1.序
一昔前単純性肥満は、摂取カロリー>消費カロリー状態なので、食事量を減らし身体運動量を増やせばよい、と単純に考えられていた。それができないというのは、本人の意志の弱さが原因だとした。1990年代になって肥満と食欲の関係について、大きな進展があった。以下、自分自身の勉強がてら、インターネットに散在している文章を、カット&ペーストの要領でまとめた。
アメリカ人医師、ロバート・アトキンスが開発した開発された低炭水化物ダイエット(=ローカーボダイエット)を説明する。現在流行しているライザップもこの食事指導をしている。アトキンスのダイエット手法は2003-2004年ごろに北アメリカでブームになった。1年以上の長期では低水化物ダイエットは健康に有害だとされている。
2.低炭水化物ダイエット
ダイエットの2大柱は、食事療法と運動療法である。食事量を減らして運動量を増やせば、痩せるのが当たり前だが、運動での消費カロリー以上に食欲は増加するので、ダイエットとしては現実的でない。要するにダイエットとしての重要性は9対1で、圧倒的に食事療法が重要になる。
1)食後も血糖値をあまり増やさない工夫
血糖値が上昇するとインスリン分泌を強いられる。インスリンは血中のブドウ糖を身体組織が取り込むための媒介として機能するが、インスリンは血液中のブドウ糖を体脂肪に変えてしまう働きもある。つまりインスリン分泌を増やさない食事がダイエットには必要である。
2)低炭水化物、中脂肪、高タンパク質食が重要
イスリン増加は炭水化物摂取の結果である。その一方で、脂肪やタンパク質はインスリン分泌は増やさない (かっては低脂肪食がダイエットに適しているとされた)。脂肪摂取量の多さが肥満につながるわけではない。高タンパク質食もインスリン分泌を増やさず、しかも基礎代謝を高め、ダイエット中の筋肉量低下を抑制するから推奨できる。
痩せるための食生活は、高タンパク、中脂肪、低炭水化物が適切である。炭水化物は、摂取カロリーの5%程度にするのがよい。キノコ、サラダ、ツナ缶、豆腐、納豆、ひじき、こんにゃく、スープ、しらたき、ゼリーなどを「お腹が空いたら食べて良い食材」と位置づけると気が楽になるという。
3)糖新生(炭水化物以外の栄養素からブドウ糖を製造する)
炭水化物を摂取しないと血糖値が下がらないので、空腹信号も出せなくなる。このような食生活を続けると、3日目位からは空腹感がまったくなくなる。一方、身体はエネルギーを必要としているから、肝臓に蓄えられているアミノ酸からブドウ糖を合成して脳のエネルギー源とするようになる。なお、このような炭水化物以外の栄養素からブドウ糖を製造することを糖新生とよぶ。
アミノ酸から生成できるブドウ糖だけでは脳のエネルギー源を100%補給するには不足なの で、体は緊急非常処置として、アミノ酸から生成したブドウ糖を利用する糖代謝から、中性 脂肪を分解する際に副産物として生成されるケトン体を利用する脂質代謝経路へ切り替える。 この状態をケトーシスとよぶ。この回路により体脂肪を効率良く消費させる。
4)ケトーシスとケトアシドーシスの違い
ケトン体は酸性物質であるが、ケトン体量が増えても血中の炭酸イオンの働きにより、血液のpHが大きく変動するのを抑制しているので身体に悪いというわけではない。一方、ケトアシドーシスも血中のケトン体の量が上昇した状態だが、上記の炭酸イオンの働きを超えて増えてしまったため、血液が酸性になった状態をいう。本ケトアシドーシスは、ケトーシス状態下に糖尿病などの病気が合併したときに生じ、意識消失や死に至ることもある。
血中のケトン体濃度が上がり、ケトン体を体外へ排出するため、多量の水を必要とするので、脱水を避けるために1日に2リットルは水分補給すること。この時期には、ケトン体の甘酸っぱい匂い(いわゆるダイエット臭)がするようになることがある。
※ケトン体を利用し始めたら脳の活動能力が一気に低下し、基礎代謝も大幅低下を招き、体力、抵抗力、思考能力、そして食欲自体も低下するので空腹感なしに減量することができる。
※長い人類の歴史の中で、炭水化物を直接摂取するようになった歴史はせいぜい数千年であり、現在の野生動物がそうであるように肉食が中心だった。一昔前までイヌイットは生肉を食べていた。すなわち糖新生をエネルギー源としていた。
3.ダイエットに伴う空腹感と飢餓感の相違点
1)空腹感=血糖値低下
摂食中枢を養う血液の血糖値が下がある一定以下(100mg/dl程度)に低下すると、空腹感が生じ食事を欲する。食事をすると、血液が食事中に含まれる糖分を吸収して脳に運び込み血糖値が上がり、満腹中枢を刺激して「満腹ですよ」という信号を出すと同時に、食欲が抑えられる。すなわち空腹感は血糖が上昇し、脳のエネルギーが確保されると解消する。人間は通常1日3回程度、このような循環を繰り返している。
2)飢餓感=レプチン低下
1994年に体脂肪から分泌され、食欲抑制作用のあるホルモンであるレプチン leptin が発見された。正常状態では、体脂肪から血中に分泌されたレプチンは、視床下部に受容体がありの摂食中枢がレプチンを受け取って初めて飢餓状態でないことを確認している。
