拘縮期の五十肩に対しては、鍼灸治療であっても、あまり効果的な方法がない。肩関節癒着には無効なのであって、治療の中心は運動療法主体になる。なお運動療法に温熱療法を併用することの効果は広く認められているが、電気をかけたり磁石を貼ったりするのはエビデンスに乏しい。
1.古典的な運動療法
2.関節モビリゼーション
1)モビリゼーションとは
整体手技の一種で、瞬間的矯正をかけることなく、関節に細やかな運動を繰り返し与え、硬直した関節部分を動くように回復させたり、痛みを軽減させるテクニックのことをいう。関節モビリゼーションともいう。
2)癒着をゆるめ、肩関節腔を拡大する手技
凍結後であれば通常の針灸では治療法に乏しく、ROM拡大を目的とする手技療法が主体となる。関節包下方が短縮していたり、腱板の骨頭を関節窩に引きつける求心力が低下している場合、自動運動で上肢を挙上すると、骨頭の下方移動が障害され、上腕骨頭を包む腱板と、これを上方から覆う烏口肩峰アーチと衝突が生じ、運動痛を誘発したり、この部分の炎症を生じさせる。
この衝突を避けるため、上肢の長軸に沿った遠位方向への牽引力もしくは徒手的に骨頭の下方移動を働かせながら可動域を拡大する方法が考案されている。
2)凍結肩に対する筆者の工夫した関節モビリゼーション
肩関節腔を拡大する手技として、以前筆者は、「側方引き出し運動」を参考に、下写真の手技を考案した。十年ほどこの方法を実践していたが、術者が力を入れて上腕を引っぱっている割に、肩関節腔拡大に作用する力の効率が低かった。
現在は上腕骨を下方に強く引っぱるのではなく、関節を外旋を加えつつ上下に動かすようなった。仰臥位、患者の脇の下に術者の足先を入れ、これを支点に患肢を保持する。患者に痛みを与えない範囲で、ゆっくりと外転・外旋の他動運動を実施する。一度に3分間以上繰り返し行う。この方法により可動域が拡大できることが多い。
3.PNF(proprioceptive neuromuscular facilitaition;固有受容性神経筋促通法)手技
上図は五十肩に対するホールドリラックスで、カリエはこれを「リズミックスタビリゼーション(律動固定)」と名付けた。
①患者はセラピストの指示に従い、上腕を上下左右に動かす。その時セラピストは患者の上腕を持って腕の動きと逆方向に力を入れる。
②患者、セラピストとも筋力を使っているのだが、その力が拮抗し打ち消しあっているので、上腕はあまり動かない(等尺性運動になる)。
③力を入れた主動作筋に対して、反対側にある拮抗筋は緩むという性質を利用する。これをⅠa抑制とよぶ。筋の緊張を緩めることで関節可動域の拡大を図る狙いがある。
④鍼治療では、肩関節付近の最大圧痛点に浅刺した状態で本法を行うとよいだろう。