということだろうか。
⑤百会刺激の適応症は、交感神経緊張症(頭痛頭重、ストレス、不眠といった交感神経筋緊張状態であり、これらを副交感神経緊張に誘導するのが治療目的である。これに対して囟会は交感神経を活性化させるツボとして百会と対照的である。
囟会は三叉神経第Ⅰ枝の支配領域であり、鼻粘膜と同じ神経支配であり、鼻炎や副鼻腔炎に対して灸治されることが多い。頭髪の中なので、灸痕が目立たないこと。患者自身、鏡を見ながら施灸できることに理由がある。
2.頭維
1)解剖と取穴
神庭(前髪際の上方5分、前正中線上)から外方4.5寸。額角髪際。
2)臨床のヒント
①側頭筋緊張を生ずる代表は緊張性頭痛で、きついハチマキを巻いたような、きつい帽子をかぶったような、締め付けられる痛みとなる。トラベルによれば、側頭筋部の痛みは、側頭筋だけでなく僧帽筋・後頸部筋・胸鎖乳突筋など多数の筋の放散痛部位になっているという。したがって、側頭部の痛みがどこからくる放散痛なのかを調べ、その発震源となっているトリガーポイントに施術するべきである。
②側頭筋そのものは薄く広い面積をもつ筋である。トラベルによると側頭筋のトリガーは外眼角と耳尖を結んだ線上数カ所にあるので、頭維が側頭筋の代表刺激点とはいえない。
③私見になるが、側頭筋コリに対しては針で水平刺しても、多数のコリに当てるのは難しいので、ツボが浅いこともあって指圧の方が適していると思っている。頭髪があるので灸や円皮針は使いづらい。坐位にさせ、術者の両手指を側頭筋に当て、押圧しながら大きく円を描くように側頭部皮膚とともに側頭筋を動かすようにする。