飢餓状態になると、体細胞がレプチンを多量に分泌して血中濃度が高くなっても、視床下部のレプチン受容体がレプチンに反応しなくなることで、摂食中枢がレプチンを受け取れなり、飢餓感を生ずるので、体脂肪が一定以上になるまで、食欲の増進状態が継続する(いくら食べても満腹感がない)。
一般的にが血中にレプチンを注入すると、満腹感が得られるので食欲抑制される。しかし一部の肥満者では、あたかも飢餓状態であるかのように、視床下部でのレプチン受容体の感受性が低下しているのでレプチンを投与しても、満腹感が得られず、食べ続けるようになる。その食欲は、血糖値が上昇しても食欲は抑制されず、体脂肪量が回復によりレプチン濃度が高まるまで、ずっと食べ続ける。日常は、食べることしか考えられなくなる。
※神経性食思不振症者は、レプチン分泌過剰なので、食欲がない。ある一定以上に脂肪細胞が減少し、レプチン分泌も減少すると、一転して過食期となり、体脂肪が増加するまで食べ続ける。
※肥満した人がダイエットをして体脂肪が減少しても、レプチン抵抗性が改善されるだけで飢餓感は起こらない。痩せた人が体脂肪を減らす場合が問題で、飢餓感が生ずる。飢餓感は血糖が上昇しても解消され ない。体脂肪が増加し、レプチンが回復するまで続く。
3)ダイエット失敗要因であるグレリン
①グレリンとは
グレリンは1999年に日本の研究者によって発見された成長ホルモン分泌促進因子(growth hormone-releasing peptide )の略称。
長時間食事をとらないと低血糖状態になるが、通常は低血糖になる以前にも、胃がカラになるだけで空腹感が生じている。それは胃がカラになると、強力な食欲増進ホルモン「グレリン」ghrelin が胃壁から放出されることによる。グレリン濃度と血糖値は関連がない。
正常な身体のバランスの状態では、グレリンは肥満になると低下し、やせると上昇する。つまり体重を適正にするように調整が行なわれている。しかし太り易い体質の人では、何故か食後にもグレリンが低下せず、このことが太り易い原因の一つと考えられている。
②グレリンの作用機序
グレリン分泌→迷走神経を刺激→情報を脳の中脳に伝達→ノルアドレナリンを仲介→視床下部の摂食中枢を刺激して食欲が増す。ダイエットが順調にすすむと、ときに突然猛烈な食欲に襲われることがある。これはカラになった胃壁からグレリンが大量に分泌された結果であり、ダイエットを行う上で失敗原因になる。(グレリンは最強のホルモンで、分泌される と摂食せずにいられなくなる)
胃の中にある程度食べ物が入ると、速やかにグレリン分泌は減少するので、胃を膨らませるもの、例えば豆腐やこんにゃくを食べ 5分間ほど我慢することで、あれだけあった食欲がウソのように消退する。
③グレリンの他の作用
・グレリンは成長ホルモンを刺激するので、食欲を出すばかりでなく、筋肉を増強したり、心臓を保護するような効果も期待されている。現在グレリンを使った薬物を開発研究中。
・グレリンは「腹持ち」に関係する。タンパク質摂取では6時間グレリン分泌を抑制するが、炭水化物は4時間しか分泌を抑制しない。ダイエットにはタンパク質摂取が推奨できる。
4.ダイエットの生活指導(レプチンを増やし、グレリンを減らすための工夫)
1)睡眠をしっかりとる
睡眠時間が短い人ほど、食欲を刺激するグレリンが多く、食欲を抑制するレプチンが少ない、つまり過食を招きやすい状態になることがわかっている。睡眠時間が5時間以上の人に比べて、5時間未満の人は肥満になりやすいという結果もでている。
2)ストレスを避ける
人類の歴史の中で、最も大きなストレスは『飢餓』でした。人類は長きに渡って“食べられない“という苦しみに対して非常に強いストレスを感じてきた。現代人の遺伝子にもストレス=飢餓と翻訳するメカニズムが組み込まれている。つまり、ストレスを感じると飢餓に耐えられるよう、なるべく脂肪を分解しないようにしたり、代謝を低くして蓄えたエネルギーをなるべく使わないようにしたりと、体が痩せにくい状態にシフトしてししまう。
ストレスを感じると人の体はコルチゾールというホルモンを大量に分泌する。コルチゾールは脂肪を蓄積させやすく、そのうえ食欲抑制ホルモンであるレプチンを減少させるため、食欲に歯止めがかからなくなってしまう。
なお「ストレス痩せ」についてだが、これは胃腸機能の低下による食欲減退が主な理由。
3)夜食は太る
これまで漠然に、夜食べると太るとか言われてきたが、その科学的根拠が解明された。1997年池田正明は遺伝子中にBMAL1(ビーマルワン)を発見した。BMAL1の生成量は人の概日リズムや自律神経の活動リズムと連動していて、昼間は量が少なく、夜間多くなるという性質があり、日中は少ないが夜10時~深夜2時頃が増加のピークになる。BMAL1は脂肪細胞を作る酵素を増やす働きがあるので、生成量が特に多い深夜は脂肪を溜め込みやすいい(太りやすい)時間帯であるといえる。
4)ダイエットの意義:老化速度を減速させ長寿をもたらす
ダイエットすると、身体がいわゆる「倹約モード」に入り、基礎代謝が低下する。そのため肥りやすくなるのだが、この倹約モードが若さを保ち長寿をもたらすと考えられている。
※低酸素状態では、酸化スピードが遅くなるので、はやり長寿になる。